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プログラム&授業

「ゼミで書籍を出版!?」教育学部・教職研究科長崎ゼミナールの挑戦(2016年10月21日掲載)

教育学部・教職研究科長崎ゼミナール

・沼田 拓弥(八王子市立七国小学校教諭 教育学部2009年度卒業 教職大学院プロフェッショナルコース2015年度修了)
・賀田 純恵(船橋市立丸山小学校教諭  教育学部2011年度卒業 教職大学院プロフェッショナルコース2年生)
・鈴木 美幸   教育学部4年生

本年(2016年)8月、『物語の「脇役」から迫る 全員が考えたくなる しかける発問36』というタイトルの書籍が東洋館出版社より発刊されました。なんと、この本は、本学教職研究科(教職大学院)教授の長崎伸仁先生のゼミナール(以下、長崎ゼミ)の学生たち3年生10名、4年生7名、大学院生5名、計22名が執筆しました。
従来の小学校国語科の物語の授業の進め方は、登場人物の中で「主人公の心情」を中心に読み解いていくのですが、長崎ゼミでは物語の「脇役」に着目。脇役は、手助けをしたり失敗をしたり、時には1回しか登場しないにもかかわらず、物語をドラマチックに演出します。この書籍は、そんな「脇役」に焦点を当てた発問(質問)をすることで、子供たちが考えたくなる楽しく新しい国語の授業の作り方を提案しています。
同ゼミ生の「脇役」卒論を見た出版社の人から「着眼点が面白い。今までにこんな発想のものは見たことがない」と評価され、発刊となりました。この書籍が出版されるまでのお話を当時の大学院生の沼田さんと賀田さん、そして、学部3年生だった鈴木さんの3人に伺いました。

たくさんの脇役を研究したと思いますが、はじめに皆さんの好きな脇役を教えてください!

当時大学院生だった沼田さん(右)と賀 田さん(左)

当時大学院生だった沼田さん(右)と賀 田さん(左)
沼田さん:私は、「お手紙」という物語の中の「かたつむりくん」です。大学院に入学する前に、担任をしていたクラスの国語の授業でこの「お手紙」という物語を扱いました。「かえるくん」が「がまくん」にあてた手紙を「かたつむりくん」か「とりくん」の「どっちに頼むのが良いか」という発問で授業をやったんです。研究授業だったので、他の先生方も見に来ていました。3年前のことなのですが、今でも、当時の授業を思い出して、「あの授業は、とても面白かった」と声をかけてくれる先生がいるんです。しかも、その方は、今回出来上がった本を他の先生にも「是非、読んでください。これ、面白いですよ」と紹介をしてくれています。
賀田さん:「きつねのおきゃくさま」という物語の「あひる」がすごくお気に入りです。この物語は、お腹が減っているきつねが「ひよこ」「あひる」「うさぎ」の3匹を太らせてから食べようとする話です。「ひよこ」は、正直者で天然といった感じの性格で、「いいすみかがないか、こまっている」と何の恐れもなく「きつね」に相談し、「おれのうちに来なよ」とのきつねの誘いにもひょいひょいとくっついて行ってしまうんです。その後、「あひる」が登場。あひるは、「ひよこ」に「いいすみかがないか、こまっている」と相談すると「きつねのお兄ちゃんち」に行こうと言います。あひるは一度怖がって、嫌がるのですが「きつね」のところに行く決断をします。この「あひる」の一歩踏み出す勇気がすごいなと感じています。私は、来年4月から教育現場に戻るので、授業でこの教材を扱うタイミングがあれば「脇役」の発問をやってみたいと思っています。

鈴木さん:私は「カレーライス」という物語の教材研究をずっとやっていたので、カレーライスに出てくる脇役の「お父さん」が好きです。この物語の主人公は子供です。主人公の視点で読むと、自分自身の子供の頃と重ねあわせて「こういう時、あったな」と思うのですが、お父さん目線で物語を考えると、新しい視点で作品が読めたなと思うのです。

皆さんは、それぞれどのようなことを担当したのですか?

