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【研究紹介】「学習は、楽しく習うもの」。日本画を通して創造性を育む!(2016年10月28日公開)

清水 由朗

教育学部児童教育学科 教授

小学生のころから「逆上がりもできない子で、何かを描くことが好きだった」という。日本画家だった父親は「絵は趣味だけにしなさい」と息子に別な職業に就くことを夢見ていた。その父親に連れられ東京で行われた院展へ。そこで平山郁夫画伯と出会い声を掛けていただいたことが画家を目指す原点となった。「学習は、楽く習うもの 」と語る清水先生に、才能の芽が花開くまでの経緯もたっぷりと伺うことができました。

【経歴】
東京藝術大学大学院博士後期課程満期退学。
創価大学教育学部 講師を経て現職。
【主な活動】
東京富士美術館副館長

現在、どのような研究および活動をされているのですか?

 学内では、本学に隣接する東京富士美術館との連携事業として、ミュージアムエデュケーションなどの授業をコーディネートしています。現在、東京富士美術館におけるスクールプログラムでは 、八王子市内の小・中学校の生徒へ鑑賞のための送迎バスを運行し、鑑賞会を開催していますが、同美術館学芸部の方が講師となり、この鑑賞会に対する学生の支援・サポートを授業の内容に組み込み、授業を展開しています。
 一方、学外においては、公益財団法人日本美術院所属の作家として、毎年開催される再興院展(日本美術院展覧会)および春の院展に研究作品を出品しています。日本美術院は、東京美術学校長の職を退いた岡倉天心が、大学の上に大学院があるように、美術学校においても美術院の設置が必要であるとの考えから、1898年(明治31年)7月、新時代における日本美術の維持と開発を指標として、ともに東京美術学校を辞職した橋本雅邦、横山大観、菱田春草、下村観山らと創設した研究団体です。

「再興第99回院展」(2014年)で内閣総理大臣賞を受賞されました。ブドウを描いた受賞作品『原生』への思いをお聞かせください。

作品『原生』が内閣総理大臣賞を受賞

作品『原生』が内閣総理大臣賞を受賞
 あれはワイン用のブドウで、葉に隠れていましたが見た目が美しく人目につかない所でひっそりと、しかし、たわわに実っていて一部、陽の光を浴びてすごくきれいでした。その光景に感動して野ブドウのイメージで描きました。また、いろんな物語がそこに生まれると想像力を掻き立てられました。やがてブドウは摘み取られ利用されていくのでしょうが、人知れず精一杯実らせくれる自然の恩恵にも思いをいたしました。実際、この風景を写生した時には、青いブドウの房がとても美しく輝いているように感じ、その感動を描こうと思ったのです。絵の大きさですか?横幅が畳4畳分ぐらいあります。

たわわに実るブドウを見ても、単なる食材にしか思えない人も多いのではないでしょうか。

 人によって感じ方はいろいろでしょうが、私は特に色の鮮やかさに引き付けられたのです。実に真っ青な色で涼しげでした。店で売られているのは、ほとんどが紫色で果粉が取れた状態で生食用のブドウです。私が出合ったブドウは白く粉を吹いた状態で、陽の光を浴びると更に青味を帯び、おいしさを通り越して優美な房形に感性を刺激されました。
 こうした風景に、いつどこで出合うか分からないものです。本当に幸せな出合いだったと思います。

画家としての感性が作品となって“結実”したというわけですね。

 描く対象に誠実に向き合い、出来ることを精一杯やったというのが正直な気持ちです。もう少しこの画題は温めておいても良かったのかも知れませんが、最近、再取材する時間もなくて。特に院展は年一回の勝負ですので、このカードを切って描くしかないという心境でした。
 絵作りについてですが、主役と脇役とに構成を分けますと、周りは白黒を基調とした色で、絵の中央に色を引き寄せてブドウの存在感を目立たせるようにして、葉の色も全部抜いてあります。陽の光が注いでいる様子を出すために、あえて控えた感じを出しました。日本画は色を抜いて取り去っていく、捨てる作業の方が多いんです。

再興第71回院展に初入選(1986年)した時の感想をお聞かせください。

 作品のタイトルは『「遠日」(えんじつ)』で、初入選は本当にうれしかったですね。まさか初挑戦・初出品で、しかも20代で入選するとは思っていなかったので貴重な体験でした。
 その後、落選の苦い経験をしながら出品し続けてきました。現在は同人(審査員)となり、自分の作品については無鑑査ですが、その分、おまけもなければ割引もない、厳しい目にさらされる立場として、より自己を律していきたいと考えています。苦い経験があったから今があるとも感じています。

お父様も日本画家でしたが、影響を受けたとお考えですか?

