青木 宏 准教授

物質の最小単位・素粒子の世界から 宇宙の成り立ちを考える

宇宙から地球に届く「宇宙線」を通して、 宇宙の姿を考えた

 私は長い間、宇宙から地上の私たちのもとへ降り注いでいる「宇宙線」の研究をしてきました。近年は主に「宇宙の膨張とは?」「宇宙の始まりとは?」など、物理学の理論に基づいた宇宙論の研究をしています。

 

宇宙線について説明する前に、ちょっと物理学の復習をしましょう。私たちのまわりの物質は原子でできていますが、さらに詳しく調べると、原子は原子核とその周りを回る電子からなっています。そして原子核はさらに、陽子と中性子と呼ばれる粒子からできています。この陽子と中性子の数は元素によって違います。陽子と中性子もまた、「クォーク」というさらに小さな粒子(素粒子)からできているのです。

「物質を構成する最小単位は何か」と探っていくと、「素粒子」の世界に行き着きます。これらを体系化したのが「標準模型」と呼ばれる素粒子物理学の基本的な枠組みです。現在の標準模型では、反粒子とカラーを除くと基本的な素粒子は17種類あるとされています。

 

さて、本題に戻りましょう。宇宙線とは、「宇宙から届く、高いエネルギーを持った粒子」のことで、原子から電子がはぎ取られ原子核だけ、あるいはもっと小さい素粒子になった状態です。そのほとんど(約90%)は陽子1個でできた水素原子核です。そのほか、陽子2個と中性子2個でできたヘリウム原子核や、リチウムや鉄の原子核もあります。これらを一次宇宙線といいます。

 地球に届いた宇宙線は大気中の原子核とぶつかり反応を起こし、いろいろな素粒子を作り出します。これを2次宇宙線と言います。

 

 私がこうした宇宙線の研究をするようになったのは、世界を作っているいちばん小さな単位=素粒子について知りたかったからなのです。この探求は実は高校生のころから始まりました。

 

高校時代は素粒子に興味を持ちつつ 化学クラブを創設して活動

私は理科が好きな子どもで、中学生くらいまでは医者になりたいと思っていました。でも、血を見るのがどうにもダメで、医学の道はあきらめました。

高校に入ってからは、「世界を作っている究極のものは何か」に興味が移り、素粒子が面白くなりました。「素粒子について知れば、世界の成り立ちがわかるのではないか。できれば自分の手で世界の最小単位を見つけたい」と夢見るようになりました。

 

そのころは、まわりにも同じ興味を持っている友人が多くいました。日本では、日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹先生、さらに朝永振一郎先生が原子核物理学を牽引し、素粒子物理学の研究の発展をもたらしました。私が高校に入ったのは、朝永振一郎先生がノーベル物理学賞を受賞(1965年)した感動がさめないころでしたから、物理学にあこがれて素粒子に関心を持つ高校生が多かったのかもしれません。

 

部活では化学クラブを設立し、小型ロケットを作って飛ばしたりしていました。ところが、実験中にロケットが窓から教職職員室に飛び込んでしまい大騒ぎに。先生にえらく叱られました。

火薬を使ってロケットを飛ばすのが禁止されたので、その後、水力ロケットを作りました。ペットボトルに栓をし、中で過酸化水素水と二酸化マンガンを反応させると、火薬よりもよく飛びました(笑)。

 

大学の進学については、理系に進むということは高校入学の時点から決めていました。理系といっても、理学系と工学系があります。将来は理論と実験の物理学の研究者になりたかったので、最終的に理学系に決めました。

ちょうど早稲田大学に、湯川秀樹先生の弟子にあたる藤本陽一先生という方がいらして、素粒子や核、宇宙線の研究をされていたので、そこを受験することにしました。

宇宙線を使った観測実験で 陽子中の素粒子について調べる

 大学では応用物理学科に進みました。そのころは宇宙には興味がなく、ただひたすら高校時代から好きだった素粒子について学びたかったのです。

素粒子の実験では、粒子を加速して衝突させる「加速器」という装置を使います。加速器は陽子などの粒子に高いネルギーを与えて加速しますから、大がかりでお金がかかります。1971年には大学等で加速器を共同利用する高エネルギー物理学研究所(現在の高エネルギー加速器研究機構)ができました。