当時学部3年生だった鈴木さん

当時学部3年生だった鈴木さん
沼田さん:主に原稿のとりまとめと執筆代表者としてまえがきを担当しました。本年3月に教職大学院を修了して、教育現場に戻ったので、以降は原稿のまとめ役を学部ゼミや大学院の後輩である賀田さんにバトンタッチをしました。原稿作りの中心は現役4年生7名で行いました。小学校国語科の教科書で扱われる主な物語を、それぞれがグループに分かれて担当し、教材研究を行い、毎週1回のゼミや合宿などで議論を重ねました。ゼミでは、物語の構成や登場人物の役割、この物語に欠かせない「脇役」やその物語の仕組みや仕掛けについて意見交換し、最後に長崎先生が考察を述べるというスタイルで準備を進めていきました。

賀田さん:私は、文章校正、何をねらいとした発問なのかということを主に確認しました。教材を何度も読みながら、長崎先生や長崎ゼミ出身の大学院生の正木友則さん(現・帝京平成大学)と打ち合わせし、校正作業を進めていきました。

鈴木さん:3年生は3つのグループに分かれて、1グループにつき1作品の教材研究を任せてもらいました。

大学院生がこの作業に関わる中で難しかったこと、苦労したことは何ですか?

沼田さん:大学院の授業と並行して編集を担当したことです。それぞれの物語の教材研究は全てチームに分かれて作業をしていたので、チーム全員が揃わないと討議ができなくて大変でした。ゼミの時間の中でだけで討議をするわけではなく、ゼミの前段階でたくさんの討議を行っていました。本になった原稿は、これだけなんですが、ものすごい量の話し合いをしました。時間を合わせるのは、現役生も教員採用試験の受験対策もあって大変だったと思いますが、大学院生も大変でした。今となっては、いい思い出です(笑)。

賀田さん:物語には基本的に主役と脇役がいて、私が学部生のときは、長崎先生から主役に対する発問しかしてはいけないと教わってきました。脇役に関する発問をすると「なんで主役以外の脇役とかに視点を当てるんだよ、そんなん違うやろ」と言われてきたので、「脇役」に視点を移すことは、革命的な変化でした(笑)。私は教育学部を卒業し、現職教員を3年間やって、創価大学の教職大学院に入学しました。教材研究で脇役に視点を当てたのも、この時が初めてでした。本当に勉強になりました。現役生と一緒になって、「この物語で取り上げるのは本当にこの脇役でいいのか」と悩みました。
また、私は沼田さんに代わって後半の校正を担当したので、現役の4年生がすでに卒業していたんです。だから、校正作業を進めて、疑問点があっても、すぐに聞けないんです(笑)。「この内容はどうなんだろう」、「現役生の思いを汲み取れているんだろうか」とかあれこれ考えながら、校正を進めていきました。最後はゴールデン・ウィークを全部校正作業に費やして校了し、発刊にむけて印刷、製本に入りました。

3年生は突然呼ばれたんですか?

鈴木さん:はい、そうなんです(笑)。今年の春休み前くらいに、「書籍の出版に3年生も関わってみる?いい経験になるよ」と長崎先生より話があり、2月末から教材研究、3月の合宿から原稿の執筆を開始。3年生全員、不安で一杯でしたが挑戦しました。これまでの3年生のゼミでは、国語教育の基本的な主役に視点を当てた教材研究を学んでいましたので、「脇役」に焦点を当てるということが初めてで大変でした。もちろん、文章の校正もやったことがありません。しかし、春休み明けには原稿を仕上げることになっていたので、先輩方に助けてもらいながら、同期で何度も集まって励まし合い、準備をしました。

4年生は、この原稿を書き上げながら、教員採用試験の勉強をしていたんですよね?

沼田さん:はい、現役の4年生は本当に大変だったと思います。当時の様子を後輩はこう語ってくれました。「ゼミの話し合いのときは時間を決めて、教員採用試験の前は、試験対策に時間を当てていました。自分の担当の発表の週は、準備をしながら試験勉強をして、皆が平等に発表できるようにスケジュールを組み立てながら、両立していました」と。実は、書籍の中の挿絵を書いてくれたのも4年生でした。

賀田さん:また、他のゼミ生は「教育実習も重なっていたので、5~6月の実習期間は作業が全くできず、実習が終わり大学に帰ってきたら、もうその次の週からゼミで議論を始めていました。授業時間を終えても、図書館やラーニング・コモンズSPACe、友人の家などに集まって、勉強したり準備したりしました」とも言っていました。
また、4年生の中には2人、海外に留学にいっていたメンバーもいました。彼らもSNSを通じてゼミの議論に参加し、時には自分の意見をメールで送って来てくれたりもしました。

