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2013/07/08

学びの現場から~授業紹介vol.2~

原 由利子さん / 国際人権NGO事務局長 / 本学非常勤講師

創価大学を卒業後、大手建設会社勤務を経て、現在国際人権NGO事務局長として活躍中の原由利子先生。現在、本学2年生を対象とした地球市民教養科目「国際ボランティア入門」を担当されています。「学びの現場から」第2回目は原先生の授業をご紹介します。

原先生のお仕事の内容を教えて頂けますでしょうか。

NGOってご存知ですか?紛争・環境・開発・貧困・人権問題など、世の中が抱えている問題を解決していこう、社会をよくしていこうとする民間団体のことです。私は、世界と日本から人種主義や差別をなくすことをめざし、様々な活動をしている反差別国際運動という国際人権NGOに勤めています。日本では、先住民族であるアイヌ民族、かつて琉球王国だった沖縄の人びと、被差別部落、在日コリアンや移住労働者の人びとへの差別をなくすため、例えば、日本政府に対して、差別を禁止する法律ができるよう働きかけたり、差別を受けている人びとの声が国連や国、多くの人びとに届くように、声明や提言、本を出したり、集会をもったりしています。「見えない思い」をつなげて「見える形」にして、問題を解決しようとする活動ともいえます。世界各地にパートナー団体があり、差別をなくすための連帯交流活動や国連への提言活動を行っています。そのため、国連に関する機関や会議が集中するスイスのジュネーブにも事務所を設けています。詳しくはこちらをご覧ください。

NGOに入られるきっかけを教えて頂けますでしょうか。

創価大学卒業後、生まれ育った福岡で建設会社に就職し、黙々と補助的な仕事をしていました。入社してから6年後、青天の霹靂で(これを話すと長くなりますが・・・)アメリカ転勤の話を頂き、2年半、ニュージャージーで仕事をさせてもらいました。あらゆるものが新鮮で様々な出会いと発見、学びがありました。それまでは、仕事以外の時間を使ってNGO活動をしていたのですが、「仕事そのものも、社会をよくしていこうとする民間活動にしてはどうか」と考え始めたのがちょうどその頃です。1993年、渡米後すぐに行なわれた創立者のハーバード大学での記念講演も原点となりましたね。様々な「固定観念」の枠がとれ、自分には「無理」と思う枠もとれたのかもしれません。NGOへの転職を考えていた時に大学院進学を進められ、自分では「あり得ない」と答えていたのですが、福岡に帰任し、仕事の傍らNGO活動をしながら、人権分野のNGOに転職することを決めました。そして、そのための手段として大学院進学を決め、3年後に英国のエセックス大学の大学院に入り、人権を学びました。私自身、頭がいいわけではないのでかなり苦労しましたが、卒業後、絶妙のタイミングで第一志望だった現在のNGOの公募があり、採用して頂くことができました。

海外での忘れられない経験を教えて頂けますでしょうか。

インドのパートナー団体を初めて訪問した時に、体にあざをつくって泣きながら問題を訴える女性と出会いました。インドには、歴史的につくられた身分制度であるカースト制度が今も残っています。彼女は、カースト制度のさらに下層にある「不可触民」とよばれ、ダリット(壊されし人びとの意)と呼ばれる女性でした。差別され、生計もたてられず、性を売る仕事をせざるを得ない状況にありました。警察にレイプされ、意味もなく公衆の面前で暴力をふるわれたと憤り、あざを見せてくれました。その女性が、数年後にお会いした時には、その団体のプロジェクトリーダーになって、同じ境遇にある女性たちが、経済的自立をして職業を選べるようになれるよう、生き生きと活動をしていました。彼女は誇らしげに、女性たちのネットワークでつくったIDカードを見せてくれ、「これを見せれば、警察もむやみに暴力はふるわなくなった」と語りました。一人の女性が怒りを前進への力にかえて、現実を変えていく姿に感動し、大いに学ぶことができましたね。

何年前から本学の授業をご担当されているのでしょうか。

2004年度からですので、有難いことに今年で10年目です。今思えば、最初は意気込んで、詰め込みすぎたり、難しかったりした部分が多々あったかなと思います。自己満足ではなく、学生の皆さんの心に残る授業をするためには、自身が成長し、考えるためのいい素材を提供し、「伝える」技を磨くことも重要と考えています。

授業ではどのようなことをどのように学ぶのでしょうか。

まず、第一部の総論では、国際ボランティア・NGO・市民運動とは何かを考え、実際に立ち上がって行動している人から学び、「私・私たちにできること」を考えます。そして、ボランティアの結集軸であるNGOが国際社会(国連の枠組み)の中でどのような役割をはたしているのかを学びます。第2部の各論では、元青年海外協力隊の方や国際協力の分野で活躍するNGO職員を、1・2回ゲストスピーカーとして招きます。また、人身売買撤廃に向けての活動など、私自身がNGOで携わっている課題の現状を知らせながら、問題解決に向けて何が必要か、皆で考える授業をしていきます。そして第3部では、日本のNGO をとりまく課題を考え、国際ボランティアや市民運動が活発となり、今後日本の中で成長し、社会をよりよくしていくには何が必要かなどを考えます。授業のはじめに、自分がボランティアするとしたら、どんなNGOで何をするかなどを発表する時間もあります。

授業で一番伝えたいことを教えて頂けますでしょうか。

日本を、世界を変えていくのは、政府やどこかの「偉い人」ではなく、私たち一人一人だということです。NGOにお任せでもありません。「NGO=私たちひとりひとり」であることを知り、国際ボランティアに対する垣根をなくすことをめざしています。また、事態の改善のためには何が必要なのか、国際ボランティアはそれにどう貢献できるのかなど、様々な課題を自分の頭で「考える」ことを重視しています。大学は、自分がいかに何も知らないかを知るところです。現実を知り、衝撃をうけると、意識が変わります。関心や問題意識のアンテナがたってくるようになると、一歩踏み出して行動につなげていきやすくなります。すると、同様の志をもつ人びととの出会いもでてきます。この出会いが財産であることを体感すれば、行動することが苦ではなく楽しみになります。それは、創立者が自らの生き方をもって示して下さっている『国際人』『ボランティア』の生き方でもあります。その生き方に私たちも続いていく。それが到達目標ですね。

本学を志望する高校生にメッセージをお願いします。

私は高校2年の時に大好きだった母を病で亡くし、その後、部活でやっていた剣道を急にやめたため、心臓が不整脈になった時期もあり、父・兄・姉も病気で入院する時期がありました。色々なことが思った通りにいかず、「はめ」を外そうかと思った時もありました。私の場合は、母が原点となり、踏ん張ることができました。
人それぞれに課題も環境も違うと思います。経済的状況や偏差値から考えて、環境に自分の生き方をあわせるよりは、自分が本当に生きたい方向を定めて環境をかえていく方が、後悔がないと思います。可能性の塊である皆さんが、その力を発揮して課題を乗り越え、世界への扉となる創価の学び舎に勇んで集われんことを願っています。
原 由利子 Hara Yuriko
好きな言葉:誓願
趣味・特技:NGO活動?
おススメの映画:インビクタス/負けざる者たち
おススメの本:青春対話(授業の教科書でもあります)
ページ公開日:2013/07/08