研究室紹介

池口 雅道 教授

最先端の技術を駆使して タンパク質の形の美しさの謎に迫る!

人体を構成する10万種類のタンパク質。 それを構成するのはたった20種類のアミノ酸!

私たちの研究室で扱っているのは、タンパク質です。タンパク質は、アミノ酸がひも状に連なった物質からできています。実際には、ひも状の物質が折りたたまれて複雑な立体構造をとり、構造に応じたさまざまな機能を果たしています。
人体を構成するタンパク質だけでもおよそ10万種あるといわれていますが、タンパク質を構成するアミノ酸はわずか20種類しかありません。その20種類のうちどのアミノ酸がどのような順番でつながるかにより、タンパク質の形は自動的に決まります。しかし、なぜそのような形になるのか、その全容は解明されていません。また、構造そのものがわかっていないタンパク質も存在します。タンパク質は非常に小さいため、顕微鏡で直接観察できないので、謎が深いのです。
研究室では、タンパク質の構造がどのように形成されるのか、アミノ酸配列とタンパク質の立体構造にはどのような関係があるのか、といったことを、遺伝子組み換え技術や、NMR(核磁気共鳴)法、X線などを用いた最先端の手法で研究し、さまざまな機能をもつタンパク質を人工的に設計しようとしています。

人間の血液中にあって、酸素を運ぶ働きをしているヘモグロビン。これもタンパク質の1種です。その立体構造は、上の図のようにとても複雑です

有用なタンパク質に新たな機能を持たせる

研究の例を挙げてみましょう。例えばフェリチンという、私たちの肝臓の中で鉄をたくわえているタンパク質があります。フェリチンは中が空洞のボールのような形をしていて、その球状の殻の中に3価の鉄があります。3価の鉄は水に溶けませんが、タンパク質自身が溶けるので、鉄はフェリチンとともに血管の中を流れ、各細胞に取り込まれます。細胞に取り込まれるとフェリチンは分解され、中の鉄が使われます。
このフェリチンの中に鉄以外のものを入れることができれば、新たな薬や素材の開発につながる可能性があります。しかし、そのためにはフェリチンの殻を利用しやすい形にする必要があるため、フェリチンの殻ができる過程を調べたり、アミノ酸を他のアミノ酸に置き換えたりするような研究をしています。

タンパク質がその機能を果たすには 形が重要!

新たなタンパク質を人工的につくるときには、実際にアミノ酸を並べてくっつけたりしているわけではなく、DNAを操作します。目標の機能をもつタンパク質の構造はどのようなものか、その構造をとるタンパク質はどのようなアミノ酸配列なのかを考え、必要なアミノ酸を作らせるためのDNAの塩基配列を考えるのです。こうして操作したDNAを大腸菌に組み込みます。そうするとタンパク質が自動的にできあがるのです。
タンパク質がその機能を果たすには、形が重要ですが、思い通りの形のタンパク質をつくるのは非常に難しく、また、つくったタンパク質に新しい機能を持たせることは、さらに難しいことです。大きな謎に挑戦できる、やりがいのある研究です。
タンパク質の形は本当に複雑で美しいものです。これをつくりあげた生物の進化は素晴らしいものだ、と感じています。

「形」ができる仕組みに興味を持ち、 学部を決めずに入学できる北海道大学へ

現在はタンパク質の形と機能の研究をしているわけですが、今にして思うと、子どものころから「形」に興味がありました。
高校生のときには地学で大陸移動説の話を聞きました。南アメリカ大陸とアフリカ大陸の海岸線の形に注目するところから始まり、それを証明するためにどのようなことをしたのか、というような話がすごく面白いと思ったのを覚えています。また、有機化学で扱うベンゼン環などの化合物の形にもひかれましたし、いろんな面で「形」が好きだったという気がします。昆虫の擬態も面白いな、と思っていました。進化の考え方では「たまたま擬態できたものが、たまたま生き残った」ということになるのでしょうが、そうなろうと意図して擬態しているようにしか思えないですよね。
そんなふうに「形」を入り口として、いろいろなことに興味があったので、大学を受験するとき、学部を絞りきれませんでした。そこで、学部を決めずに受験し、入学後に学部を選択できる北海道大学の理系に入学しました。

葉っぱにそっくりなコノハチョウ。まるで初めから葉っぱに真似るように進化してきたように思えますが、実際は「たまたま葉っぱに似ていた個体が生き残った」ことで、進化してきました

タンパク質の形の美しさ、不思議さに出会う

1、2年生の間は、数学や物理化学などの基礎的な科目を勉強し、その傍ら、いろいろな学部の先生を訪ねては、研究内容をうかがいました。結局、いろいろな先生のお話しをうかがった中で、生体高分子学研究室が面白そうだったので、4年次の研究室はそこに決めました。
当時はDNAとかタンパク質などの形がわかり始めた時期でもありました。タンパク質そののもの形の美しさはもちろん、絶妙な形が自動的にできるその不思議さにひかれましたし、人工的につくれればいいな、と思いました。
4年の卒業研究で取り組んだのは形ができる仕組みの研究ではなかったのですが、実験をするときに何を考えてどんな実験をするのか、どうすれば謎が解けるのか、というようなことを考える醍醐味を味わいました。当時は就職活動の解禁が4年生の10月だった時代なので、就職のことは4年生になってから考え始めたのですが、まだまだ勉強していないこと、知らないことがたくさんあるという気持ちがとても強くなり、大学院へ進学することにしました。

大学院で、念願の「形ができる仕組みの研究」に着手

大学院では、実際に形ができる仕組みの研究をしました。最終的な形ができる前には、必ずその中間体があるはずなので、その中間体を確認しようという実験です。目に見えない世界ですから、円二色性分散計(CD)という装置を使い、スペクトルの変化を追跡することでどういう形ができたかを調べるような実験でした。
変化を見ていくと、途中で反応が止まったような状態になることがあります。その状態が見えたらそのときの形を推測します。形ができる過程で、速い反応と遅い反応があります。形ができあがるまでにかかる時間は100秒ぐらいですが、1秒ぐらいでできる構造があり、そこで反応が止まったような状態になります。そのときのスペクトルを見ると、1秒以内にできた部分の形だけがわかるということになりますね。
そういう研究をしていくと、タンパク質の種類によらず、構造の中でも、らせんの部分は速くできるとか、らせんになりやすい配列はどういうものかとか、ということがわかります。そうすると、アミノ酸をどんな配列にするとどんなタンパク質になるのかということを推測することができます。

不必要なものはない。 何でも意欲的に勉強を

現在私がしている研究も、この時の研究の延長上にあります。はじめにタンパク質の研究に取り組んだのは、形の美しさにひかれたのがきっかけでしたが、謎が深すぎて、謎解きに挑戦し続けている感じがします。自分が立てた仮説通りの実験結果が出たときや、謎が解けた瞬間は本当に嬉しいですね。
私たちの研究室では、物理も化学も必要ですし、生物のことも調べたりしますから、学生にはいつも、何でも勉強しておいた方がいいよ、という話をします。最近の学生は、できるだけ勉強する分野を絞って効率よく良い成績をとろうとしますが、不必要なものはないという気がするのです。何でも勉強しておくと、将来的には必ず役に立ちます。

タンパク質の立体構造を調べるときに使う、NMR(核磁気共鳴装置)。とても高価なものですが、ミクロな物質の構造解明には欠かせない装置です

楽しんで勉強し、知ることの楽しみを感じてほしい

また、間接的に物の形を知るということは時間のかかることなので、根気は必要です。学生にはよく、伊能忠敬は日本地図をつくるために日本全国を歩いたんだ、という話をしますが、そのような気の長さは必要ですね。
研究もそうですが、学生には楽しんで勉強してほしいと思っています。最近はとにかく成績を気にする学生が多く、「この実験結果で正しいですか」「レポートはどう書けばいいですか」といった、成績を良くしようという問いかけが多いのです。確かに良い成績を収めることで得られるメリットはいろいろあるのでしょうが、それは楽しんで勉強した結果であるべきで、もっと知ることの楽しみを感じてほしいと思っています。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「謎」

私にとって研究の発端は「謎」であり、謎が解きたくて研究者をしています。もちろん、何かの役に立ちたいと、成果を応用する目的で研究をしている研究者もおり、それも立派なことです。ただ私の場合は目的志向ではないので、まず「あれっ?」と思ったことが研究のスタートであり、原動力となっています。

プロフィール

共生創造理工学科 池口 雅道 教授
1988年 北海道大学大学院博士課程修了、理学博士
1987年 日本学術振興会特別研究員
1989年 創価大学講師
1995年 創価大学助教授
2000年 Universitaet Bayreuth (Germany) 客員教授
2002年 創価大学教授

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井田 旬一 教授

「材料の力」で発展途上国の環境問題解決に貢献!

世の中の問題を解決し、生活を変える「材料開発」

私の研究室では、新しい材料の開発に取り組んでいます。材料開発には、世の中のいろいろな問題を解決する力、生活を変える力があります。近年では、青色発光ダイオードが開発されたおかげで、照明の世界が変わりましたね。宇宙に行くにも深海に行くにも、新しい材料が必要です。
私たちは材料開発の中でも、環境問題を解決するというところを焦点に研究を進めています。いろいろな研究に取り組んでいますが、一部をご紹介しましょう。
現在のメインの研究テーマはゲルの開発です。身近なところにあるゲルといえば、こんにゃくや豆腐、ゼリーなどがそうですね。また、紙おむつにも吸水ゲルが使われています。しかし最近では、このようなゲルとは全く異なる新しいゲルが続々と開発されてきています。例えば、花の上に乗せられるような超軽量のゲルや、車で上に乗っても壊れない高強度ゲル、環境によって性質の変わるゲルなど、様々なゲルが開発されていて、面白い分野です。

井田先生の研究室で作成しているゲルの様子

微生物の力を活かすゲルで、水処理の低コスト化をはかる

私たちは、メキシコのグアナファト大学と共同で、水処理に利用できるゲルの研究を行っています。微生物の力で汚水を処理するとき、有機物は分解できてもアンモニアは残ってしまうので、それを無害な窒素にまで変換しなければなりません。硝化細菌という細菌を利用してアンモニアを処理することはできるのですが、その処理には大量の空気(酸素)をポンプで送り込む必要があり、莫大な費用がかかります。汚水処理の問題は発展途上国でも深刻で、この莫大な費用を賄いきれない国が多くあります。
私たちの共同研究では、硝化細菌とともに、酸素を生みだす微細藻類を利用しようと考えています。微細藻類は光合成をするのに光を必要としますが、硝化細菌は光があると死んでしまいます。そこで、遮光できる物質の入ったゲルをつくり、その中に硝化細菌を閉じ込めて、微細藻類とともに装置に入れることにしました。これなら低コストなので、途上国でも導入しやすいのです。

ゲルの特性を活かして硝化細菌を閉じ込め、汚水を処理するための装置を開発しました

スマート材料で、エネルギーをかけずに重金属をリサイクル

また、現在、材料の分野では、スマート材料とか、インテリジェント材料とかいわれるものが注目されています。これは、環境によって性質が変わる材料のことです。
私たちの研究室でも、感温性ポリマーといって、温度によって構造の変わる、長い鎖状の材料を開発しています。構造が変わる温度も自分たちで設計し、その構造変化を利用して汚水中の重金属イオンをつかまえたり放したりする性質をポリマーにもたせ、重金属の回収に応用しています。こうした材料を開発することで、あまりエネルギーをかけずに重金属をリサイクルできるようになります。
このほかにも、光ファイバーを利用した新しいセンサー開発や、二酸化炭素分離のための新規のナノ材料の合成など、複数のテーマで研究を進めています。
また、創価大学内の他の研究室や、メキシコやマレーシアといった海外の大学との共同研究も、積極的に進めています。環境問題は発展途上国で深刻化していますので、現地の大学と一緒に問題を解決していくのは重要なことだと考えています。現地の若手研究者なども、日本と共同研究をすることでレベルを上げていきたいという熱意がありますから、とてもやりがいがありますね。

研究では、様々な測定装置を使用します。写真は化合物などの同定や定量分析に使うX線回折装置

創価大学工学部の一期生として入学

環境問題を解決したいと思うようになったのは、高校生のころです。ちょうど大気汚染、水質汚染、土壌汚染などの問題が噴出してきた時期でした。目指していた大学があったのですが、受験はうまくいきませんでした。でも、ちょうど創価大学に工学部ができたばかりで、生物工学科があったので、そこで勉強してみようと思いました。
不本意入学といえなくもなかったのですが、工学部ができたばかりで、先生方からは「理想の学部、学科をつくろう」という、ものすごい情熱を感じました。学生たちも「一期生だ。自分たちが歴史をつくるんだ!」という意識がありましたから、不本意だなどと感じている暇もなく、楽しかったですね。なにしろ上級生がいないわけですから、先生方も一年生のときから研究に誘ってくださったり、「研究とは学生も教員も対等にやるものだ」とディスカッションをしてくださったりと、本当に力を引き出してもらえたと思っています。
大学院卒業後には、博士研究員としてアメリカへ渡りました。中学・高校でバスケットボールをやっていて、NBAに憧れていたこともあり、アメリカは憧れの地でした。住んでいた時には夢の中にいるような感じで楽しかったですね。 

