現在、どういう研究をしているのですか?
今、人間活動による温室効果ガスの増加で地球の温暖化が懸念されています。かつて産業革命が始まった1750年ごろ280ppmであった大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が高くなり、今年410ppmを超えたことが報道されています。過去にCO2の濃度が高い時代もあれば低い時代もあった。その当時の地球の状態はどうだったかが詳細に分かれば、将来予測がより正確にできます。
過去の地球を、気候変動や環境の変動といった観点から解析するプロジェクトも実施。私がやっていることは、湖や海の底にたまっている堆積物をボーリング掘削します。簡単に言えば、海底や湖底にパイプを突っ込んで引き抜くことですが、結構大がかりです。
日本だったら琵琶湖。ロシアのバイカル湖は世界で一番古い古代湖です。水深1,600㍍超で海みたいに広く大きく、およそ3,000万年の歴史をもつと考えられています。ボーリングして柱状の試料を採取し、堆積物コアといいますが、それを切っていく。古い時代の堆積物が下の方にあって、段々と新しい時代へと積もったもの。そのなかに歴史が刻まれている。それをさまざまな化学的な手法で分析し、過去の情報を読み取っていきます。
特に力を入れている研究テーマは何でしょうか?
テレビ番組に科学捜査ドラマがありますね。あれと同じで過去に生きていた生物の証拠を読み取っていく。過去の世界の痕跡がどんなものがあるか。その生物がいたということを確かめるためには、その生物特有の特徴ある化合物とかがある。それを指標にすれば、その生物がいたということが分かる。生物だけでなく、環境の変化を示す指標もあって、これらはたくさんあるほど地球の過去の詳細な情報を読み取れる。歴史の解読だけでなく、その解読するための指標を探すことも私のテーマの一つです。
現在、沖縄県のオニヒトデ総合対策事業として受託研究を行っていますね。
沖縄でも1970年代から大量発生が見受けられるようになり、2000年頃から最近までに沖縄島のほぼ全域のサンゴ礁で大々的な食害を受けました。以来、何とかして食い止めたい、オニヒトデを駆除するためにはどうしたらいいか、ということで沖縄県の受託事業として2015年から毎年、琉球大学の瀬底研究施設の研究室をお借りし、実験を行っています。オニヒトデの赤ちゃん、幼生のころは1㍉にも満たないほどの大きさです。顕微鏡で見ないと分からない程度です。しかも、透明で、氷の妖精と知られるクリオネに似て、親のオニヒトデと幼生はとても似ても似つかない綺麗なものです。そんな赤ちゃんが大きくなってサンゴ礁を食い荒らす。その一番根元から断つ方法を研究しています。先日、私たちのグループのオニヒトデ対策の取り組みの様子が琉球テレビで報道され、私の研究室の学生たちもインタビューを受けました。
オニヒトデは何を食べて成長するのでしょうか?
一つは、安定同位体。例えば炭素や窒素には普通の炭素や窒素と比べて質量の大きい安定同位体というのがあります。それらを炭素や窒素の安定同位体比と言いますが、餌特有の値をもっています。もし、オニヒトデの幼生が餌を食べて体に取り入れれば、幼生の同位体比は食べた餌の値に近づいてきます。その原理を使って、幼生が何を食べているかを調べる実験を今やっています。
植物プランクトンを食べていることは分かっています。しかし、それだけでは説明できない。サンゴ礁は貧栄養海域といって、栄養塩が極めて少ない海域にあります。透明度の高い、きれいなサンゴ礁というイメージがあると思いますが、あれは栄養塩が少なく、そのため一次生産者である植物プランクなどが少ないからです。
栄養素が少ない海域なのに、なぜかオニヒトデが育つと…?
もう一つは、それがどこから来るかですね。植物プランクトンを育てる栄養塩の多くは陸から来ていると考えられますが、それが自然か、それとも人間活動に由来するのか、これを明らかにすることが重要と思っています。また、植物プランクトン以外の生き残りを支えている可能性のある生物の死骸のような餌も人間活動によって河川を通じてもたらされている可能性もあります。今年から、それを明らかにする研究も始めました。
オニヒトデには天敵がいますか?
