池口 雅道 教授

最先端の技術を駆使して タンパク質の形の美しさの謎に迫る!

人体を構成する10万種類のタンパク質。 それを構成するのはたった20種類のアミノ酸!

 私たちの研究室で扱っているのは、タンパク質です。タンパク質は、アミノ酸がひも状に連なった物質からできています。実際には、ひも状の物質が折りたたまれて複雑な立体構造をとり、構造に応じたさまざまな機能を果たしています。
 人体を構成するタンパク質だけでもおよそ10万種あるといわれていますが、タンパク質を構成するアミノ酸はわずか20種類しかありません。その20種類のうちどのアミノ酸がどのような順番でつながるかにより、タンパク質の形は自動的に決まります。しかし、なぜそのような形になるのか、その全容は解明されていません。また、構造そのものがわかっていないタンパク質も存在します。タンパク質は非常に小さいため、顕微鏡で直接観察できないので、謎が深いのです。
 研究室では、タンパク質の構造がどのように形成されるのか、アミノ酸配列とタンパク質の立体構造にはどのような関係があるのか、といったことを、遺伝子組み換え技術や、NMR(核磁気共鳴)法、X線などを用いた最先端の手法で研究し、さまざまな機能をもつタンパク質を人工的に設計しようとしています。

有用なタンパク質に新たな機能を持たせる

 研究の例を挙げてみましょう。例えばフェリチンという、私たちの肝臓の中で鉄をたくわえているタンパク質があります。フェリチンは中が空洞のボールのような形をしていて、その球状の殻の中に3価の鉄があります。3価の鉄は水に溶けませんが、タンパク質自身が溶けるので、鉄はフェリチンとともに血管の中を流れ、各細胞に取り込まれます。細胞に取り込まれるとフェリチンは分解され、中の鉄が使われます。
 このフェリチンの中に鉄以外のものを入れることができれば、新たな薬や素材の開発につながる可能性があります。しかし、そのためにはフェリチンの殻を利用しやすい形にする必要があるため、フェリチンの殻ができる過程を調べたり、アミノ酸を他のアミノ酸に置き換えたりするような研究をしています。

タンパク質がその機能を果たすには 形が重要!

新たなタンパク質を人工的につくるときには、実際にアミノ酸を並べてくっつけたりしているわけではなく、DNAを操作します。目標の機能をもつタンパク質の構造はどのようなものか、その構造をとるタンパク質はどのようなアミノ酸配列なのかを考え、必要なアミノ酸を作らせるためのDNAの塩基配列を考えるのです。こうして操作したDNAを大腸菌に組み込みます。そうするとタンパク質が自動的にできあがるのです。
 タンパク質がその機能を果たすには、形が重要ですが、思い通りの形のタンパク質をつくるのは非常に難しく、また、つくったタンパク質に新しい機能を持たせることは、さらに難しいことです。大きな謎に挑戦できる、やりがいのある研究です。
 タンパク質の形は本当に複雑で美しいものです。これをつくりあげた生物の進化は素晴らしいものだ、と感じています。

「形」ができる仕組みに興味を持ち、 学部を決めずに入学できる北海道大学へ

現在はタンパク質の形と機能の研究をしているわけですが、今にして思うと、子どものころから「形」に興味がありました。
 高校生のときには地学で大陸移動説の話を聞きました。南アメリカ大陸とアフリカ大陸の海岸線の形に注目するところから始まり、それを証明するためにどのようなことをしたのか、というような話がすごく面白いと思ったのを覚えています。また、有機化学で扱うベンゼン環などの化合物の形にもひかれましたし、いろんな面で「形」が好きだったという気がします。昆虫の擬態も面白いな、と思っていました。進化の考え方では「たまたま擬態できたものが、たまたま生き残った」ということになるのでしょうが、そうなろうと意図して擬態しているようにしか思えないですよね。
 そんなふうに「形」を入り口として、いろいろなことに興味があったので、大学を受験するとき、学部を絞りきれませんでした。そこで、学部を決めずに受験し、入学後に学部を選択できる北海道大学の理系に入学しました。