実は学校一、勉強ができなかった小学生時代

こうお話すると、小さいころから理科ができて勉強好きで研究者を目指していたと思われるかもしれませんが、実は小学校のころは、学校で一番、勉強ができませんでした。
通知表に「よい」「ふつう」「努力」という項目があって、全項目、「努力」だったのは私ぐらい(笑)。自分でも出来がよくないと思っていましたが、母親だけはずっと私を信じて、「お前はやる気になれば何でもできる子だ」といい続けてくれ、一度もけなされたことがありませんでした。母親が信じ続けてくれたおかげで、ある時を境に勉強にも挑戦できるようになり、少しずつ勉強が好きになっていきました。また、小さいころからずっと本の読み聞かせを続けてくれたのも大きかったですね。そのお陰で本が大好きになり、小学校高学年時に、様々な面白い理系の本に出会えたことが、今の自分を方向付けたのだと思います。

人を思いやり、人の力を引き出す環境に救われた大学時代

大学時代は楽しかったというお話をしましたが、実は楽しいばかりではなく、引きこもった時期もありました。もともと性格的に、他人と自分を比較して自分を卑下する傾向があったため、いつの頃からか、自分の欠点を隠さないといけないと思ってしまったのです。何がしたいかよりもどうすれば人からよく見えるかということにとらわれ、「いい子」の自分を演じていたのですが、そういう自分に疲れてしまったのです。
しかし、そんな私を、先生方も友達も、いい意味で放っておいてはくれず、心配してみんなで励まし続けてくれました。でも、当時はそのことに気づけませんでした。
周囲で励ましてくれた人たちの気持ちが本当に理解できたのは、アメリカに渡ってからです。同じ研究室の友人が悩んでいて、何とか励ましたいといろいろ気遣っていたのですが、そのときに初めて、自分がしてもらってきたことに気づきました。周りの人たちがいかに自分のことを考えてくれていたか、ということを心から実感できたのです。

自分を信じて原石からダイヤを磨きだしてほしい

振り返ってみると、私は、縦や横のつながりとか、人のことを心配したり励ましたり、人を信じて力を引き出したりするやさしさといった創価大学の雰囲気に救われたと思います。こうした良さは、今の学生を見ても伝統として息づいていますね。入った学生が伸びる大学が創価大学だと感じています。
ですから、「勉強ができないから」と、やりたいことを諦めようと思っている人がいたら、簡単に諦めず、自分を信じて頑張ってほしいと思います。自分を信じることは難しいことですが、信じて磨かないと、原石からダイヤは出てこないのです。

いい結果が出なくても、科学の進歩には貢献できる

創価大学は学生中心ということをモットーにしていて、私の研究室でも、基本的には研究も勉強も学生に任せています。その一方で、任せきりにはせず、こまめにディスカッションしながら研究を進めています。学生は自主的に本当に一生懸命、研究に取り組んでいます。
その分、思うような結果が得られないときにはこちらもつらいですが、大事なのはいい結果が出ることだけではありません。科学は、共同で大きな「表」を埋めていくような作業で、「この条件でやったらうまくいきませんでした」と、誰かが「×」をつけるのも大事なことなんです。そうすればほかの人は、その作業はやらなくてもいいわけですから。
ですから「研究でいい結果が出なかったことは残念だけれど、それも科学の進歩には貢献していること。そして何より、自身が研究を通して問題解決能力を身に付けることが重要」と、学生には話しています。
自主的に研究を進め、途上国の環境問題に貢献したいと思っている人はぜひ、一緒にがんばりましょう!

研究室でのひとこま。学生と先生が忌憚なくディスカッションをすることで、新しいアイデアや、気づきが生まれます
研究室の一角には、先輩たちの「実験ノート」がずらり。過去の先輩たちの研究テーマや、研究手法が記録されている、貴重なノートです

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

共に、の「共」です。研究というのは一人ではできないんですよね。共同研究も増えていますし、学生をはじめいろいろな人と一緒に進めていくのが研究だと考えていますので、「共」を選びました。

プロフィール

共生創造理工学科 井田 旬一 教授
1972年 群馬県生まれ
1995年 創価大学工学部生物工学科卒業
2000年 同大学院博士課程修了
    博士 (工学)
2000年 シンシナティ大学化学工学科 博士研究員
2005年 創価大学工学部環境共生工学科 講師
2007年 創価大学工学部環境共生工学科 准教授

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伊与田 健敏 准教授

超音波を利用した屋内測位システムで ロボットを正確にナビゲーション!

屋内ではGPSが使えない!? 急がれる屋内測位システムの開発

私の研究室では、コンピュータの組み込みシステムや、超小型人工衛星のシステム、電気自動車関連システム、FPGA(内部の論理回路の構造を開発現場で書き換えることのできる半導体IC〈集積回路〉)を用いた専用の高速演算システムなど、いろいろなテーマに取り組んでいます。メインのテーマは超音波による屋内測位システムの研究です。

測位システムとは、現在の地球上の位置を測定するシステムのことで、GPS(全地球測位システム)はその代表例です。GPSはアメリカの打ち上げたGPS人工衛星のうち4機からの電波を受信し、到達時刻などから測位計算することで、地球上の位置を知ることができます。

GPSは衛星からの電波を利用するため、電波の届かない屋内や地下、電波が遮られたり反射波が生じたりするビル街や山間などでは、正確な位置を知ることができません。そこで、屋内測位システムについてはいろいろな技術の開発が進められています。

研究室の様子。実際に研究室で実験をし、その結果を皆で議論しながら研究を進めています

超音波とGPSの原理で ロボットを助けるシステムを!

 私が屋内測位システムの研究を始めたのは、1998年です。北海道大学で行われた日本ロボット学会の学術講演会があり、同僚の先生方や学生と参加しました。昼食でラーメンを食べているとき、屋内でのロボットナビゲーションの話になりました。

 屋内で自律移動するロボットが活躍するためには自分の位置がわかる必要がありますが、なかなか難しく、実用に耐えるものはありませんでした。そこで、「ロボットだけを賢くしなくてもいいんじゃないか、周りの環境がロボットを助けるようにしてもいいのでは?」という話になりました。

 屋内では電波だと速度が速すぎて、伝わる時間を計測するのが難しいので、超音波を用いることにし、あとはGPSと同じ原理の測位システムを作ってロボットのナビゲーションに利用しようと研究を始めました。ロボットといってもさまざまですが、車輪で動き、オフィスで人の案内をしたり、軽量物の運搬をしたりするようなロボットをイメージしています。

ないない尽くしで始まった研究 電子回路もすべて手作り!

 GPSと同じ原理ですから、超音波信号を出力する装置を4カ所につくり、マイクで超音波信号を受信して測位計算しようとしたのです。超音波は速度が遅いし、周波数も低いので、GPSより楽にできるのではないかと考えていたのですが、実際に研究してみると、これが難しい。

 まず、超音波を同じタイミングで送受信できるような回路がありませんでした。ですから、最初はパソコン用の可聴域の音波で実験を始めました。また、パソコンのPCIバスに接続して超音波の信号を出入力するボードも開発し、FPGAを用いて製作しました。超音波の出力を通知する回路も自分たちで製作しました。計算についても、演算自体は単純なのですが量が膨大で、処理をするために工夫を凝らしました。

実際に研究してわかった 「コウモリさん」のすごさ

先にも触れましたが、屋内測位システムでは様々な手法で開発が進められています。私たちがそこまでして超音波にこだわるのは、正確だからです。

人間であれば、自分で判断することもできるので、ある程度の正確さがあればいいでしょう。でも、ロボットに使用するのであれば、さらに精度が求められます。もちろんロボットにはセンサーもありますから、それでぶつかったりしないようにできますが、ナビゲーションの精度も出したいと思っています。

こうして超音波を利用するために苦労してみると、改めて「コウモリさんはすごい!」と思います。「さん」付けしちゃいます(笑)。だって、自分も飛んでいるし、餌にしている虫なども飛んでいるでしょう? それなのに、超音波を使って、位置が分かって、ちゃんと捕まえて食べられるなんて、信じられない。どうやったらできるんだろう。コウモリさん、尊敬しています。

システムとしてまとめ上げ 安くて精度の高い製品を提供したい

最近の主な課題は、ドップラー効果で伸び縮みした信号でもとらえられるようにすることで、だいぶめどは立ってきました。必要な技術や研究はだいたいそろってきたので、全体のシステムとして使えるようにまとめていきたいです。また、今は、4メートル×4メートルのフィールドで実験していますので、広い面積をどのようにカバーするか、送信機の配置や出力の仕方なども研究して、安くて精度の高い製品として組み上げたいと考えています。

電子工作にはまった子ども時代 お小遣いで電子部品を買い集める

研究では様々な電子回路を製作しているとお話ししましたが、実は子どものころから電子工作が大好きなのです。

電子工作に興味を持った一番最初のきっかけは、父親の同僚から「息子さんに」といただいた、『初歩のラジオ』という本でした。当時小学校3年生でしたから、わからないところは多かったのですが、面白そうだな、と思ってしばらくはまっていました。1970年代の初頭で、みんなこぞってラジオを作っていた時代でした。

実際に電子工作をするようになったのは、小学校5年生ではんだごてなどの工具を買ってもらってからです。簡単なキットから作って、小学校6年生くらいの時にはトランジスタを8個使った、8石ラジオというのを3時間くらいで作っていました。

キットだけじゃなくて、自分で万能基板に部品を差し込んではんだ付けするようなものも作っていました。「こういうアンプを作ってみよう」とか、いろいろチャレンジしましたよ。もちろん、うまく動かないものもたくさんありました。

当時よく読んでいた雑誌も、大事にとってあります

中学生になると天体観測に興味を持ちました。でも天体望遠鏡を動かすためのモーターの制御に電子回路が必要だったし、デジタル回路が出てきたので、また電子回路の方に興味が戻ってきました。『マイコンピューターをつくる』といった本が出版されるなど、部品を買ってきてマイコンを作ろう、という時代で、自分で本を見ながら作りました。マイコンというのは小さいコンピュータ、マイクロコンピュータのことです。

修学旅行の自由行動で憧れの秋葉原へ! 大学時代はなぜか応用物理を専攻するも…

当時は高知県に住んでいましたが、市内に1軒、電子部品を売っている店があったんですよ。お小遣いでその店で部品を買ったり、通信販売で買ったりしていました。

でも電子部品はやっぱり秋葉原で買いたいっていう気持ちもありました。その機会がおとずれたのは高校1年の時。中高一貫校で、高校1年で修学旅行がありました。最終日は都内でグループごとに自由行動だったので、われわれのグループは、もちろん秋葉原へ。あこがれの秋葉原で部品を買えたのです。その時に行った部品屋さんには、今も通っています。

大学は応用物理学科で電子系ではなかったのですが、相変わらず電子工作は好きで、いろいろ作っていました。4年生から修士にかけては、当時の8ビットのパソコンとだいたい同じくらいの性能のものを作りました。多分、今でも電源を入れれば動くと思います。雑誌で製作に関する連載記事も書かせてもらいましたよ。博士課程では物理の計算専用の大きな計算機を作る、と大風呂敷を広げましたが、壮大過ぎて断念しました(笑)。

子どものころからずっと電子回路を作ってきたし、今、研究で必要な回路を設計したり製作したりするのも楽しいです。

当たり前のことに興味を持って はじめからうまくできる必要はない

私の研究室には、手を動かしていろいろやってみたい人が向いていると思います。最初からうまくできる人はいないし、できるわけもないし、できる必要もないんですよ。興味、関心を持って、面白いからいじってみよう、遊んでみよう、という気持ちで始め、一歩ずつ進んでいけばいいと思っています。

大事なのは興味を持つことです。たとえば今、ほとんどの学生が使っているスマートフォンは、初期のスーパーコンピュータに比べると、ずっと性能が高いものです。あまりにも当たり前のものになっていますが、なぜこういうことができるんだろう、とちょっと不思議に思ってもらいたいんですよね。

研究室できちんと興味を持って勉強すれば、将来にわたって役に立つような技術や知識も身につきます。

共生創造理工学科全体としては、いわゆる理科のいろいろな分野の先生がいて勉強ができるのが魅力ですね。物理、化学、生物、地学のほか、農学系とか薬理学系の先生もいて、面白いですよ。コースの選択は入学後にできます。

これから進路を選択する若い人たちには、自分のやりたいことや夢を持ってほしいと思うし、できるだけ早くそういうものを見つけて、それに向かって勉強もしてもらえればと思います。

研究とは?漢字一文字で表すと?

<漢字一字と、その理由をお願いします>
「興」
「興味」を持つことから研究は始まると思います。この字には「楽しみ、喜び」と共に「新たに始める」そして「盛んにする」という意味があります。新しいことに挑戦して、多くの人々の楽しみや喜びにつながるような成果を出せるように、積極的に研究に取り組んでいきたいと思います。

プロフィール

高知県生まれ。1992年、東北大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。

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川井 秀樹 教授

「最後のフロンティア」脳の原理の解明に挑む!