現在、絶滅危惧種が世界では26,000種以上、日本でも動植物を含めて1,600種以上と言われています。
人間は、今地球に対して負荷を相当与えています。その負荷を計る指標の一つがエコロジカル・フットプリントです。これはいわば人間が生きていくために必要な地球の面積を計算するもので、世界では地球の面積の1.3倍使っている、つまり酷使していることが計算上出ています。日本人一人当たり4.7グローバルヘクタール(gha)程度で、仮に世界のすべての人間が日本人程度の生きた方をするとすれば、地球が2.3個必要になります。つまり、あり得ないことになります。この先、人間は100億人近くなるだろうと言われています。ますます地球を酷使することになるでしょう。いずれにしても、このような人間を支えてきたのは自然ですよね。そこは決して忘れてはいけないところですね。
生態系への影響を、どうとらえたらいいでしょうか?
人間が良かれと思ってやってきた事例が多いですね。
プラスチックは、きれいで、なかなか壊れない。大量にいろんな形のものも作れる。ところが、壊れないということは自然に長く残るということです。あまり深く考えていなかったわけです。それが今起こっているマイクロプラスチックの問題です。農薬だって自然の中に残っていくとは思ってなかった。それが長く残って生物の体の中に入り、死へ追いやったりする。結局、その時代の価値観にもとづいて、人間にとって良かれと思ってやってきたことが、環境や他の生き物には悪い方に働いていることが多くあります。結局はそのしっぺ返しとして人間に跳ね返ってくるのですが。
環境に負荷をかけ過ぎ現代文明は暴走している、との見方もあります。
学生へのメッセージをお願いします。
PROFLE :
山本 修一
[好きな言葉]
「命の器」
[性格]
自然散策と写真撮影
[最近読んだ本]
『文明の環境史観』安田喜憲、中公叢書
文明は大地、気候、風土と人間との関わりあいのなかで誕生し、発展してきた。しかし、現代文明はいつしか、その関わりを忘却し、暴走しているようにみえる。
[経歴]
1977 横浜国立大学・工学部卒業
1983 東京都立大学大学院・理学研究科・博士課程修了(理学博士)
1983 日本学術振興会・奨励研究員
1985 桐蔭学園工業高等専門学校(現・桐蔭横浜大学)・専任講師
1987 創価大学・教育学部・助教授
1990 東洋哲学研究所・研究員
1996 創価大学・教育学部・教授
2003 オレゴン州立大学・客員研究員
2004 東洋哲学研究所・主任研究員
2005 創価大学・工学部(現・理工学部)・教授
[主な著書―いずれも共著書]
●地球化学分野
“Deep Ocean Circulation,Physical and Chemical Aspects” (1993), Elsevier Science Publishers
『森北古墳群』(1999), 創価大学・会津坂下町教育委員会
“Dynamics and Characterization of Marine Organic Matter”(2000), Kluwer
“Natural and Laboratory Simulated Thermal Geochmeical Processes” (2003), Kluwer Academic Publishers
『腐植物質分析ハンドブック』(2007), 三恵社
『環境中の腐植物質』(2008), 三共出版
『講座地球化学 第8巻 地球化学実験法』(2010), 培風館
●環境倫理分野
“Psychology and Buddhism: from individual to global community”(2003), Kluwer Academic/Plenum Publishers
『大乗仏教の挑戦』(2006), 東洋哲学研究所刊
『地球環境と仏教 大乗仏教の挑戦3』(2008), 東洋哲学研究所刊
『教育−人間の可能性を信じて 大乗仏教の挑戦 8』(2013), 東洋哲学研究所刊
『持続可能な地球文明への道 大乗仏教の挑戦 9』(2014), 東洋哲学研究所刊
“Exploring Buddhism and Science”(2015), Singapore: Buddhist College of Singapore
[論文]
地球化学および環境倫理分野の論文多数