発刊を通した成長実感を教えてもらいたいです。

長崎先生と学部・大学院のゼミ生

長崎先生と学部・大学院のゼミ生
沼田さん:いきなり長崎先生から電話が来て、「出版社の方が『執筆者を代表して、沼田さんにまえがきを書いてもらったらどうか』との話があるんだけど、どうする?やらないなら俺がやる」と言われて、書籍のまえがきを書く機会は一生ないだろうと思って、「やります」と言ったら「じゃあ、明日までに作ってくれ」と言われて(笑)。翌日、仕事でしたので、家に帰って来てから、いっきに書き上げて長崎先生に提出しました。長崎先生から「面白い内容だね。すばらしい」と言ってもらったことが、成長を実感した瞬間です。自分の成長はなかなか気がつかなかったので、伸びた場所をほめてもらってとても嬉しかったです。本当に感謝しております。

賀田さん:教材を通して、単元や授業で何をねらい「発問」するのかを徹底して考えられるようになったことです。ただ脇役の発問をすればいいというわけではなく、実際の教室では、子供たちに「かたつむり(脇役)がいたから、主人公たちに影響を及ぼしたんだよ」ということを、物語の中で登場人物の繋がりを踏まえて考えさせなければいけません。意図して脇役の発問をすることを考えさせてもらったことは、とても勉強になりました。早く現場に戻りたいと思っています(笑)。

今後の決意や将来の夢を伺いたいと思います。

当時3・4年生の春合宿

当時3・4年生の春合宿
鈴木さん:今、自分に力がついているかは分からないです。しかし、残りの半年、将来の教え子たちのために、長崎ゼミで力をつけていきたいと思っています。

賀田さん:日本の教育を変えたいという長崎先生の夢に少しなりとも携わらせていただいたことは感謝の思いです。「脇役」に注目した研究もそうですが、情熱を持って仕事に取り組み、日本の教育を変えていける一端を担えるようになりたいと思います。

沼田さん:「創大出身者で日本の教育を変える」「長崎ゼミ出身者で日本の教育を変える」ということを、長崎先生がずっとおっしゃっています。そのために、「人間性を磨こう」「少々のことでへこたれない強い教師になろう」、そして、「魅力的な授業を創ろう」「自分の力で、教材研究のできる教師になろう」ということを、口癖のように話されます。今日は東京のメンバーだけですが、日本各地のゼミ生が団結し、子供たちのために命を惜しまず頑張っているということを忘れずに、何か苦しいことがあった時、「日本の教育を変える」という原点に立ち返ってその言葉に向かっていこうと決意をしています。

★長崎伸仁先生のコメント★

 この「脇役発問」の発想は、大きく捉えると、人生というのは、主役と脇役で成り立っているのではないか、というところから始まっています。「脇役」が「主役」を必死に支えたとき、その脇役は、「名脇役」となり、輝きを増すのではないでしょうか。
文学作品の全ては、この主役と脇役とでストーリーが展開されます。例えば、「たぬきの糸車」(小一年)という物語では、「きこり」は一回しか登場しません。それも、いたずらばかりするたぬきを捕えるために、「そこで、きこりはわなをしかけました。」だけです。この行為によって、物語はドラマチックに動き出し、「おかみさんとたぬき」のほんのりとした文学世界がかもし出されるのです。
 こういったことに果敢に挑戦したのが、今回の著書でした。学部の4年ゼミ生を中心に3年ゼミ生も加わり、それを励まし続け、1年以上支え続けたのが5人の大学院生でした。こういった「主役」と「脇役」との素晴らしい人間模様があったからこそ、完成させることができたのだと思っています。本当に、ドラマチックな展開でした。
 ここで、全国の先生方からの反響を簡単に紹介しておきます。小学校現場の先生方からの反響は、アマゾンのレビューをご覧いただくとして、文学教育を専門とされている大学の先生からの「声」をお届けします(紙幅の関係でお一人だけ)。

  第2章の発問のアイデアは、ゼミの学生さんたちですか。なかなかの文学センスですね。
  タイムリーな出版だと思います。主役中心の授業はどこかで行き詰まっているように思うからです。
  すべての子供たちに意味があるように、すべての人物には意味がある。
  そういう目で人物たちをみていくと、いろんな新たな世界が見えてきます。 
  この本の説得力は、「脇役から主役に迫る授業」というところにあります。
  脇役に注目するだけでなく、脇役に主役とは別の独自の役割をみていく、という考え方です。
  文学教材観の画期的な提案になると思いました。 

 「子どもたちには無限の可能性がある」ことは言うまでもありません。今回の挑戦を通して、「創大生にも無限の可能性がある」ことを実感しました。