アルツハイマー病では減少するアセチルコリン

私の研究室では、脳の大脳新皮質、中でも聴覚野という部分の神経回路の機能の解明や、聴覚野の形成、経験による神経回路の変化などをテーマに研究をしています。
最も長く取り組んでいるのは、アセチルコリンによる神経伝達制御に関する研究です。アセチルコリンとはニューロン(神経細胞)とニューロンの間での情報を調節する神経伝達物質です。高校の生物で習った人もいるかもしれませんね。アセチルコリンが減少すると、集中力が低下します。また、アルツハイマー型の認知症ではアセチルコリンが減少していることがわかっています。

脳のつくり。大脳の表面は大脳皮質という層でおおわれています。大脳皮質は基本的には場所によって機能が分かれています
ニューロン(神経細胞)のようす。脳では、ニューロンの間を神経伝達物質が伝わることで、情報の伝達が行われます

アセチルコリン受容体が情報選択にかかわっている!?

アセチルコリンを受け取る受容体は、大きくは二つに分けられ、そのうちの一つをニコチン性受容体といいます。ニコチン性受容体は、その名の通りニコチンによっても活性化されます。
私たちが集中をしたり学習したりするときには、いろいろな情報の中から必要な情報を選択しています。例えば授業に集中している場合、先生の声などに注意を払いますが、エアコンの音などは重要ではないノイズとして無視します。このように情報を選択する上で重要な役割を、ニコチン性受容体が果たしているようなのです。そこで、ニコチンを用いて細胞やシナプス、神経回路のレベルでどのような作用により情報選択が行われているのかを研究しています。

聴覚野は独特の神経回路を持っている

また、一般的に失明すると、聴覚など他の感覚が敏感になると言われます。これは失明という経験により聴覚野が変化しているということを意味します。聴覚野の神経回路は、感覚系の情報のみを処理するのではなくて、感情や意志にも大きく作用すると考えられていて、視覚や触覚などの情報を処理する場所とは少し違った、面白い神経回路になっています。その神経回路の変化やメカニズムの解明にもとり組んでいます。

神経細胞ではない細胞が神経細胞になる?

かつては、脳の神経細胞は再生しないと言われていましたが、30年ぐらい前に、大人になっても神経細胞をつくり続けている場所があることがわかりました。大脳皮質では、そうした再生はないと今のところ考えられていますが、神経細胞以外の細胞(グリア細胞)が増殖することがあります。最近の研究で、脳こうそくなどで脳の一部の血流が減少した時に、グリア細胞の仲間が興奮状態を押さえる神経細胞になる可能性が示されました。脳がもつ自己治癒力のあらわれかもしれません。そこで、こうしたグリア細胞の特性やメカニズムを解明する研究も進めています。

「あの人は何を考えているのだろう」から脳への興味が芽生える

中学生や高校生のころは、バスケットボールに熱中していました。一方で、数学や化学も好きでした。数学は、現象を数学的に説明すると、ものごとの理解につながるというところに面白さを感じていました。化学は物質の変化というものにひかれていました。ものごとは常に変化をしているわけですが、化学という科目では、その変化、現象が起こっているところを目の前で見ることができます。色やにおいなど、ドラマチックな変化があり、化学反応式がまさにそこで起こっていることがわかる、そういうところにひかれたんだと思います。ですから、中学生の頃から理系に行こうという気持ちがありました。
脳に興味を持ったのも、中学生の頃です。あるとき、いつも家の近くを通る知人が無言で家の前を歩いているのを見て、「あの人のことは知っているけれど、いったい何を考えているのだろう」と不思議に思ったことがあったのです。知っている人だけれども、考えていることは全く分からない。その脳の仕組み、脳の仕業のようなものが非常に不思議で、脳について勉強したい、研究したいと思うようになりました。

短期留学でアメリカの大学の知的な雰囲気に憧れる

また、中学生のときに3週間ほど、アメリカに短期留学したことがあります。そのとき、ワシントン大学の図書館に案内してもらったのですが、重厚なつくりの図書館で、椅子や机も大きくて立派で、本に囲まれた中で学生が静かに点在して勉強していました。その学問的な雰囲気に強く憧れ、アメリカの大学に行こう、と考えていました。
高校卒業後は日本で一度大学に入ったのですが、アメリカの大学に入り直しました。夏休みにアメリカへ行っていろいろ調べると、大学付属の英語学校を持っているところがあり、そこに入学できれば大学に進学できるというプログラムがある大学を2つ、見つけました。イリノイ大学とミネソタ大学です。両方応募して、最初にミネソタ大学から入学の許可が来たので、ミネソタ大学の語学学校へ行きました。

柔軟なアメリカの大学の制度で楽しく勉強に打ち込む

ミネソタ大学では選択科目が多く、必修科目が少ないというカリキュラムでした。私は化学科に入学しましたが、このカリキュラムのおかげで生物学系や心理学、コンピュータサイエンスの分野で脳の研究をされている先生の授業をたくさん取ることができ、いろいろな勉強ができました。
化学科には脳の神経伝達物質の研究をされているラフテリィ教授がいらっしゃったので、そこで卒業研究をしました。とにかく研究が楽しかったです。
大学院は薬理学科に入りました。ラフテリィ教授が、脳の研究をしたければ、医学部の薬理学科の方が幅広い勉強ができて可能性が開ける、とすすめてくださったのです。大学院のシステムも柔軟で、研究自体はラフテリィ教授のもとで続けることができました。
アメリカでの大学生活は非常に楽しかったのですが、卒業のためには文系の科目も選択しなければなりません。理系の科目に関しては数式や化学式もありますし、専門用語もわかりますからいいのですが、文系の科目は言葉そのものに取り組まなければなりません。10週間で5センチメートルくらいの厚みの本を5冊も読まなければならなかったりして、そこはかなり苦労しました。

アメリカ時代の川井先生と恩師ラフテリィ教授。脳の研究を始めるチャンスをいただきました

脳のもつ柔軟性やパワーに感動

博士課程修了後、アメリカのブラウン大学で研究員として勤めていた時に、マサチューセッツ工科大学の著名な先生の講演を聴く機会がありました。感覚は、嗅覚をのぞいて、脳の視床というところから大脳皮質へと伝達されますが、その講義の中で、視床のうち視覚を扱う部分が損傷すると、脳が再構築して視覚の情報が聴覚を扱う部分を経由して聴覚野に情報が送られるということを知りました。つまり、聴覚野が聴覚と視覚の両方を処理するようになるというのです。
 まさに目からうろこが落ちる思いで、脳のもつ柔軟性やパワーに感動を覚えました。脳の中でも聴覚野に興味を持ったのは、この経験がきっかけとなっています。

研究すればするほど、脳のもつ力も複雑さも見えてくる

「脳はラストフロンティアだ」という言われ方をよくしますが、脳の研究をしていると、本当にまだまだ分からないことばかりの臓器だなと感じます。中学生のときに知り合いの人が歩いているのを見て、脳ってどんなはたらきをしているんだろう、と思ったその疑問がいまだに続いていて、答えはまだ得られていない状態です。
 研究すればするほど脳のもつ力も、複雑さもわかってきます。しかし、そうした複雑さの中に、確かに原理は存在するのです。それを見つけて解明していく楽しみもあり、挑戦のしがいのある分野だと思います。

実際にマウスの脳の細胞の働きを研究しているようす。専用の顕微鏡を使って観察します

自分の好きなもの、得意なものは、一つ見つければいい

今、理科や数学の分野に興味がある人は、基礎となる学校の勉強をしっかりしておくことが大事だと思います。日本の中学、高校の教育のレベルは非常に高いので、ここでしっかり勉強していれば、将来は開かれていくと思います。
また、まだ何をするか決めきれていない人もいると思います。仕事というのは結局、自分の好きなものや得意なものを一つ見つければいいわけですから、悩んでいるのであれば、是非、たくさん悩んで、本を読んだり人に話を聞いたりして悩みを解決する方向に見聞を広めてほしいですね。見聞を広げて、一つでいいので自分の可能性を見つけてほしいと思います。
自分の目標ができれば、そこへ到達するにはいろいろな行き方があっていいわけですから、心のままに自分の興味を見つめ、深めていってほしいと思いますね。 

実験室のようす。疑問が生じたら、先生との対話で、問題をとことん追究します。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと? 「力」

研究には、人を変え、世界を変える力があります。新しい発見をして、これまでの概念を打ち破る力があります。新たなことを生みだし、社会を変える力があります。また、人を謙虚にさせて、人の運命を変える力があります。研究者は自然の摂理を理解しようとすればするほど、自然のもつ偉大な力の前には畏敬の念を抱かざるを得ないんですね。こうした考えから、「力」を選びました。

プロフィール

共生創造理工学科 川井 秀樹 准教授
1992年(米国)ミネソタ大学理工学部 化学科卒業
1998年 (米国)ミネソタ大学大学院 薬理学科卒業、Ph.D.取得
1998年 (米国)カリフォルニア大学サンディエゴ校 生物学部 神経生物グループ 研究員
2001年 (米国)ブラウン大学 神経科学科 研究員
2003年 (米国)カリフォルニア大学アーバイン校 神経生物・行動学科 研究員
2006年 (米国)カリフォルニア大学アーバイン校 神経生物・行動学科 企画研究員(研究代表者)
2009年 創価大学工学部 生命情報工学科 准教授
2020年 創価大学理工学部 共生創造理工学科 教授

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窪寺 昌一 教授

レーザーを用いた微細加工で 新たなセンサーを開発!

ノーベル賞もとったほどの発明「レーザー」には 普通の光にはない、さまざまな特徴がある!

私たちの研究室では、主にレーザーを用いた微細な加工により光ファイバーに機能性を持たせる研究をしています。「レーザー応用工学」と名付けています。構内に関係する研究をしている先生方がいますので、ゆるやかなグループのような形で連携しています。
レーザー光線が初めて生みだされたのは、1960年です。その4年後の1964年には、レーザーの基本原理を発明した3人の科学者に、ノーベル物理学賞が授与されました。また、2018年のノーベル物理学賞は、レーザーの技術に革新的な進歩をもたらす発明をした3人の科学者が受賞しています。
レーザー光は、自然光や一般的な電灯の光などと違い、ほとんど広がらずまっすぐに進む性質があります。また、光は波の性質を持っています。自然光などでは波長がそろっておらず、いくつかの色が混ざっていますが、レーザー光では波長が単一で単色です。レンズによってレーザー光を非常に小さな点に集めることができ、エネルギーを集中させることができます。さらに、波の山と谷が規則正しく一定していて、重ねあわせると干渉縞が現れます。

レーザーなくしては 現代の生活は成り立たない!

このような普通の光にはない特徴により、レーザー光は幅広い分野でさまざまな用途に使われています。
まず、半導体の製造にはレーザーはなくてはなりません。また、加工や溶接の現場、医療用メス、計測、通信、顕微鏡など、研究や産業の現場で幅広く用いられています。身近なところでは、レーザーポインター、CD、DVD、プリンタ、バーコードスキャナなどにも使われています。
あまり意識していないかもしれませんが、レーザーなくしては現代の生活は成り立たないと言っても過言ではありません。レーザーは半導体と並んで20世紀の科学を牽引してきた大発明なのです。

花形の電気工学科へ進学 理化学研究所で卒業研究!

私は中学、高校の頃から理科系の科目が得意で、大学は理工学部に進みました。そこでレーザー工学の分野で著名な先生が大学にいらっしゃるということを聞き、是非その研究室に行きたいと、電気工学科を選びました。当時はまだレーザー光が生みだされてから四半世紀も経たないころです。新しいレーザーの開発は、非常にチャレンジングで夢のある、21世紀の技術という感じでしたし、電気工学科は花形でした。
大学4年の卒業研究は、大学の研究室ではなく、埼玉の和光市にある理化学研究所の研究室で行いました。テーマは「ウランの同位体分離に用いる赤外線レーザーの開発」です。

最先端の機材がそろった 恵まれた研究環境だった

当時はあまり意識していませんでしたが、所属した研究室は、国のプロジェクトの一環で、いろんな機関からの研究者や学生が集まる規模の大きな研究室でした。
大学の指導教官は「何もわからなくてもいいから、一流の環境で経験を積んでこい」という気持ちで送り出してくださったのだと思います。高価な機械がふんだんにあり、他大学から来ている方に実験のコツなどを教わったりして、とても楽しく過ごしました。修士課程は大学に戻って研究したのですが、そこで初めて理研の環境がいかに充実した素晴らしいものだったかを実感しました。

大学院では レーザーで「雷」を誘導する研究に挑戦

修士課程での研究テーマは、レーザーを用いて人工的に落雷を制御する、レーザー誘雷でした。レーザーでプラズマを発生させ、そこへ雷を誘導しようとするもので、博士課程の先輩と一緒に研究していました。レーザーで避雷針を作るための研究です。雷は夏だけではなく、日本海側などでは冬にも発生しています。雷のエネルギーはすさまじく、変電や送電の設備などに大きな被害が出るため、レーザーで雷を制御しようとしたのです。
大学には理研のような潤沢な予算はないので、学内で材料を見つけて実験器具を自分で作りました。機械工学科があったので大きな旋盤を借りて回していたら、「電気分野の人が使うなんて、あり得ないんだけどなー」と先生に言われたこともあります(笑)。

雷は巨大なエネルギーを持つため、落雷による事故は大きな被害に繋がります

すさまじいパワーを持つ フェムト秒レーザー

今の研究室には「フェムト秒レーザー」という、特別なレーザーがあります。先にお話しした、2018年のノーベル物理学賞の対象となった技術が使われています。フェムト秒レーザーは短い間隔で点滅を繰り返すレーザーです。このようなレーザーの1回の照射時間を「パルス幅」といいます。フェムト秒レーザーはパルス幅がフェムト秒のレベルなのです。

