所長挨拶
一例を挙げましょう。植物プランクトン(単細胞性藻類)はヒトが合成できない多価不飽和脂肪酸を生産します。それらの物質の多くはヒトにとっての必須脂肪酸であり食品として摂取することになります。イワシの栄養成分であるDHAやEPAは、もともと植物プランクトンが生産したものが食物連鎖を通してイワシの体内に蓄積したものです。人工条件下で植物プランクトンを使って効率よくDHAやEPAなどの有価物を生産するのはプランクトン工学の一分野です。創価大学では、こうした研究を進める学内共同利用施設としてプランクトン工学研究開発センターを2018年5月に立ち上げました。センターではマレーシアから分離した株を用いた有価物生産の研究を進めるとともに、新たにエチオピアから採取した培養株を用いて現地における栄養・食糧問題の解決に向けた研究を開始いたしました。このような有価物の生産では、水中に懸濁しているプランクトンを培地ごとまるで溶液のように扱えます。このため、生産プラントを一連のフロー系として組み立てることができるので生産効率を高めることが可能になります。この点もプランクトン利用の利点です。この他にも、有機物を含む排水の処理や、窒素やリンなどの栄養塩除去による水圏環境の改善もプランクトンを利用することで新たな技術展開が期待されています。
プランクトン工学に含まれるのは生物系、理工系分野だけではありません。生物の機能を社会実装に結びつけるためには、社会のニーズを把握し、生産システムを社会制度に適合させることが不可欠であり、また、経済的合理性がなければ持続性は担保されません。このため、人文・社会科学との協働が必須です。こうした文理連携体制を整備し、センターの機能をさらに充実させるためにセンターを発展的に改組して、2020年9月にプランクトン工学研究所が設立されました。プランクトン工学研究所では、創価大学がもつ総合大学としての強みを活かして生物系、理工系、人文・社会系が密に連携してプランクトンの機能を利用した環境問題や食糧問題の解決に取り組んで参ります。これらの活動を通して豊かな人間社会の実現に貢献し、新しい循環型社会の構築に寄与することを目指しており、本学における「持続可能な開発目標(SDGs)」に向けた取り組みの一環です。皆様のご理解とご支援を心よりお願いする次第です。
創価大学プランクトン工学研究所長 古谷 研
メンバー
客員教授・研究員
中崎 清彦
プランクトン工学研究所 客員教授
生物化学工学、環境微生物学 等
李 洪武
プランクトン工学研究所 客員教授
海洋生物学、水産学 等
戸松 千秋
プランクトン工学研究所 客員研究員
機械工学 等
施設紹介
UPLC H-Class PDA-QDa (Waters社製)
- 混合成分を高精度で分離し物質の特定・定量が可能な分析装置
- プランクトンの有用成分(色素・抗酸化物質)を測定できる装置
Autoflex speed MALDI-TOF MS(Bruker社製)
- レーザーを用いて試料を気化し、物質の組成を高速で測定することのできる最新型の分析装置
- 脳科学をはじめとする多くの生物分野で活躍
直立型屋外プランクトン培養装置
- 実験塔(高さ約15m)に培養パネル(高さ3m)を3枚設置した装置
- 将来的な建物壁面での屋外培養を視野に入れた培養実験設備
バッグ型屋外プランクトン培養装置
- ドイツから日本に初めて輸入した高性能・全自動微細藻類培養装置
- 途上国に適した安価なバッグリアクターの開発のため、全自動運転を様々なリアクターで実施可能