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2023年06月30日 11時00分

《卒業生の活躍》研究者

中嶋 亮太さん 工学部(現 理工学部)2004年度卒業

 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 地球環境部門

必然の出会いを経て、研究者として生きていく最も大切な姿勢を教わる

子どものころからアマゾン川の熱帯魚が好きで、小学2年でピラニアを飼うほど熱中していました。中学3年の夏休みに「将来やりたい職業の人に会ってレポートを書く」という宿題を出され、創価大学の戸田龍樹教授(当時准教授)に手紙を出しました。当時の私の興味は海洋生物へと広がっており、戸田教授は海洋プランクトンの研究をされているので、おもしろい話が聞けるに違いないと考えたのだと思います。後から聞いた話ですが、大学の教員にわざわざ手紙を書く中学生はあまりいないようで、教員や研究室の方々は「なんか変な中学生がやって来る」と話していたそうです。その出会いによって海に棲む生き物への興味がますます高まり、高校卒業後は戸田教授の研究室に入ろうと決めて創価大学に入学します。
 

研究室では常にベストを尽くすことを求められました。中途半端なプレゼンをした際には「みんなの時間を使っているのだから毎回最高のものを発表しろ」とよく怒られましたし、全力で研究データを取ることが求められました。ただ、実際に自分が研究者になってみると、あれほど厳しく指導された理由がよくわかります。良い研究をして良い論文が書けなければ、研究費を獲得できません。研究費がなければ、どれほどその研究が好きでも続けることはできません。自分が本当に好きなことを続けたいなら、何事にも粘り強く取り組み、常にベストを尽くさなければならないのです。大学時代のこの教えこそ研究者に最も大切な姿勢であり、いまの自分のベースとなっているものです。
 

寮生活とクラブ活動、そして研究。かけがえのない時間を過ごし、JAMSTECへ

大学生活で特に印象に残っているのは学生寮とクラブ活動のことです。私が過ごした学生寮には、1年生から4年生まで留学生も含めて多種多様な人材が共に生活しており、自分の価値観を超えるさまざまな出会いがありました。寮の仲間と真夜中まで語り合った日々はいま思い返してもかけがえのない時間です。所属したクラブ『海洋調査探検部』ではスキューバダイビングを楽しみ、夏期休暇中には沖縄や八丈島へ遠征しました。クラブ活動で上達したダイビングのスキルが、後の研究活動にとても役立ちました。
 

4年次にゼミに入ってからはサンゴ礁が豊かなマレーシアに滞在し、海に潜ってサンゴ礁生態系の研究を開始しました。卒業後は創価大学の大学院に進み、サンゴ礁に棲むプランクトンの研究で博士号を取得しました。その後、創価大学工学部(当時)の助教を務め、念願だった南米アマゾン川の生物を調査する機会も得られました。さらに米国トップの研究機関の1つであるスクリプス海洋研究所で2年間を過ごし、現在は国の研究機関である海洋研究開発機構(JAMSTEC)で深海生態系や海洋保全の研究に携わっています。
 

深海には未知の領域が多分に残され、新種も次々に見つかります。一方で、人間活動の影響は深海底にも及んでおり、生物多様性の保全が急がれています。深海生態系の種を保全するために、どこを優先的に保護すれば効率よく種を保全できるか調査を進めてきました。その成果は、環境省によって深海底に制定されつつある海洋保護区の選定材料となり、環境政策やSDGs14番への達成に貢献しています。また、深海底には地上で枯渇している鉱物資源が膨大に眠っているため、海底の鉱床開発が近い将来に計画されています。そのため開発に伴う環境破壊の影響を予見する研究も行い、そのリスクを世界で初めて報告しました。
 

深海の底でいくつも見つかるプラスチックごみ。10年先を見つめ、環境問題の解決に挑む

これまでさまざまな海洋調査を行ってきましたが、そのたびに目についたのがプラスチックごみの多さです。毎年、東京スカイツリー300個分とほぼ同じ重さのプラスチックごみが海洋に流入していると推測されていますが、プラスチックは生物に分解されないため、消えないごみとして海洋に蓄積を続けています。世界中のどこを探しても、プラスチックごみが見つからない海は存在せず、深海も例外ではありません。最近の調査では、日本周辺の深海底から、30年以上前の食品包装のプラ袋が次々に見つかっています。紫外線や熱によってプラスチックが劣化し、砕けて微細化したマイクロプラスチックも深刻な環境問題を引き起こしています。
 

事態は深刻で、この状況を少しでも多くの人に知ってもらうために、TVや新聞などのメディアや書籍・講演会を通じて積極的に情報発信を続けています。今後10年間は、海洋プラスチックごみの問題を解決する政策提言に貢献するための科学データの創出に力を入れていきます。「いつも10年先を考えて行動しなさい」というのも創価大学の教え。本当に多くの学びを与えてくれた大学への感謝を忘れず、これからも海洋保全の研究に邁進したいと思っています。
 


※大学案内『キャンパスガイド2024』より引用。所属部署・業務内容は取材時のもの。
ページ公開日:2023年06月30日 11時00分