 父は 学歴のない人で、自分の力一つでやって来たという自負があったようです。それを近くで見て育ちました。実は、父は私が画家になることに反対でした。「医者か弁護士になって、絵は趣味にしなさい」とよく言われました。私への期待が大きく、父の中で私への夢がふくらんでいたようです。
 ところが私は、どちらかというと勉強が苦手で、父が言うような職業に就けないと悩んでいました。高校に入り進路調査の時に、志望校欄に医科大学と書いた私に担任の先生が言うんです。「本当はやりたいことがあるんだろう」。
 私が「絵をやりたいんです」と言うと「じゃ、好きなことをやりなさい」と背中を押してくれたのです。その一言で腹が決まり、浪人はしましたが東京芸術大学美術学部に入学できたのです。今も高校の担任の先生に感謝しています。

平山郁夫画伯の門下生と伺いました。師との出会いについて教えてください。

 中学3年生の時、東京で行われた院展に父に連れられて観に来たことがあります。その時、初めて平山郁夫先生の絵に接したんです。父から「どの絵が一番好きか」と言われ、迷うことなく選んだのが『マルコ・ポーロ東方見聞録』という平山先生のシルクロード代表作だったのです。背景に世界地図が描いてあって、マルコポーロが旅をしている傑作です。子ども心に衝撃が走りました。
 また、同じ頃、「平山郁夫シルクロード展」が大阪のデパートで開かれ、そこへも父が連れて行ってくれて平山先生とお会いすることができました。平山先生が「今から頑張れば芸大に入れるよ」と声を掛けてくださったのです。その瞬間が画家を目指す原点になったと自負しています。
 平山先生は、図らずも私が東京藝術大学在学中の担任でした。その後、学部長から学長になられて、私は栄えある平山門下生としての誇りも高く精進してまいりました。本学に私が着任することをご報告した際も「頑張りなさい」と包み込むように励ましてくださったことを忘れることは出来ません。

平山先生から教えられたこと、学んだことをお聞かせください。

作品「素描」

作品「素描」
 平山先生の絵に対する姿勢です。描くのが速いんです。迷いがないし、お忙しい方でしたが、院展に確実に出してこられるので、それはそれはスピードがすごかったです。
 絵を見ていただくのも一瞬でした。院展に出品するため平山先生の前に弟子が並び、一人ひとり下図をお見せすると「これか、ちょっと弱いね」とか「ああいいね」とそれで終わるんです。
 平山先生いわく「絵というのは居合抜きみたいなものだ」「一瞬で決まるんだ」と。どこが悪いか、どこをどうすればいいか、という質問は「愚問である」と(笑い)。「作品を並べてどうかで、そのことだけだ」と。「どんなに描いたって審査会の時は数秒しか見てくれないんだから、一瞬で決まるんだよ」とも言われました。
 汗して絵を持ち運んで行って、一瞬で評価が下されます。それは凄い世界で、平山先生には本当にいろいろと教えていただきました。

絵画は素描力や独創性、インスピレーションが大事であると言われています。

ゼミ生との写真

ゼミ生との写真
 独創性とか神秘性は自然ににじみ出てくるものだと思っています。意識すると、どうしても陳腐なものになり明調になってしまいます。どうしてですかね。でも「表現」ってそういうものでしょう。それはすごく実感します。やはり最後は、自然ににじみ出てくるものなんでしょうね。
 ただ、私の絵は印象が暗くなってしまう傾向があります。その暗さはどこから来るのか分からないのですが、最近は、その暗さを逆に生かそうと努めています。
 絵を描くに当たっては、強いて言えばインスピレーションを大事にしています。でも、なかなかインスピレーションが湧いて来ないので逆に教えてほしいです(笑い)。普段、忙しいとその心が失われていくような気がして、焦ることもあります。
 時間があって海外に旅行したりして見聞を広げていけば、いろいろ発想が湧いてくるでしょうが、すでにそういう時代ではなくなったとも思っています。普段の生活の中に何かを見出せる面白さとか、どこかでそのインスピレーションを得たいなと考えています。

普段の生活の中で、絵以外に熱中していることは何かありますか?

