事業内容

⑴ 事業目的

大学・外部環境・社会情勢の現状と課題

 途上国の貧困は、国連SDGsにおける国際的な中心課題です。貧困の原因のうち、水環境汚染飢餓は人命に直接関わる喫緊の課題であり、現在、約7億人が水環境汚染、約8億人が飢餓に悩まされています。貧困には、その他にも経済基盤の脆弱性、教育機会の不均衡など様々な要因があるため、その撲滅には各要因への個別のアプローチだけではなく、多面的なアプローチによる総合的解決が求められています。
 本学は、文系・理系合わせて8学部・6研究科が八王子の1つのキャンパスにあり、多岐にわたる分野の研究・教育に取り組んでいます文系学部・研究科では、学生のアクティブラーニングに力を入れた研究・教育により、日経ストックリーグ(日本経済新聞社主催)やインナー大会(日経BP主催)などの多数の提案型ビジネスコンテストで成果を挙げています。特に、最優秀賞を受賞した途上国支援を目的としたビジネスプランは、既にケニアの現地NGOに採用されています。第6回アフリカ開発会議の「日本・アフリカ学生イノベーターズ・エクスポ」において、本学の学生が「GrandAward(最優秀賞)」を受賞しています。理系学部・研究科では、汚水処理・バイオマス生産・バイオインフォマティックスなどの分野を含む計4件の文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」ならびに環境省「環境研究総合推進費」に採択され、現在JST-JICAによる「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」で途上国における微細藻類の生産利用技術の研究開発を実施しています。また本学は、55カ国地域・185大学と学術交流協定を締結し(2017年現在)、日本有数の国際学術ネットワークを有しています。2014年度には文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」に採択され、全学を挙げて積極的にグローバル化を推進しています。さらに、「国連アカデミック・インパクト」「ソーシャルビジネスデザインコンテスト」の共催、「難民高等教育プログラム」などを通して長年にわたり国連の活動を支援してきました。これまでの個々の研究・教育成果を学部・研究科を超えて文理融合することで、国連SDGsが掲げる途上国における環境保全・飢餓解消に資する社会の構築に貢献します。

事業目的

 本事業では、本学の理系・文系の研究領域を融合することで、特色ある学際的研究分野として「プランクトン工学」を提案し、途上国における環境保全と飢餓解消に貢献する持続可能な循環型社会システムの構築を目的としています。「プランクトン工学」とは、クロレラやスピルリナなどに代表されるプランクトンの自然界における機能を利用し、環境改善、バイオマス生産、有価物の製品・商品化、ビジネスモデルの構築などを通して人間社会を豊かにする新たな総合工学分野です。本事業では、理系学部・研究科により、途上国に適した廃棄物・廃水からのエネルギー回収技術、栄養塩循環技術、現地産プランクトンによるバイオマス・有価物生産技術を研究開発します。文系学部・研究科により、バイオマスと有価物の高機能飼料・健康補助食品化などの製品・商品化、現地の若手技術者・起業家などへの環境教育・経済教育を実施します。本事業を通して本学学生に実践的教育を実施することで、「国際社会で活躍できる人材を輩出する大学」としてブランドを確立します。

大学の将来ビジョンとの整合性

本学では、「建学の精神(人間教育の最高学府たれ、新しき大文化建設の揺籃たれ、人類の平和を守るフォートレスたれ)にもとづき、学長により「創価大学グランドデザイン」が発表され、「創造的人間を育成し、社会に優れた人材を輩出すること」を将来ビジョンとして定めています。その中のディプロマ・ポリシーでは、知識基盤、実践的能力、国際性、創造性の4つの力を有する人材を「創造的人間」と定義しています。本事業の目的と本学の将来ビジョンは、工学・経営・経済・教育などの各分野の知識基盤をもとに、途上国で実践的な研究・教育を実施する点、海外交流大学や国連との連携により国際性を養う点で合致しています。新たな循環型社会システムを構築する過程では、柔軟な創造性が養われます。貧困に苦しむ途上国の発展のために、国際連携と総合大学の強みを生かした文理融合型の研究・教育を実施することは、本学の将来ビジョンの具現化されるべき方向性そのものです。

