創価女子短期大学×SDGs「生理の公平を目指して!」

 昨年(2022年)6月、本学学生が「都民による事業提案制度」において提案した、「働く女性のウェルネス向上事業」が東京都の令和5年度の予算に計上されました。また、同年12月、大学コンソーシアム八王子の学生発表会(八王子市長へ直接提案セッション)において「生理の公平に向けて~八王子から女性が生きやすいまちづくりを~」をテーマに発表し、奨励賞を受賞しました。「生理の貧困」をなくし、「生理の公平」に向けたこれらの取り組みの背景には、どのような道のりがあったのでしょうか。中心となって活動した3名(国際ビジネス学科2年 中野菜摘さん(写真右)、橋本美紀さん(写真中央)、森本美里さん)を取材しました。

ゼミナールではどのようなことを学んでいるのでしょうか?

 私たちが学ぶ青野ゼミでは、「女性のエンパワーメント」をテーマに、SDGsに掲げられた様々な社会課題を「自分事」にしていくために、実践的にSDGsを学んでいます。昨年の先輩たちは、「生理の貧困」をテーマに掲げ、「いつでもだれでも安心して使える」生理用ナプキンの無料ディスペンサー「OiTr」の設置を大学に提案し、関東の女子大・女子短大で初めてOiTr導入が実現しました(創価女子短期大学×SDGs 「生理の貧困をなくそう!」。)そして、社会人基礎力育成グランプリ(主催:一般社団法人社会人基礎力協議会)で日本一になった姿をみて感動しました(2年連続3度目の日本一となる「社会人基礎力大賞」を受賞!!)。短大での姉妹の絆を実感する中で、私たちも何かに挑戦したいと決意するようになりました。
 SDGsの目標1に「貧困をなくそう」や目標5には「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられています。経済的な事情やネグレクト等の家庭内の事情といった様々なことが原因で、生理用品にアクセスすることが難しいと感じる女性が多くいると学びました。そのため、「生理の貧困」の問題に取り組むことは、SDGsの目標1と5に貢献すると考えています。そして、OiTrの設置は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標6「安全な水とトイレを世界中に」といった目標にも繋がり、SDGsの基本理念である「誰も置き去りにしない(leave no one behind)」に通じることであると考えています。

「都民による事業提案」ではどのようなことを提案したのですか?

 「都民による事業提案」とは、従来の発想に捉われない新たな視点から都政の喫緊の課題を解決することを目的として、東京都で2017年度から実施されているものです。「都民が提案し、都民が選ぶ」ことで、都民の声を直接施策に反映させる、都政参画の新たな仕組みとなっています。私たちは、ゼミナールの活動において、この事業提案に挑戦することを決めました。SDGsには目標8「働きがいも経済成長も」、目標11「住み続けられるまちづくりを」が掲げられていますが、女性が働きがいを持てる職場環境を目指して、そして、私たちが住む東京が「住み続けられるまち」になるために何をするべきなのかという問題意識を持って、研究調査し、挑戦を続けました。
 そのような挑戦の中、私たちは「生理の貧困」に関する問題を更に追求することはできないかと考えるようになり、この社会課題について更に調査をしました。そして、労働基準法第68条に定める「生理休暇(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)」に着目しました。厚生労働省の調査によると、この生理休暇の取得率は0.9%であることを知り、非常に驚きました。その理由は、導入している企業が少ないことや上司が男性で利用しづらい空気がある等が挙げられます。近年、女性の活躍が推進されていますが、生理で苦しんでいる女性がもっと働きやすい世の中にするために何をすべきかとチームで議論し合い、最終的に「働く女性の健康に関する普及啓発」事業を提案することに至りました。この提案を通じて、女性が安心して働ける大きな力になると感じています。

東京都財務局ウェブサイト(2022年8月当時)

事業提案で大変だったことはありますか?エピソードがあれば教えていただきたいです。

 そもそも事業提案をすること自体が初めての経験で、どのような人が何に困っているのかを考えることが難しかったです。これまで短大でもSDGsを学ぶ機会が多かったのですが(創価女子短期大学×SDGs ~短大での取り組み・基礎ゼミナール~)、今回の事業提案への挑戦を通じて、「SDGsの理解」と「SDGsの実践」は全く別であると感じました。チーム内で、生理で苦労した体験をお互い話し合う中で、「生理の症状で困っている女性のために何か力になりたい」と思えるようになり、挑戦に力が入りました。生理休暇は法律で認められていますが、職場の環境や上司に言いにくい等の理由から、なかなか企業で活用されていません。調べていく中で、どのようにして女性が健康を保ちながら働きやすい職場環境を推進していくかを考えることが非常に大変でした。議論を重ねていく中で、生理など女性特有の健康課題について普及啓発をしていく必要性を強く感じ、この啓発事業が「男女ともに働きやすい社会への第一歩」になると確信しました。この事業提案への取り組みを通して、社会課題を他人事ではなく「自分事」にしていくことの大切さを学ぶことができ、大きく成長できたと実感しています。

