学問 探訪 伊藤 貴雄 教授 【 文学部 】 難解な古典に時間をかけて向き合うことで、 現代を価値創造的に生き抜くための力を育む 創価大学は「価値創造を実践する世界市 民」を輩出するという教育理念を掲げていま す。本学には先輩たちの成功を共有し、そ の経験を自分事として糧にしていく成長文 化がありますが、これには「創造的世界市 民」という共通した目標像が大きな役割を 担っているのではないでしょうか。 そこで、今回は文学部で哲学を研究する 伊藤貴雄教授に「創造的世界市民」の起源 について改めてうかがい、その目標に近づく ために学ぶべきことは何かについて語って いただきました。 「『世界市民』という理念は、古代ギリシャ の哲学者ソクラテスも使ったとされる長い 歴史のある概念です。また『創価』の語源で ある『価値創造』という語は、大正デモクラ シー期の知識人たちのキーワードでした。 何が正しく何が間違っているのか、何が心 地よく何が心地よくないのかという価値観 は、ひと握りの権力者が決めるものではな く、一人ひとりの市民が自ら考え発信してい くものであり、そのための教育が必要だとい う民主主義の理念が本学教育理念のルー ツにあります。 こうした歴史を持つ『創造的世界市民』と いう理想は、人類が何世代にもわたって先 人の英知の遺産を引き継ぎつつ、後人も自 らの経験と思索をもって磨き上げてきたも のなのです」 理念が悠久の人類思想史に起源を持つ ものだからこそ「、創造的世界市民」を目指 す学生たちには、複眼的かつ立体的な価 値観を養ってほしい―そう語る伊藤教 授は、担当する共通基礎演習科目「創立者 の若き日の読書に学ぶ~『池田文庫』開設 25周年記念~」の授業を、考える力の素地 を身につけ教養人としての一歩を踏み出す ための場にしてほしいとエールを送ります。 「創立者が18歳のときに記した読書ノー トには、多様な著作について、心に残った 一節や感想が書き留められています。石川 啄木や有島武郎などの文芸作品もあれば、 プラトンやモンテーニュ、ルソーやエマソン、 福沢諭吉や内村鑑三といった哲学・思想 の古典も含まれています。 授業では、その読書ノートの記述をもと に、学生たちと創立者寄贈図書『池田文庫』 を読みます。そして、例えば同じルソーの哲 学書でも、“人によって読み解き方は異な る”ということを学びます。それは『ルソーか ら何を学ぶべきか『』創立者がルソーをどう 評価したか』という正解を求めるのではな く、教員や友人たちの考えに触れて自分の 考え方との違いを感じることで、“人の数だ け異なる読み方=価値観が生まれていると いうこと”を経験してもらうのです」 File 35 創大の 昨今の社会において価値観の多様化が 語られる半面、ノウハウやスキルといった簡 単に手に入る知識や画一化した正解がもて はやされる風潮が見られます。そんな時代 にこそ、あえて難解な古典に挑み、今を生き 抜くための知的耐久力を鍛えることが大切 だと、伊藤教授は強調します。 「近い将来、AIが何にでも答えを示してくれ る時代になるかもしれません。しかし最終 的に答えを決めるのは自分です。自ら苦労 せず答えを他者から与えられることに慣れ てしまうと、提示された答えが本当に正しい のか見分けるセンスが弱まってしまいます。 それはとても恐ろしいことです。 対して、難解な古典を読解するには忍耐 が必要です。その忍耐こそ正しい答えを見 分けるセンスを鍛えてくれます。とはいえ、 独学では挫折してしまうことや、他者の価 値観との出会いがないこともあるかもしれ ません。しかし大学は、人類の英知を他の 学生や私たち教員と一緒に考え学び合える 場です。自他の視点を踏まえたうえで自分 の答えを導く経験は、現実社会での『未知 の問題を解決する能力』を育むことにつな がると思います。こうした知の格闘から得ら れる『教養』こそ、次の時代を世界市民とし て価値創造的に生き抜くために必要な学び であると、私は考えています」 [ テーマ ] 創造的世界市民 たるための教養とは Takao Ito 15
RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz