松山 達 教授

制御技術は高度化。でもメカニズムは不明?! 静電気の謎を、粉体とともに解き明かす。

身近な存在なのに知られていない 「粉」と「静電気」を科学する

ぼくは粉体と静電気の両方の専門家です。粉体とは要するに「粉」のことです。なぜこのような研究をするようになったのかというと、大学で化学工場の設計をする「化学工学」という分野に進んだのがきっかけです。
化学工場では原料を文字通り「煮たり」「焼いたり」して加工し、最終的な製品を作ります。原料は液体・気体・固体のどれかです。固体の場合には、原料はもちろん、製品になる前に工場の中でできる「工業中間体」と呼ばれるものも、ほとんどが粉状です。
たとえばプラスチックは工場の中では粉状です。それを溶かして成形したものが製品となって出荷されます。金属も山から掘り出された砂利(これも大きめの粉です)状の鉱石を製錬して作ります。薬の錠剤も粉状の薬剤を固めています。メイク用のパウダーや小麦粉などは、製品そのものが粉状をしていますね。
途中が粉状のもの、あるいは最終的に粉として流通しているものは世の中の工業製品の8割くらいを占めているといわれています。
ですから、工場内で粉をどのように扱えばスムーズに製品を作れるのか、あるいは消費者に喜ばれる製品になるのかを考えるためには、粉体の性質をよく知らなければなりません。
もう一つの静電気ですが、実は静電気については未だにほとんど科学的な解明がされていません。
みなさんも小学生のときに、下敷きで髪の毛をこする実験をしたのではないでしょうか。髪の毛が下敷きにくっつくのは、静電気が起きたためです。ところが静電気が生じるときに、実際にこすった表面でどういう現象が起きているのかは、まだわかっていないのです。
粉を扱うときにも静電気が起きます。粉体自体についてもまだまだわかっていないことは多いのですが、静電気によって粉の「ふるまい」は変わってきます。そして、どのくらいの量の静電気が起きるのかは、粉の材質や粒の大きさ、部屋の温度や湿度などの条件によって違います。
ぼくの研究室では、このように謎の多い現象について、一つひとつ実験を積み上げて解き明かしていこうとしています。

親が手を焼く「ちびっこ分解魔」が 成長して研究者になった

子どものころから一貫して機械が好きでした。大学の研究室でもいろいろな機械や計器を扱っていますし、実験のために自作もしています。
 機械好きにはありがちですが、家じゅうのものを手当たり次第に分解してしまい、しかも元どおりには直せない子どもでした。ですから未だに、実家の家電の調子が悪くなったときにぼくが修理しようと申し出ても、母は絶対手を出させてくれません(笑)。
高校時代は「数学が好き、英語が苦手」という、もろに理系タイプの生徒でした。好きな数学ばかり勉強していましたね。部活は電気全般を扱う「ラジオ部」に所属。パソコンが登場するちょっと前でコンピュータには金銭的に手が届きませんでしたから、アマチュア無線やオーディオを主にやっていました。でも物理は苦手で、なるべく避けていたのですが、3年生の時に「もうすぐ大学受験なのに、このままではいけない!」と思い、そこから真面目に勉強して克服しました。
進学するのは家から通える東京の大学がいいなと思いましたが、特に学びたい分野があったわけではありません。そのため、最初から専門に分かれるのではなく、2年間は教養学部で学ぶことができる、東京大学の理科I類(主に理学部や工学部に進学予定)に進みました。
 大学3年で学科を決め、工学部の化学工学科で学ぶことになりました。ここでようやく「粉体」に出会います。液体・気体・固体のどれを専門にしようかと考えたときに、まだまだわかっていないことも多くて面白そうに見えたので、粉体工学というジャンルを選んだのです。
この分野でたまたま出会った先生が、粉体の静電気を研究していたのです。先生から「君もやらないか?」と誘われて、恩師となったその先生の研究室に入りました。
卒業研究は通常、指導教官に与えられたテーマを研究します。一つのテーマを追究していく過程はとても楽しいものでした。さらにそこから派生して自分の興味が周辺へと広がると、さらに研究が楽しくなりました。ぼくの場合はそのまま大学院に進学して、研究を続け、現在のように研究者の道を歩むこととなりました。 

