自立学習入門講座65
―レポートを「問題提起・意見提示・展開・結論」の四部構成で組み立てる―
論理的なレポートの書き方については、すでに自立学習入門講座27(2018年1月号)と自立学習入門講座39(2019年4月号)において、「序論・本論・結論」の3部構成をさらに具体的に展開する方法として、樋口裕一(2015)が提唱する「問題提起・意見提示・展開・結論」の四部構成法を紹介した。この書き方の優れた点は、悪いレポートに共通する a)命題がしっかりしていない、b)反対意見を想定していない、c)一つの論点を深めていない、d)論理的に展開できていない、e)結論がはっきりしていない、という欠点を自動的に改善できる点にある。四部構成の“型”をしっかりとマスターすれば、後はこの”型“に沿って肉付けをしていけばよいだけである。もちろん肉付けが簡単な作業だといっているわけではないが、レポートを書くときの焦点が明確になる分だけ、少なくとも無駄なエネルギーと迷いだけは軽減されるはずである。以下で四部構成の”型“の要点をもう一度確認しておきたい。
■命題を示す部分。
「〇〇は××だろうか」「〇〇は是か非か」という問いかけの形にするのが基本スタイルである。その他、「最近の新聞報道では・・・・・・」といった新聞やテレビの報道などの客観的な事実ではじめる場合。あるいは「〇〇は××である」「・・・・・・には三種類ある」「AとBの違いは・・・・・・にある」などの定義・分類ではじめる場合がある。
◎定義(what)=「〇〇とは何か」を考えてみよう。
2)意見提示(30%・2~3パラグラフ):【序論②】
■命題に対して「賛成か反対か(是か非か)」の立場をほのめかす部分。
「確かに[反対意見]・・・・・・。しかし、[自分の立場・主張]・・・・・・。」のスタイルで書くとよい。反対意見にも目配りをしてその言い分を考慮に入れると、視野が広いレポートになる。
◎現象(what)=「〇〇から現在、何が起こっているか、プラス面とマイナス面」を考えてみよう。
3)展開(50%・5~6パラグラフ):【本論】※この展開の仕方でレポートの価値が決まる。
■レポートの最大の山場。一つの論点に絞って、主張の根拠をできるだけ深く掘り下げて書く部分。展開の仕方には2つの基本形がある。展開パターン① ―→「そもそも〇〇とは××である」(what)と定義から書きはじめる【定義提示型】の展開パターン。展開パターン② ―→「〇〇の背景には××がある」(why)と切り出す【背景提示型】の展開パターン。
◎問題となっている事柄の背景や理由(why)=「なぜ〇〇となったのか」を考えてみよう。
◎歴史的経緯(when)=「いつから〇〇なのか」を考えてみよう。
◎地理的状況(where)=「日本以外の国ではどうか」を考えてみよう。
◎結果(what)=「その結果、将来どのようなことが起こるか」を考えてみよう。
◎対策(how)=「どのように解決するか」を考えてみよう。
■もう一度全体を整理して、賛成か反対かを述べる部分。
「以上より、結論(what)・・・・・・」「したがって、結論(what)・・・・・・・」のスタイルでまとめる。
レポートに書くべき内容を四部構成のパラグラフごとにまとめたものを「構成メモ」と呼んでいる。このメモをもとに肉付けして、2,000字のレポートに仕上げる。「構成メモ」を用意すると、それぞれの部分ごとに自分の考えを論理的に整理して展開することができる。
【例題1】
「生殖医療を進めるべきか否か」というテーマについて、賛成の立場と反対の立場から構成メモと全体の流れを作りなさい。(樋口裕一、2015 : p.78より引用)
「生殖医療を進めるべきかどうか」
「確かに、生命の誕生を医学の立場でおこなうのは慎重であるべきだ。しかし、子どものできない親の苦しみを理解し、医学の力で子どもができるようにするべきだ」
「医学は苦しむ人びとを助けるものであり、人びとが人間として幸せになるのを手助けするものだ。子どもができずに苦しんでいる男女に子どもを与えてもよい」
「したがって、生殖医療を進めるべきだ」
3-2【B 生殖医療を進めるべきではないという立場】
「生殖医療を進めるべきかどうか」
「確かに、子どもができずに苦しむ人びとは多い。しかし、それは病気ではない。病気でないものを治そうとするべきではない」
「医療行為は、悪くなった部分を元に戻すことに制限すべきであって、それ以上の行為をおこなうべきではない。このまま進歩すると、医学が人間の能力までも意のままにできるようになるかもしれない」
「したがって、生殖医療を進めるべきではない」
次の①~⑩の文の順序を樋口式・四部構成法を使って入れ替えて、統一性と連関性と展開の面で分かりやすいパラグラフに修正しなさい。
「 ①『 日本の選挙における投票率低下に歯止めをかけるため、罰則規定を設けた義務投票制度を導入すべきだ』という意見がある。②確かに、投票率の低下は、『民意の反映』という民主主義の精神を揺るがしかねない。③たとえば、業界団体と政治家の癒着、国民には理解不能な政党の離合集散など、どれをとっても、国民が政治に期待できる状況にないのは明らかである。④したがって、義務投票制の導入で歯止めをかけるべきかもしれない。⑤しかし、義務投票制の導入で数字上の投票率を上げても、それが『民意の健全な反映』を意味するとは思えない。⑥投票率の低下は有権者の不満の表明であり、棄権も一種の意思表示と考えるべきだ。⑦そもそも問題の根っこには、国民の政治に対する根強い不信感がある。⑧したがって、義務投票制にしたところで、結局は白票が増えるだけだ。⑨以上のことから、義務投票制の導入は問題の本質的な解決にはつながらず無意味だと考える。⑩私はこの意見には反対である。」