ゼミでの授業風景

「働く女性のウェルネス向上事業」が東京都の事業として予算案に計上されましたが、その時のお気持ちをお聞かせください。

 今回、私たちが提案した「働く女性のウェルネス(※)向上事業」が、令和5年度の東京都の予算編成において、「女性の活躍促進」を図るものとして4,900万円の予算案が盛り込まれたことに非常に大きな意義を感じます。私たちが提案した事業について、今後、東京都で「男性の理解を促進するため、男性向けに特化したオンラインセミナーの実施」や「調査結果を踏まえた発信・広報において、専門家の医学的な視点による記事の掲載」など、働く女性の健康に関する普及啓発が行われる予定となっています。短大生でも、東京都の政策実現に大きく貢献することができるということを非常に嬉しく思っています。この事業の推進により、女性が健康を保ちながら働き続けやすい職場環境を後押しし、女性活躍を一層促進することが期待されます。そして、この取り組みが、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標11「住み続けられるまちづくりを」などに貢献すると考えています。短大で学んだことがこのように形になったことで「短大2年間でもここまでやれる!」という自信にもなりました。
(※)「ウェルネス(Wellness)」)とは、「健康」の定義を身体的な視点だけでなく、「輝くように生き生きとしている状態」を含むとされている。具体的には「身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして輝く人生をデザインしていく、自己実現」という生き方も含まれる。

感謝状贈呈式に参加した感想もお聞かせください。

(中野菜摘さん)
 私たちの提案した事業が選ばれたと知った時は、とても驚き、それと同時に、女性が少しでも働きやすい環境ができることに嬉しさを感じました。東京都庁での感謝状贈呈式に参加し、小池都知事より表彰を受けた時はとても緊張しましたが(創価女子短期大学広報/ Twitter)、改めて東京都の政策に少しでも貢献することができたと実感し、チームで挑戦してとても良い経験になりました。ゼミの仲間たちと励まし合いながら、こうして提案をすることができたので、感謝の気持ちでいっぱいです。

(森本美里さん)
 本提案が事業化されることが決まり、私たちのビジョンである「男女共に働きやすい社会」に一歩近づけたことがとても嬉しいです。表彰式に参加して、実際に小池都知事から感謝状をいただいた時に、チームをはじめ、支えてくださった方々のお陰であると、改めて感謝の気持ちが強くなりました。また、日本の首都である東京都から、この事業に取り組んでいくことに大きな意義を感じています。例えば、生理への理解は男性のみならず女性同士でも理解が難しいことがあります。そのため、この事業を通じて、女性が健康を保ちながら働きやすい職場環境が推進され、そして、男女共に生理への知識と理解を深めていくことによって、誰ひとり取り残さない社会の実現が達成されることを念願しています。

次に、大学コンソーシアム八王子の学生発表会での取り組みについてお聞かせください。

 「大学コンソーシアム八王子・学生発表会」(主催:大学コンソーシアム八王子、後援:八王子市教育委員会)は、八王子市の大学コンソーシアムに加盟する25大学等に通う学生が、研究成果やアイデアを発表し、産学連携および地域活性化につなげることを目的に開催されているもので、今回で第14回目の開催となります。短大からも12チームが参加し、7チームが入賞するなど、短大生の活躍が光る発表会でもありました(第14回大学コンソーシアム八王子学生発表会で短大生が活躍!)。
 私たちは、「生理の公平の実現」を目指した提案に挑戦しました。既に昨年のゼミの姉たちが築き上げた枠組みをどのように発展させるか、新しい挑戦の連続でした。そして、「生理」のことを他人事にせず、他人の心を動かし、耳を傾けてもらうにはどうしたら良いかを考え続けました。
 昨年、短大の女子トイレに生理用ナプキンの無料ディスペンサー「OiTr」を設置しました。そして、姉たちの活動を通じて、東京富士美術館にも全国の美術館で初めてOiTrを設置したエピソードを聞き、「生理のことをオープンに語れる世界」を実現しようとする姿に感動しました。その一方で、今も生理に苦しむ女性は多くいるのも事実です。そこで、自分たちが住む八王子市内の女性、そして中学・高校生に向けて、「生理に悩む人の負担を軽減したい」というビジョンを掲げ、提案を考えました。私たちは、「八王子から女性が生きやすい街づくりを」していくために、①八王子市内のOiTrの普及、②生理休暇取得率向上の取り組み、③中学・高校生に向けた女性が住みやすい街づくりの三つの提案を考え抜きました。
 この提案に至るまで、八王子市男女共同参画課、オイテル株式会社、生理休暇を有給にしている民間企業、八王子市商工会議所などと意見交換を行ってきました。また、OiTrを導入している東京23区内の複数の自治体や八王子市教育委員会の方々の意見を伺うことを通じて、チームとしても一個人としても本当にたくさんのことを学ばせていただきました。時間がない中での挑戦でしたが、この活動を通じて、苦しんでいる人を救っていきたいという「心」が大切なのだと実感しました。そして、いつもその原点に立ち返らせてくれたのがゼミの仲間たちでした。学生発表会当日まで毎日のようにお互い励まし合いながら、自信と不安も交じりながら当日を迎えることができました。

