丹木の歳時記2012　文月　その一

梅雨空に映える紫陽花（アジサイ）の花。ハイドランジアと呼ばれる西洋紫陽花は、日本の額紫陽花が品種改良され、逆輸入されたものです。正門では、本学を訪れた人を出迎えるかのように紫陽花が咲いています。

そういえば最近の出来事ですが、梅雨空の街を歩いていると「この花の名前、なんていうの？」と友人に聞く若い女性の声。彼女が指さした花が紫陽花だったことは驚きでした。

自然に触れる機会の少ない若者が増えているのかも知れません。しかし一般教養、いや常識として、せめて紫陽花くらいは知っておいてほしいものです。

そこかしこで紫陽花が咲く本学にこの花を知らない人はいないと思いますが、学生には豊かな教養を身につけてほしいと思います。教養とは本来、自らをカルティベイト（耕す）すること。今まで知らなかったこと、見過ごしていたことに疑問や関心を持ち、自ら探求してこそはじめて身につくものでしょう。

少々説教がましくなってしまいましたが、キャンパスを彩る紫陽花を眺めながら、そんなことを感じました。

昼間が最も長くなる夏至から数えて11日目を半夏生（ハンゲショウ）といいます。今年の半夏生は今月１日。この頃には同じ名前の半夏生の葉の一部が白くなります。

未央柳（ビョウヤナギ）の名前の由来は「未央（びおう）の柳」。唐の玄宗皇帝が寵愛した楊貴妃に例えられています。

「未央の柳」は白楽天の長恨歌に詠われ、源氏物語にも引用されています。その作者と同じ名前の紫式部からは高貴な香りが漂っています。

ホトトギスの腹の模様と花の斑点が似ていることからついた名前の山路の杜鵑草（ヤマジノホトトギス）は、ユリ科の多年草です。

栃木県の旧国名は下野（シモツケ）。そこで多く咲くことから名付けられた花が下野です。

こうして並べただけでも何とも奥ゆかしい名前の花々が咲き競う梅雨空の下。花を愛でながら歩いてみてはいかがでしょうか。