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「学生第一」の教職員

【研究紹介】いじめ問題の解決へ!「想像的共感」ができる教員養成の取り組み(2016年6月24日掲載)

三津村 正和

教職大学院 講師

今回登場するのは、教職大学院の三津村正和講師です。いじめ予防とともに演劇の教育効用が研究テーマ。担当の授業や八王子市の教員研修等で、いじめ被害者の体験を受講生に脚本化して演じてもらったりするなど、ユニークで実践的な取り組みが評価を得ています。「いじめ解決の根本は教師が変わること」と熱っぽく語っていただきました。

【経歴】創価大学法学部卒業。インディアナ大学大学院修士課程修了、M.Ed(教育工学)。アリゾナ州立大学大学院博士課程修了、Ph.D.(教育学)。創価大学教育学習支援センター特別センター員等を経て現職。


現在、どのような研究および活動をされているのですか?

 去る5月、2015年度「次世代共同研究プロジェクト」の報告会が開催され、席上、最終報告を行いました。これは、若手教員の研究支援の推進を図ることなどを目的とした本学独自の制度です。
 現在は、主にいじめ予防研究に従事しています。今春も八王子市内の小中学校に所属する教職2年目の教員に向けた法定研修を担当し、いじめ予防に関する講演をしました。また、この度、独立行政法人教員研修センター「平成28年度教員の資質向上のための研修プログラム開発事業」の採択を受け、アクティブ・ラーニング(能動的学修、以下、ALと略)をどう小学校で推進していくのか、八王子市教育委員会と共に新しい教育スタイルのAL型授業のつくり方を研究しているところです。
  • ※本学教職大学院が「教員の資質向上のための研修プログラム開発事業」に採択
  • AL型授業を具体的に教えてください

    インディアナ日本語学校中学部1年のクラスにて

    インディアナ日本語学校中学部1年のクラスにて
     私は、2013年初頭までアメリカに10年いて、「違って当たり前」「違うことは素晴らしい」という考え方や価値観に出会いました。違いにプライドを持つんです。
     しかし、日本の学校では、教員が一方的に話す授業が多く、また、教員が発問をして児童生徒が答えたとしても、教員が期待する答えに同調を求める傾向が見受けられます。多様な意見があることについて、あまり日本の学校教育は価値を見出さないというか…。
     文部科学省は、2020年の次期学習指導要領改訂に伴い、こうした教員による一方向的な授業形態を抜本的に見直し、児童生徒に主体的・協働的に考え、また表現させることで、深い学びを実現するALという学習論に基づく教育手法を取り入れることを決めました。
     ALの研究に関わっていて気づくこと、それは、ALが学校の中に根付いていくにつれ、いじめの非許容空間が生成されていくということです。ALを通した協働性の涵養、仲間と一緒に何かをすることに喜びを感じたりとか、いろんな意見に感化されながら、決して相手を責めるのではなくて、多様な意見や価値観を尊重できるような子どもが育つ。
     人生は、人と関わってなんぼっていうか、人との関わりの中に本当の幸せがあって、いろんな人と出会う、相手の人生に関わり、自分の人生もさらけ出す。それには主体性が大事で、自分が積極的に相手を認めていこう、迎え入れていこうと。ALが目指す方向って、いじめを解決する方向性と軌を一にしているというのが実感です。
     そういう主体性、協働性が育ち、深い学びが起こるような学習環境、学級環境を作ることがいじめの非許容空間につながる。そこでは、いじめの傍観者が減るだけではなく、ひいては、いじめの被害者が内面の苦痛を勇気をもって誰かに話せたり、また、いじめの加害者が自らの加害行為に対峙したりすることにつながると思っています。だから、私にとって、ALの推進はとても重要であり、単なる流行で終わらせたくないんです。

    いじめ予防教育に取り組もうとしたきっかけは?