こんなところにも使われている! 粉と静電気の制御技術

ぼくは粉体工学の中でも、静電気の研究と、粉の粒子の大きさを測る研究を主にしています。
粉と静電気の技術の中で、みなさんの身近にあっていちばんわかりやすいのはコピー機でしょう。コピー機はあの中に入っている黒い粉(トナー)を静電気で紙の必要なところにだけくっつくようにコントロールしているのです。トナーの静電気制御についてはたくさん論文も出ているし、技術も進んでいます。
また、産業界でよく使われているものに、静電気で粉体の塗料をくっつけて固める「静電塗装」いう技術があります。従来は、塗料を有機溶剤に溶かしたものを塗って、溶剤が蒸発して固まる性質を利用したものが多かったのです。一方の静電塗装は人体や環境に影響のある溶剤が蒸発しないので「環境にやさしい塗装法」と言われ、オフィス家具などに使われています。
また日本の火力発電所では、静電気で煤塵(微細な粉)を除去する「電気集塵」という技術が使われています。このおかげでPM2.5のような大気汚染物質が撒き散らされずに済んでいます。
このように工業利用が進んでいるにもかかわらず、静電気がどのように発生しているのか、科学的な基礎については世界的にも全くわかっていません。何しろ誰も答えを知らないわけですから、ぼくもどこからその謎解きに挑んでいけばいいのか、難しくて困っています。でも、そういうふうに困っていることを楽しんでもいます。

ときには装置も自作して さまざまな実験に取り組む

 研究室の学生たちは、「粉の粒子をコロコロ転がして発生する静電気を測る」「容器の中で粉をシャカシャカ振って静電気の発生を調べる」など、いろいろな条件下で粉の静電気を測る実験に取り組んでいます。
しかし、粉の静電気は「このように測ればOK!」と言えるような測定方法がまだありません。そこで、新しい測定技術の開発も研究室の大きな研究テーマの一つとなっています。たとえば粒のごく小さい粉の静電気を測ろうとすると感度のよい計測装置が必要になるので、ときには既成の装置を改良したり、手作りしたりして、悪戦苦闘しながらも楽しく実験しています。
発生した静電気がバチっと放電する瞬間を捉える実験もしています。冬にドアノブに触るとバチっと放電して痛いですよね。あれは自分が帯電していて、触ったときにその電気が一気にノブ側に流れるからです。
一方、下敷きで髪の毛をこすってから引き離すと、片側にプラス、もう一方にマイナスの電荷がたまります。引き離さないとプラスとマイナスに分かれません。引き離している途中に放電が起きているとすれば、接触時に発生していた帯電量に比べて離したあとで測定した帯電量の方が減っているはずです。
接触したときには電荷がどのように移動して静電気になるのでしょうか。そして引き離したときにどれくらいの電荷が残って固定されるのでしょうか。この実験は、そんな静電気発生の仕組みの基礎を研究するためのものです。

理工系に進みたいなら 高校数学と理科の基礎は固めておこう

理工系に進みたいのであれば、高校までの理科と数学は基礎から真面目に勉強しておいてください。特に数学と物理は一回勉強を止めてしまうと、必要になったときに学びなおしても間に合いません。もし将来、粉体と静電気をやりたいのなら、数学と物理と化学の勉強をしておきましょう。
ちなみに、ぼくは本当に英語が嫌いで、今も嫌いです。ですが、英語は必要に迫られてからやっても間に合いますし、その方が効率もよいと思います。コンピュータのプログラミングも言語の一種で英語と同じですから、必要になってから勉強すればOKです。
もちろんコンピュータも英語も好きな人はどんどんやりましょう。とにかく高校から大学は、興味のあることにためらわずに取り組んでみてください。好きなことのためならエネルギーが湧いてくるし、その経験は決して無駄にはなりません。
どんなことでも一つのことを突き詰めていけば裾野は勝手に広がります。そうするとさらに自分に向いていること、好きなこと、楽しいことに出会うチャンスが増えます。ですから興味があることを見つけ、伸ばしていってください。

大学では、 自分の好きな学問を精一杯楽しんでほしい

最近の学生は決められた枠内のステップをそつなくこなしますが、そこから外れると不安になるようです。でも、せっかくの大学生活。そつなくこなすだけではもったいないです。勉強に限らず、枠にはまらずに楽しみましょう。
大学にはいろいろな専門家が集まっているので、「これは面白そう」「これを知りたい」と思うことを見つけたら、その先生のところに行って相当にたくさんのことを学べるし、刺激を受けることができます。何かそういうことに出会って、思いっきり興味を満たす楽しさを味わってほしいです。
粉体も静電気も身近なものでありながら謎に満ちていて、まさに“サイエンスが現在進行中!”の分野です。わかっていないことがあるとワクワクする人、自分でじわじわ謎に迫っていくのが好きな人にとっては、きっと楽しい分野です。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「茫」

この漢字は「果てしないこと」を意味します。研究の世界は行けども行けども果てがない(だから面白いとも言えます)ので、この文字を選びました。

▼プロフィール
共生創造理工学科 松山 達 (マツヤマ タツシ)教授
1987 年 東京大学 工学部卒業
1989 年 東京大学 修士 (工学系研究科) 修了
1992 年 東京大学 博士 (工学系研究科) 単位取得満期退学
1995 年 博士(工学) 東京大学

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