近藤 和典 准教授

体長1㎜のセンチュウ(線虫)に秘められた 謎の解明に挑む!

細胞内で物質を運搬するモータータンパク質

私の研究室では、線虫という小さな生き物を材料に、主に3つの研究をしています。
 一つめは、線虫の光に対する反応の研究です。浴びすぎると皮膚がんなどの原因となることで知られている紫外線ですが、線虫にとっても有害で、紫外線や短波長の光が当たると線虫は逃げることがわかっています。そして、線虫のどんな遺伝子やタンパク質が紫外線を感じているかなども調べられています。しかし、紫外線以外の光に対してはどのように反応するか、まだよくわかっていません。そこで私の研究室では、こうした紫外線以外の光に対して、線虫がどのような反応を示すのかを実験しています。
 普通の蛍光灯や白熱灯で強い光を当てると、温度が上がりすぎて線虫は死んでしまいます。温度が上がらないまま強い光の出せるLEDが登場したおかげで、このような実験が安価にできるようになりました。ですから線虫の研究の歴史の中では比較的最近、できるようになった研究です。
二つ目は、キネシンというモータータンパク質の研究です。キネシンはバクテリア以外の、真核生物に広く存在するタンパク質で、細胞の中で微小管の上を動き、ある場所からある場所へ物質を運ぶ役割をしています。微小管がレールで、その上を動いて荷物を運搬しているようなイメージですね。キネシンの種類によって運ぶものは違います。
 線虫のキネシンは20種類ほどですが、ヒトだと何十種類もあり、物質を運ぶもののほか、レールを壊すものなど、いろいろな役割を担うキネシンがあります。研究室ではクローニングしたキネシンを、生化学的・遺伝学的な手法を用いて、例えばレールの上を動くスピードなど基本的な性質を測定して、これまでに研究されているキネシンと比較するなどの解析を進めています。また、RNAiを用いて、キネシンが線虫の中でどのようなはたらきをしているのかの解明も試みています。

DNA、タンパク質と並んで生命に重要な糖鎖

 もう一つは、線虫を用いた糖鎖の研究です。糖鎖というのはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなどの単糖類が連なったものです。糖鎖をつくる単糖は人では10種類ぐらいあり、鎖のように直線状に連なるだけでなく、枝分かれしたり、樹状の複雑な構造をとったりもします。
 糖鎖は主に細胞の表面にあって、細胞の性質を決めたり、物質を介した細胞間のシグナルのやりとりや、病原体の感染にかかわったりするなど、さまざまな機能を果たしています。糖鎖の働きのわかりやすい例は、人のABO式血液型でしょう。血液型は、赤血球の表面についている糖鎖の構造のちがいで決まっています。
 糖鎖は細胞の中に存在する多くのタンパク質にもついていて、糖鎖があるのとないのとではタンパク質の働きが変わる場合もあります。糖鎖は生体内で非常に重要な働きをしていて、糖鎖がなければ生体は成り立ちません。DNAやタンパク質と並ぶ、生物の基本的な構成要素なのです。
 私が研究しているのは、糖鎖にフコースという糖をつける、フコース転移酵素という酵素の遺伝子です。転移酵素は、グルコース転移酵素、ガラクトース転移酵素など糖ごとにあり、各糖の転移酵素ごとにも種類があります。先にお話ししたように、糖鎖は枝分かれし、枝分かれごとに違う酵素が働いたりもするので非常に複雑です。また、タンパク質だと生物の種によらずかなり共通していますが、糖鎖の場合は生物によってかなりバリエーションがありますので、そのあたりが研究の難しいところです。

湯川博士のような科学者にあこがれるも、分子生物学の道へ

いつごろから、ということはないのですが、私は小学生の頃から科学者を目指していました。大学に進学するときは、地元の国立大学には理学部がなかったので、工学部に進学しようと思っていました。しかし、高校の先生に「学者を目指す方がいい」と言われたこともあり、京都大学の理学部に進学しました。
 当時はノーベル賞を受賞した日本人の科学者は湯川秀樹博士を含め3人とも物理学者でしたので、科学者といえば物理学、というイメージがあり、最初は物理学、特に素粒子論を志望していました。でも、大学で素粒子論の講義に出てみると、最初から最後まで先生が黒板に数式を書き続けていて、これは自分には合わないと思い、当時は最新の研究分野であった分子生物学に転じました。
 大学、大学院を通じて研究していたのは、トランスファーRNA(tRNA)の中のアンバーサプレッサーtRNAの研究です。高校の生物で習うように、細胞内でタンパク質がつくられるとき、3つずつアミノ酸の読み枠が指定されますが、そのときにタンパク質の合成を停止させる終止コドンとよばれる塩基配列の一つがアンバーコドン(UAG)で、tRNAのアンチコドン部の突然変異によって、そこにアミノ酸を挿入できるようになったものが、アンバーサプレッサーです。
 博士課程を修了した後はワシントン大学で、4年間、博士研究員として働いていました。そこで出会ったのが線虫です。以来、線虫の研究を進めています。日本に戻ってからは東京大学で博士研究員をしていましたが、その研究室の先生も線虫を材料に研究をされていました。
 線虫はごくごく小さな生き物ですが、謎が尽きることはありません。非常に飼いやすく、卵が孵化して卵を産めるようになるまでの世代時間は3日半で、寿命は2週間程度です。ゾウなどだと子孫が生まれるのを待っている間に研究者の方が死んでしまうということになりますが(笑)、線虫はそのようなサイクルですので、遺伝学の研究がしやすい生物です。

尽きない謎を追い求めるのが科学の魅力

 科学の魅力は、謎があり、それを突き止める面白さのあるところです。そして、一つの謎を突き止めたら終わりではなく、ずっと追い求める謎があり、完成ということがありません。また、例えば『源氏物語』の味わいなどを他国の人と共有するのは難しいかもしれませんが、科学は全世界共通の原子や遺伝子という言葉を使って、どこの国の人とも同じように研究の話ができるのも、科学のいいところだと思います。
 理科や科学が好きで、理系に進もうと思っている人は、分野を問わず幅広く理数系の勉強をしてほしいですね。生物に行きたいから生物だけ、ではなく。生物も物理や化学の法則で動いていますし、各分野が密接にかかわっていますから。
 これから進路を決める人には、自分が本当に好きな分野に進んでほしいと思います。親に言われて何となくとか、大学くらい出た方がいいから、ということで進路を決めようとしている人は、立ち止まって好きな道は何なのか考えてほしいですね。その上で、科学が好きだと思えるなら理工学部に進学してきてもらえればと思います。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「蟲」

「蟲」の字は、もとは、「人間を含めたすべての生物、生きとし生けるものを示す文字・概念」であるといいます。1個の細胞から誕生した生命の40億年の歴史のうち20億年ぐらいはみんなバクテリア。その後、ミトコンドリアを細胞内に取り込んでからも十何億年間経過して、今では多様な生物がいますが、人と大腸菌にも対応する遺伝子はたくさんあり、分子生物学的にはそんなに違いはないのです。そういうことを考えながら「蟲」を選びました。

▼プロフィール
共生創造理工学科 近藤 和典 准教授
1980 年 京都大学 (理学部) 卒業
1985 年 京都大学 博士 (理学研究科) 修了
1985 年 理学博士 京都大学

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