フェムト秒ってどのくらいかわかりますか? 10の15乗分の1秒、つまり1000兆分の1秒です。光は真空中では1秒間に地球の周りを7周半もする速さですが、その光でさえ、1フェムト秒では0.3マイクロメートル、100フェムト秒でも30マイクロメートルしか進めないくらいの短い時間です。
1パルスあたりのエネルギー量が同じであれば、パルス幅が短くなればなるほど、パルスの山が高くなり(ピークパワーといいます)、その強度が強くなります。パルス幅がフェムト秒レベルになれば、すさまじいピークパワーになるのです。
レーザー光を小さな焦点に集めると、さらに高いピークパワーを持たせることができます。レーザー光は、例えばそのエネルギーで素材を融かすので、金属などに穴を開けるときに使われています。ただ、融けると小さなゴミが出て、きれいな穴が開きません。しかし、フェムト秒レーザーでは、熱は発生しますが、あまりにも時間が短いので、穴が開いているときには熱はまだ発生していません。そうすると、きれいな穴を開けることができるのです。

髪の毛の太さの光ファイバーに マイクロメートルサイズの加工

フェムト秒レーザーでは、難しい言葉では「非線形光学現象」を起こすことができるので、透明なガラスやプラスチックの内部のみを加工することもできます。
私の研究室では、フェムト秒レーザーで、光ファイバーを加工しています。光ファイバーといっても太さは数十~百マイクロメートル、髪の毛の太さくらいですから、加工するサイズもマイクロメートルのレベルです。
光ファイバーは、コアという中心部の周りをクラッドというコアよりも屈折率の低い層が覆っています。フェムト秒レーザーを使うと、光ファイバーのコアに焦点を絞り、クラッドを傷つけずにコアにだけ穴を開けたり加工したりすることもできます。光ファイバーは光を閉じ込めますが、加工することで光をある程度外に漏らし、その情報から周囲の環境を探るセンサーができると考えています。
また、コアの部分に規則的に筋を入れると、その部分は温度や外力によって伸び縮みします。そこに光を入射すると、特定の波長の成分が反射されますが、伸び縮みに伴い反射される波長も変化するため、ひずみや温度変化を知ることができるセンサーになります。

レーザー機器を使用する実験室

教科書を覚える=物理ではない 大学での勉強は高校までとは違う

研究室ではこのような技術開発だけでなく、学理的な研究にも重点を置いています。
レーザー工学と聞くと、高校時代に物理を選択しなかったし…、としり込みする人もいるかもしれません。でも、高校までの物理と大学の物理はまるで違います。中には教科書を覚えることが物理だと思っている人もいますが、そうではありません。大学は、高校までとは全然違う勉強をするところなのです。
1年生に物理を教える教授が、「高校までの物理は全部忘れていいです、大学でまた一からやり直してあげます」とおっしゃっているのですが、私も共感しますね。ちゃんと学びたい気持ちがあれば面倒を見ますし、来てくれたからには一人前にします!

「なぜだろう」の気持ちが大事 視野を広く保って可能性を見いだして

とはいえ、理工系に来るからには、当たり前に思える現象に疑問を持つ癖をつけてほしいと思います。昔は機械を分解すれば仕組みがわかりましたが、今は、例えばスマートフォンなどもブラックボックスで、たとえ分解しても何もわかりません。でも、なぜ映るんだろう、なぜこうすると動くんだろう、仕組みを知りたい、というような気持ちを持つのは大事なことだと思います。
また、オープンキャンパスなどに来る高校生の中には、特定の先生、特定の企業の名前を挙げるなど、とても具体的な夢を語る人がいます。それはそれでいいのですが「少し視野が狭いかな」と感じることもあります。私自身、レーザーで有名な先生がいらっしゃると知り、その先生の研究室に行こうと決めたわけですが、振り返ると視野が狭かったな、と思います。もっといろいろな分野に興味を持って、大学に入ってからもぜひ、視野を広げていろいろな可能性を見いだしてほしいですね。

研究を漢字一文字で表すと?

 「輝」
光は輝きます。レーザーも輝いています。研究も輝きます。学生諸君も輝かしい将来に向けて本学で研鑽を積んでほしいと願っています。

経歴

1985年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業。1988年慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。1991年、米ライス大学大学院工学研究科博士課程修了。理化学研究所レーザー科学研究グループ基礎科学特別研究員、宮崎大学工学部助教授、教授等を経て、2016年より現職。

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久米川 宣一 准教授

魅力的な新品種やITによる省力化で 地域の農業をもっと美味しく、楽しく!

遺伝子という便利な情報を使って 人に役立つ新しい品種を作る

私の専門は植物の「育種」です。植物同士をかけ合わせて、人間にとって望ましい性質をもつ新しい品種を創り出します。農耕が始まったころにまでさかのぼる古い技術ですが、私はそこに遺伝子についての知見を加え、効率よく新しい品種を生み出しています。
かけ合わせる植物を「育種材料」といいますが、それがどのような性質をもつ品種なのかがわかっていないと、目的にかなう育種ができるまで時間がかかってしまいます。育種材料の品種を明らかにするには、植物のもつ遺伝子を調べる「遺伝子解析」が役に立ちます。
ちなみに、私は植物の遺伝子を扱う専門家ですから、人為的に遺伝子を操作して新しい品種を作る「遺伝子組換え」もやろうと思えばできます。しかし、私はその技術を生命現象の解明に使うのにとどめ、従来どおりの手法で育種を行っています。

研究室の中にも緑があふれ、学生たちは「ほっとできる空間」で本気で議論ができます。

「植物ハカセ」だった子ども時代から 興味の対象にとことんのめり込む!

私は植物が大好きで、小学生のころは植物図鑑を見るのが趣味でした。今よりもたくさんの植物の名前が頭に入っていて、「植物ハカセ」と呼ばれていたのです。祖父の影響で盆栽と園芸もし、中学のときには自分で作ったキュウリを近所にたくさん配ったりしていました。
理科も大好きで、中学では理科部の部長として20〜30人くらいの部員を率い、花火を作ったり(今では規制があって無理ですが、昔はできたんです)、校区内のタンポポ調査をして市のイベントに出展したり、華やかに活動していました。楽しかったですね。
ところが高校に進学して、暗記中心の勉強が面白くなくなってしまいました。ただ、わからないことを「それはなぜ?」と追究するのは楽しくて、興味のあった化学にだけはのめり込んで勉強していました。
結局、私がモチベーションを持てるのは興味があることだけなのです。それは今も昔も変わりません。
農学部志望だったのですが、創価大学に工学部ができるということで急遽受験。なんとかすべりこんで生物工学科(当時)の第1期生になりました。

大学でバイオテクノロジーに触れ 遺伝子研究の面白さに夢中に!

大学に入ると、大好きな化学の授業があまりにも難しくて打ちのめされました。一方で、生物の基礎を学んでいくうちに、当時新しい学問領域だった遺伝子に興味を持ち始めたのです。
私が大学に入学したころは、ちょうどバイオテクノロジーが花開いた時期です。遺伝子のはたらきや、それによって生物現象をどのように説明するのかが、とてもスリリングで面白く、今度は遺伝子の勉強にのめり込んでいきました。
学部終了後は他大学の農学部の院に進みました。伝統的な農学と遺伝子学という新しい分野が一緒になった時期にあたり、私はイネの品種を見分ける遺伝子解析にも携わらせて頂きました。ちなみに当時の上司がこの基本技術を確立し、やがてブランド米「コシヒカリ」が本物かどうか、正確に見分けることが可能になったのです。

作物が巨大化し栄養素も増える 倍数性育種で新しい品種づくり

いま私の研究室では、染色体を通常より増やす倍数化技術をメインにクワなどの育種をしています。
生物は両親から染色体という遺伝子の乗り物を1セットずつ受け継ぐので、染色体は2セットあります(2倍体)。それが3セット(3倍体)や4セット(4倍体)だと生物はどうなるでしょうか?
その答えはイチゴにあります。イチゴは普通の4倍の染色体セットを持つ「8倍体」なのです。2倍体のイチゴは小指の先ほどの大きさしかありません。いま流通している大ぶりのイチゴのブランドは、先人たちが長年倍数性育種をしてきた結果です。

地元の農業を元気にしたい! その想いが研究の原点

創価大学にはもともとクワ研究で有名な先生がいらして、その研究を引き継ぎました。種苗登録しているクワの品種「創輝」は、葉っぱが30
そもそもなぜクワなのか?というと、創価大学がある八王子は絹織物で有名で、別名「桑都(そうと)」といわれるくらいクワの栽培が盛んな地域でした。そこで「大学の知を地域に還元して貢献しよう」ということからクワの育種が始まったのです。
「創輝」は病気にかかりにくく病害虫も少ないため、丈夫で無農薬でも育てやすいという特長があります。葉っぱが大きいので収穫の効率がよく、地元の農家の人たちには「少ない手間ですむ」と好評です。

美味しくてアントシアニンたっぷり 「食べるクワ」の開発に成功!

私が今手掛けているのは、食品としてのクワです。ここに赴任したとき「クワはカイコの餌だけじゃなく、人間の体にもいい」という話を聞いて、「これだけクワの育種素材が豊富にあるのだから、人間が食べるための育種をしましょう」と、提案したのです。
サイズが大きくなるだけではなく、栄養素が増えるのも倍数体の特長です。まず、とても長くて大きく、食べでがある実をつけるクワができました。通常のクワの実は糖度が15~16度ですが、このクワの実は最高糖度が23度と、クワの実とは思えないほどに甘いです。
もう一つ、実は小さいけれどアントシアニンがブルーベリーの4倍以上含まれるクワも作りました。このクワは3倍体なのでツブツブしたタネが少ない分、アントシアニン含有量が高くなるのです。
視力回復に効果がある量のアントシアニンをブルーベリーで取ろうとすると、1日に300g以上食べる必要があります。このクワなら15粒食べれば十分です。これを新たに品種登録しようとしているところです。

研究室で育てているクワ。新たな品種として登録することを目指しています。

地元の近郊農業を元気にするには、農産物のブランドづくりが不可欠です。育種はオンリーワンのブランドづくりに適しており、特に市場規模がまだ小さくて種苗会社が手を出しにくい分野が狙い目です。そのようなチャレンジができるのが大学の研究の強みですね。クワが一段落したので、次はハーブの育種に取り組み、ブランド化する予定です。

大学内コラボから生まれた 農業用センサーという目標

創価大学は教員の仲がよく、研究室同士で気軽にコラボができます。たまたま情報システム工学科の先生が「農業用のセンシングができないだろうか」と声をかけてくださったとことから始まったのが、「農業用ヘテロコア型光ファイバーセンサ」の開発です。
私もかねてから樹木や植物のセンシングに興味がありました。高齢化と人手不足が進む日本の農業は、ITを使ってどれだけ省力化できるかが問われています。農業とITの融合はいまとても注目されている分野です。
みなさんも鉢植えを育てるとき、植物がしゃべれて「水がほしいよ」とか「ここは暑すぎる」と教えてくれたら枯らさないですむのに、と思ったことはありませんか?しゃべれない植物にかわって、いまの状態を教えてくれるのが農業用センサーなのです。
今手がけているのは、水やりを自動化するために土壌の水分を測るセンサーと、植物の生理状態の変化を捉えるセンサーの2つです。後者はミカンの幹の太さ(周囲長)を毎日マイクロメーター単位で測り、環境変化との関連を探っています。

植物の研究には、植物の様子をよく観察し、植物の変化にいち早く気がつくことが大切です。

使っている技術は同じですが、植物の状態を捉えるセンサーのほうがゴールまでの道のりが遠くてたいへんです。幸い年間を通して実験するうちに、環境が変わってミカンがストレスを感じると、センサーの測定データに乱れが出ることがわかりました。
植物の発するストレス物質を測ろうとすると大掛かりな装置が必要で、植物のストレスをモニタリングするのは非常に難しいと考えられてきました。それを気軽に測れるようになればとても便利です。このセンサーひとつで植物の状態がある程度わかるようにして、農業に役立ててもらうのが最終目標です。

好きなことに夢中になりながら 新しい価値を生み出せる喜び

研究していて楽しいのは、一風変わった花を咲かせる新しい品種ができたり、新しい美味しさを実感する瞬間です。遺伝子解析によって、クワの実からパンに最適な天然酵母を見つけました。他の研究室とも協力して、創価大学ブランドのパンづくりを目論んでいます。そういう広がりも楽しいですね。
うちの研究室には植物好きや動物好きなど、自然を愛する学生たちが集まっています。植物を管理しているので、毎日コツコツ面倒をみるのをいとわない人が向いています。育てることに真摯に向き合い、「先生!これちょっといつもと違いますが、どうですか?」と、変化に敏感に気づく人に来てほしいです。
もしかしたらかつての私のように、自分のやりたいことがはっきりしている生徒ほど、高校の勉強が楽しくないかもしれません。でももうちょっとの辛抱です。大学ではほんとうに好きなことにチャレンジして伸びていけます。それを楽しみにがんばってください。

ハスの育種にも挑戦しています。

研究を漢字一文字で表すと?

