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【研究紹介】「非正規雇用の労働環境をテーマに、経済学の視点からアプローチ」(2017年7月28日)

増井 淳

経済学部/准教授

賃金の高低、充実が人々の働くことへのインセンティブ(刺激、誘因)につながり、それによって政策の効果がどう変わっていくか。「そこが面白いと思って大学院時代の研究テーマにしました」と、はっきりとした口調で答える。生産から販売、アフターケアに至るまでの多岐にわたる企業行動に経済学の知識を関連付けて説明することも「実に面白い。学生の皆さんも関心があるのでは」と研究に込める思いを伝える。中学生の頃から学者になることを夢見て努力を重ね、大学を早期卒業した“飛び級先生”に、企業の採用行動などについての考察を伺った。

【経歴】
東北大学経済学部 飛び級
東北大学大学院経済学研究科博士課程修了

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ヨーロッパ労働経済学会で訪れたボンの夕暮れ

ヨーロッパ労働経済学会で訪れたボンの夕暮れ
 研究とも関わることですが、この9月にスイスで行われるヨーロッパ労働経済学会(1989年設立) で、現在の研究成果を報告する予定です。今はそちらに向けて準備をしているところです。現在の研究成果を発表して、様々なコメントをいただくということになります。

研究テーマは「非正規雇用の活用と労働市場制度」で、担当科目は労働経済論、マクロ経済学中級です。

 まず、研究テーマと授業で教えている内容とに少しずれがあるので、研究テーマの方から先にお話ししたいと思います。
 非正規雇用の問題に今、注目していまして、皆様もご存知だと思いますが、正規雇用と非正規雇用のそれぞれの形態で働く方々の間には、格差が存在すると言われています。現行の制度も、どうしたら格差を埋められるか、特に非正規雇用者の働く環境をどうしたら変えられるか、ということに着目しています。私の関心事は、非正規雇用者の人が、特に希望者がどうしたら早く正規雇用に移れるか、その移行を促すためにはどうしたらいいか、という点で、それに関する研究を行っています。
 担当科目は労働経済論で間違いないのですが、使っているツールが違うと言いますか、今申し上げた研究の方では、働き手と職を持っていてそれを提供しようとしている企業側が、両者が出会うまでは時間がかかったりコストがかかったりすることを考慮した分析をしています。けれども、労働経済論という私が教えている科目では、その辺りは非常にシンプルに話が展開されています。つまり、コストや時間があまりかからず比較的簡単に、どういう仕事が周りにあって、どういう労働環境で働けるかということが分かったうえで職に就けるという状況のもとで理論が展開されていきますので、少し視点というか扱う内容が違ってくるのです。

企業による非正規雇用の利用のしやすさを変更することで、失業や賃金格差にどのような影響がもたらされるのでしょうか?

 まず正規雇用と非正規雇用の違いとして、賃金、給料が大きく違います。非正規雇用で低い賃金で働かなければいけない人達が、より多く正規雇用に移ることができれば、その方々の生活水準がまず上がるということが考えられますし、雇用の期間も限られたものではなくなってくる。そうすることによって雇用の安定性も増しますので、より落ち着いて働くことができて、少子化の改善ですとか、結婚がより増えるだとか、効果が見込まれるのではないでしょうか。
 一方で、非正規雇用を企業が使う理由として、低い労働コストで使えるという部分があるので、それを無理に正規雇用に移行させようとすると、今度は企業が人を雇う数を減らしてしまう可能性があります。
 失業する人がいる一方で正規雇用に移れて喜ぶ人もいます。そういった人達全ての存在を考えて、社会にとってどういう方向に向かわせるかということを分析するのが、今の私の研究です。非正規雇用でも、必ずしも正規雇用になりたい人ばかりがいるわけではないですし、主婦の方とか、課税対策として、自分の収入の上限を考えながら働いている人もいます。

1993年ごろから続いた”就職氷河期”の学卒者の中には、正社員を希望しながら非正規雇用から抜け出せない人もいて、雇用の不安定さと低賃金が貧困の要因となっており、将来の無年金・低年金も心配されます。