 

一方で、当時は宇宙線を使って素粒子の正体に迫る実験も行われていました。当時、宇宙から来ている宇宙線は加速器よりもっと大きなエネルギーを持つことがわかっていたので、私は卒業研究で宇宙線を使った実験に関わることにしました。

 

具体的には、宇宙から飛んでくる宇宙線の中の陽子が空気中の原子の中の陽子とぶつかると、どのような反応が起こるかを、山の上の観測所で調べていました。空気中の原子の中の陽子とぶつかって砕けた陽子の中身がどうなっているかを調べるというものでした。

 

今でこそ、「陽子が崩壊すると、素粒子のグループの一つであるクォークを多数生み出し結合して新たな素粒子になる」とわかっています。しかし、当時はまだクォークの存在が確認されておらず、私の指導教員だった藤本先生と長谷川先生は、「Hクォンタム」という名前をつけた中間状態を考えていました。私にとってはなつかしい名前です。

 

その後は大学院に進学し、宇宙線の研究を続けました。卒業研究のところで触れたように、宇宙線として地上に届いた陽子が大気中の原子核の中にある陽子を大気中で砕くと、陽子の内部がどのような構造になっているかを調べることができます。私はそれを使って、2009年ころまで素粒子間に働く「強い力」(強い力については、後で解説します)を解明する研究を続けてきました。

 

物理学の理論によって 宇宙の全体像解明に挑む!

 私は宇宙線の研究を進めるうちに「これほどの高いエネルギーを持つ宇宙線は、宇宙のどこからやってくるのだろう?」と考えるようになりました。宇宙線をきっかけに、宇宙全体にも興味がわき始めたのです。

ちなみに、当時はまだわかっていなかったのですが、近年では宇宙線は超新星爆発(一定以上の質量を持った恒星が、一生の最後に起こす大爆発)によって生じると考えられています。

 

面白いことに、原子より小さい世界に存在する粒子は、原子より大きい世界(私たちの目に見えているような世界)の物質とは、ふるまいかたが異なります。

素粒子は、「粒子」と「波」の二つの性質をあわせ持つ「量子」として定義されます。量子の世界で起こっていることを説明するのが「量子力学」です。

また、宇宙がどのような時空構造を持っているのかを説明する基礎となるのが、アインシュタインが提唱した「一般相対性理論」です。

この「量子力学」と「一般相対性理論」は、ともに現代物理学の基礎となっています。

 

そこで私は今、これまでに明らかになった素粒子研究の結果をもとに、量子力学の基礎的な問題や、4つの力を統合させる問題に取り組んでいます。

宇宙には、「重力」、「電磁気力」、「強い力」、「弱い力」の4つの力が働いています。クオークはそのうちの「強い力」で結びついて陽子や中性子や中間子をつくっています。

 

クォークを結びつける「強い力」。中性子を陽子と電子に分け、さらにはニュートリノという素粒子を放出させる「弱い力」。そして「電磁気力」、「重力」という全く性質の違う4つの力がどのような関係にあるのかを説明しようとする理論のうち、前の3つの力を統一したものを「大統一理論」と言い、それに重力を加えたものを「超大統一理論」などと言います。現在の「標準模型」は、「大統一理論」の一歩手前のものと言えます。

これらの理論を完成させることは非常に難しく、世界の多くの物理学者がこの理論に挑んでいますが、まだ答えが出ません。素粒子物理学の究極の目的とも言われています。

こうした理論に取り組みながら、宇宙の姿に思いを馳せることは魅力的です。宇宙線のような実験ではなく、宇宙全般についての理論的な研究になるため、私の研究室では、数式の理解は必須条件となります。

もし、素粒子論や宇宙物理学に興味がある、という方は、ぜひ数学の力も鍛えて、この世界に飛び込んできてほしいと思います。

先生にとって研究とは?漢字一文字で表すと?

「真」

特に私の行っている理論物理学の研究においては、その目的は「真理の探究」にあります。そこで「真理」から一文字をとって「真」としました。

青木宏 准教授

 

早稲田大学 (理工学部) 1975 年 卒業

理学修士 早稲田大学 1977 年

早稲田大学 博士課程 (理工学研究科) 1982 年 単位取得満期退学

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