「創」
品種登録しているクワの名前にこの1文字を使っているということもありますが、育種は新しい品種を創りだすことであるからです。

経歴

1972年 大阪府出身
1995年 創価大学工学部卒業
2000年 東京大学農学生命科学研究科 博士(農学)
2000年 (財)かずさDNA研究所 特別研究員
2003年 創価大学工学部環境共生工学科 講師
2015年 創価大学理工学部共生創造理工学科 講師
2020年 創価大学理工学部共生創造理工学科 准教授

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黒沢 則夫 教授

極限環境にすむ微生物から 生命の起源と環境への適応能力を探る!

マイナス30℃から100℃以上まで さまざまな環境に微生物がすんでいる!

私の研究室は「極限環境微生物学研究室」といいます。極限環境とは、ヒトを含む一般的な動植物が暮らす環境とはかけ離れた環境のことで、そのような環境に暮らすバクテリア(細菌)やアーキア(古細菌)、そして微小な真核生物を極限環境微生物といいます。温度、圧力、pH、塩分濃度、放射線など、さまざまな観点からみた極限環境にすむ微生物がいます。
中でも私は50℃から90℃ぐらいの高温環境にいる好熱菌と、マイナス30℃から0℃ぐらいの環境にいる好冷菌を研究対象としています。好熱菌は生命の起源に近いと考えられているので、その研究は地球生命の起源を探ることにつながります。また、生命活動の高温・低温の限界に迫り、その生存戦略を解き明かしていくことも研究テーマです。

バンド活動に熱中した高校〜大学生時代 卒業研究で微生物と出会う

私は子どものころから生き物が大好きで、よく魚取りや昆虫採集をしていました。高校ではバンド活動に熱中し、生活の中にあまり生き物が入ってこなくなりましたが、熱帯魚の飼育は続けていました。高校を卒業する頃はプロのミュージシャンになりたいと思っていて、親に「音楽学校に行きたい」と言ったのですが、大反対されて(笑)。じゃあ大学に行って音楽活動を続けようと(安易に)考え、理科、中でも化学が得意だったので、化学科に進学しました。大学の勉強の傍ら、高校の時のバンドのメンバーとプロを目指す活動をしていたのですが、3年に進学するあたりで、プロになる難しさを感じ始めました。
一方で大学の勉強のいくつかはとても面白く、特に有機化学系の実験は好きでした。でも、4年生になって選んだのは、生物、酵母菌を扱っている研究室でした。たくさんの種類の酵母菌を培養して、脂質を系統的・網羅的に調べて分類との関係を考察するような卒業研究を行いました。いつだったか、研究室の教授に「酵母菌の脂質を調べることは何の役に立つのか?」と質問しました。教授は「すぐに何かに役立つということはない。未知の世界について人類が新しい知識を得ることに意味があって、それが科学というものだ。」と即答されたことを今でも良く覚えています。それは研究者としての今の自分の信条にもなっています。

アカデミズムにあこがれ メーカーの研究職から大学助手に

卒業後は化学品と食品の両方を扱うメーカーに就職しました。学部卒ですから営業で採用されたのですが、新人研修で各部署や工場を回る一環で研究所の研修をしている時に、そのままそこに配属されることになりました。配属先は新規探索部門で、それまでにない新しいタイプの液晶化合物の合成と物性測定を少人数で進めていました。偶然にも学生時代に一番好きだった有機合成を毎日できる状況になり、毎日が充実していました。

転機となる出来事があったのは入社5年目のころです。1カ月くらい、勉強のために東北大学薬学部の研究室に出張することになりました。そこはとても活発な研究室で、大学院生も多く、みんな朝早くから夜の10時、11時まで研究をしていました。「大学で研究するというのは、こういうことなのか、こんなふうに研究できたら素晴らしいだろうな」と強く感じました。アカデミズムにひかれたんですね。

そんな折、大学時代の研究室の先生から、「創価大学に工学部ができることになり、助手を何名か募集している。どの研究室に配属されるかわからないが、転職する気があるなら紹介する」と言われたんです。迷わず転職することにしました。幸い受け入れてもらうことができ、遺伝子工学研究室に配属されました。助手として学生実験の指導補助をする傍ら、その研究室の講師の先生の勧めもあって好熱菌の研究を始めました。ここでの研究が現在につながっています。

フィールドに出て温泉の土や泥を採取し 実験室で微生物を培養することから始まる

環境中には多種多様な微生物が生息していますが、それらの多くは培養困難な微生物です。そのような「難」培養性の新種微生物を、工夫を凝らして培養し、様々な観点から詳しく性質を調べ、最後に学名をつけて論文として世の中に報告するのが「分類学」です。創価大学に助手として採用されて以降、30年弱の間、私は好熱菌の分類学的研究を続けてきました。

実験室で好熱菌を培養しているところ

ゲノム配列だけで 生物が理解できるわけではない

現在は、その環境に生息する生き物の塩基配列を一気に読み取る「メタゲノム解析」もできるようになり、一度も培養されたことのない微生物のゲノム配列を再構築することもできます。ただ、ゲノム配列の情報だけでわかることというのは、実は限られています。たとえば、その微生物の生育温度範囲とか、生育pH範囲といった、基礎的な生理学的性質さえ、ゲノムの情報だけではわかりません。生物の性質はたくさんの遺伝子の相互作用で決まってくるものなので、培養しないとわからないんですね。それに、メタゲノム解析というのは言ってみれば化学分析で、生き物を扱うというのとは少し違います。培養して観察し、いろいろな性質を解明していくといった、生き物の飼育と通じるような研究の方が私は好きですね。

調査場所は温泉から始まった

好熱菌を培養するための試料は、主に温泉から採取しています。国内だけではなく、インドネシアなど海外もフィールドです。また、2003年には深海熱水孔の調査に誘われ、「しんかい6500」で与那国島の近くの海底で熱水や岩を採取しました。

初めは好熱菌の研究が主だったのですが、高温下で生きるメカニズムがだいぶわかってくると、正反対の環境にすむ好冷菌は、逆の環境適応戦略をもっているのだろうか、という疑問がわいてきました。例えば好熱菌は、高温でもたんぱく質が変性しないような仕組みを持っていますが、低温に生きる微生物のたんぱく質はどのようなものだろうか、好熱菌は熱くても液状にならない硬い脂質膜を持っているけれども、好冷菌の持つ脂質膜が低温でも流動性を保っているのは何故だろうか、といったことにも興味が湧いてきたのです。

温泉から南極へ

最初は、極地研究所の方から南極の試料をもらってバクテリアを培養したり、それら微生物の多様性を調べたりしていました。そのうち少しずつ研究成果が出るようになり、南極地域観測隊に参加しないかと声をかけてもらえたのです。やはり自分で採取した試料を使って研究したかったので、願ってもない話でした。南極に行ける!という喜びはもちろんのことです。

南極では、地衣類の研究者、コケの研究者と一緒に、昭和基地から離れて3人でキャンプしながら、お互いに協力して活動しました。試料採取の方法はとてもシンプルで、雪や氷が融けてできた湖の岸から「お玉」で水と堆積物をすくって片っ端から滅菌した容器に入れていきます。

草木が全く無い荒涼とした南極大陸は、風が止むと完全に無音の世界となり、どこまでも澄んだ空気の中の景色は神秘的な感じすらしました。もう一度行きたいです…。

南極の「ユキドリ池」という湖で試料を採取している様子
夏の南極の露岩地帯

誰も見たことのない生き物を 発見して観察する喜び

これまでに培養したり、記載したりした微生物にはどれも思い入れがありますが、一番最初に記載した微生物にはやはり愛着があります。北里大学のグループが箱根の大涌谷で採集し、分離して培養されていたものですが、詳しく解析したところ、新属新種だということがわかりました。学名の属名は硫黄依存性の球菌という意味でサルファリスフェラ(Sulfurisphaera)、種名は大涌谷で採集されたことを表すオオワクエンシス(ohwakuensis)にしました。

ところで、このサルファレスフェラ=オオワクエンシスは、ずっと1属1種だったのですが、去年、20年ぶりに同じサルファレスフェラ属の新種の微生物が記載できたのです。インドネシアのジャワ島の温泉試料から大学院生が分離に成功した微生物で、サルファリスレフラ=ジャヴェンシスという名前になりました。オオワクエンシスは20年間、一人ぼっちだったんですが、ようやく仲間ができたのです。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「楽」
ただし、「らく」ではなく「たのしい」と読んでください!
研究は本当に楽しいです。自分自身が楽しめなくなったら、研究は終わりだと思っています。

プロフィール

神奈川県生まれ。1985年、北里大学衛生学部化学科卒業。旭電化工業(株)研究員、創価大学生命科学研究所専任研究員、同大学工学部助手、同講師、シンシナティ大学客員研究員等を経て、2015年より現職。2012〜2013年には、陸上生物グループ隊員として第54次日本南極地域観測隊に参加。学術博士。

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郷田 秀一郎 教授

酵素や微生物など、ミクロな世界の謎を追求し社会に貢献!

自分の目で見る、手で触れる大切さを学んだ10代の日々

私の主な研究対象は酵素やタンパク質です。酵素やタンパク質という言葉自体はよく耳にすると思いますが、実は生命科学に欠かせない存在だとご存じでしたか?医薬品や化粧品など、みなさんの身近な商品にもこれらの研究が活用されています。私は酵素やタンパク質の化学的特性を分析し、社会に役立てる研究を行っています。

私は創価中学から学園で学び、その後、創価高校に進学しました。高校生の思い出は、2つのサマーセミナーに参加したことです。高校2年生の時には北海道の別海町で行われたサマーセミナーに参加し、タンチョウヅルの観察や釧路湿原を散策しました。実際にフィールドに出て観察した体験はかけがえのないものでした。

高校3年生の時には創価大学ロサンゼルス分校(当時)に語学研修に行き、とても有意義な経験をさせていただきました。自分の学生生活を振り返ると「教室内だけでなく、外でも色々と体験したい」という性格が強く、後の研究スタイルにも結びついているのかもしれません。

大学進学は、とても悩みましたが、創立者池田先生とライナス・ポーリング博士の対談集「『生命の世紀』への探求」にとても感動して、自分の入学と同時に新しく開設される創価大学工学部生物工学科(当時)に運命を感じ、創価学園から推薦で入学することを決めました。

特殊な働きを持つタンパク質で社会課題の解決を目指す

今、特に力を入れているのが「溶血性レクチン」という、赤血球を壊してしまうタンパク質に関する研究です。このタンパク質はグミと呼ばれるナマコの体液中にあり、ヒトを含む生物の赤血球を溶かしてしまう毒素が含まれているので「溶血性」という名前が付けられています。

レクチンが赤血球に孔を開けるメカニズムの図解

「赤血球を壊す毒素」と聞くと、とても危険なように思えますよね。ですが、この溶血性という性質を活かし、蚊が血を吸うことによって感染するマラリアの根絶を目指している研究者もいます。私たちは「壊す」という特徴を活かして、特定の細胞を破壊するタンパク質にできないか、と考えています。例えばがん細胞だけを特異的に破壊することができたら、とても効果的だと思います。このように、一見何に役立つのかわからないものの用途を見つけることも研究の面白さのひとつです。

フィールドワークの中で身近なところから新たな発見も

研究室の紹介資料より

続いては「好熱菌とそれらのタンパク質」の研究に関して説明します。好熱菌とは読んで字の如く、温度の高い環境に生息する微生物の総称です。好熱菌は人の体温よりはるかに高い55℃以上、種類によっては100℃以上の環境でも生き延びることができます。そのため採取できる場所も限られており、当研究室では温泉の源泉まで採取遠征を行っています。

安全キャビネットで作業している様子

例えば、伊豆の峰温泉からは好熱菌「サーマス・サーモフィルス」が発見されていて、現在では好熱菌・超好熱菌由来の酵素がPCRなど様々なものに利用されています。サンプル調査を行う場所は伊豆、草津などの温泉地が多いので、旅行客の方から「水質調査ですか?ご苦労様です」と声をかけられたり、旅行ガイドの方と間違えられたりしたこともありました(笑)。

未知の微生物を見つけ出し、人々の暮らしに貢献したい

研究をしていて楽しさを感じる時は、好熱菌や酵素に代表されるような、未知の存在を見つけた時です。人工的に培養できる微生物は、微生物全体の1パーセント以下だと言われています。そのため、今でも未知の微生物や酵素が次々に見つかっています。また、タンパク質や酵素の研究は、化粧品や医薬品など身近な商品に使われることが多いのです。未知の存在を発見できる嬉しさ、そして、それによって多くの人々の暮らしに貢献できること。これらの点が、研究の大きなやりがいになっています。

学生もフィールドワークに参加!仲間と共に成長してほしい

好熱菌のサンプリング調査は研究室の学生と一緒に行っています。現地に行って自然の中から採取することが重要なので、学生にも主体的に参加してもらっています。お互いにアドバイスしたり、サポートしたりしながら採取するので、自然とチームワークが養われます。サンプリングは持ち帰った試料を研究室で培養するところまでが一連の作業なので、スピーディーかつ正確に作業を終わらせる必要があります。少々大変なところもありますが、学生からはとても好評です。楽しみながら行ってくれているようで、私としても非常に嬉しく思っています。

自分で手を動かして実験するのが何よりも楽しい!自ら考え、行動する人に!

