小学館が主催する小学館文庫小説賞の贈呈式が5月24日(金)、東京都千代田区の如水会館で開かれ、本学文学部卒業の黒田麻優子さん(2016年度卒業)の「春がまた来る」が同賞を受賞しました。
昔から書くことが好きだったという黒田さん。創作意欲の源泉は「人との交わりです」と語ってくれました。その言葉どおり、学生時代は授業、ゼミ、卓球部での活動、寮生活、小説執筆と何事にも全力で挑戦し、数多くの友人たちと様々な経験を重ねてきました。その一つひとつが今回の小説の糧となっていると力強く語る黒田さん。受賞の感想、受賞作に込めた思い、大学生活の思い出など、これまでを振り返りながら、黒田さんのこれからについて語っていただきました。

小学館文庫小説賞の受賞おめでとうございます!受賞作「春がまた来る」について教えてください。

受賞作「春がまた来る」のプルーフ(見本)本受賞作「春がまた来る」のプルーフ(見本)本

大学生4人がシェアハウスで暮らす様子を描いています。大学卒業が近づくにつれ、それぞれが自身の抱える問題に向き合い、乗り越えようとする姿に焦点をあて、不安や切なさ、葛藤など迫りくる心境の変化等を表現しています。
私の経験からも、大学卒業の春というのは、小学校や中学校、高校までの春とは違い、モラトリアムが終わる切なさと不安を感じさせます。今回の作品では、その明確な「終わり」と「始まり」を表現できればと思いました。私自身、ほんの数年前に経験したことであり、作品のどの登場人物にも少しずつ当時の私が反映されています。複数の登場人物を用いながら描くことで、読者の方が自身の大学卒業前から社会人になるまでの日々を回想するきっかけになるのではと思い執筆しました。

今回の受賞は、どのような部分が評価されたと思いますか?

受賞式に駆けつけた友人らと受賞式に駆けつけた友人らと

審査に携わった方からは、ネタばらしのタイミングや展開の順番などの文章構成が良かったと言われました。
例えば、後半にルームシェアしている4人のうち1人が衝撃的な行動をとって家出をする場面があります。急にそのような展開になるのではなく、序盤からこの人は重大な秘密を隠しており、何かあるのではないかと少し匂わせるようにしています。読み進めるなかで、少しずつネタばらしに繋がっていくような流れとし、読んだ後に「やっぱりそうだったか」とカタルシス(物語などを読み終えた後に感じる一種の爽快感)を与えるような展開にしました。
私が書いたこれまでの小説は、芸術性に重きを置いた純文学的な作品が中心で、冒頭からつらつらと文章を書くことが多かったです。これまで作品を応募しても編集者の方から、「内容のわりに文章が長い」と指摘されることが多くありました。今回は構成を意識し、頭から文章を書くのでなく、書きながら順番を変えることや文章をできるだけ短くするなど工夫を重ねながら、これまでにない書き方で作品を仕上げました。

小説を書くようになったきっかけを教えてもらえますか?

福岡県の海辺の町で育った黒田さん福岡県の海辺の町で育った黒田さん

私は福岡県の海辺の小さな田舎町で育ちました。好奇心旺盛な幼少期でしたが、とりわけ書くことが大好きでした。小学校5年生の時、祖母の誕生日プレゼントで「トラックアドベンチャー」という冒険小説を書いたのが最初です。たしか原稿用紙80枚ほどだったと思います。読書感想文が得意だったこともあり、担任の先生からも「自分でストーリーを書いたらいいんじゃない?」と言われ、ちょうど祖母の誕生日が近かったこともあり挑戦しました。祖母の周りの友達からは「小学校5年生でここまで書けるのはすごいね」と言ってもらえましたが、祖母からは祖母からは「全然おもしろくないねー」と言われ、祖母におもしろいと言ってもらえる小説を書けるように頑張ろうと思いました。今思えば、祖母なりの愛情表現だったんだと感謝しています。

学生時代、文学部での授業やゼミでの学びはどうでしたか?

ゼミの仲間たちとゼミの仲間たちと

文学部の「表現文化論入門」の授業が印象に残っています。表現分野の世界で活躍している方が講師として来て、現在に至るまでのストーリーなどを語ってくださる機会がありました。順風満帆に見えても壮絶な経験をされている話などを聞く中で、小説家を目指していた私にとっても苦労を乗り越えてこそ一流に近づくことを学ぶ機会となりました。
また、大学3年次には作家の村上政彦先生(非常勤講師)が担当する「文芸創作Ⅰ. 文芸創作Ⅱ」を履修しました。プロの作家の先生に直接教えてもえる機会であり、入学後からずっと楽しみにしていました。村上先生はとても学生思いで、私が書いた作品を読み、的確にコメントを戻してくださいます。卒業後も作品ができるたびに、村上先生には見ていただいており、感謝の思いでいっぱいです。このような関係が築けたのも創価大学で学べたおかげだと思います。
ゼミでは寒河江光徳教授のもとで学びました。表現文化に興味のある学生が集まっていたので、演劇や音楽、お笑い、ダンスなどバラエティに富んだ学生と一緒に学んでいました。寒河江先生は学生の夢を大事にする先生で、ラッパーを目指している学生にはラッパーとして接していました。ゼミ生の舞台などもチケットを買って会場に足を運んで鑑賞するなど、言葉だけでなく本当に応援してくれているのが姿勢で伝わってきます。
今回の授賞式には、村上先生と寒河江先生が来てくださり、自分のことのように今回の受賞を喜んでくださいました。

