野村 佐智代 准教授

企業財務と環境問題 経営学の新しい領域を学ぶ

企業による環境への取り組みは 
欠かせないものに
 


 私は企業の財務と環境への取り組みを扱う「財務管理論」「環境マネジメント」を専門としています。少し難しく聞こえるかもしれませんが、環境と企業の経営を考える、経営学のなかでも比較的新しい分野です。海外、特に欧州などではとても活発に議論がなされていますが、日本では最近ようやく注目を集めるようになりました。

 今まで、企業の目的は利益を出すこととされてきました。環境問題の大切さが叫ばれるようになっても、「環境が大事といっても、企業は利益を出すものだ。対策のためのコスト増によって、経営を圧迫したら意味がないじゃないか」という論調に押し切られていたんです。

 その流れが大きく変わったのは2006年。国連責任投資原則(UN-PRI)が発足し、長期的な投資収益の向上とリスク低減のために「ESG」が投資プロセスに反映されるようになりました。
ESGとは『環境対応(E)、社会責任(S)、企業統治(G)』の頭文字をとったものです。
 この流れは2010年代に入ると急速に広まり、2016年には日本最大の機関投資家である「年金積立金管理運用独立行政法人」がPRIに批准したことで、日本の企業でも「環境への取り組み」が欠かせないものとなりました。今、企業は環境問題を考えて活動していないと、「投資してもらえない」「資金調達が難しい」、そんな時代になったのです。
研究のはじまりは
身近なところで感じた矛盾


 現在は経営学を教えていますが、私自身はもともと大学で経済を学んでいました。あまり誇れる話ではないのですが、「経済を学んでおけば、将来のつぶしがきくかな」というくらいの気持ちで学部を選んだんです(笑)。

 学生時代はおおらかにキャンパスライフを楽しみつつ、環境問題を取り扱う研究所でアルバイトをしていたことがありました。そこでは大量のミスプリントが出ていて、それこそ紙と電力、インクといった資源のムダ使いが生まれていました。このときに「環境問題と組織の行動の矛盾」を感じ、疑問を抱いたことが研究者としてのひとつの出発点となりました。
 その後、経済から経営・会計、財務管理へと研究領域を変えていきましたが、「環境問題」はずっと心に残っていて、「環境問題と企業会計」「環境と財務管理」などのテーマも研究してきました。とはいえ、論文を発表しても当時は注目されることはなく、「環境問題と企業経営」は長年、「絵に描いた餅」だと思われてきました。

 ところが、この数年、もっというと1年〜2年で劇的に変化しました。この流れは今後も加速し続けることでしょう。
英国で感じた市民と企業の
環境への意識の高さ


 この背景にあるのが、欧州の環境問題の意識の高まりです。現地で学ぼうと2019年にカナダとイギリスを訪れて研究をしましたが、特にイギリス人の熱心さ、環境問題への関心の高さには驚きました。

 訪問時がちょうど選挙期間中だったこともありましたが、政治家の党首討論では必ず環境問題にふれていました。市民の関心が高まっているので、無視できないトピックになっているのです。また、たった数人のNPOやNGOが世界の環境基準・指標となるものを策定していたり、大企業とタッグを組んで環境への取り組みをはじめていたりと、ダイナミックな展開に圧倒されました。

 “今ここで企業の総力をあげて環境問題に取り組まないと、次世代に取り残される”、そんな危機感があるように感じました。
食べ残しを減らすなど
日々の暮らしから変えていく


 ひるがえって日本はどうでしょうか。環境問題といっても、レジ袋やストローの削減など一部分での取り組みにとどまり、残念ながらまだまだ一般的な関心は低いように思えます。ただ、若い世代はとても感度が高いですね。小学校や中学校でも環境教育がされているためか、「自分たちの問題」ととらえている人が多いのではないでしょうか。

 私のゼミでも実践的な学びとして、毎年、「エコプロダクツ展」(東京ビッグサイトで毎年開催されている、環境配慮型の商品やサービスを一般向けに紹介する展示会)に出展しています。テーマを学生で決めるのですが、2018年にはフードロス問題(食べ残し)を取り上げ、「まもるカフェ」という名称で、廃棄しそうな食品を持ち寄って調理し、食べ残しを防ぐ取り組みや啓発を行いました。展示会では、来場者に「ひとり暮らしであまりがちな食材を残さずに食べるメニューを考えてもらい、どれだけ食べ残しを削減できるか」というゲームに挑戦してもらいました。この試みは来場者だけでなく、出展企業からも好評を得て、多くの人がフードロスを考えるきっかけとなったように思います。
 ほかにも地域おこしの一環として、間伐材を薪にしたり、地域の特産物を商品化するお手伝いをするインターンシップなども行っているので、関心があればぜひ参加してほしいですね。
環境と経営を考えるには
多面的な視点が大切に


 経営と環境問題の難しいところは、正解がないところでしょう。今は検索でさまざまな情報にアクセスできる時代です。正解がある問題であれば、クリックひとつですぐに答えにたどり着けますが、環境問題と経営を考えるときには、そうはいきません。

 たとえば、環境への負荷が低くても、自社の売上にマイナスとなれば意味がありませんし、自社だけで環境問題に取り組んでも効果は薄いものです。取引先、自社、消費者のすべてにとって「よい」とは何かを考えて、取り組まなくてはなりません。また、環境問題だけでなく、貧困や児童労働などにも注意を払う必要があります。

 私の授業では、企業の「とって、つくって、廃棄する」のすべてのプロセスを、1つの方向からだけでなく、多方面から分析してみることがあります。「この取り組みではこんなメリットがあるけれど、一方でリスクやデメリットもある」などと多角的に考える力は、将来社会へ出た時も、きっと役にたつことでしょう。

 日本の企業の環境への取り組みはまだはじまったばかりです。若い世代が経営と環境に関心をもち、意見を出して、行動を変えていくことが、社会をよりよく変えていきます。私は、自身の授業やゼミを、そんな豊かで実践的な学びの場としていきたいと思っています。



(プロフィール 野村佐智代准教授)
1996年 明治大学経営学研究所 教務助手捕
2001年 明治大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学
2001年 英国暁星国際大学専任講師
2004年 英国レディング大学客員研究員を歴任
2005年 埼玉学園大学経営学部准教授
2010年 創価大学経営学部准教授
  • キャンパスガイド2021経営学部