私の研究室でフィールドワークを行うように、共生創造理工学科は実験を非常に重視しています。「手を動かし、何かを作ることが好きな人」にとって、とても居心地の良い環境なのではないでしょうか。学生を指導する立場から見ても、フィールドワークなどで大学の外に飛び出す経験が、大きな成長の機会になっていると感じています。もちろん最初はどうして良いかわからないと思いますが、先生や先輩がきめ細かくサポートしますので、安心して何でも聞いていただければと思います。

研究を漢字一文字で表すと?

「極」

私は「極限環境生物学会」に所属しており、好熱菌など厳しい環境に生きる生物の研究を行っています。また、研究は対象を深く掘り下げて「極める」ことが重要です。妥協することなく、分からないことを解明していきたい。1つの専門分野を極めていきたい。そんな意味を込めてこの字を選びました。

経歴

1995年 創価大学工学部生物工学科卒業
1997年 筑波大学大学院修士課程修了
2000年 大阪大学大学院博士課程修了 博士(理学)
2000年 東北大学大学院工学研究科博士研究員
2002年 徳島大学工学部生物工学科助手
2002年 理化学研究所播磨研究所共同研究員 併任(2005年3月まで)
2005年 理化学研究所播磨研究所客員研究員 併任(2007年3月まで)
2006年 長崎大学工学部応用化学科講師
2007年 長崎大学工学部応用化学科准教授
2007年 英国・インペリアルカレッジロンドン Visiting researcher(2008年5月まで)
2020年 創価大学理工学部教授

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近藤 和典 准教授

体長1㎜のセンチュウ(線虫)に秘められた 謎の解明に挑む!

細胞内で物質を運搬するモータータンパク質

私の研究室では、線虫という小さな生き物を材料に、主に3つの研究をしています。
一つめは、線虫の光に対する反応の研究です。浴びすぎると皮膚がんなどの原因となることで知られている紫外線ですが、線虫にとっても有害で、紫外線や短波長の光が当たると線虫は逃げることがわかっています。そして、線虫のどんな遺伝子やタンパク質が紫外線を感じているかなども調べられています。しかし、紫外線以外の光に対してはどのように反応するか、まだよくわかっていません。そこで私の研究室では、こうした紫外線以外の光に対して、線虫がどのような反応を示すのかを実験しています。
普通の蛍光灯や白熱灯で強い光を当てると、温度が上がりすぎて線虫は死んでしまいます。温度が上がらないまま強い光の出せるLEDが登場したおかげで、このような実験が安価にできるようになりました。ですから線虫の研究の歴史の中では比較的最近、できるようになった研究です。

線虫の顕微鏡写真。線虫は土の中などにすみ、細菌などを食べています。体長はわずか1㎜ほどです。暑さに弱く、25℃以上で死んでしまいます。特にカエノラブディティス・エレガンス (Caenorhabditis elegans;英語読みだとシノラブディス・エレガンス;通常、略してC.エレガンス)という種は実験用のモデル生物として研究に使われています

二つ目は、キネシンというモータータンパク質の研究です。キネシンはバクテリア以外の、真核生物に広く存在するタンパク質で、細胞の中で微小管の上を動き、ある場所からある場所へ物質を運ぶ役割をしています。微小管がレールで、その上を動いて荷物を運搬しているようなイメージですね。キネシンの種類によって運ぶものは違います。
線虫のキネシンは20種類ほどですが、ヒトだと何十種類もあり、物質を運ぶもののほか、レールを壊すものなど、いろいろな役割を担うキネシンがあります。研究室ではクローニングしたキネシンを、生化学的・遺伝学的な手法を用いて、例えばレールの上を動くスピードなど基本的な性質を測定して、これまでに研究されているキネシンと比較するなどの解析を進めています。また、RNAiを用いて、キネシンが線虫の中でどのようなはたらきをしているのかの解明も試みています。

DNA、タンパク質と並んで生命に重要な糖鎖

もう一つは、線虫を用いた糖鎖の研究です。糖鎖というのはグルコース(ブドウ糖)やガラクトースなどの単糖類が連なったものです。糖鎖をつくる単糖は人では10種類ぐらいあり、鎖のように直線状に連なるだけでなく、枝分かれしたり、樹状の複雑な構造をとったりもします。
糖鎖は主に細胞の表面にあって、細胞の性質を決めたり、物質を介した細胞間のシグナルのやりとりや、病原体の感染にかかわったりするなど、さまざまな機能を果たしています。糖鎖の働きのわかりやすい例は、人のABO式血液型でしょう。血液型は、赤血球の表面についている糖鎖の構造のちがいで決まっています。
糖鎖は細胞の中に存在する多くのタンパク質にもついていて、糖鎖があるのとないのとではタンパク質の働きが変わる場合もあります。糖鎖は生体内で非常に重要な働きをしていて、糖鎖がなければ生体は成り立ちません。DNAやタンパク質と並ぶ、生物の基本的な構成要素なのです。
私が研究しているのは、糖鎖にフコースという糖をつける、フコース転移酵素という酵素の遺伝子です。転移酵素は、グルコース転移酵素、ガラクトース転移酵素など糖ごとにあり、各糖の転移酵素ごとにも種類があります。先にお話ししたように、糖鎖は枝分かれし、枝分かれごとに違う酵素が働いたりもするので非常に複雑です。また、タンパク質だと生物の種によらずかなり共通していますが、糖鎖の場合は生物によってかなりバリエーションがありますので、そのあたりが研究の難しいところです。

実験室で線虫を観察している様子。実際に線虫を飼育して研究を進めています。

湯川博士のような科学者にあこがれるも、分子生物学の道へ

いつごろから、ということはないのですが、私は小学生の頃から科学者を目指していました。大学に進学するときは、地元の国立大学には理学部がなかったので、工学部に進学しようと思っていました。しかし、高校の先生に「学者を目指す方がいい」と言われたこともあり、京都大学の理学部に進学しました。
当時はノーベル賞を受賞した日本人の科学者は湯川秀樹博士を含め3人とも物理学者でしたので、科学者といえば物理学、というイメージがあり、最初は物理学、特に素粒子論を志望していました。でも、大学で素粒子論の講義に出てみると、最初から最後まで先生が黒板に数式を書き続けていて、これは自分には合わないと思い、当時は最新の研究分野であった分子生物学に転じました。
大学、大学院を通じて研究していたのは、トランスファーRNA(tRNA)の中のアンバーサプレッサーtRNAの研究です。高校の生物で習うように、細胞内でタンパク質がつくられるとき、3つずつアミノ酸の読み枠が指定されますが、そのときにタンパク質の合成を停止させる終止コドンとよばれる塩基配列の一つがアンバーコドン(UAG)で、tRNAのアンチコドン部の突然変異によって、そこにアミノ酸を挿入できるようになったものが、アンバーサプレッサーです。
博士課程を修了した後はワシントン大学で、4年間、博士研究員として働いていました。そこで出会ったのが線虫です。以来、線虫の研究を進めています。日本に戻ってからは東京大学で博士研究員をしていましたが、その研究室の先生も線虫を材料に研究をされていました。
線虫はごくごく小さな生き物ですが、謎が尽きることはありません。非常に飼いやすく、卵が孵化して卵を産めるようになるまでの世代時間は3日半で、寿命は2週間程度です。ゾウなどだと子孫が生まれるのを待っている間に研究者の方が死んでしまうということになりますが(笑)、線虫はそのようなサイクルですので、遺伝学の研究がしやすい生物です。

尽きない謎を追い求めるのが科学の魅力

科学の魅力は、謎があり、それを突き止める面白さのあるところです。そして、一つの謎を突き止めたら終わりではなく、ずっと追い求める謎があり、完成ということがありません。また、例えば『源氏物語』の味わいなどを他国の人と共有するのは難しいかもしれませんが、科学は全世界共通の原子や遺伝子という言葉を使って、どこの国の人とも同じように研究の話ができるのも、科学のいいところだと思います。
理科や科学が好きで、理系に進もうと思っている人は、分野を問わず幅広く理数系の勉強をしてほしいですね。生物に行きたいから生物だけ、ではなく。生物も物理や化学の法則で動いていますし、各分野が密接にかかわっていますから。
これから進路を決める人には、自分が本当に好きな分野に進んでほしいと思います。親に言われて何となくとか、大学くらい出た方がいいから、ということで進路を決めようとしている人は、立ち止まって好きな道は何なのか考えてほしいですね。その上で、科学が好きだと思えるなら理工学部に進学してきてもらえればと思います。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「蟲」

「蟲」の字は、もとは、「人間を含めたすべての生物、生きとし生けるものを示す文字・概念」であるといいます。1個の細胞から誕生した生命の40億年の歴史のうち20億年ぐらいはみんなバクテリア。その後、ミトコンドリアを細胞内に取り込んでからも十何億年間経過して、今では多様な生物がいますが、人と大腸菌にも対応する遺伝子はたくさんあり、分子生物学的にはそんなに違いはないのです。そういうことを考えながら「蟲」を選びました。

プロフィール

共生創造理工学科 近藤 和典 准教授
1980 年 京都大学 (理学部) 卒業
1985 年 京都大学 博士 (理学研究科) 修了
1985 年 理学博士 京都大学

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佐藤 伸二郎 教授

土壌学で自然と社会をつなぎ、循環型社会の形成へ!

憧れのブラジルで見た衝撃の光景が、研究者の道を志すきっかけに

よく驚かれるのですが、学生時代は全く理系志向ではありませんでした。英語の勉強が好きで、創価大学の文学部 英文学科に入学しました。理系にシフトするきっかけは、大学3年生の時に交換留学生として訪れたブラジルでの経験です。そこで目にしたのは、アマゾンの深刻な森林破壊の様子でした。その光景が忘れられず、学部を卒業した後に理系学部の大学院に進みました。しかし、なぜ留学先にブラジルを選んだかというと、中学3年生の時に見た1本のビデオ映像に遡ります。

アマゾン熱帯林の中で土壌サンプルを採取する様子

中学3年生のころ、ブラジルの文化や民族を紹介するビデオ映像を見ました。知人の勧めで見たのですが、とにかくその映像を見て、脳天に雷が落ちるような衝撃を受けました。ブラジルという国が持つ文化や歴史、自然……全ての映像が未知の体験でした。なぜ自分がここまで興味を惹かれるのかもわからないまま、ブラジルの虜になってしまいました。それからは自分なりにブラジルについて勉強を始め、大学でもラテンアメリカ研究会に所属しました。それくらい、私にとって衝撃的な出来事だったんです。

次のきっかけも偶然なのですが、大学3年生の時に、創価大学の交換留学制度が始まることを知りました。何気なく詳細を見ると、なんと留学先のひとつがブラジルだったんです。「これは人生の一大チャンスだぞ」と飛び込んだ結果、冒頭でご紹介した、アマゾンの森林破壊の現場に遭遇しました。

土壌から考える、環境保護と社会との関わり

もちろんニュースなどで森林破壊の映像を目にしたことはありましたが、実際にその現場に立つと圧倒的なリアリティの違いがありました。それ以来、環境問題が自分の中で大きな存在を占めるようになり、留学から帰国してからは完全に理系に転身しました。文学部をそのまま卒業して、修士課程から理系の大学院に入りました。今までは文系一筋だったので、化学記号を覚え直すところからの再スタートです。その後一度ブラジルに渡ったのですが、よりアカデミックな面から自然環境に貢献したいと思い、アメリカの大学に入学しました。そこでアマゾンの森林をどう守れば良いのかを勉強するうちに、たどり着いた分野が土壌学でした。

授業で紹介するスライドの例:【土壌圏】土壌に連なる様々な生物や非生物が関係しあっている空間で、大気圏、生物圏、岩石圏、水圏と相互に影響し合っている。

なぜなら森林や木の成長を深く研究すればするほど、その土台となる土の重要性に行き当たったからです。土壌をうまく管理しないと木が育たず、かといって化学肥料を使いすぎると土壌が疲弊してしまいます。有機物を上手に使って土壌を改善することが、森林の保全につながるのではないか。本学に赴任してからはその観点を発展させ、社会の中から出てくる廃棄物を上手く土壌に還元し、社会活動と環境保護を両立させるための取り組みを研究しています。

例えば私の研究室はエチオピアで「SATREPS-EARTHプロジェクト」という国際共同プロジェクトを実施しています。これは過剰に繁殖して湖などの環境を汚染している水草(ホテイアオイ)から、バイオガスなどの有価物を生産するプロジェクトです。環境問題を解決しながら経済的なメリットを生み出すことで、循環型社会の構築を目指しています。まさに共生創造理工学科が目指す「環境と人間社会との共生」を体現するプロジェクトと言えるのではないでしょうか。

「失敗した時ほど面白い」 土壌学が教えてくれる、研究の面白さ

ホテイアオイを使用したバイオ炭の炭団(固形燃料)

私の専門分野のひとつがバイオ炭です。これは廃棄物に含まれる有機物を炭化して作ったもので、土壌改良材や燃料として使われます。バイオ炭を土壌に撒いた時の環境変化の様子や、そこで育てた作物の収穫量が変わるのか、などの検証をしています。