⑵ 期待される研究成果

研究テーマ概要、期待される成果、貢献・寄与する範囲、全学的な優先課題としての適切性

 <研究テーマ概要>
 本事業では、途上国における環境保全・飢餓解消に寄与する持続可能な循環型社会システム構築のため、理系学部・研究科により、①廃棄物・廃水からのエネルギー回収・栄養塩抽出技術②栄養塩を利用した現地産プランクトンのバイオマス・有価物生産技術を研究開発します。文系学部・研究科により、③バイオマスと有価物の製品・商品化に向けた国際的なバリューチェーンの提案④若手技術者・研究者・起業家への環境教育・経済教育を実施します。各テーマについて、情報収集・基礎研究を行うフェーズ1(1-3年目)と社会実装化に向けた研究・活動を行うフェーズ2(4-5年目)に分けて実施します。本事業を実施する途上国のモデルケースとしては、既に本学と密接な共同研究を行っている大学のあるエチオピアを想定しています。エチオピアは人口の約4分の1が栄養不足とされていますが、アフリカの途上国の中では治安が比較的安定しており、周辺の最貧国の食料生産基地として重要であると考えられています。また、アフリカ連合(AU)や国際連合アフリカ経済委員会(UNECA)などの国際機関の本部・地域事務所が多く置かれているアフリカ外交の中心地であり、本事業のモデルケースとしての適性は高いです。本事業では、サンベルト地域に位置する途上国が有する太陽エネルギーと生物資源を利用した循環型社会形成のロードマップを提案していきます。
<期待される研究成果、貢献・寄与する範囲>
(括弧内の番号は各研究テーマ)
環境・公衆衛生・現地住民の健康状態の改善これまで未処理のまま環境中に放出されていた廃棄物・廃水が処理されることで自然環境・公衆衛生が改善され、現地住民の健康増進に繋がります(①,②)。
飢餓・栄養不足改善:植物プランクトンは栄養価が高いため、高機能飼料や健康補助食品として商品化されれば貧困層の栄養改善に繋がります(②、③)。
本学学生・現地住民の育成本学学生による現地調査やビジネスプランの提案を通して、本学の目指す創造的人間の育成に貢献します(③)。質の高い実践的な教育の提供により、現地の研究者・技術者のキャパシティ・ディベロップメントが可能となります(①,②,④)。本学学生・教職員、現地住民、国連、NGOなどとの交流は、若手研究者のプラットホームの形成や国際的パートナーシップの構築に繋がります(①,②,③,④)。
産業基盤の形成有価物の国際的なバリューチェーンを構築することで、途上国における新たな産業の形成が見込まれ、現地アントレプレナーによるビジネスの展開により地域の雇用創出が期待されます(②,③,④)。
サンベルト地域に位置する途上国への水平展開太陽エネルギーと現地生物資源を活用する植物プランクトンバイオマス・有価物生産システムは、サンベルト地域の途上国に水平展開できます(①,②,③,④)。
<全学的な優先課題としての適切性>
 本学は、「国連アカデミック・インパクト」に参画しており、国連SDGsの達成に貢献することを最重要課題の一つとしています。そのため、途上国における環境保全と飢餓解消を目指している本事業は、本学の優先課題として適切です。文部科学省「第5期科学技術基本計画」においては、「未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組」を掲げ、「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」を重要な戦略としており、本学の課題は、文部科学省の進める方針とも合致します。

私立大学研究ブランディング事業タイプBの趣旨との関連性

 本事業は、新たに提案する「プランクトン工学」を用いて、途上国における適正技術の研究開発、有価物の探索・生産を行い、持続可能な循環型社会システムの構築、新たな産業基盤の形成、教育・人材育成を行うものです。これらは、タイプBの「科学的・技術的・社会的・経済的意義があり、国際的な経済・社会の発展、科学技術の進展に寄与する」という趣旨に合致しています。また、第6回アフリカ開発会議の「ナイロビ実施計画(外務省,2016)」では、「途上国と先進国の協働、フードバリューチェーン分析によるアフリカの栄養状態の向上、栄養価の高い食物供給の増加のためのビジネスモデルの開拓」を掲げています。本事業は、有価物の有効利用のための国際的なバリューチェーンの構築により、途上国の経済発展や貧困層の栄養改善に貢献していきます。本事業はこれらの日本・国際社会における重点政策の実現に直接・間接的に寄与します。

