丸田 晋策 教授

体の中の小さな機械を利用して医療用ナノマシンを作る

生体分子機械ってどんなもの?

 私は身体の中で働いているさまざまな「生体分子機械(生体ナノマシン)」の研究をしています。聞きなれない言葉だと思いますので、まずそれについて説明しましょう。

 

たとえば、私たちが筋肉を収縮させる時には、筋肉にあるミオシンというタンパク質で作られた機械が働きます。またキネシンというタンパク質の機械は、細胞内の物質運搬に関わり、脳で情報伝達物質を運んだりしています。いずれも食物を分解してできるATP(アデノシン三リン酸)という物質の化学エネルギーを機械的な仕組みで運動エネルギーに変換して動いています。

 

このような機械的な働きをする生体分子を、分子で組み立てられた極小の機械・ナノマシンとみなすのです。これらの運動する分子機械は「分子モーター」と呼ぶこともあります。

これまでの研究から、私たちの体の中には、このようにATPで動く生体分子機械がたくさんあり、そのおかげで生命活動が維持されていることがわかっています。そのため体の中では沢山のATPが生産されては、直ぐに分子機械で利用されています。私たちが朝起きて寝るまでの間には、ほぼ体重と同じ重さの量のATPが消費されます。

 

 私の研究のねらいは、生体分子機械の仕組みを分子レベルで解明し、その仕組みに人工的な制御ナノデバイスを組み込んで自在にコントロールできるナノマシンを開発することです。そして病気の治療やドラッグデリバリーに応用できればいいなと考えています。

国語配点の低さを狙って 大学受験を突破

 私は理科が大好きな“サイエンス小僧”で、高校時代は地学部に所属し、天体写真を撮っていました。また海外に行くことにも興味があったので英会話を勉強していました。

 実家は鹿児島で醤油の醸造をしており、分析室にあるビーカーなど、化学実験の器具を小さい時から見ていたので、化学には特に興味がありました。それで大学では、化学を専攻しようと思っていました。

 大学受験に際しては、理系の科目は得意だったのですが、国語がとても苦手だったので、担任の先生が国語の先生に頼んで特別プログラムを組んでもらっていました。幾つかの大学の候補を比較して、最終的に入試の国語の配点がわりと少ない長崎大学工学部を受験し、無事合格することができました。

研究テーマに導かれ 領域横断的に博士課程まで進む

 大学は工業化学科に進学し、4年次には有機合成化学の研究室に入りました。

卒業研究のテーマは「薬物運搬体の開発」でした。今でいう「ドラッグデリバリー」の研究です。卵黄から抽出したリン脂質から作った人工細胞膜のカプセルに薬剤を入れ、その表面に多糖類をコーティングすると、多糖の種類によって薬剤がどの臓器に届くかが変わります。研究室では、この研究を製薬会社と共同で行っていたのです。化学と生物の融合を感じました。

 

 ちょうど私が卒業研究生になったころ、遺伝子工学の技術が世界的に広まり、研究室の先輩が共同研究のために同じ大学の薬学部の研究室に毎日楽しそうに通っていました。

 私も始まったばかりの遺伝子工学や生化学などの生命科学の分野に魅力を感じ、修士課程は薬学部の大学院に進みました。これからの研究は、複合領域になっており、有機化学、生化学、遺伝子工学がうまく噛み合ってこそ進むはずだと思ったのです。

 

 修士課程では、タンパク質を分解する酵素「酸性プロテアーゼ」の機能(働き)と構造を決定する研究をしました。その構造を決定するために、タンパク質の一次構造解析を専門としている医学部の生化学教室に出向いて共同研究として実験を行いました。その研究室では筋肉を構成するタンパク質の一つであるミオシンの研究をしていて、ここで現在研究を行っている生体分子機械に出合いました。

 

そして筋肉の収縮の仕組みを解明する研究を行うために、医学部の博士課程に進みました。当時は、ATPがミオシンのどこに結合してADPとリン酸に分解され、どうやってアクチンというタンパク質のレールの上を滑って筋肉を収縮させるのか、分子レベルでのメカニズムは全くわかっていませんでした。そこで指導教員とともに、まずはATPがミオシンのどこに結合するのかを研究することにしました。

常識に反する実験結果が 別の研究で裏付けられた

 ちなみに、タンパク質はアミノ酸がつながってできた一本のひも(一次構造)が、さらに複雑に折りたたまれて立体構造を作っています。当時はミオシンのタンパク質の立体構造がわかっていませんでした。そこで私たちは、特殊な反応するATPを合成してミオシンのATPが結合する部分に結合させることを行いました。そしてミオシンのタンパク質を一本のひも状に伸ばして酵素で切断し、ATPが決行している断片を決定して、一次構造上どこにATPが結合するかを明らかにしようとしていたのです。

 

私は過去に経験した有機合成の手法を用いて、ATPの基本的な構造や性質は変えないまま、ミオシンに結合している状態で光をあてると離れなくなる「ATP類似物(ATP誘導体)」を合成しました。さらにそのATP類似物がどこにくっついているかがわかりやすいように蛍光色素でマークをつけました。

一方、ミオシンのタンパク質を伸ばして一本のひもにした時、アミノ酸がどういう順序で並んでいるのかを解析すること(タンパク質一次構造の決定)は、もともとその研究室が得意とするところでした。そうやって、合成したATP類似物が、ミオシンの一次構造に並んでいるどの部分のアミノ酸に結合しているのかを探っていったのです。

 