炭化は廃棄物に含まれる有機物を土壌に還元する方法のひとつなのですが、昨今は技術が進歩し、バイオ炭にできる有機物の幅が広がっています。例えば動物の糞尿など湿っているものもそのまま炭化できるようになり、乾かすための余分なエネルギーや時間を節減できるようになりました。面白いのは、乾燥した有機物と湿った有機物で、炭にした時の性質が大きく異なる点です。私の研究ではそれらの違いを踏まえて作物を育て、栄養素の違いなどを詳しく分析しています。

ホテイアオイのバイオ炭を土壌改良材として利用している様

とはいえ、土壌学は自然が相手なので、実験が思い通りにいかない可能性がとても高いんです。ですが、私は「失敗した時の方がサイエンスとして面白い」と思います。なぜなら、なぜ間違ったのかを検証できるからです。仮説の立て方、実験の手順、数式や化学式の使い方……複雑な要素を一つひとつ検証し、なぜ間違ってしまったのかがわかれば、また一歩、サイエンスを前進させたことになります。この過程こそ研究者の本質と言えるのではないでしょうか。失敗を恐れる学生も多いのですが、私はもっと失敗するべきだと教えています。実験が失敗した時は、科学者としての大事な要素に立ち返られている時間なのですから。

国際色豊かな環境で、
「共生」という発想を学んでほしい

本学の理工学部の中で農学や土壌学に関連しているゼミや研究室は非常に少ないため、私のゼミ生や大学院生は農学や環境問題に興味のある方が多いですね。またもうひとつの特長が、国際性です。大学院生はほぼ半数が留学生です。先ほどご紹介した「SATREPS-EARTHプロジェクト」の関係で、エチオピアからの留学生もたくさん所属しています。自然と学生同士の国際交流が発生するので、学生にとって貴重な機会になっていると思います。

私の研究室を含め、共生創造理工学科では「環境と人間社会との共生」を軸に幅広い分野を学ぶことができます。例えばDNAや脳科学などの生命科学をはじめ、情報系から工学分野まで、たくさんの研究室があります。まずは基礎的な知識を幅広く学び、興味を持った分野の具体的な技術を各研究室で身に付ける、という流れで学びを深めることができます。教員との距離感も近く、非常に充実したカリキュラムを備えた学部・学科だと考えています。

私は学生に対し「自分が学んだサイエンスの知識を、どうやって社会に還元していくか考えてほしい」と伝えています。学生が将来的にどんな進路を選んだとしても、“共生”という考え方を軸に技術を磨いた経験は、学生の力になってくれるはずです。

研究を漢字一文字で表すと?

「土」

自然環境も人間社会も「土壌」の上に成り立っています。人間と自然が共生するためには、豊かな「土」づくりが大切です。

経歴

1993年 創価大学 文学部 英文学科 卒業
1995年 筑波大学 大学院 修士課程 環境科学研究科 環境科学専攻 修了
2003年 アメリカ フロリダ大学大学院 博士課程 土壌・水科学学部 修了
Ph.D. (土壌学)
2003年 アメリカ コーネル大学 作物・土壌科学学部 ポストドクター研究員
2005年 アメリカ フロリダ大学 南西フロリダ研究・教育所 ポストドクター研究員
2010年 創価大学 工学部 環境共生工学科 准教授
2015年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 准教授
2016年 創価大学 副国際部長(~2021年)
2020年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 教授

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関 篤志 教授

光ファイバやナノ粒子を使って 微小な究極のセンサの研究・開発に挑む!

光ファイバを修飾してセンサに利用する!

私の研究室では、光ファイバやナノ粒子などを用いた化学センサやバイオセンサの研究と開発を行っています。光通信に用いられる光ファイバですが、その表面を修飾し、伝送されてくる光の性質の変化を測定すれば、目的の計測ができるようなセンサとして働きます。
たとえば、金属の薄膜や金属ナノ粒子を固定化した光ファイバの表面を吸水性のポリマーなどで修飾すると、湿度センサとして使うことができます。光ファイバの直径は0.1mm程度ですから、非常に小さなセンサとして利用することができます。また、これを研磨してさらに細くすると、より小さな世界を測定することもできるようになります。

化学的な加工を施し、センサとして働くようにした光ファイバ。先端の直径は約10μm(1μm〔マイクロメートル〕は1000分の1mm)

細胞1つ、分子1つでも検知できるセンサの開発をめざす

さらに、タンパク質を使ったセンサの開発にも挑戦しています。タンパク質は種類がたくさんあり、特定の物質と結びつくものもあります。こうしたタンパク質を金属ナノ粒子の上にくっつけて、そこにほかの物質が結合したときの変化を計測すれば、バイオセンサとして機能します。さまざまなタンパク質をナノ粒子の上に結合させることができれば、センサとしての可能性が広がります。 
光ファイバは、計測点の近くで電気を使う必要がありませんから、水素のような可燃性の気体の計測にも安全に用いることができます。遠隔地での測定もでき、軽量化も可能です。
また、光ファイバ自体がとても細いため、例えば血液1滴といった、ごく微量の試料の測定も可能になります。このような特長を利用し、果実や食品の糖度測定や環境計測、酸素や水素といった気体の検出など、種々のセンサを開発しようとしています。将来的には細胞1つとか、分子1つでも検知できるようなセンサを開発したいと考えています。

昆虫少年だった小学生時代、 ファーブルにも影響を受ける

小学生のころは、夏の暑い日にプールに行かずに網とカゴを持って野山で昆虫を追いかけていました。また、捕まえた昆虫をなるべく自然に近い状態で飼育してみようとしていました。
『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』も好きで、よく読んでいました。特に、羽化したオオクジャクサンというガのメスの周りにオスが集まってきたところを見たファーブルが「オスはどのようにしてメスの居場所を知ったのか?」と疑問を抱き、その疑問を解決するために実験を試みる、という話は心に残りました。この話を読んだ当時も、昆虫はどのようにして非常に高感度に物質を検知しているのだろうか、と不思議に思ったものです。
高校生のときには、化学の実験が面白いと思いました。特に瞬時に物質の色が変わったりする化学反応などにひかれましたね。また、フェロモンなど昆虫の化学にも興味がありました。

タンパク質の扱い方を身につけた、大学〜大学院生時代

大学の卒業研究では、固体基板の上にタンパク質を固定化する、つまり並べてくっつける、という実験をし、タンパク質の扱い方の基礎を身につけました。「タンパク質を並べる」といっても、ただ並べるわけではありません。タンパク質のもとの性質は保ったまま、向きを揃えて並ばせることで、同じ性質のものができるように工夫しました。
大学卒業後は大学院に進み、博士課程では、固体の上に並んだ分子の働きを電気学的に検出する研究をしている研究室で研究を行いました。先ほども登場した、タンパク質を使ったバイオセンサです。例えば、糖尿病の患者さんの血糖値を測るためには、血液中のグルコースの濃度を見ますね。グルコースを選択的に反応させる酵素を用いれば、血中のグルコースを検出するセンサができます。これは典型的なバイオセンサです。博士課程でこれらの技術を身につけ、創価大学に来てからも研究を続けています。
予想通りの結果が得られたときは嬉しくはありますが、予想外の結果が出たときでも、なぜなんだろう、と理由を考えて解決に結び付けていくことは面白くもあり、研究の醍醐味でもあります。

好奇心をもって、幅広い勉強を!

学生の皆さんには、とにかく好奇心旺盛であってほしいと思います。創価大学理工学部は基礎から応用まで幅広い範囲にわたる領域を扱っている学部で、そこが面白いところだと思いますし、おすすめです。
私の研究室では、学生はセンサの材料になる、ナノ粒子の合成から始めます。市販されているものもありますが、実験で使うものは自前で揃えています。有用なセンサを開発したい、新しい検出原理を見付けたい、そういった学生の方が来てくれれば嬉しいです。

実際に光ファイバを加工している実験室の作業台。市販されている自動ステージや自分たちで設計した部品などを組み合わせて、自作したものです

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「漠」

新しいことに取り組むということは、果てのない大地や海から宝物を探し出すようなものです。予想通りの結果が得られないことはたくさんあります。些細なこともおろそかにせずに、マイクロメートルの細さの光ファイバと、ナノメートルの直径の微粒子を用いて、ピコレベルの感度を持つセンサを開発したいと思っています。

プロフィール

共生創造理工学科 関 篤志 教授
1984年 九州大学農学部卒業
1990年 東京工業大学総合理工学研究科博士課程修了 工学博士
1990年 創価大学生命科学研究所助手
1995年 創価大学工学部講師
1999年 創価大学工学部助教授
2010年 創価大学工学部生命情報工学科教授
2017年 創価大学理工学部共生創造理工学科教授

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高瀬 明 教授

ウイルスの研究が 「生命」のふしぎ解明につながる!!

単純で小さいのに影響力は強大 ウイルスは究極の“感染因子”!

 私はウイルスの研究をしています。ウイルスは大学のカリキュラムの「微生物学」という学問で習います。大きさは小さなもので約20nm(ルナノメートル)。これは髪の毛の太さ(平均0.08mm)の4000分の1くらいという小ささです。でも、その構造には無駄がありません。

感染症を引き起こす病気体として、ウイルスと細菌がよく混同されます。細菌は1つの細胞からなる小さな生物、すなわち微生物の一種です。一方、ウイルスも微生物の一種ですが、ウイルスの設計図である遺伝子とそれを守るタンパク質や脂質の膜だけでできていて、とても単純な構造をしています。さまざまな生物の細胞に感染し、ウイルス遺伝子の情報をもとに、細胞に備わっている「タンパク質や遺伝子を作る機能」などを利用して子孫のウイルスを作ります。

「こんなに無駄のない構造で生存し続けるウイルスってすごいなあ!」と感動し、そのしくみに興味を持ったことが、私がウイルスの研究者になった動機です。

のちほどくわしく説明しますが、現在は主に、マウスに白血病と神経病変を起こすレトロウイルスと、インフルエンザウイルスについて研究しています。

自然豊かな田舎で育ち、 子どものころから理系が大好きだった

 私は兵庫県の田舎で生まれ育ちました。なんと幼少の頃の記憶といえば「草むらの中にいる私」です。隣の家さえ遠く、自然を相手に遊ぶ子どもでした。そういう育ち方をしたので自然現象全般に興味があり、理系の科目ならなんでも好きでした。勉強ばかりしていたわけではなく、中学、高校と毎日真っ黒になってテニスに明け暮れていました。音楽も大好きで、ピアノ教室にも通っていました。

進学先の獣医学部で ウイルスと運命の出合いを果たす!

高校のころは特に自然や生命に関心が向かい、大学では、生物の中でも哺乳類について学びたいと思いました。大学の学部を調べてみて、「哺乳動物なら獣医学部がよさそうだな」と考えて、獣医学部のある大学を受験しました。

獣医学部では、さまざまな方向から生き物のしくみや病気について興味深く学ぶことができました。その中でも微生物学の講義と実習がとても面白く、先生をたずねて微生物の研究室に出入りするようになりました。その研究室でインフルエンザウイルスの研究をしている先生に「手伝ってみる?」と声をかけられ、研究をお手伝いすることになりました。そこで初めてウイルスについて詳しく知りました。

ウイルスにはたくさんの種類があり、あらゆる生き物に感染します。動植物はもちろん、細菌に感染するウイルスもあります。知れば知るほど、宿主とウイルスとの関係性にどんどんひき込まれていきました。

「マウス白血病ウイルス」を使って ウイルスのサバイバル戦略に迫る

現在の研究テーマは、大まかにいえば、ウイルスがどのようなしくみで細胞に取りついて中に入っていくのか、細胞の中でどうやって増殖しているのかを解明することです。

ウイルスが生き残るためには、すぐに宿主の細胞を壊してもいけないし、逆に宿主の免疫機構に自分が殺されてしまってもだめです。宿主を生かしたまま利用し、最大限に増殖できるようなしくみを何かもっているはずです。私が調べているのは、そのしくみです。

遺伝子の構造が単純だからこそ メカニズムが見えやすい!

私は「マウス白血病ウイルス」を研究に使っています。このウイルスは遺伝子の数が少なく、単純です。しかし、遺伝子を正しく働かせるためのスイッチを操作する機能がどこにあるのかもよくわかっていません。でもちゃんとマウスの細胞で増殖し、マウスに白血病や神経病変を引き起こす性質も子孫のウイルスに伝えています。いったいどうやって遺伝子を正しく働かせているのでしょうか。研究の一例をご紹介しましょう。

高校で生物を選択した人はわかるかと思いますが、遺伝子が働くには、まずDNAの持っている遺伝情報を元にメッセンジャーRNAが合成され、そこに細胞内のリボソームがくっついてタンパク質を合成します。私の研究室ではその一連の流れの中から「スプライシング」という現象に着目し、どういうしくみでマウス白血病ウイルスの遺伝子が正しく働くようになっているのかを調べました。

研究室での実験からわかったことと そこから生まれた新たな謎

ヒトやマウスなどの遺伝情報は複雑で、その膨大な遺伝情報をそのまま写し取っても、正常にタンパク質が作られません。そこで、メッセンジャーRNAに遺伝情報を転写する際に、不要な情報を取り除く「スプライシング」が行われています。

スプライシングは遺伝子構造の決まったところで起こります。私たちは、マウス白血病ウイルスの遺伝子の一部を人工的に取り除くと、スプライシングがうまくいかなくなることを実験で突きとめました(なんと約8000塩基がつながった遺伝子のなかの、たったの11塩基でした)。その11塩基のどこかに正しいスプライシングを指揮している「何か」があるはずです。

スプライシングのイメージ図

マウス白血病ウイルスは宿主の細胞の中でスプライシングを行っています。しかも、先ほど紹介した通り、遺伝子構造が単純なので、ウイルスの遺伝子からは、スプライシングをコントロールするタンパク質は作られていません。それでもスプライシングが正しく行われている、ということは、宿主細胞の中に備わっている「何か」を借りているに違いありません。そこで、「いったい何を借りているんだろう?」という新たな疑問が生まれました。

 私たちは今、こうした「分子」というミクロな世界でのなぞ解きに挑んでいるところです。

マウス白血病ウイルスの研究が ヒトの病気の解明につながるかも!

