戸田 龍樹 教授

生き物の力を活用した「修復生態学」で、
新しい循環型社会の可能性を伝えたい!

顕微鏡で覗いた「未知の世界」が、
深海調査につながった

「まるで、別の世界を覗いているみたいだ」高校生の時、生物の授業で池の水を顕微鏡で観察した際、大きな衝撃を受けました。見た目は透明な水なのに、プランクトンなどの小さな生き物がたくさん動いていたからです。生物関連の分野に興味を持った初めての瞬間かもしれません。後に北海道大学の水産学部に進学するのですが、そこでも「浮遊生物学」つまりプランクトンに関する研究室に入りました。

水産学部に進学したもう一つの理由が「探検」です。小さいころから探検家という存在に魅力を感じており、どこか未知の世界を訪れることに憧れがありました。とはいえ、探検そのものを仕事にすることは非常に困難です。そのため船舶や海洋学に関する学部に進学しました。大学院では東京大学の海洋研究所に所属し、潜水調査船「しんかい2000」に乗船してプランクトンを採取するために深海に潜ったり、エルニーニョ現象を調べるために2ヶ月間の海洋調査に出たりしました。いわゆる探検家とは異なりますが、貴重な時間を過ごすことができたと感じています。

海外の事例から
環境技術の可能性を学ぶ

創価大学ではプランクトンなどの生物を工学的なアイデアと組み合わせ、循環型社会の構築につながる研究に取り組んでいます。そのひとつが、自然の力を活かして環境の改善を目指す「修復生態学」です。例えば排水を処理する際、微生物を活用することで生態系に負荷を与えない、ないしは生態系を修復するような技術です。授業では海外で実際に導入されている事例を紹介して環境技術について教えています。

私は1年のうち2ヶ月ほどを海外で過ごしますが、帰国するたびに日本独特の社会常識に驚かされます。例えば山手線の到着が3分遅れると「電車が遅延しておりご迷惑をお掛けしております」とアナウンスが流れると思います。でも、日本以外の先進国では3分の遅延なんてまず問題になりません。こういった日本独自の考え方が、環境技術の面にも存在しています。その代表例がトイレの排水です。日本のトイレでは飲めるくらいキレイな水を排水に使用していますが、このような国は少数派です。なぜなら飲むための水ではないので、そこまでキレイにする必要がないからです。……改めて言葉にすると、当たり前のことしか言っていないですね(笑)

他にも下水の処理なども独特です。他の国ではもっと効率的な方法を採用していたり、処理の過程で別のエネルギーを生成していたりします。山手線のアナウンスと同様に、日本独自のルールに囲まれているとそれが少数派だと気づかないわけです。なので授業では外国で採用されている技術を積極的に紹介しています。「本当はこんなに使える技術があるんだよ」と、学生の固定概念に無いアイデアを与えることも、授業を行う意義の一つだと考えています。

「研究を実験室で完結させたくない」
研究のやりがい、面白さとは

研究している技術が、社会でどのように使われるのか。それを考えている時は非常にワクワクします。実験室の中で試行錯誤し、それを一般の社会に応用して良い結果が得られた時にはやりがいを感じます。実験室の中だけで完結する類の研究も存在しますが、少なくとも私にはあまり興味がありません。心を動かされるのはいつも、社会の問題解決のために技術を活用しているときです。

もちろん失敗だってたくさんあります。私は技術と技術を組み合わせる方法を考えている時が特に好きなのですが、実際に試してみると非常に難しい。そのまま成功することは滅多にないので「技術を組み合わせる技術」にいつも頭を悩ませています。ですが、上手くいかないからこそ面白いと思います。何の問題もなく成功してしまえば、それは研究ではなく業務です。人間は結果が先に見えるとやる気がなくなると言われていますが、本当にその通りだと思いますね。

「やわらかい理工学」を学んで、
社会に求められる人材へ成長してほしい

普通は工学や理工学というと、電気工学や建築学をイメージすると思います。ですが創価大学の理工学部は「情報・生命・環境」に強いという点が特長です。私はハード(物理)ではなくソフト(無形)の理工学であることから「やわらかい理工学」と呼んでいるのですが、これらの分野は今まさに、そしてこれからの社会に求められる分野です。情報はAIやビッグデータ、生命だったら生命操作工学やタンパク質工学、そして環境は環境技術の知識。デジタル人材不足、医療や健康の問題、気候変動など、現代社会の課題に応える知識を身に付けられる学部・学科と言えるのではないでしょうか。

以前は「生態学や環境系の分野は就職に不利」と言われることもありました。しかし、現在は地球環境に配慮した経営が求められており、環境技術を学んだ学生に注目が集まっています。ぜひ、本学部・学科で今の時代に求められる技術や考え方を学び、社会で活躍していただきたいと考えています。

研究を漢字一文字で表すと?

「遊」

せっかく人生をかけて研究に取り組むなら楽しい方が良いですよね。何事も遊ぶように楽しく行いたいですし、本当に好きなことなら時間を忘れて熱中してしまうものです。自分の仕事が楽しいと思えれば、人生も豊かになるはず。学生のみなさんも、自分が心から楽しいと思える何かを創価大学で探してみてください。
<経歴>

【学歴】
昭和59年  北海道大学水産学部水産増殖学科卒業(水産学士)
昭和61年  北海道大学大学院水産学研究科修士課程修了(水産学修士)
平成2年    東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)

【主な職歴】
平成2年    東京大学海洋研究所 日本学術振興会特別研究員
平成3年    創価大学工学部生物工学科 講師
平成15年  同大 工学部環境共生工学科 教授
平成17年  工学部環境共生工学科長
平成25年  同大 工学研究科環境共生工学専攻長
平成27年  同大 工学研究科長
令和3年    同大 理工学部長

その他、横浜国立大学教育人間科学部、東京農工大学農学部・工学部、滋賀県立大学大学院などで非常勤講師、マレーシア国民大学客員教授など歴任

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