 そこが非常に大事なポイントだと思っていまして、冒頭でお話ししたように、私が今度スイスで発表する論文の内容というのは、企業がどういう利用目的で非正規雇用者を雇うのかというところに注目をしています。
 大きく分けて、いろいろな景気の変動に対して柔軟に人員を確保したいという目的と、正規雇用に向かわせる際に、どの非正規雇用者が有望で正規社員になっても仕事ができるかということを見極めることを目的として雇うこともあります。
 この二つの目的を、企業がどういう時にどちらを採用するのかということをいろいろ調べまして、その条件が整えられるような政府の政策が何なのかを明らかにしようと考えています。企業側として、自発的に非正規から正規に労働者を移行させるような仕掛けが必要なのではないかといったことも考えて研究を行っています。

有期雇用の人が同じ職場で5年を超えて働き、「無期転換ルール」に基づいて企業に無期雇用への転換を希望しても、改善は容易ではないのでは?

 それも結局は、企業がどういう目的で労働者を非正規の形で雇っていくのかということによります。今の仕事をそれなりのレベルでやってほしいということであれば、期限が切れると言いますか、無期に転換するギリギリのところで恐らくは雇用契約を解除すると思われます。ですから、企業にとって「有期形態の非正規雇用から正規雇用に移行させることが得だよ」と思わせるような仕掛けがやはり必要なのではないでしょうか。
 それが何なのかということは、あまり研究されていないところだと思っています。実際に研究では、正規雇用に至る前の、いわゆる試用期間のような形で 非正規雇用を使った方が企業の業績が上がるという研究もあります。どうしたら企業にそういう目的で非正規雇用者を活用させられるのかということは、そういったところからヒントを得て、何か政策を提案できないものだろうかと考えています。

「同じ仕事をしても“身分”の違いによって賃金格差があるのは不自然」という声も聞かれます。いわゆる「同一労働同一賃金」の原則を確立するには?

 それはぜひ改善するべきところではあると思うのですが、毎年、地域別最低賃金が引き上げられてきていることに加え、現在は人手不足と言われていて、自発的に自社の最低賃金を上げようとする企業もあります。また、同じ仕事をしているように見えても、例えば正規社員の方は転勤や異動があったり、休日出勤をしなければならなかったり等、非正規社員とは異なった立場に置かれており、それに対する補償として高い賃金が支払われていると解釈することもできます。どこまで賃金差を埋めるべきかという点は、議論の余地が多々残されているように感じます。
 人手不足によって、少しずつ格差がなくなる方向にあるとは思いますが、格差があることによって、人々が不満を感じながら働くことって働く側にとってもストレスを感じて、心身にも良くない影響があると思います。

バブル崩壊後、不安定な非正規雇用に就く男性が増え、1999年(平成11年)から労働者派遣法が数回にわたり改正され派遣社員も増え、非正規雇用の増加に拍車がかかりました。

 確かに、90年代後半以降の労働者派遣法の一連の改正ですね。あそこから非正規雇用の割合がどんどん上がっていきました。
 まず私が思うのは、あの時、2000年、2001年頃ですね。失業率がものすごく日本で高くなった時期でもあるんです。が、もしあの派遣業種の原則自由化という派遣法の改正等がなければ、派遣の職すらなくて、仕事に就けない人もいたかもしれません。 あの法改正によって雇用が与えられたというのは、必ずしも悪いことばかりではないと思っています。
 ただ、その後ですね。じゃあ景気が良くなったら企業は、派遣社員から、契約社員から正規雇用に変更させるのかというと、そういう対応を行っていない部分がありますので、景気に応じて雇用形態が柔軟に変更されなかったことが、その後の問題として注目されるべきことなのかなと考えます。現在、移行の問題に注目するというのは、そうした流れを受けてのこと部分でもあります。

