久米川 宣一 准教授

魅力的な新品種やITによる省力化で 地域の農業をもっと美味しく、楽しく!

遺伝子という便利な情報を使って 人に役立つ新しい品種を作る
 私の専門は植物の「育種」です。植物同士をかけ合わせて、人間にとって望ましい性質をもつ新しい品種を創り出します。農耕が始まったころにまでさかのぼる古い技術ですが、私はそこに遺伝子についての知見を加え、効率よく新しい品種を生み出しています。
 かけ合わせる植物を「育種材料」といいますが、それがどのような性質をもつ品種なのかがわかっていないと、目的にかなう育種ができるまで時間がかかってしまいます。育種材料の品種を明らかにするには、植物のもつ遺伝子を調べる「遺伝子解析」が役に立ちます。
 ちなみに、私は植物の遺伝子を扱う専門家ですから、人為的に遺伝子を操作して新しい品種を作る「遺伝子組換え」もやろうと思えばできます。しかし、私はその技術を生命現象の解明に使うのにとどめ、従来どおりの手法で育種を行っています。
「植物ハカセ」だった子ども時代から 興味の対象にとことんのめり込む!
 私は植物が大好きで、小学生のころは植物図鑑を見るのが趣味でした。今よりもたくさんの植物の名前が頭に入っていて、「植物ハカセ」と呼ばれていたのです。祖父の影響で盆栽と園芸もし、中学のときには自分で作ったキュウリを近所にたくさん配ったりしていました。
 理科も大好きで、中学では理科部の部長として20〜30人くらいの部員を率い、花火を作ったり(今では規制があって無理ですが、昔はできたんです)、校区内のタンポポ調査をして市のイベントに出展したり、華やかに活動していました。楽しかったですね。
 ところが高校に進学して、暗記中心の勉強が面白くなくなってしまいました。ただ、わからないことを「それはなぜ?」と追究するのは楽しくて、興味のあった化学にだけはのめり込んで勉強していました。
 結局、私がモチベーションを持てるのは興味があることだけなのです。それは今も昔も変わりません。
 農学部志望だったのですが、創価大学に工学部ができるということで急遽受験。なんとかすべりこんで生物工学科(当時)の第1期生になりました。
大学でバイオテクノロジーに触れ 遺伝子研究の面白さに夢中に!
 大学に入ると、大好きな化学の授業があまりにも難しくて打ちのめされました。一方で、生物の基礎を学んでいくうちに、当時新しい学問領域だった遺伝子に興味を持ち始めたのです。
 私が大学に入学したころは、ちょうどバイオテクノロジーが花開いた時期です。遺伝子のはたらきや、それによって生物現象をどのように説明するのかが、とてもスリリングで面白く、今度は遺伝子の勉強にのめり込んでいきました。
 学部終了後は他大学の農学部の院に進みました。伝統的な農学と遺伝子学という新しい分野が一緒になった時期にあたり、私はイネの品種を見分ける遺伝子解析にも携わらせて頂きました。ちなみに当時の上司がこの基本技術を確立し、やがてブランド米「コシヒカリ」が本物かどうか、正確に見分けることが可能になったのです。
作物が巨大化し栄養素も増える 倍数性育種で新しい品種づくり
 いま私の研究室では、染色体を通常より増やす倍数化技術をメインにクワなどの育種をしています。
 生物は両親から染色体という遺伝子の乗り物を1セットずつ受け継ぐので、染色体は2セットあります(2倍体)。それが3セット(3倍体)や4セット(4倍体)だと生物はどうなるでしょうか?
 その答えはイチゴにあります。イチゴは普通の4倍の染色体セットを持つ「8倍体」なのです。2倍体のイチゴは小指の先ほどの大きさしかありません。いま流通している大ぶりのイチゴのブランドは、先人たちが長年倍数性育種をしてきた結果です。
地元の農業を元気にしたい! その想いが研究の原点
 創価大学にはもともとクワ研究で有名な先生がいらして、その研究を引き継ぎました。種苗登録しているクワの品種「創輝」は、葉っぱが30
 そもそもなぜクワなのか?というと、創価大学がある八王子は絹織物で有名で、別名「桑都(そうと)」といわれるくらいクワの栽培が盛んな地域でした。そこで「大学の知を地域に還元して貢献しよう」ということからクワの育種が始まったのです。
 「創輝」は病気にかかりにくく病害虫も少ないため、丈夫で無農薬でも育てやすいという特長があります。葉っぱが大きいので収穫の効率がよく、地元の農家の人たちには「少ない手間ですむ」と好評です。

 