タンパク質の形の美しさ、不思議さに出会う

 1、2年生の間は、数学や物理化学などの基礎的な科目を勉強し、その傍ら、いろいろな学部の先生を訪ねては、研究内容をうかがいました。結局、いろいろな先生のお話しをうかがった中で、生体高分子学研究室が面白そうだったので、4年次の研究室はそこに決めました。
 当時はDNAとかタンパク質などの形がわかり始めた時期でもありました。タンパク質そののもの形の美しさはもちろん、絶妙な形が自動的にできるその不思議さにひかれましたし、人工的につくれればいいな、と思いました。
 4年の卒業研究で取り組んだのは形ができる仕組みの研究ではなかったのですが、実験をするときに何を考えてどんな実験をするのか、どうすれば謎が解けるのか、というようなことを考える醍醐味を味わいました。当時は就職活動の解禁が4年生の10月だった時代なので、就職のことは4年生になってから考え始めたのですが、まだまだ勉強していないこと、知らないことがたくさんあるという気持ちがとても強くなり、大学院へ進学することにしました。

大学院で、念願の「形ができる仕組みの研究」に着手

大学院では、実際に形ができる仕組みの研究をしました。最終的な形ができる前には、必ずその中間体があるはずなので、その中間体を確認しようという実験です。目に見えない世界ですから、円二色性分散計(CD)という装置を使い、スペクトルの変化を追跡することでどういう形ができたかを調べるような実験でした。
 変化を見ていくと、途中で反応が止まったような状態になることがあります。その状態が見えたらそのときの形を推測します。形ができる過程で、速い反応と遅い反応があります。形ができあがるまでにかかる時間は100秒ぐらいですが、1秒ぐらいでできる構造があり、そこで反応が止まったような状態になります。そのときのスペクトルを見ると、1秒以内にできた部分の形だけがわかるということになりますね。
 そういう研究をしていくと、タンパク質の種類によらず、構造の中でも、らせんの部分は速くできるとか、らせんになりやすい配列はどういうものかとか、ということがわかります。そうすると、アミノ酸をどんな配列にするとどんなタンパク質になるのかということを推測することができます。

不必要なものはない。 何でも意欲的に勉強を

 現在私がしている研究も、この時の研究の延長上にあります。はじめにタンパク質の研究に取り組んだのは、形の美しさにひかれたのがきっかけでしたが、謎が深すぎて、謎解きに挑戦し続けている感じがします。自分が立てた仮説通りの実験結果が出たときや、謎が解けた瞬間は本当に嬉しいですね。
 私たちの研究室では、物理も化学も必要ですし、生物のことも調べたりしますから、学生にはいつも、何でも勉強しておいた方がいいよ、という話をします。最近の学生は、できるだけ勉強する分野を絞って効率よく良い成績をとろうとしますが、不必要なものはないという気がするのです。何でも勉強しておくと、将来的には必ず役に立ちます。

楽しんで勉強し、知ることの楽しみを感じてほしい

また、間接的に物の形を知るということは時間のかかることなので、根気は必要です。学生にはよく、伊能忠敬は日本地図をつくるために日本全国を歩いたんだ、という話をしますが、そのような気の長さは必要ですね。
 研究もそうですが、学生には楽しんで勉強してほしいと思っています。最近はとにかく成績を気にする学生が多く、「この実験結果で正しいですか」「レポートはどう書けばいいですか」といった、成績を良くしようという問いかけが多いのです。確かに良い成績を収めることで得られるメリットはいろいろあるのでしょうが、それは楽しんで勉強した結果であるべきで、もっと知ることの楽しみを感じてほしいと思っています。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「謎」

私にとって研究の発端は「謎」であり、謎が解きたくて研究者をしています。もちろん、何かの役に立ちたいと、成果を応用する目的で研究をしている研究者もおり、それも立派なことです。ただ私の場合は目的志向ではないので、まず「あれっ?」と思ったことが研究のスタートであり、原動力となっています。

▼プロフィール
共生創造理工学科 池口 雅道 教授
1988年 北海道大学大学院博士課程修了、理学博士
1987年 日本学術振興会特別研究員
1989年 創価大学講師
1995年 創価大学助教授
2000年 Universitaet Bayreuth (Germany) 客員教授
2002年 創価大学教授

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