市長への直接提案セッションで奨励賞を受賞しましたが、その時のお気持ちをお聞かせください。

(橋本美紀さん)
 発表会当日はとても緊張をしましたが、この日まで活動してきた思いを出し切ろうと精一杯プレゼンを行いました。結果的に、奨励賞をいただけましたが、大勢の方々の協力なくして成し遂げることができなかったので、関係者、そして励まし合ってきたゼミの仲間たちに、本当に感謝しています。ただし、提案の大切さや私たちの想いが伝わりきれていないという反省も残りました。しかし、私たちの発表を聞いてくださった誰か一人にでも、私たちの想いが伝わっていてくれたら嬉しいです。この貴重な経験をバネにして、今後何年先でも、「生理の公平」の提案に挑戦する妹を見つけたら、必ず飛んで行きます。

(森本美里さん)
 実は、この取り組みを始めた当初、「創価女子短期大学の素晴らしさを伝えたい、そのために最優秀賞を目指したい」との思いが強かったです。しかし、研究調査を進め、様々な方と意見交換を進める中で、本当に目指すべきは「生理に悩む人の負担を軽減したい」ということに改めて気づき、何のために学生発表会に参加するのかという原点に立ち返ることができました。そして、私たちが目指すのは「賞」ではなく、「八王子から女性が生きやすい街づくり」をしていくために提案を行うことであるという大切なことに気づくことができました。発表会を終えて、協力して下さった多くの方々がいたからこそ、ここまで頑張れたと感じ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

今回の体験を通して、どのように成長できたと感じていますか。

(橋本美紀さん)
 今回の体験から、「一人の人と心を通わせること」の大切さを、身をもって学びました。短大生は本当に頑張り屋さんが多く、たくさんのことに挑戦しています。お互い放課後に諸活動があり、本当に時間がない中での挑戦でした。そのような中で活動時間を価値あるものにしていくために何度も試行錯誤してきました。仲間が本当に理解してくれていたからこそ、活動が憂鬱になることが一切なく、体は疲れても心は本当に元気でした。「お互いを思いやること」が私たちの1番の強みだと思います。行き詰まりや焦りをどう突破するか、これがチームワークの鍵だと思います。そして、どこまでも一人の人を思いやれるかが一番大切であると感じています。今回の挑戦を通じて、このようにチームで働くという重要なことを学ぶことができました。そして、生理の問題について、考え抜く力、前に踏み出す力を培うことができたことが自身の成長として実感しています。

(森本美里さん)
 私は、「なぜ挑戦するのか」という原点の大切さを学ぶことができました。学生発表会までの期間は、学業や学内活動との両立で、お互いに時間がない中での挑戦でした。壁にぶつかる度に、このままで良いのだろうかと悩むことが多かったです。しかし、チームでお互いに励まし合う中で、自分の原点に立ち返ることで、何のためにやっているのかを思い出しました。「生理で悩んでいる女性のために」という出発点に立ち返り、そうすることで、気持ちが負けることなく、最後まで歓喜に満ちた姿で戦い切ることができました。

最後に今後の決意を教えてください。

(中野菜摘さん)
 生理は軽い症状から、学校や会社に行けなくなるくらい重い症状まで、100人100通りあります。だからこそ、今後は男性女性ともに生理のことを正しく理解して、互いに思いやりながら働くことが益々大事になってくると思っています。これからも、ゼミで学ばせていただいた、困っている目の前の一人に寄り添う力を発揮して、SDGsの勉強と実践をし続けていきます。

(橋本美紀さん)
 これからの社会では、「人間性」が何よりも大切になると実感しています。今回の挑戦で学んだことは、SDGsは実践していく中で大きな意味を持つということです。今後は、今回の挑戦を通して学んだことを活かして、自らが挑戦の機会を求め、前進していく決意です。これまで「挑戦」というと何か大きなもので捉えていて、億劫になっていたのですが、今回の体験から、日々どんなに小さな物事でも自分の心次第で大きな意味を見出せると確信しています。これからも、大好きな短大姉妹の絆を大切にしながら、社会に貢献できる人材へと成長を続けていきます!!

(森本美里さん)
 女性の社会進出が進む一方で、生理の貧困問題や生理休暇を取得しにくいなど、女性が働きやすい環境が整っていないのが日本の現状です。そのため、就職後は自身の職場から男女が共に働きやすい環境をつくっていく決意です。短大で挑戦してきたことを原点に、勇気の心で一人立ち、社会のために貢献しゆく女性リーダーに成長していきます!

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