創価大学ニュース「SUN」104号 2020 Winter

学 問 探 訪 井上 大介教授 【 文学部 】 自分の文化のみが唯一のものの見方であると信じて疑わない人は、 物事を多面的に見ることができません。  2020年は、かつてないほどたくさんの 人々が世界各国から日本に訪れます。皆 さんにも、きっと海外の人々と交流する機 会が増えるのではないでしょうか。そうし た今だからこそ、「多様性」「ダイバーシ ティー」とともに重要ワードとなっている 「異文化理解」について、文化人類学者で ある文学部の井上大介教授に解説してい ただきます。 「文化というのは従来、動物や植物と人 間の差異を設けるための指標として現れ たと考えられています。そこから、人間の 集団を分ける指標になっていきました。 現在『異文化』というときには、すでに自文 化と異文化を分けており、そこには一種 の差別意識が含まれています。ですから、 どういう立場で誰のために『異文化』とい う言葉を使うのかという感覚を磨くこと が、まさに異文化理解でもっとも大切な 態度だと思います。  自分たちの集団が有している正義や 善、常識といった概念が必ずしも普遍的 なものではなく、時代や地域によって変 化しうるものであると知り、そうして自分 自身を相対化していくプロセスが異文化 理解にとって極めて重要です。私は授業 を通じて、自分の文化しか知らない人は、 自分の文化という視点でしか物事を見る ことができないんだということを、学生に は常に伝えています」  井上教授は、日本から見て地球の反対 側に位置するメキシコの文化を研究して います。メキシコ文化の中でも日本人が ビックリするのが、カラフルに彩られたド クロを飾り故人を悼む「死者の日」という 行事です。ディズニー映画『リメンバー・ ミー』でも取り上げられたことで、はじめ てこのような文化を知った読者も多いの ではないでしょうか。 「日本では恐怖の象徴であるドクロをま つるという感覚は、一見、理解しづらいこ とと思いますが、その役割や生まれた理 由は、日本のお盆と同じなのです。昔は、 特に庶民階級の人々は常に死と隣り合わせ File 22 創大の でした。ですから往々にして、さまざまな 地域で死をモチーフとした儀礼が顕在化 する瞬間があります。メキシコではそう いった死者を弔う儀礼に、パーティー的な 要素が加わったということなのです。  人間である以上は、地球上の多くの文 化はたくさんの類似点を共有しています。 それに対する相違点が多様性やダイバー シティーという部分です。人間という存在 はまさにそういった類似性と相違性を往 復しながらアイデンティティを流動的に 保っている部分があるので、異文化と交 流した際には、類似点に関しては感情的 な部分で楽しみ、相違点に関しては理性 的な部分で尊重していくという態度が必 要になってきます」  異なる文化の相違点を尊重するため に、私たちにできることを井上教授は教え てくれました。 「もっとも重要なツールは、やはり『対話』 です。自分の価値観を押し付けてはいな いかどうかということを常に反芻する必 要があります。他の集団や個人と対立し たときに自分たちを優先してしまうのが、 人類の歴史の常でした。つまり譲歩や調 和によって相手を尊重することは、異文化 理解の大きな鍵になるはずです」 15 [ テーマ ] 異文化理解 Dr. Daisuke Inoue ▲ 「死者の日」のメキシコは、写真のような カラフルな骸骨人形であふれかえる

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