【「価値創造×SDGs」Week開催レポート】
中山雅司 創価大学法学部教授

2020年12月11日(金)~17日(木)にわたって、「価値創造×SDGs」Week(後援:国連広報センター)を開催しました。15日のシンポジウム「人道的競争の時代へ」での、創価大学法学部の中山雅司教授による講演レポートです。

*発表の詳細は創価大学平和問題研究所紀要『創大平和研究』第35号に掲載
https://www.soka.ac.jp/files/ja/20210413_092000.pdf

国際社会における「平和」と「人権」――SDGsと人道的競争

「2003年3月の本学の卒業式の折、創立者の池田大作先生がチョウドリ国連事務次長(当時)と会見をされた際、チョウドリ氏が「平和を欲するなら平和の準備をせねばなりません。何より大切なのは、『平和の文化』を築くことです」とおっしゃいました。それに対して創立者は間髪入れず、「それこそ根本の平和の哲学です』と応じられました。
この会見に接して深く感じたことがあります。それは人類の未来をより良いものにするためには、社会の基底にある文化、即ち人間の生き方や思想を転換しなければならないということです。「戦争と暴力の文化」から「平和と人権の文化」を築いていく、これが一番大事なことではないか。21世紀の歩むべき道筋と希望の光を見る思いがしました」

人権については、難民、女性、子どもの問題などさまざまな問題がある。UNHCRの調査では、2019年末の時点、難民は過去最高の7950万人に上る。5歳未満で亡くなる子どもが年間で540万人。世界の子供の7人に1人は就学できず、児童労働に従事している。また、女性の人権問題として、ダボス会議2020年の報告書では、日本のジェンダーギャップ指数が153ヵ国中121位という厳しい結果だった。

「戦争は最大の人権侵害です。人類史は戦争の歴史でもあって、戦争がなかった時期はわずか300年ほど。なかでも過去2千年の戦争死者1億5000万人のうち、20世紀だけで1億2500万人を数えます。まさに戦争と暴力の20世紀です。
その戦争の大規模化の要因は兵器の強大化です。科学技術の発達は人類に大きな進歩と繁栄をもたらしましたが、核兵器という人類を抹殺する兵器も生み出した。しかし、科学技術に問題があるのではありません。創立者は『知識と知慧の混同』という現代文明の欠陥を指摘し、『知識を正しく統御し、活かしていくのは知慧の働きにある』と述べられています。本学のブロンズ像に刻まれた“英知を磨くのは何のため 君よそれを忘るるな”は、まさに知識と知慧の関係を伝えています」

世界75億の人口のうち、7億3600万人が1日1.90ドル未満の生活という絶対的貧困の状態に置かれている。新型コロナウイルスの影響で2021年までには絶対的貧困者が1億5000万人増加するとも言われている。また、気候変動と人類の生存を脅かす環境問題もまさに人権問題そのものである。

「現在、人権をめぐる二つの潮流が生まれています。一つは、世界各地で発生している危機的な問題で、排他主義、ヘイトスピーチ、ブラックライヴズマターなどがそれです。ネットを通じて同じような考え方を持つ人々との一体感が増幅し、多様性や共感が欠如してしまうフィルターバブルも人間の尊厳に障壁を設ける危険性があります。
一方で人権の主流化という潮流がある。たとえば、旧ユーゴ、ルワンダ法廷、国際刑事裁判所などがつくられ、戦争犯罪を裁けるようになってきました。。人道的介入や保護する責任の議論も出てきています。そういう中で登場したのが、UNDPが1994年に発表した『人間の安全保障』の概念であり、2015年に国連で採択されたSDGsです」

「SDGsは人権尊重の考え方がベースになっています。目指すものは、誰一人取り残さない(No one will be left behind)という持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現です。その根底にあるのが『人間の安全保障』の理念です。それは100人の村があったとして99人が幸福であったとしても、たった一人が幸福でないとすれば、その社会は幸福ではないという思想です。
創価教育の父、牧口先生は100年前にこのような社会像に言及されています。それが『人道的競争』という概念です。1903年に発刊された『人生地理学』において、世界は軍事的、政治的、経済的競争から人道的競争の時代へと移らねばならないとおっしゃっています。人道的競争とは、『その目的を利己主義にのみ置かずして、自己と共に他の生活をも保護し、増進せしめんとする』ことであると述べられています。そして、人道的競争に国家間の対立を乗り越える道があると強調されています。SDGsとは人道的競争そのものです」

「コロナ禍をはじめとする地球的課題の教訓は、自分だけの幸福や安全もなければ、自国だけの平和、繁栄もないということです。共生の哲学が求められています。創立者は『一切衆生の生命に尊厳なる仏性を見出す仏法は、いわば他者への生命への“尊敬”を通じて、人権の実現を目指しているのであります。ゆえに、自身の権利の主張にとどまらず、他者の人権のために行動することを促しております。それは義務ではない。自らの使命に生きゆかんとする“誓願”なのであります』とおっしゃっています。
その行動にこそ人間の尊厳が輝く「平和と人権の文化」が築かれると考えます。教育、なかんずく世界市民教育が一層重要となります。そして、一切の差異を越えて、自分と異なるものに対して労苦と献身を惜しまない、人間の絶え間ない変革が求められています」

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