デフレや非正規労働者の増加で格差は深刻化し、最低賃金の引き上げや、非正規雇用の活用規制などを訴えている人もいます。

 非正規雇用者の数はほぼ毎年増えていますが、ここ最近、労働力全体に占める非正規雇用者比率は横ばいになっています。日本では、その非正規雇用の活用の仕方というのはかなり緩くて、企業はかなり自由に人を非正規形態で雇えるのですが、ヨーロッパの方ではそうでないこともあります。
 実際に、非正規雇用を使う時にも制約がある国も存在します。確かにそうした方が、正規雇用として最初から働くことができる人が増える可能性がありますので、今の非正規と正規の間の格差を改善するという意味では考える余地のある政策なのかもしれません。
 しかしそうしますと、職に就ける人がそもそも減るという可能性がどうしても拭えなくなってしまいますので、その場合には今、失業率が下がってきておりますが、じゃあどれくらいまで失業率が上がることを許容するのか。そういった議論がどこまで行われているのかといったところは、注意をしなければいけない点だと思っています。

ゼミのテーマ「ビジネス・エコノミクス」について具体的に説明をお願いします。

 ゼミのテーマは、私の専門分野である労働経済論とは違う内容を扱っていいます。標準的な学部レベルの経済学では、企業の行動というものを簡単化して話を展開してしまうんです。つまり、働き手を雇う、工場や機械設備を使えばこれだけの生産物ができるという、そういう対象としか企業をとらえていないのです。
 しかし、実際に企業はもっともっと色々なことを行っています。それこそマーケティングをやって消費者のニーズをとらえて原材料を発注して企画して作って販売してアフターケアするという、色々な工程が標準的な経済学における企業の設定では無視されてしまっていると思うんです。
 ですから、実際の企業行動を見ながら、そこに経済学の要素をどういうふうに取り込んで、企業行動を説明していけるのか、というところをゼミでは中心に話をしています。学生に興味ある企業を自分で選んでもらって、その企業が今行っている取り組みについて「こういう経済学の知識を使えばこういうふうに説明できる」ということを毎回のゼミではプレゼンテーションしてもらっています。

ゼミの特徴を挙げるとすれば、どんなところですか?

学内での研究発表会で優勝

学内での研究発表会で優勝
 いくつか取り組みとしてはありますが、まずプレゼンテーションの時間が長めということが一つですね。後は、必ず毎回のプレゼンテーションに関しては、「評価シート」というのをこちらが作りまして、聞き手がコメント付きで評価をしてあげています。その後は活発に議論を したいと思っていますので、プレゼンターは自分の作ったプレゼンテーションの資料を事前に聞き手に送って、それを見て読んできてもらい、事前に疑問点を考えてもらっています。また、それとは別に、役割として質問者を設けています。質問者は、授業の残り時間15分ほどを使い、事前に読んだ資料に基づいて、より深い質問をプレゼンターにぶつけてもらいます。それに対し、プレゼンターが応答し、また他の聞き手も意見を述べたり質問をしたりといった形で参加していくことを、繰り返し行います。 

卒業生の追いコン

卒業生の追いコン
 プレゼンテーションのクオリティーに関しては結構こだわっている方です。1つのプレゼンテーションを作る上では、うちのゼミ生は3週間もしくは1か月前から準備をしないと僕に叱られる(笑い)。こちらの疑問に答えられないと困りますので。そのための準備をかなり早い段階から行ってもらっています。

トム・ケリー&ディヴィッド・ケリーの『クリエイティブ・マインドセット』(2014年、日経BP社)について。

 ゼミ生に「どういう能力を身に付けたい?」って聞きますと、「創造的思考力を身に付けたい」と答える学生が結構多いですね。つまり「他の人にはなかなか思い付かないような、色々な新しいアイディアを思い付けるようになりたい」というふうに思っているようです。それを聞きまして、じゃあどういうふうにしたら創造的な思考力が身に付くのかなと考えたことが、この本を読むきっかけになったのです。
 読んでいきますと、結論としては誰でもクリエイティブになれるんだと。後は自分を信じる勇気と、思い付いたことを、いきなり完璧なアイディアを出せないはずですので、プロトタイプ(原型)と言いますか、簡素なものであっても思い付いたことを形にして、どんどん改善していくということが結局は良いアイディアを生み出すことにつながる、ということを述べています。従って、自信を持ってかつ自分が思ったことは形にして、いろんな人から意見をもらって良いものに作り替えていくという、そこの気持ちをまさに持てば誰でもクリエイティブになれるということを、ぜひ学生に伝えていきたいです。

