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2023年05月17日 11時00分

G7広島サミット開催にあたって研究所所感を発表

G7広島サミット開催にあたり、創価大学創立者・池田大作先生の平和提言をふまえて、平和問題研究所としての所感を発表しました。

 

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今こそグローバルな連帯を

―G7広島サミット開催にあたって

 

創価大学平和問題研究所

所長 玉井秀樹

 

 UNDPの2022年特別報告『人新世の脅威と人間の安全保障』は「豊かさ」が増大しているにもかかわらず、人々の間には「不安全感」が広がっていることを指摘している。ロシアによるウクライナ侵攻はそのような「不安」が現実のものとなったと受け止められ、そして、世界の分断と対立をさらに際立たせることとなった。戦争はいまだ解決の道筋が見出せず、核兵器使用の危機が再び高まり、私たちの「不安全感」をさらに深めている。

 今日の危機的状況を乗り越えるために、本学創立者・池田大作先生は昨年より連続して緊急提言を発表されてきた。そして、G7広島サミット開催にあたり、提言「危機を打開する“希望への処方箋”を」を発表され、ウクライナにおける戦闘の早期停止、核先制不使用宣言の実施をあらためて訴えられた。

 「人類の平和を守るフォートレスたれ」との建学の理念に基づいて創設された研究所として、私たちは核兵器の無い世界の実現、人間の安全保障の促進、SDGsの達成をめざして諸活動に取り組んできた。本年3月にはG7研究グループ等と共同で「安全保障と持続可能性の推進」に関する国際会議を開催し、その成果を政策提言として広島サミット事務局に提出したところである。各分野の専門家による検討を経てまとめた政策提言では、特に以下の内容を優先的提言として強調している。

 

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2023G7広島サミットへの提言

202345

【文責】ジョン・カートン(G7研究グループ)/オードリー・キタガワ(多文化共生のための国際アカデミー)/ジョナサン・ルックハースト(創価大学)/寺崎広嗣(創価学会インタナショナル)

 

G7体制の強化】

 ①差し迫った危機に対応し、G7の優先事項を推進するために、より頻繁に会合を行う。
 ②環境、気候変動および保健、ならびに防衛など新たなポートフォリオのために、より多くの閣僚会議を開催する。
 ③持続可能な開発目標を含む主要な国連アジェンダに関して、G7は、G20ならびに国連との協力におけるシナジー効果を生み出す。

【核不拡散・軍縮】

 ④「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」とのG20バリ首脳宣言を強固なものとする。
 ⑤核兵器の先制不使用の原則について誓約し、他国にも誓約を奨励する。
 ⑥核兵器のない世界を実現するための目標を再確認し、核兵器を段階的に削減し最終的に廃絶する期限を(例えば2045年までに)定めたコミットメントに関する交渉を開始し、核兵器の廃絶に向けて努力する。
 ⑦核兵器禁止条約と核兵器不拡散条約の相互補完性を認識し、両者の間に討議の場を設け、核関連の被害者支援、環境修復、および効果的な検証システムの構築に協力する。

【気候変動とクリーン・エネルギー】

 ⑧気候変動に関する政府間パネルの指摘に従い、ネットゼロ達成の目標年を可能な限り2040年に近い形に前倒しする。
 ⑨森林の育成、森林管理の拡大、泥炭地ならびに草原の保全、世界中の湿地帯の拡大、自然生態系の保護と回復、都市の緑化など、温室効果ガスの吸収源となる自然を育む。保全を優先させる。生物多様性の保護を気候変動とより強く関連づける。
 ⑩気候や経済の移行に対処する低・中所得社会への負担を軽減し、その財政的コストを補償する。
 ⑪気候変動が及ぼす甚大な影響への補償のため、グローバル・サウスならびに周縁化されたグループに対して、特に草の根レベルにおいて、ロス&ダメージ基金などを通じて、新規および追加資金を提供する。

【保健】

 ⑫公衆衛生上の緊急事態に柔軟に対応するため、医療対策への適時かつ公平なアクセスを確保するために、レジリエントな保健システムならびにユニバーサル・ヘルス・カバレッジを拡充する。

政策提言(英文)はこちら。

 

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 創立者は、これまで発表してきた提言において、人間を手段化し、理不尽に生命を損なう行為を直ちに停止することを一貫して訴えられている。それが本学の建学精神の基となる人間主義に立つ平和の回復と創造への第一歩であるからだ。1月に発表された緊急提言「平和の回復へ歴史創造力の結集を」において、「国際人道法と国際人権法を貫く“生命と尊厳を守り抜くことの重要性”を踏まえて、現在の危機を一日も早く終結させるべきである」と述べられ、国際人道法や国際人権法といった普遍的規範として<生命と尊厳を守り抜くこと>を訴えられていることを特に重視したい。

提言に示されている通り、今一度、“生命と尊厳を守り抜く”ということを最優先事項として、破壊と殺戮を止めなくてはならない。戦争の当事者のどちらに正義があるのかという対立を超えて、誰の生命も蔑ろにしないということを最優先に行動すべきである。

 国連は、国益が錯綜するパワーポリティクスの現場であるが、同時に「人類の議会」としてグローバルな連帯を生み出す「場」でもある。創立者が停戦への仲介者として国連の意義を強調される意味はここにある。そして、今回の提言で示されたように、停戦協議の場に「人々の生命と未来を守り育む病院や学校で働く医師や教育者などの市民社会の代表を、オブザーバーとして加えること」もたいへんに重要である。“生命と尊厳を守り抜く”との信条をもって行動する市民の連帯によって、それぞれの「正義」にとらわれがちな国家や民族の憎悪と対立を乗り越えるべきとの希望が示されている。

 互いの国民の命を奪い合う激しい対立が生み出す憎悪と不信を乗り越えることはあまりにも困難な道程であるが、不可能な途ではない。そのためには、相手を責めるだけではなく、自分自身も変化する勇気が必要になる。紛争関係にある人々が自他共に変化し、新たな価値を共に創り出すという形で解決を導き出すことが可能になる、ということが紛争解決研究/平和学の知見が示してきたところである。

戦争は最大の人道の危機であるが、それに加えて、私たちは人類の存亡にかかわる危機に直面している。来る広島サミットに向けて検討されているG7が取り組むべきアジェンダの多くはこうした人類的・地球的課題であることにもそれは現れている。今や人間同士で仲違いしている猶予などなく、生命が生存できる地球を皆で創っていくしか道はないと言ってよい。

 UNDPの特別報告では、新たな脅威の挑戦を受けている「人間の安全保障」を守り、促進するためには、「保護」と「エンパワーメント」に加えて「連帯」が求められると結論づけている。私たちは、人類の分断と対立を深刻化させる戦争、核兵器依存、格差社会、環境破壊といったグローバルな危機の解消に資する活動に真摯に取り組み、グローバルな連帯を創り出すことに貢献していきたい。

 

ページ公開日:2023年05月17日 11時00分