(樋口裕一『樋口裕一の小論文トレーニング』ブックマン社、2015、p.101より引用)
① → ⑩ → ② → ④ → ⑤ → ⑦ → ⑥ → ③ → ⑧ → ⑨
① =問題提起【事実確認をした後、義務投票制度の導入は是か非かを問う】 →
⑩ =意見提示【自分の立場・主張は義務投票制度の導入に反対】→
② =意見提示【反対意見への目配り(確かに・・・)】→
④ =意見提示【反対意見から生じる結論(したがって・・・)】→
⑤ =意見提示【自分の立場・主張】(しかし、『民意の健全な反映』を意味しない)→
⑦ =展開【本来のあるべき定義(そもそも問題の根っこには)】 →
⑥ =展開【その定義の説明と解釈(政治に対する不信感・投票率の低下は不満の表明)】 →
③ =展開【例示(たとえば、業界団体と政治家の癒着などを見れば政治には期待できない)】→
⑧ =展開【本来の定義から生じる結果(したがって、義務投票制でも白票が増える)】→
⑨ =結論(以上のことから、義務投票制度の導入は問題の本質的な解決にはならず無意味)
次の①~⑱の文章を樋口式・四部構成法を使って4つのパラグラフに区分して、それぞれのパラグラフごとの論旨を要約しなさい。ただし、文章の順番は変更しないこと。
「 ①『日本人は落ちこぼれないための競争をしている』 ②精神科医の中井久夫さん(甲南大学教授)には、その専門分野に関することはもちろん、もっと広く文化や社会のことに及ぶまで、多くの点で教えられることが多く、時にお会いして話し合うのを楽しみにしている。③先日もお会いする機会があり、そのときに当初の言葉がでてきた。④これは、日本人の『競争』の意味について、ズバリと言い切っているもので、示唆するところ大である。⑤日本人は『競争』という言葉が嫌いらしく、特に教育界の人の中には、運動会でも、徒競走で差をつけるのはよくない、などとマジメに主張する人がいて呆れてしまう。⑥ところが、最近はアメリカのガイアツで、急に『競争原理』が大切になってきて、『競争に耐える力を養う』などと言い出したが、ここで『競争』の質について考えることが必要と思われる。⑦私はもともと『競争』は必要と考えている。⑧自分の個性を伸ばし、やりたいことをやろうとすると、何らかの競争が生じてくるし、それによって自分が鍛えられる。⑨ところが、中井さんが指摘しているのは、日本人は、自分のやりたいことをやる、というのではなく、『集団から落ちこぼれない』ように頑張る、極端に言えば、一番になっておけば、まさか落ちこぼれることはあるまい、という『競争』をしている。⑩つまり、競争の基盤が自分自身にあるのではなく、全体のなかにある。⑪『自分はこれで行く』というのではなく、全体のなかで何番か、を問題にする。⑫後者のような『競争』は個性を磨くよりも、潰すことに役立つのではなかろうか。⑬こんな『競争』には、私も反対である。⑭日本の多くの子どもは『落ちこぼれないための競争をさせられ』て、そのためにキレそうになっているのではなかろうか。⑮アメリカは日本と比べものにならない競争社会である。⑯これもどうかと私は思っているが、それはともかくとして、アメリカの競争が、どこかでカラッとしているのは、個人と個人のぶつかり合いであるからだろう。⑰日本人のように全体が飴のようにくっついていて、その飴のかたまりのなかで、少しでも『上位』に行こうとしているのではたまらない。⑱『競争』のよしあしを論じる前に、その質について考えてみる必要があるだろう。」
(出典:河合隼雄「日本人は落ちこぼれないための競争をしている」中央公論社、1998年12月号より抜粋・一部改変)
1)①~⑥=問題提起の部分(何を語ろうとするかを明確にする部分)
2)⑦~⑪=意見提示の部分(反対意見を考慮しながら自分の意見を述べる部分)
3)⑫~⑰=展開の部分(自分の主張の根拠を説明する部分)
4)⑱=結論の部分(最後に、もう一度まとめる部分)
1)問題提起をするパラグラフ:「日本人は競争を嫌う人が多いが、最近は、アメリカから言われて、競争が大事だといわれるようになった。はたして本当に競争は大事だろうか。」
2)意見提示をするパラグラフ:「確かに競争は必要だ。しかし、日本人の競争は落ちこぼれまいとして、全体のなかで何番かという競争をしているにすぎない」
3)展開をするパラグラフ:「日本人の競争は個性を潰す競争であって、それには反対だ。アメリカのような個人と個人の競争の方が好ましい」
4)結論を示すパラグラフ:「競争がよいかどうかよりも、どんな競争がよいかを考えるべきだ」
1)樋口裕一『樋口裕一の小論文トレーニング』ブックマン社、2015
2)樋口裕一『まるまる使える入試小論文』(改訂版)桐原書店、2016
3)有里典三「自立学習入門講座27」(『学光』2018年1月号掲載)
4)有里典三「自立学習入門講座39」『学光』2019年4月号掲載)
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