大学時代の学びが生きていると感じることはありますか?

卓球部では主将を務めた卓球部では主将を務めた

一言であらわすと「ねばり強さ」です。学生時代の経験で2つ印象に残っていることがあります。1つは入学直後の1年次の英語の授業です。私が履修した英語授業はレベルの高いクラスでした。オールイングリッシュで、英語の論文などを読み、それをまとめて、プレゼンするといった高校までと全く違う内容でした。寮の先輩に相談したり、友人と励まし合ながら学ぶなかで、思った以上の成績評価を得ることができ、やればできるんだと自信を持つことができました。
もう1つは卓球部での経験です。入学前より小説家を目指していましたが、大学ではスポーツを通して体力をつけようと考えていました。全くの未経験でしたが、思いきって卓球部に入りました。当時も1年に1本以上の小説を書くことを目標にしていましたので、クラブ、授業の課題、小説執筆と大変でしたが、限られた時間で最大限の成果を出す集中力が身につきました。また、私より上手な人はたくさんいましたが、皆をまとめることでチームに貢献しようと主将を務めました。それぞれにしかできない役割を見つけて、全員の力を引き出し、チームの団結を大事にするのが卓球部の素晴らしい伝統だと思います。
これらの経験があったからこそ、卒業後に一人で机に向きあい小説を書いていても諦めることなく、最後まで踏ん張ってやり遂げることができていると感じます。私の場合は卓球部や授業の経験でしたが、創価大学では至るところでそのような経験ができる機会があると思います。
また、学生時代の経験が今回の作品にもつながっています。興味あることだけであれば、自分に似た登場人物しか書けません。クラブや寮、授業を通して様々な人と出会えたことで、小説の中でもいろんな登場人物にリアリティを出すことができました。やはり自分の経験が小説を書くうえで大事だとあらためて感じました。

黒田さんのこれからの目標を教えてください。

左から村上政彦先生、黒田さん、寒河江光徳先生左から村上政彦先生、黒田さん、寒河江光徳先生

今年中に受賞作が正式に出版される予定です。「表現文化論入門」の授業で一流の人から刺激を受けたように、今度は自分が夢に向かって挑戦する後輩たちに希望を与えられるよう、小説家として力をつけていきたいと思います。まずは、年内に受賞作の「春がまた来る」が書店に並ぶよう、プロの方の意見等を踏まえながら、これから準備にあたってまいります。
一生書き続けることが私の目標です。自分でも簡単ではないことだと思っています。それでも、心の真ん中に「書きたい」というマグマをたぎらせ、喜怒哀楽のすべてをそこに投げ込むタフネスさがあれば、きっと達成できるはずです。どんなときも、読んでくださる方々への感謝を忘れず、支えてくれる人たちへの恩返しの気持ちで、前進していきたいと思います。

最後に後輩たちへのエールをお願いします!

小説家を目指している私に、この科目は関係ないのではと思うこともありました。でも今思えば、学んできたこと全てに意味があると感じています。授業での課題の一つひとつ、部活や課外活動での様々な挑戦など、目の前にあるものに全力で取り組んでほしいと思います。諦めずにやり抜くことで、必ず成長の糧になっていきます。
創価大学は、やりたいことがある人を全力で応援してくれる場所です。どんな夢も本気で応援してくださる先生方、切磋琢磨しあえる仲間、何でも挑戦できる教育環境があります。
学生時代にしかできないことに、思いっきり挑戦してほしいと思います。私も次の目標に向かって、皆さんと一緒に頑張ります!

Profile
黒田 麻優子さん(くろだ まゆこさん)
卒業年度/学部:2016年度卒業/文学部人間学科

福岡県出身。創価大学文学部人間学科2016年度卒業。子供が苦手にも拘わらず、駄菓子屋店員として働いている。趣味はYouTubeを観ること、ゲストハウス巡り、スポーツ観戦。高校時代に始めた俳句がライフワーク。好きな食べ物はエビフライとラーメンとプリン。遊園地、ゲームセンターなどホスピタリティ溢れる場所が苦手。好きな小説家は伊坂幸太郎、朝井リョウ、中村航。

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