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  • 細胞で合成される糖鎖の構造を予測するためのツールを開発(糖鎖生命システム融合研究所副所長 木下聖子教授)

2021年03月18日

細胞で合成される糖鎖の構造を予測するためのツールを開発(糖鎖生命システム融合研究所副所長 木下聖子教授)

成果のポイント

  • 遺伝子発現に基づいてヒト細胞で作られる糖鎖構造を予測するツールを開発
  • 様々な細胞、組織、疾患組織で合成される糖鎖構造を推定することが可能
  • 医薬糖蛋白質の生産や疾患特異的な糖鎖バイオマーカーの開発への応用を期待

創価大学の木下聖子教授(糖鎖生命システム融合研究所副所長・理工学部共生創造理工学科)の研究グループと中国江南大学の藤田盛久教授の研究グループは、米国ジョージア大学の青木一弘主任研究員の研究グループらとともに、遺伝子の発現レベルに基づいた糖鎖合成経路の可視化および糖鎖構造の予測を行うことが可能なツール「GlycoMaple」を開発しました。
糖鎖は核酸、蛋白質、脂質と並ぶ四大高分子の一つであり、受精、発生、免疫、神経形成、癌化など多様な生命現象に深く関わっていることが知られています。しかしながら、糖鎖構造の解析は高い専門性と高度な測定技術を必要とすることから、より簡便に糖鎖構造を予測できるツールの開発が求められていました。研究グループは、糖鎖の代謝経路に関わる遺伝子の発現情報をもとに、細胞内の糖鎖合成経路を可視化し、糖鎖構造を予測することが可能なウェブ・ツールを開発しました。本研究で開発されたツールは、糖鎖の構造解析や調節機構の解析などの基礎的研究から、医薬糖蛋白質の生産、疾患マーカーの開発まで、幅広い分野で利用されることが期待されます。
本研究の結果は、2021年3月16日にアメリカの科学雑誌Developmental Cellに掲載されました。

本研究の一部は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)のライフサイエンスデータベース統合推進事業(統合化推進プログラム)による研究開発課題「糖鎖科学ポータルの構築」(研究代表者:木下聖子)および創価大学糖鎖生命システム融合研究所共同研究費の支援を受けて実施されました。

<研究の結果の重要性>
遺伝子発現解析は、近年、生命科学分野で最も普及している技術の一つであり、多くの生命科学分野で使用されています。本研究では、遺伝子発現解析から糖鎖の合成、分解等に関わる950の遺伝子の発現情報を自動的に抽出し、糖鎖代謝経路に反映させることで、糖鎖構造の推定することを可能にしました。このツールを用いることで、幅広い研究分野から糖鎖研究にアプローチすることが可能であるのみでなく、糖鎖改変を利用した医薬糖蛋白質の生産系の確立や、疾患時に変化する糖鎖構造を利用した治療法の確立や診断薬の開発に新しい道を切り開きます。

研究の背景

 糖鎖は、核酸、蛋白質、脂質と並んで、細胞を構成する四大生体高分子として多くの生命現象に関わっています。細胞表面に発現する糖鎖構造は組織や細胞種で違いが見られることから、細胞の「顔」あるいは「アンテナ」とも呼ばれています。さらに癌のような疾患組織では、正常組織と比べて糖鎖構造が変化することが知られており、疾患治療や診断のターゲットとして期待されています。現在、糖鎖構造の解析には、液体クロマトグラフィーや質量分析装置が用いられていますが、高い精度と熟練の技術を要することから、より簡便に糖鎖構造を推定することが求められています。
 本研究では、ヒトで知られている糖鎖の合成や分解、調節に関わる950遺伝子をリスト化し、これらの遺伝子発現情報を糖鎖代謝経路マップ上に反映させることで、細胞内で合成されうる糖鎖構造を推定できるツール「GlycoMaple」を開発しました。このツールを用いて、ヒト腎臓胚性細胞(HEK293)をモデル細胞として、遺伝子発現情報から推定した糖鎖構造と、質量分析装置で測定した糖鎖構造を比較したところ、高い相関性が見られました。遺伝子発現情報をもとに、N結合型糖鎖に欠陥のあるノックアウト細胞ライブラリーを構築し、解析を進めました。GlycoMapleによる糖鎖構造予測と質量分析装置を用いた糖鎖構造解析を組み合わせることで、ノックアウト細胞において、N結合型糖鎖の構造変化がスフィンゴ糖脂質やヒアルロン酸などの他の糖鎖構造にも影響を与えていることを明らかにしました。さらに、大腸の正常組織と癌組織の遺伝子発現情報をもとにGlycoMapleで糖鎖構造予測を行ったところ、癌組織で変化することが知られている糖鎖構造と一致することが見出され、本ツールの有用性が示唆されました。本研究で開発されたツールは、幅広い研究分野で利用されている遺伝子発現解析を糖鎖構造予測に用いることで、糖鎖が関わる新しい生命現象を明らかする足がかりとなる可能性があります。また、細胞内で合成される糖鎖構造を予測できることから、糖鎖改変を利用した医薬糖蛋白質の生産系の確立や、疾患時に変化する糖鎖構造を利用した治療法の確立や診断薬の探索、開発に新たな道を切り開くことが期待されます。
  • 掲載誌:科学雑誌「Developmental Cell」(3月号)
  • 論文タイトル:Global mapping of glycosylation pathways in human-derived cells
  • 著者:Yi-Fan Huang, Kazuhiro Aoki, Sachiko Akase, Mayumi Ishihara, Yi-Shi Liu, Ganglong Yang, Yasuhiko Kizuka, Shuji Mizumoto, Michael Tiemeyer, Xiao-Dong Gao, Kiyoko F. Aoki-Kinoshita, and Morihisa Fujita

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ページ公開日:2021年03月18日