驚くべきことに私たちの実験では、それまでの他の研究者の報告から「ここにはATPは結合しないだろう」と考えていた部分に結合しました。ですから最初にその結果を論文にした時には、誰も信じてくれませんでした。

 

そのあと、アメリカの研究者がミオシンの立体構造を決定して論文を発表しました。その論文に示された立体構造が、私たちの研究結果をみごとに裏付けていたのです。誰も信じてくれなかった実験結果が、他の研究からも間違いないと証明された瞬間でした。自分の実験データを信じて良かったです。

アメリカでポスドクを経験し 研究者としての土台を築く

 博士課程の後にアメリカに渡り、オハイオ州クリーブランドにあるケースウエスタンリザーブ大学でポスドクをしました。その3年間に新しい手法や考え方、技術を身につけることができました。研究者としての基礎ができた良いチャンスをいただいたと思います。そして、カナダやアメリカの研究者と多くの共同研究を行うことができました。

 

いちばん学んだのは、「研究者として生き残るには、いかに自分のオリジナルのアイディアで勝負できるかが重要だ」ということです。

 そのあと、創価大学に招聘されて帰国。その後もカナダやアメリカの研究者と引き続き共同研究を続けることができました。

ゼミでは生化学を生かし、 地域活性化に役立つ研究も進める

 私の研究室は、目指しているゴールが遠大すぎて、学部生が卒業研究のモチベーションを保ちにくいのが問題でした。

そこで、まずは研究の面白さを味わってもらおうと、3年生のゼミでは卒業研究と関係なく学生が自由にテーマを考えて調査・研究することにしています。

 

たとえば創価大学がある八王子市が、学生のアイデアを市政に生かそうと実施している「大学コンソーシアム八王子学生企画事業」に参加しています。ここで、平成28年から地域活性化のために八王子の米である高月清流米を使った加工食品の開発に取り組みました。

 

まず地元の製パン企業の協力を得て、30%米粉を使ったパンを開発し展示販売したところ、小麦アレルギーのお子さんを持つ親御さんからグルテンフリーのパンの要望が多く寄せられました。そこでグルテンの代わりにさまざまな添加食品を用いて研究室のホームベーカリーで試作し、食感と膨らみの良いパンを開発しました。

 

また、 高月清流米から吟醸酒も作られています。吟醸酒を作るときには酒米を50%削ります。削った米粉を生化学的に加工して利用できないかと思い、企業の方々と一緒にチョコブラウニーなどのスイーツを開発しました。女性をターゲットに、同じ高月清流米から作った日本酒に合うスイーツ開発を目指しています。

人に言われてやるのではなく 自分だからこそできる発想を

   私自身が異端児的な生き方をしてきたこともあって、研究室にはユニークな学生に入ってきてほしいと思っています。オリジナルのアイデアを考えられる人が研究の道には向いています。就職するにしても、企業側が求めているのは自分のアイデアが提案できる人でしょう。

 

研究の世界では、失敗したと思ったことがまったく新しい現象のヒントになることがよくあります。ノーベル賞を受賞した研究者の中にもそういう例が見られます。いつもと違った変なことが起こっていたら、すかさず調べてみる姿勢も大切です。

光で人為的に制御できる 医療用ナノマシンを作りたい

 研究室のメインテーマは、生体内の機能分子を分子機械として捉え、その巧妙な仕組みに人工的なナノデバイスを組み込んで自在にコントロールできるナノマシンを開発することです。最近、一部の生体分子機械ではATPを加水分解して動いている、という分子メカニズムが詳しく分かってきました。我々が想像する以上に巧妙な機械的仕組を持っています。そこで、具体的なアイデアとしてATPのかわりに光で動く分子を組み込んで、光エネルギーで働く外科手術用のナノマシンができないだろうかと考えています。最終的には光ファイバーなども使い、患部でナノレベルの手術ができるようにしたいです。

 

また細胞分裂の際にDNAをコピーしたり、遺伝情報からタンパク質を作る遺伝子を発現させたりするためには、普段は染色体という形に折りたたまれているDNAを、1本にほどいて塩基配列を読めるようにする必要があります。このとき働く酵素も、同じくATPでDNA上を動いている生体分子機械です。

ですから光に応答するナノデバイスを組み込めば、遺伝子発現を光でコントロールすることも可能になるはずです。この研究テーマに興味を持つ大学院生が研究室で熱心に実験を行っています。また海外からもこの研究に興味のある留学生が来てくれています。最近では日本人よりも外国人の大学院生が多くなりました。研究室では、海外の先端研究を行っている大学と連携して教育、研究を行っています。また大学院生は国際的な学術学会などにも積極的に参加していて、とてもインターナショナルな環境です。

このような環境で学生が活発に研究することで、研究は進展すると期待しています。我々が試みている生体分子機械を人工的に制御する研究は、これからの医療を大きく変えていくと信じています。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「光」

今まさに光を使って「光応答ナノデバイス」の研究をやっているということがこの漢字を選んだ理由の一つです。さらに、研究全般を進めることで、社会がいっそう豊かで明るい方向に進むことを願って、光という文字を選びました

(プロフィール)

丸田 晋策 教授

1959年 鹿児島県生まれ
1982年 長崎大学工学部工業化学科卒業
1984年 長崎大学大学院修士課程修了
     (薬学修士)
1988年 長崎大学大学院博士課程修了
     (医学博士)
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1988
年 米国ケースウェスタンリザーブ大学 医学校
     生理学・生物物理学教室 博士研究員
1991年 創価大学工学部助手
1995年 創価大学工学部講師
1999年 創価大学工学部助教授
2005年 創価大学工学部教授

2015年 創価大学理工学部教授

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