この本では、他人へ「共感する力」が創造性の源であり、斬新な発想の根源にあるのは人々への「共感」であると説いています。

OB・OGによるサポート

OB・OGによるサポート
 「共感」という意味では、私はまさにゼミの中で「共感する力」を育んでいきたいと思っています。ゼミ生を採用する選考に際しましても、成績ももちろん見ますが「この子が将来、私ですとか先輩 とか同期の子達が言ったことを純粋に吸収して、その後成長してくれるのかな」という視点でも見ているつもりです。
 採用する際の選考では、現役のゼミ生にも入ってもらっています。彼らから見た時の応募者がどういうふうに見えたかというのを聞いて「一緒に頑張れそうか」ということを確認したうえで採用の決断をします。つまり、成績という一つの軸ではなくて、その学生がどういう形でうちのゼミに貢献してくれそうか、という視点で採っていますので、結果的にいろんなタイプの学生が集まって来ますね。

OB・OGも参加してくれた46期の新歓イベント

OB・OGも参加してくれた46期の新歓イベント
 そうしますと、ゼミに入った当初は摩擦が起きることも少なくありません。それぞれ、価値観を含め違った考えを持った学生達が集まって来ることが多いので、どういうふうにしたらそういう学生達がうまく協力し合って一つのものごとを生み出せるのか、というところを私はかなり注目して彼らと接しています。ゼミ当初は衝突することもありますが、様々なゼミ活動を通じて、最終的には卒業後も繋がっていける人間関係を築いていって欲しいです

インターゼミ(合同ゼミナール)も行っているそうですが。

大破した車

大破した車
 ゼミ活動には実はもう一つ柱がありまして、インターゼミという他大学のゼミとの研究発表会に出ているというものがあります。私は東北大学出身でして、宮城県に9年住んでいましたが、私が大学を出てから6年後に東日本大震災が起きました。
 震災が起きた年の12月から、仙台のある大学の先生方と協力して、東北地方の復興をどうやって進めていくかを学生に考えてもらうという研究大会を開催し始めました。

基礎部分だけが残された住宅

基礎部分だけが残された住宅
 ゼミ生に毎年参加してもらって、最初の数年間は東北地方の復興について考えてもらいました。その後、ある程度時間が過ぎてしまったので、昨年から復興とは別のテーマを扱い始めたのですが、元々は東北地方に行って復興について考えて発表してもらうことを趣旨として行ってきました。2011年の12月には宮城県名取市に行きまして、震災の爪痕が残る地域を巡らせていただいて、そこで感じるものが多くありました。最近になりトピックは変わってしまいましたが、このような形での東北地方とのつながりは、今後も維持していきたいと考えています。

【主な著書】
増井 淳 (2016) 『「人手不足」の労働市場における 問題の整理 ─ 理論的見地からの考察』日本労働研究雑誌 No.673, pp.41-52。
Masui, M. (2016) “Employment Protection, Employers' Hiring Strategies and the Screening Role of Temporary Contracts.” Modern Economy, Vol.7, pp.758-785.
増井 淳 (2015) 「有期雇用と企業の採用行動」内田公謹・多和田眞・成生達彦・山田光男[編]『トピックス応用経済学I』所収、勁草書房、249-267ページ。
Masui, M. (2013) “Temporary Contracts, Employment Protection, and Collective Bargaining.” LABOUR, Vol.27, pp.371-398.
Masui, M. (2011) “Jobs with Different Wage Determination Mechanisms, Social Efficiency and Unemployment.” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.25, pp.56-75.