創価大学ニュース「SUN」113号 2022 Spring

学 問 探 訪 アネメッテ・ フィスカーネルセン准教授 【 文学部 】 日本の「当たり前」が世界の標準ではない。 それが理解できると世の中の見方も変わる。 新型コロナウイルス感染症という脅威 に立ち向かう経験をし、SDGsという目 標が定められたことにより、人々の心の 距離が縮まり、世界は一つになれるかも しれない。そんな淡い期待を抱くものの、 世界各地の紛争がなくならない現状を見 ると、実現は難しいのかもしれません。 今回、社会人類学の観点から日本の政 治、宗教、社会、ジェンダーについて研究 するフィスカーネルセン准教授に、日本人 と世界の価値観の違い、その違いがグ ローバルで日本人が活躍する際に障壁と なる可能性の有無について、教えていた だきました。 “空気を読む”ことで社会秩序を保とうと する日本人の価値観は、肯定的に語られ るケースが多くあります。例えば、「サッ カーの国際試合後に日本人ファンが行っ たスタジアムのゴミ拾いを、海外メディア が賞賛した」というニュースを目にした記 憶があるのではないでしょうか。実はそう した美談を生み出す価値観が、日本が男 女平等の世界ランキングで120位(「ジェ ンダー・ギャップ指数2021」)という残念 な評価を受ける原因にもなっているとフィ スカーネルセン准教授は指摘します。 「日本では先生や学生、先輩や後輩と いった上下関係を考慮しながら、“空気を 読んだ”発言や行動をする『建前』を自然と 若いころから学びます。この暗黙のルール は、日本人の礼儀正しさや責任感の 強さのようなよい面として表れる一方、 平等を奨励し、人々が自由に自分の考え を話せる社会を目指す世界の潮流に対 立する考え方でもあります。ちなみに日 本における女性の社会進出が世界水準 と比べて遅れている理由の一つに、自ら を主張しない“従順な”女性像が好まれて きたことがあげられます。このように『建 前』によってつくられた社会秩序は、 SDGs実現の大きな弊害にもなりうるの です」 では、日本人が国際社会で活躍するた めには、「建前」を捨て、国際標準の価値 観を学ばなければならないのでしょうか。 「そもそも明確な『日本基準』さらには 『国際標準』は存在しません。社会人類 学ではこのような現実の複雑さについて 研究しています。例えば、『ジェンダー』 が自然なものと捉えられていることに対 し、実際にはイデオロギーであること等 が挙げられます。世界は多様で、同じ場 所や環境、例えば、職場や教室内でも多 くの異なる基準や考え方があります。そ うした多様性を理解するために、学生が 学ぶのが『批判的思考』です。単に批判 するのではなく、自分の置かれている状 況を理解し、情報収集を行い、深化させ、 調査・分析する力を養うことです。そし て、一見まったく違うように見える状況 File 30 創大の でも、そのなかにある矛盾や類似点を見 抜く能力を身につけていただきたいので す。地政学的緊張が高まり、世界各地で 民族紛争が起こり、自国第一主義に走る 活動により、そして男性による女性や子 ども、ほかの男性に対する暴力が増加す るという深刻な状況に直面している今、 とても重要な力です」 異文化に触れるチャンスが多い創価大 学では、「批判的思考」を育む経験をする チャンスにあふれています。フィスカーネ ルセン准教授が担当する「EMP(English Medium Program)」もその一つです。 「EMPは、留学生・日本人学生のいずれ も、英語の授業のみで卒業できるコース の総称です。5学部、4研究科に用意され ており、世界各地から集まった学生たち がともに机を並べ学ぶなかで、自然と異 文化に触れられます。普通だと思って育っ た自分の考えが、他人の普通ではないと 理解し、異文化間の力学を学ぶと、政治 や商業の仕組みを考え、具体的に平和を つくる方法を学ぼうという意欲が生まれ ます。EMPや留学といった異文化を知る 機会を活用し、多くの学生に『批判的思 考』に基づいた方法で自分の考えを発表 する術を学んでいただく。そうすることで 新たな時代ですべての人の人権と尊厳を 重んずる学生を育成し、SDGs達成に向 けて歩んでまいりたいと思います」 [ テーマ ] 日本の独自文化と 国際感覚 ANNE METTE FISKER-NIELSEN 17

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