研究テーマの内容と実現可能性

研究テーマ①:途上国に適した廃棄物・廃水からのエネルギー回収・栄養塩抽出技術の研究開発
 メタン発酵は、微生物を用いた省エネルギー・創エネルギーの有機性廃棄物・廃水処理法であり、途上国における普及が期待される技術です。しかし現状途上国で普及可能な安価なメタン発酵槽は撹拌が不十分であり、分解効率が低く、効果的なバイオガス回収と栄養塩抽出は困難です。本学工学研究科では、バイオマス資源循環利用技術の研究開発(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業,2009-2013)などを通してメタン発酵技術の研究開発に取り組んできました。2014年からはエチオピア・ジンマ大学とメタン発酵技術の共同研究開発を実施し、現在は本学理工学部の国際共同研究事業(2016-)として現地で実証実験を行っています。また、光ファイバーの応用により様々な環境条件の同時測定を可能とするセンサーの研究開発(社会連携研究推進事業,2006-2010)にも取り組んできました。本事業では、これらの技術を統合し、槽内の物理化学環境をモニタリング可能なセンサーを用いて、安価な無動力撹拌型メタン発酵槽を設計・評価していきます。
研究テーマ②:現地産プランクトンによるバイオマス・有価物生産技術の研究開発
 植物プランクトンは二酸化炭素と太陽エネルギーを利用し、低コストでメタン発酵処理液中の栄養塩を回収できます。植物プランクトン由来のタンパク質は高機能飼料・餌料として利用でき、色素・抗酸化物質などの有価物は天然着色料、化粧品、健康補助食品などの原料になります。現在、生物多様性条約により、生物資源の輸出入が制限されているため、現地産の有用プランクトン種(クロレラ、スピルリナ、ヘマトコッカスなど)を探索し有価物生産技術を確立します。本学工学研究科では、マレーシアで現地植物プランクトンを大量培養する新規リアクターの開発と有価物生産手法の研究(JST-JICASATREPS,2016-2020)を実施しています。また、微生物の単離を容易にするマイクロ流体ディスクの開発(私立大学戦略的基盤形成研究支援事業,2010-2014)、多様なオミックス分野を統合しデータベース化する糖鎖科学研究(JSTライフサイエンスデータベース統合推進事業,2017-)にも取り組んでいます。本事業では、これらの技術を統合して現地産プランクトンの単離・大量培養・機能性物質の探索を行い栄養塩回収・大量培養・有価物生産技術の研究開発を実施します。
研究テーマ③:バイオマスと有価物の製品・商品化に向けた国際的なバリューチェーンの提案・構築
 植物プランクトンが生産した有価物を途上国における飢餓解消に有効に利用するために、有価物生産から、高機能飼料・健康補助食品化、流通、販売までのバリューチェーンをJETROや現地NGOと連携して構築します。本学の文系学部・研究科の授業では、PDCAサイクルを活用した実践的な調査・分析能力の向上を図っています。その結果、各種の提案型ビジネスコンテストで受賞し、一部のビジネスモデルは実際に途上国における現地NGOの活動に採用されています。本事業では、これらの経験を生かして文系学部・研究科が現地NGOと協力して現地のニーズに関する情報を収集し、途上国におけるモデル地域を選定します。選定地域においてデータサイエンス等の分析手法を用いて、国際的なバリューチェーンの構築やBOPビジネスの提案を行います。
研究テーマ④:現地の若手技術者・研究者・起業家への環境教育・経済教育
 途上国における本事業の自己完結型第6次産業への醸成のためには、教育による若手技術者・研究者・起業家の本事業への理解が求められます。本学では、協同教育研究推進プロジェクト(私立大学戦略的基盤形成研究支援事業,2013-2015)、アクティブ・ラーニング型授業デザインスキル養成プログラム開発事業(教員研修センター,2016-)などを通して、アクティブラーニングを導入した教育を研究しています。また、ザンビア栄養改善のための教材開発プロジェクト(アライアンス・フォーラム財団,2015)、カンボジア前期中等理科教育のための指導書開発プロジェクト(JICA,2000-)を通して、途上国の教育にも取り組んできました。本事業では、国連・NGOとの現地ワークショップの共催や本学への留学生の受け入れ・研修を実施し、現地住民の環境保全意識の向上・現地アントレプレナーの育成のための環境教育・経済教育を実施します。