 私は自然物よりも機械類が好きだったりすることがあります。なにしろプラモデル世代ですので。画題にも、例えばドイツの技術者カール・ベンツが最初に造った自動車を描いたりします。去年はスペースシャトルを描き、今年は再興第101回院展に『天文時計』を描いて出品しました。いずれも人類の英知の結晶、最初に開発したもの、実験的なもの、冒険心とかが好きで、今後も描いてみたいという気持ちがあります。

受賞作『原生』に描かれている線のように細い一本一本の草も、風にそよいでいるように見えます。

 日本画で一本の線は大事です。日本画は油絵のように、外にキャンパスを持ち出して描くわけではないので、スケッチをしてきたものを一度再構成します。生描きのものから一本の線を抽出していきます。最終的に自分の第一印象というのが大事になってきます。
 例えば草の線はこれで行こう、こっちの線で行こう、これとこれを組み合わせようとかなどと、一本の線を抽出し、余分なものを排除していく作業をするわけです。『原生』は、刻み込んで刻み込んで全体の印象として観る人が絵の中に飛び込んで、入り込んでいくような、感じを出したかったのです。

絵本も作っていると聞きましたが。

日本画の技法を生かした絵本を制作

日本画の技法を生かした絵本を制作
 はい、日本画の技法を生かした絵本の制作に取り組んでいます。ゼミで協働的制作プロセスの体験を通して様々なことを学んでいますが、絵本の構成は、「絵」と「ことば」という二種類のコミュニケーション方法が組み合わさっています。この「絵」と「ことば」の間にある相互関係をよく吟味しながら制作活動に取り組むことになります。
またゼミでの協働作業になるので、絵本の制作のプロセスに生じる様々な諸問題(材料技法の特性・空間表現など)に応じた思考や判断について、仲間と協力しながら対応しています。
 ここでは個人を超えた力学が働く創作活動となり、各人が協働性を育みながら完成に向かって努力しています。
 創立者は、ジョン・デューイ協会の会長を務めていたジム・ガリソン、ラリー・ヒックマンとの対話である「人間教育への新しき潮流」において、「共生の社会を築く『対話』の力」を強調されていますが、他者の立場から自己を見つめられる能力の育成として、この制作活動は発展性があるものと考えています。
 完成した絵本は、東京富士美術館のキッズルームで活用いただくため、美術館に贈呈しています。

絵画教室などで子どもに接していて、何か感じることはありますか?

立体的な絵本も学生のアイデアから生まれた

立体的な絵本も学生のアイデアから生まれた
 まず、思い切りの良さです。ここは赤とか青とか色を決めたら、もう同時に手は動いてどんどん塗っていきます。あの思い切りの良さ、感性の鋭さは、かなわないですね。
 また、子どもたちには迷いがないです。大人はどうしても描くに当たって迷いが生じることが多いです。頭の中に笛の根が聞こえて…。子ども達の、目の前のものを信じ込む強さ、これは更にこれから必要なことだと思っています。目の前にいる人を信じる、または物を信じる、そのまま受け入れるという純粋さとか強さ。これは子どもにしか出来ないでしょう。まさに「教師なし先輩あり」を実感する思いです。

才能の芽を育てるには、どのようなことが大事ですか?

東京富士美術館に絵本を贈呈

東京富士美術館に絵本を贈呈
 絵の場合はどちらかというと自然体で伸びていく傾向があります。才能があるかないかというと、やはりあると思います。学生さんを見ていても感じることは沢山あります。
 才能を持っていても、好きかどうか、続けていけるかどうかというところで、その子の才能は伸びていくと思います。その上で、苦労もするでしょうから、そこから先はまた未知数のものもありますけど、才能の芽というのは、あちらこちらに花開いていますね。「学習」って、学ぶ習うじゃなくて、楽しむ習う「楽習」の方だと感じることが多いです。

ところで、一貫して追及しているテーマはありますか?

