特別企画座談会
2013

価値創造の時代と女性法曹の役割

女性法曹はどうあるべきか、女性だからこそできることは何か、5人の女性弁護士と新司法試験合格者に、それぞれの立場から語っていただきました。男女という枠を超えて、法曹の役割や社会のあり方についても話題が広がりました。

女性法曹だからこそ、できることは何かありますか。

 女性の社会進出が当たり前となり、それにつれて法的な問題を抱える女性も増える中で、女性は女性の医師に診てもらいたいのと同じように、社会生活の医師ともいえる女性法曹のニーズも増えているように思います。

田村 女性ならではの対応のきめ細やかさ、威圧感なく依頼者の話を聞いて同感・同苦できる能力は、法曹の仕事においてとても役に立つ場合があります。男性の依頼者で相手方が女性の場合に、「相手方の女性心理がよくわかりました」と言ってくださる方もいらっしゃいます。

本間 実は、私がいま通っている歯医者さんは全員が女性で、すごく感じがいいんです。診察室は明るく、ラベンダーの香りが漂っていて、歯医者に行くのが楽しみになるくらいなんです。法理論的な観点だけでなく、依頼者の心に寄り添って依頼者を紛争から開放し、納得と安心を与えることも弁護士の重要な役割で、これは女性の大きな強みだと思います。

また、国連ミレニアム開発目標の一つに「ジェンダーの平等の推進と女性の地位の向上」があり、女性法曹の数は、その社会におけるジェンダーの平等と女性の地位の向上がどの程度進んでいるかを示す指標ともなります。最近では、いろいろな委員会や有識者会議などでは、女性が必ず一人は入って欲しい、中でも法的な専門家である女性法曹が参加して欲しいという要請が多くなってきています。

平塚 私は、所属弁護士会で犯罪被害者支援委員会に入っているのですが、女性の犯罪被害者は、女性の弁護士を希望されるケースが多く、「女性の弁護士で話しやすかった」と言っていただけることがよくあります。

鈴木 いろんな分野に女性が進出する中で、ライフスタイルの多様性もあり、女性からの法律相談が増えてきているのは実感としてあります。とはいえ、現実としてまだまだ女性法曹は使いにくいと思われている側面もあります。だからこそ、女性法曹がもっと多く増え、このような問題を打破していかなければならないと思っています。

女性であるがゆえに、仕事、受験などにおいて苦労した点、逆に良かった点は何ですか。

平塚 いま鈴木先生がおっしゃったとおり、仕事面において、訴訟の相手方との交渉で、男性弁護士の方が有利な交渉ができるのではないか、女性の弁護士では言い負かされるのではないかといった不安を持つ相談者もいらっしゃいました。しかし、その反面「女性の方が物腰が柔らかいので交渉ごとに向いている」と言って依頼してくださる方もいらっしゃいます。

鈴木 例えば私の場合、依頼者と接待ゴルフや飲みに行くとかは一切しませんので、仕事以外の交際などでも仕事を開拓している男性の弁護士の方々と比べると、不利な部分もあります。ただ、一度仕事をやりはじめると、「女性の方が話しやすい」「真剣に聞いてもらえる」という印象を持っていただけるケースが多いため、信頼を築ければ、むしろ女性の方がプラスになるように感じます。

 体力面でいうと、どうしても男性にかなわない部分がありますね。男性の場合は、夜遅くまで課題をやって授業に出ても結構平気だったりしますが、女性は体調を崩しやすい。私の場合、健康管理に気をつけながら計画的に勉強を進めるようにしました。

本間 女性の場合は体調の変化が影響したりするので、受験・仕事において体調維持に努めることが必要です。「やっぱり女性だから」と言われないように、体調が悪い時でも、最低ラインを守るために努力し続けることが大切です。

田村 弁護士の仕事は一種の自由業であるので、介護や出産・育児などワークライフバランスを自分でコントロールしやすい面もあります。私の場合、出産前に事務所を退職し、自宅を事務所登録して、出産・育児を理解していただける依頼者の仕事だけを続けていました。私の周りには多くの素敵な女性法曹がいて、多様な人生を楽しみながら、その経験を仕事にいかしている人も多くいます。女性の生き方は、パートナーの男性の生き方に深く影響を与えますし、ひいては社会での働き方やライフスタイルの問題になるように思います。