美味しくてアントシアニンたっぷり 「食べるクワ」の開発に成功!
 私が今手掛けているのは、食品としてのクワです。ここに赴任したとき「クワはカイコの餌だけじゃなく、人間の体にもいい」という話を聞いて、「これだけクワの育種素材が豊富にあるのだから、人間が食べるための育種をしましょう」と、提案したのです。
 サイズが大きくなるだけではなく、栄養素が増えるのも倍数体の特長です。まず、とても長くて大きく、食べでがある実をつけるクワができました。通常のクワの実は糖度が15~16度ですが、このクワの実は最高糖度が23度と、クワの実とは思えないほどに甘いです。
 もう一つ、実は小さいけれどアントシアニンがブルーベリーの4倍以上含まれるクワも作りました。このクワは3倍体なのでツブツブしたタネが少ない分、アントシアニン含有量が高くなるのです。
 視力回復に効果がある量のアントシアニンをブルーベリーで取ろうとすると、1日に300g以上食べる必要があります。このクワなら15粒食べれば十分です。これを新たに品種登録しようとしているところです。
 地元の近郊農業を元気にするには、農産物のブランドづくりが不可欠です。育種はオンリーワンのブランドづくりに適しており、特に市場規模がまだ小さくて種苗会社が手を出しにくい分野が狙い目です。そのようなチャレンジができるのが大学の研究の強みですね。クワが一段落したので、次はハーブの育種に取り組み、ブランド化する予定です。
大学内コラボから生まれた 農業用センサーという目標
 創価大学は教員の仲がよく、研究室同士で気軽にコラボができます。たまたま情報システム工学科の先生が「農業用のセンシングができないだろうか」と声をかけてくださったとことから始まったのが、「農業用ヘテロコア型光ファイバーセンサ」の開発です。
 私もかねてから樹木や植物のセンシングに興味がありました。高齢化と人手不足が進む日本の農業は、ITを使ってどれだけ省力化できるかが問われています。農業とITの融合はいまとても注目されている分野です。
 みなさんも鉢植えを育てるとき、植物がしゃべれて「水がほしいよ」とか「ここは暑すぎる」と教えてくれたら枯らさないですむのに、と思ったことはありませんか?しゃべれない植物にかわって、いまの状態を教えてくれるのが農業用センサーなのです。
 今手がけているのは、水やりを自動化するために土壌の水分を測るセンサーと、植物の生理状態の変化を捉えるセンサーの2つです。後者はミカンの幹の太さ(周囲長)を毎日マイクロメーター単位で測り、環境変化との関連を探っています。
 使っている技術は同じですが、植物の状態を捉えるセンサーのほうがゴールまでの道のりが遠くてたいへんです。幸い年間を通して実験するうちに、環境が変わってミカンがストレスを感じると、センサーの測定データに乱れが出ることがわかりました。
 植物の発するストレス物質を測ろうとすると大掛かりな装置が必要で、植物のストレスをモニタリングするのは非常に難しいと考えられてきました。それを気軽に測れるようになればとても便利です。このセンサーひとつで植物の状態がある程度わかるようにして、農業に役立ててもらうのが最終目標です。
好きなことに夢中になりながら 新しい価値を生み出せる喜び
 研究していて楽しいのは、一風変わった花を咲かせる新しい品種ができたり、新しい美味しさを実感する瞬間です。遺伝子解析によって、クワの実からパンに最適な天然酵母を見つけました。他の研究室とも協力して、創価大学ブランドのパンづくりを目論んでいます。そういう広がりも楽しいですね。
 うちの研究室には植物好きや動物好きなど、自然を愛する学生たちが集まっています。植物を管理しているので、毎日コツコツ面倒をみるのをいとわない人が向いています。育てることに真摯に向き合い、「先生!これちょっといつもと違いますが、どうですか?」と、変化に敏感に気づく人に来てほしいです。
 もしかしたらかつての私のように、自分のやりたいことがはっきりしている生徒ほど、高校の勉強が楽しくないかもしれません。でももうちょっとの辛抱です。大学ではほんとうに好きなことにチャレンジして伸びていけます。それを楽しみにがんばってください。
研究を漢字一文字で表すと?
「創」
品種登録しているクワの名前にこの1文字を使っているということもありますが、育種は新しい品種を創りだすことであるからです。
<経歴>
1972年 大阪府出身
1995年 創価大学工学部卒業
2000年 東京大学農学生命科学研究科 博士(農学)
2000年 (財)かずさDNA研究所 特別研究員
2003年 創価大学工学部環境共生工学科 講師
2015年 創価大学理工学部共生創造理工学科 講師
2020年 創価大学理工学部共生創造理工学科 准教授
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