 追及しているテーマは、人類の英知とか知恵とか、形に現れたもの。そういうことがテーマです。
 レオナルド・ダ・ヴィンチが図面で描いた、いわゆる鳥の研究というか、飛行機械の原理を形にしたものがあって、それを題材に絵を描いたりとか、そういう人間の豊かな発想力に引かれます。当時としては、空を飛ぶという出来もしないことを研究し観察するという、そこに面白さがあり素敵じゃないですか。
 あと、ダ・ヴィンチのヘリコプタータイプの飛行物体ってありますよね。あれも春に一回描きました。どんなに回転してもスクリューみたいなものなので、飛び上がることできないんです。でも 筒の中に入れて高速回転させると浮き上がるようです。実際にスペースシャトルの燃料ポンプにあれと同じ構造が使われていると聞きました。実際に、スペースシャトルの燃料ポンプの中にあれと同じ構造が使われていて、筒の中に入れて高速回転 させると浮き上がるようです。
 不可能に見えることに挑戦する。それって素敵な話じゃないですか。カール・ベンツが開発した三輪車があります。自転車にエンジンを付けたようなもので、飾っている博物館もあります。ベンツの奥さんが乗って、結構な距離を走ったという逸話があって、それも面白くいい話だと思っています。
 そういう形が魅力的なんです。やはり人間の創造性、自由なイマジネーションの力ですね。それが形になった物を今後も描いていきたいと思っています。

学生へのメッセージをお願いします。

ゼミ生との写真

ゼミ生との写真
 日本画の勉強は別の価値を生むんじゃないかなと、考えています。いわゆる美大や芸大の日本画学科ならともかく、日本画を勉強する機会というと、年齢を重ねてシニアになってからカルチャーセンターなどの日本画教室へ通うとかになるでしょう。私の仲間も教えていますが、それが一番、庶民に浸透している部分です。
 日本画はフレンドリーでないので誰も手を付けない分野かもしれません。教育の現場でも日本画は、これまでないですね。専門性が高く、ラピスラズリ という原石など材料が高価であることと、準備や片付けも大変だし、なかなか理解されないようです。
 教育という分野で言えば、ある意味、可能性があると私は逆に考えています。ぜひ面白く奥が深いところを体験しに来てほしいと思っています。
 本学では教育学部ですので、しかも児童教育学科で、小学校の全科目の中の一つ「図工」でしかないですから、その中の更に細分化された一つが日本画という位置づけになっています。
 ただし、今思っていることは、専門性が高いことをあえてゼミでやることで、それを体験した学生さんたちが、いろんな表現の幅とか可能性を知ることが出来ると確信しています。これは万般に通じていくので、レパートリーを沢山広げて、工作もやり木工もやりということよりは、一つのことを通してやった場合に、いろんな面で生きてくることは間違いないと思います。
 ゼミ生にはあえて30号という大きな卒業制作を描いてもらっています。今、それに取り掛かる準備をしていて、完成作品を卒業前に展示します。彼らもこれほどの大きい絵を生涯の中で描くことってほとんどないですから良い記念になっているようです。

【受賞・出展歴等】
・2000年 再興第85回院展 日本美術院賞(大観賞)受賞 文化庁買上
・2007年 L‘AME ACTUELLE DU JAPON ― Etonnants Peintres INTEN(日本画「今」院展)パリ三越エトワール
・2011年 再興第96回 院展 文部科学大臣賞
・2013年 和歌山県文化奨励賞受賞(1/15) 
      スパーク文化庁買上優秀美術作品展 高崎市タワー美術館(4/13土~6/23日) 
      和歌山県文化表彰50周年記念展 和歌山県立近代美術館(11/23土~12/8日)
・2014年 日本美術院再興100周年記念 特別展「世紀の日本画」前期 東京都美術館(1/25~2/25)
      再興第99回院展 内閣総理大臣賞
・2015年 和歌山市文化功労賞 受賞

【主な受賞作品】
・再興第85回院展出品作 「炎源」 日本美術院賞(大観賞)
・再興第96回院展出品作 「始動」 文部科学大臣賞
・再興第99回院展出品作 「原生」 内閣総理大臣賞
・清水由朗(2015)『制作の現場から』 東京富士美術館研究誌 ミューズ 第6号(p54-57)所収