これからの女性法曹に期待されることは何でしょうか。

鈴木 私が受験を志した時には、本学出身の女性の合格者は一人もいませんでしたので、自分が女性として突破口を開きたいという大きな励みになりましたね。現在は、社会で女性が働き、活躍する場が広がっており、ゆえに新しいカタチの紛争も増えてきています。その紛争解決の手助けをし、豊かな社会を築くための支えとなるような女性法曹が増えて欲しいと思っています。

平塚 事実、裁判の現場でも女性が増えていますね。先日、裁判官、検察官、弁護士の合計7人中4人が女性というシーンがありました。案件においても、女性が家庭や職場で問題を抱えた時、女性ならではという点で生じる法律問題が多く、同性の弁護士に相談したいと思われるようです。

本間 そういう意味でも今後、弁護士もサービス業の色あいが強くなり、「気軽に相談できる」「偉そうでない」「親切でソフトな対応」「迅速な対応」が求められ、女性的な要素が強みになると思われます。カウンセリングをもう少し勉強して「カウンセラー」や「心理療養士」の資格も取るなどして、カウンセリング能力を強化するといったことも望まれるようになるでしょう。

そのためには、女性法曹自身が「自分も元気でいきいきしている」ことが重要で、「あの人に会いたい、あの人に会うと楽しい、あの人に会うと元気がでる、あの人のいうことなら素直に聞ける」というようになると、よい仕事ができるのではないかと思いますね。

最後に法曹をめざす方へのアドバイスをお願いします。

田村 家事との両立、介護問題、出産や育児などで仕事に没頭できないという悩みも出てくるかもしれません。しかし、だからこそ、依頼者の心情を汲み、サポートできるアイデアを提示できるのです。自分自身がさまざまな問題を抱え、悩む中で、人間的成長もあると思いますので、いろんなことに挑戦していただきたいと思いますね。大変な道のりではありますが、直接的に人を助けることができ、自分自身も自立した人生を歩んでいける仕事だと思います。

平塚 法曹は人と向きあう仕事だと思います。一人ひとりと向きあって、その紛争を解決していくことはとてもやりがいのある仕事です。今後、法曹の仕事内容は、もっと多様化していくと思いますし、さまざまな法律の分野で活躍したい、社会貢献がしたいという意欲のある人が求められていると思います。みなさん、強い意志を持って司法試験という大きな山を乗り越えてください。

 私はまだ、法曹の卵になったばかりで何も言えませんが、まだまだ男性が多い法曹の世界に女性がどんどん進出し活躍して、より明るくさわやかで、身近な法曹界にしていけたらと思っています。一緒にがんばりましよう。

鈴木 法曹で最後に問われるのは、自分自身の人間としての力、人間性、創大のステートメントにいう「自分力」が重要になってきます。法的な知識だけでなく、人間としてどれだけ相手を説得できるか、共感してもらえるか、人間の総合力が問われます。そのため、司法試験の受験時代には、勉強もさることながら、自分の限界を一つひとつ広げていき、人間的に大きくなってもらいたいと思います。

本間 一つの傾向として現在、発展途上国ヘの支援などは、女性の赴任者が多いです。男性の場合、既存の出世コースから外れると思うのか、女性の方がフットワークが軽く、海外で大いに活躍しています。その意味では語学力も身に付けておいた方がよいかもしれません。

また、私が期待するのは、リーダーシップがとれる女性法曹です。重厚長大型の社会では必要であった強権的なリーダーではなく、法曹界においても、みんなの意見を吸い上げるようなリーダーが求められています。みなさんが次世代の法曹界を築いていって欲しいと思います。
本間佳子の顔写真
本間佳子

中央大学法学部卒業
ジョージタウン大学ロースクール・LL.M課程卒業
弁護士、ニューヨーク州弁護士
本間佳子法律事務所
創価大学法科大学院教授
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鈴木美華

創価大学法学部卒業
インディアナ大学ブルーミントンロースクール・LL.M課程卒業
弁護士、ニューヨーク州弁護士
創価大学法科大学院教授
田村伸子の顔写真
田村伸子

創価大学法学部卒業
弁護士
創価大学法科大学院講師
平塚輝美の顔写真
平塚輝美

創価大学法学部卒業
法科大学院修了(2期・既修者コース)
横浜弁護士会所属
美しが丘法律事務所勤務
林啓子の顔写真
林啓子

創価大学法学部卒業
法科大学院修了(5期・未修者コース)
2011年度新司法試験合格