    2016年6月教職大学院授業にて

    2016年6月教職大学院授業にて
     今から30年前の1986年2月1日に起こった東京都中野区の男子中学生いじめ自死事件が一つのきっかけになっています。“葬式ごっこ”なるいじめには、クラスのほとんどの生徒と学級担任を含む教師4人までもが加担していたんです。担任の教師は50代後半のいわゆるベテラン教員ですが、全く以て教育的愛情と人権感覚を持っていないことに強い憤りと悲しみを覚えました。私は、彼が最後自らの命を絶つ間際、どれほど悔しかっただろうか、苦しかっただろうか、何万回も考えました。また、彼のことを劇にしては、日米の多くの教員志望学生と演じ、語り合いました。彼のためにも、私は、絶対にいじめを許せないんです。
     教員がいじめをいじめとして認識できない、あるいは、子どもがSOSを出しているのに教員がそれを受け止められない事件が見受けられます。
     「いじめは、100%加害者が悪い。」創立者は、そう仰られています。しかし、被害者が泣き寝入りを強いられるケースが余りにも多いんです。なんで被害者の子が泣き寝入りしなきゃいけないのかって思います。

    教職大学院棟

    教職大学院棟
     今のいじめの特徴は、隷属型あるいは囲い込み型と呼ばれるように、いわゆる少人数のグループが、周囲には一見友達関係として映るかのようにいじめの被害者を囲い、長期間に渡って従属関係を強いる傾向が目につきます。また、昔は学校の中だけだったんですが、ラインなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)が普及してくると、加害者が被害者に精神的圧迫を加える機会というのが、学校という物理的空間を越境してしまうわけです。家に帰っても追いかけてくる。今のいじめは、教師からはますます見えにくくなっているんです。
     例えば、道徳を教科化したりするなど、今のいじめ問題に対する施策は、子どもの側だけに一方的な変容や成長を求めます。しかし、いじめ解決の根本は、大人が変わること、大人というのは、教師と保護者と地域です。大人が変わらないと、いじめはなくならない。教師がいじめを見ない、見て見ぬふりをする、あるいは、教師がいじめを肯定・助長するような発言や行動をしたりする。そこから見直していかないといじめは決してなくならない。

    「いじめ問題解決のための提案書」を馳大臣に渡す

    「いじめ問題解決のための提案書」を馳大臣に渡す
     私は、いじめ問題を専門的に扱う教職大学院の授業やいじめ予防のための教員研修の際に、受講者に対していつも2つの心を育てなさいと言っています。一つは、いじめ被害者の内面の苦痛への共感的理解に基づく感性。そして、もう一つは加害行為に対峙する人権感覚。この2つがないと、いじめをいじめとして見破れないんです。
     教員は、一度教師になったら、そう学ぶ機会が多いわけではないんです。自ら学び続けることや自分を振り返ること、また、人間的な成長をサポートするような環境や制度がまだまだ少ないんです。そこを私は見直しましょうって。教育学部・教職大学院・教育委員会が一致団結して、教員を生涯に亘って見守り、育てていきましょうって。いじめ予防教育は、「養成・採用・研修」の一体改革の中で、持続的に取り組まれるべき課題であるという「いじめ問題解決のための提案書」を教職大学院に所属する学生とともにまとめ、昨年(2015年)12月16日に馳浩文部科学大臣が本学教職大学院を視察した際、当時の長崎伸仁研究科長より直接手渡していただきました。
     いじめの解決に向けて、いろいろ思いはあるんですが、昨年自分の娘が生まれて、もし娘がいじめに遭ったらと思うと…。これもいじめ予防に取り組んでいる大きな因になっているのかも知れません。

    博士号取得(2012年)の学位論文は「教員養成教育における演劇の教育効用」がテーマとうかがっていますが?

    アリゾナ州立大学大学院博士論文口頭試問の合格直後、指導教官3名と

    アリゾナ州立大学大学院博士論文口頭試問の合格直後、指導教官3名と
     はい、私の研究の基本は、いじめ予防ですが、もう一つは、演劇教育研究で、演劇を使ったマイノリティ(被差別少数者)の人権問題に関する実践研究をおこなっています。この二つは、一見異なる分野に見えますが、私の中では、一本の線でつながっています。
     アメリカに行ってから学びました、演劇は。日本にいる頃から、もともと、演劇は大好きで、ずっと観ていました。ただ、私自身がアクターであったわけでもなく、実際に私の中でも演劇がどう教育と結びつくのか答えがなかったんです。果たしてこれを自分の博士課程の研究テーマにできるのかっていう。
     ある時、後に私の指導教官になるジョニー・サルダニャという著名な演劇家・劇作家に出会いました。彼は、被差別マイノリティの人たちの生活とか体験記を直接取材し、ドラマに作り上げ演劇を行うわけです。この手法は、教員養成教育にも取り入れられると思ったのです。以後、自らの演劇実践研究が活性化し、2012年12月20日にアリゾナ州立大学から教育学博士号をいただくことができたのです。
     日本に戻ってからは、演劇を用いた現職教員向け「いじめ予防ワークショップ」を開発し、昨夏には、八王子市教育委員会主催の教員研修に導入しました。演劇を使った参加型体験学習の手法については、アンケートで全受講者より満点評価を得るなど、大きな反響をいただきました。今夏は、教員免許状更新講習でも同様の「いじめ予防ワークショップ」を6時間のバージョンにして行う予定です。
     また、一昨年に本学教育学部で開講した「多文化教育と演劇」という授業では、学生が、ニューカマー(日本で新しく生活をはじめた外国の人々)、在日韓国人、LGBT(ジェンダー・マイノリティー)、児童虐待、いじめのそれぞれのトピックにつき、当事者にインタビューするなどして、一から演劇脚本を制作し、最終的にそれをクラスで演じました。演じる際は、教室の机や椅子は、全部取っちゃって、円形劇場みたいにして真ん中で演劇をするというシーンを作り出すわけです。本当に素晴らしい劇を作ってくれました。長期間に亘って仲間と協働し話し合いながら演劇を作る、その過程でマイノリティの人権問題への意識が高まっていく。演じることと共に、その過程自体にもすごい教育的効用があると思っています。

    演劇効用についての論文も書いていますね。

     ええ、演劇の教育効用の一つに「想像的共感」の涵養というものがあると考えています。かつて創立者がコロンビア大学での講演(1996年)の中で、世界市民の要件の一つに「遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく『慈悲の人』」を挙げられました。「同苦」の箇所は、「想像的共感(imaginative empathy)」として訳されていますが、名訳だと思います。これこそまさに演劇を通して感じ、呼び覚ましてほしい人間が本来内在的に持つ力です。演劇を通じて相手の内面の苦悩や悲哀に思いを馳せ、寄り添い、そして相手を自分の中に迎え入れるのです。
     かつて創立者は、提言「教育力の復権へ-内なる『精神性』の輝きを」の中で、いじめの根本的な要因として、心の中に他者が不在していることを挙げられました。今の教育は、この心の中の他者を不在にさせる、或は心の中から他者を追い出すような環境、制度になってはいないでしょうか。いかにこの「他者性」を教育の中に復活させるか、研究者として、また教師教育に携わる者としての私自身のテーマでもあり、演劇がその有効なツールになるものと考えています。

    今後の抱負を聞かせてください

     教職大学院の目的の一つは、新しい教育を創出していくことにあります。今は、私の演劇の使い方は教員養成の文脈に限られていますが、少しずつ学校現場での実践例を積み上げていって、教科化というよりは、もっと演劇を身近に感じ、授業の中など色んな場面で使ってもらいたいですね。演劇って、すごく面白いんですよ。子どもがやったら一生忘れられない学習経験になると思います。今までの実践経験をまとめ、演劇活動の展開、応用、可能性について、理論的かつ実践的な本が書けたらいいなと思っています。また現在は、『いじめを見抜く教師の感性に磨きをかける「いじめ予防」ワークショップ型校内研修』という本の企画に、教職大学院の修了生とともに取り組んでいます。
    【主な著書】
    ・三津村正和(2016)いじめ問題の現状と課題:いじめの不可視化要因への考察,『教育学論集67』(p.94-115),創価大学教育学部.
    ・三津村正和(2015)いじめ問題の再考察:アメリカ合衆国のいじめ事例・予防対策を通して,藤川大祐編『いじめと授業(授業づくりネットワーク18)』(p.58-63),学事出版.
    ・三津村正和(2014)変革的教育としての参加型演劇,『創大平和研究28』(pp.73-94),創価大学平和問題研究所.
    ・三津村正和(2013)他者との積極的な関りを促進する学びの空間づくり:シアターゲームの活用,『リメディアル教育研究8(2)』(p.87-94),日本リメディアル教育学会.
    ・Masakazu Mitsumura (2013). Ethnodrama as transformative learning in multicultural teacher education, S. Chappell & C. Faltis編The arts and emergent bilingual youth: Building culturally responsive, critical and creative education in school and community(第9章), Routledge.
    ・Masakazu Mitsumura (2012). Transforming multicultural teacher education through participatory theatre: An arts-based approach to ethnographic action research,Arizona State University.