実はヒトにも、遺伝子のスプライシングの異常によって起こる病気がいくつかあります。マウス白血病ウイルスの研究が進めば、ヒトの細胞で起こっている未知の現象を明らかにできるきっかけになるかもしれません。いわば私の研究は、生命現象の根源的なメカニズムを、ウイルスというモデルを使って探っているということにもなります。

他には、「インフルエンザウイルスは、なぜさまざまな宿主動物の間を伝搬できるのか。その分子メカニズムはどうなっているのか?」というテーマについても、本学および他大学の先生方と協力しながら研究を進めています。一つのことを深く掘れば掘るほど、思わぬところにつながる可能性が高くなり、楽しさが増すので、研究がやめられません。

大学での学びは 新しい発見に満ち溢れている!

共生創造理工学科の1年生はまず、生命現象についてのいろいろなキーワードについて学んでいきます。授業などを通して、あなたが不思議に思ったことは、実はまだ解明されていないことかもしれません。単に自分の知識不足なのか、それとも本当にまだ世界の誰もが知らないことなのか、の区別がつくようになると、「じゃあ、自分で研究してみようか」と、研究が楽しみになってくるのです。

私の研究室では、遺伝子工学や細胞培養の基本的な技術が一通り身につきます。最初は先輩と一緒に実験しますが、半年もすると、実験試料の取り扱いや機器の操作にもなれ、一人で実験ができるようになりますよ。卒業研究では過去に先輩たちがやってきた内容を踏まえ、研究を一歩先に進めます。この段階で、世界中で行われている関連の研究にも思いが至れば理想的です!

ちなみに、研究用のウイルスは絶対外に漏れたり感染したりしないよう、超低温の冷凍庫で保管します。実験は講習を受けた後、バイオハザードを封じ込めることができる特別な実験室で、安全性を確保しながら行いますので、安心してください。

ウイルス等を取り扱うP3実験室

大学時代は自分の知的好奇心に向き合い、興味を掘り下げて深めていける唯一のチャンスです。いろいろな事情はとりあえず脇に置いて、一度じっくり「本当にやりたいこと」を考えてみてほしいのです。自分の好きなことを深く掘り下げて考える経験は、人生で壁にぶつかった時に、冷静に問題の根源を探れるような思考力を養います。その後の人生にも必ずプラスになると思います。

研究を漢字一文字で表すと?

私は、ウイルスの研究を長く続けてきて、研究とは、自然界の事象を深く掘り下げ、その中でぶつかった未知の謎に挑んでいくことであると感じるようになりました。研究という行いには、研究者の人間としてのあり方が反映される奥深さがあり、また、研究には、自分自身に向き合う機会を与えて成長させてくれる懐の深さがあると思います。
ですから、私の研究のイメージは「深」です。

経歴

兵庫県生まれ。父は兵庫県の家畜保健衛生所に勤める獣医師で、そのため田舎で牛やニワトリを眺めながら自然を友に育つ。中学・高校とテニス部に所属。
北海道大学に進学し、北海道大学大学院獣医学研究科博士後期課程 修了。獣医学博士。英国NERC, Institute of Virology の博士研究員および国立精神・神経センター神経研究所の研究員を経て創価大学生命科学研究所に。2003年から現職

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栂谷内 晶 教授

生命を構成する第3の生命鎖「糖鎖」の謎を解き明かし、日本発の活用事例を作りたい!

糖鎖研究に進むきっかけになった、大学時代の体験

私の主な研究内容は「糖鎖生物学」です。核酸(DNAとRNA)、タンパク質と並んで生命を構成する生体高分子(生命の鎖)である「糖鎖」という物質について研究しています。糖鎖がどのような生物機能を持っているかを追求する基礎研究と、それをいかに産業に応用するかを考える応用研究の2つに取り組んでいます。

小学生の時から理系科目、特に生物が好きな子どもでした。当時、両親から顕微鏡と昆虫標本キットをプレゼントしてもらったことをよく覚えています。顕微鏡にはフィルムカメラで拡大写真を撮影できる機能が付いていて、当時としては画期的な製品でした。いつもそれを使って虫や植物を観察していましたね。

大学生の時、当時の研究室にて

高校生の時はコンピュータ関連にも興味があったので、大学の進路は情報系学部も考えていました。ギリギリまで悩みましたが、決め手になったのは「生物系の知識は特殊技能になるのでは」という点でした。当時はパーソナルコンピュータが一般層に普及しており、近いうちに誰もが日常的にコンピュータを使う時代が来ると考えていました。それなら生物系の専門的な勉強をした方が強みになるだろうと思い、創価大学の理工学部に入学しました。

研究者としてのキャリアを考えた最初のきっかけは、大学1年生の後期まで遡ります。授業を受けていた先生から「実験の人手が急遽足りなくなってしまったから、少し手を貸してくれないか」と突然声をかけられ、参加することになりました。もちろん1年生なので研究の詳しい内容は理解できません。ですが先生や大学院生と並んで研究をお手伝いする時間が非常に刺激的で、以降もその先生の研究室に出入りするようになりました。また大学2年生の時に自分自身が長期入院したことや、その後に親が体調を崩して長期入院したことも、生物学や医学分野を専門的に学ぼうと思ったきっかけのひとつです。そして、この出来事をきっかけに研究を始めた分野こそが、私の専門分野である「糖鎖」になります。

がん健診からヒアルロン酸まで? 世界が注目する日本の糖鎖研究

授業で使用する資料より

糖鎖と言われてもあまり馴染みがないかもしれませんが、実はあなたの身近にもたくさん存在しています。例えばヨーグルトなどに含まれるオリゴ糖や、化粧品に使われるヒアルロン酸などに糖鎖が使われています。そのほかABO式の血液型も、赤血球の表面を覆う糖鎖の構造の違いで判断されます。

続いては、糖鎖の役割についてご説明します。糖鎖は細胞の表面にある脂質に付着することで、細胞の表面を覆うような状態になっています。そのため「細胞の洋服」と考えればわかりやすいでしょう。人を細胞に置き換えた時、洋服に当たるのが糖鎖の構造です。人が目的や温度に応じて服を着替えるように、糖鎖も細胞の成長や環境の変化に合わせて姿や機能を変えているのです。

この「細胞の状態や細胞を取り巻く状況に合わせて変化する」という糖鎖の特徴を活用した様々な研究が行われています。代表例のひとつが、病気の診断に利用する研究です。病気になると細胞の状態が変化するため、同時に糖鎖の構造も変化します。健康な状態と病気の状態の糖鎖を比較することで、がんなどの病気の診断などへの応用が期待されています。そのほかにも創薬方面や、オリゴ糖などのかたちで食品に応用されるなど、様々な産業で糖鎖の活用法が模索されています。

実は今、糖鎖が世界的に注目されています。日本は納豆や日本酒などの発酵食品の影響で、かねてより発酵分野の研究が盛んに行われてきました。日本の糖鎖の研究も、発酵分野の流れなどを汲んでいるため、現在まで、ここ日本で世界に先駆けた多くの糖鎖研究プロジェクトが生まれてきました。生命科学研究の中で、糖鎖は日本が国際的な競争力を持っている分野と考えられます。

「誰も知らない事実がわかる嬉しさ」 研究のやりがいと、糖鎖の可能性とは

研究のやりがいは大きく2つあり「自分の知的探究心を満たす喜び」「それを社会に還元する喜び」だと思います。まずは、1人の研究者として未知の分野に挑む面白さです。研究室で仮説を立てて実験して、結果のデータを世界で最初に目にするのは、研究者自身です。世界で誰も知らない事実を最初に知る時は、いまだにワクワクする瞬間です(笑)。もう一方のやりがいに関しては、糖鎖は病気の予測や創薬など、医療面で貢献できる分野だと考えています。

特に日本は少子高齢化の中で、健康保険など医療制度の負担が大きくなってくると予測されます。病気になる人が増えると医療費も膨大になるため、疾患の予防・早期発見・治療が重要になります。そのような点で糖鎖が貢献できるのではないかと考えています。例えば難治性の病気に糖鎖が関与していれば、創薬や治療法の発展が期待できます。病気で大変な思いをしている人はたくさんいらっしゃいます。そのような方々の負担をいかに減らしていけるのかが、私なりの研究の目標だと思います。

多様性のある学びと、手厚いサポート体制が共生創造理工学科の魅力

研究室メンバーとの集合写真

共生創造理工学科は様々な分野の専門領域が所属しており、学びの多様性が特長です。多様なバックグラウンドを持つ先生が集まっている学科の何がメリットかと言えば、異なる領域をまたがる融合的な研究を行いやすい点が挙げられるでしょう。例えば私の領域で言えば、生物系であると同時に、機械学習などの情報科学の技術を積極的に取り入れていきたいと考えています。「生物 × 情報」の組み合わせで、糖鎖を研究していくわけです。あなたが化学に興味があれば工業的な化学研究に進むこともできるし、いわゆる創薬などの医学系研究に進むこともできるかもしれません。

また、本学部はコース制度を採用しているので、入学してから興味のあるコースを選ぶことで、自分の「好き」を伸ばしていくことができます。「どんなコースを選べば良いかわからない」という人は、先輩や先生に相談してみてはいかがでしょうか。創価大学では進路や学生生活を先輩や教員に相談できる機会を定期的に設けているほか、ゼミの先生にも気軽に話すことができます。各種窓口がたくさん設けられているので、先生や学校職員との距離感の近さは、学生にとって安心できる点だと思います。ぜひ、創価大学でお会いできる日を楽しみにしています。

研究を漢字一文字で表すと?

「応」

研究は社会に貢献することも大事ですが、研究者が学問として追求することを否定してはいけません。自分の「知的好奇心に応える」研究を突き詰めた上で、さらにその研究が「社会の要求に応える」ものになって欲しいと思います。

経歴

2002年3月  東京大学大学院薬学系研究科機能薬学専攻博士後期課程修了・博士(薬学)
2002年4月  産業技術総合研究所 分子細胞工学研究部門 遺伝子機能解析グループ、第一号非常勤職員(ポストドクトラルフェロー)
2002年6月 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 、養成技術者(NEDOフェロー):産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター糖鎖遺伝子機能解析チームへ派遣
2003年10月 産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター 糖鎖遺伝子機能解析チーム、常勤職員(若手任期付研究員)
2008年4月  同・常勤職員(研究員)
2011年6月  筑波大学 人間総合科学研究科(医学) 疾患制御医学専攻、連携大学院(産業技術総合研究所)、准教授(2020年3月まで)
2011年10月 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター、主任研究員
2015年4月 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 糖鎖技術研究グループ、主任研究員
2020年4月 創価大学大学院理工学研究科生命理学専攻、教授
2021年1月 創価大学糖鎖生命システム融合研究所、教授

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戸田 龍樹 教授

生き物の力を活用した「修復生態学」で、新しい循環型社会の可能性を伝えたい!

顕微鏡で覗いた「未知の世界」が、深海調査につながった

「まるで、別の世界を覗いているみたいだ」高校生の時、生物の授業で池の水を顕微鏡で観察した際、大きな衝撃を受けました。見た目は透明な水なのに、プランクトンなどの小さな生き物がたくさん動いていたからです。生物関連の分野に興味を持った初めての瞬間かもしれません。後に北海道大学の水産学部に進学するのですが、そこでも「浮遊生物学」つまりプランクトンに関する研究室に入りました。

水産学部に進学したもう一つの理由が「探検」です。小さいころから探検家という存在に魅力を感じており、どこか未知の世界を訪れることに憧れがありました。とはいえ、探検そのものを仕事にすることは非常に困難です。そのため船舶や海洋学に関する学部に進学しました。大学院では東京大学の海洋研究所に所属し、潜水調査船「しんかい2000」に乗船してプランクトンを採取するために深海に潜ったり、エルニーニョ現象を調べるために2ヶ月間の海洋調査に出たりしました。いわゆる探検家とは異なりますが、貴重な時間を過ごすことができたと感じています。

海外の事例から環境技術の可能性を学ぶ

創価大学ではプランクトンなどの生物を工学的なアイデアと組み合わせ、循環型社会の構築につながる研究に取り組んでいます。そのひとつが、自然の力を活かして環境の改善を目指す「修復生態学」です。例えば排水を処理する際、微生物を活用することで生態系に負荷を与えない、ないしは生態系を修復するような技術です。授業では海外で実際に導入されている事例を紹介して環境技術について教えています。

私は1年のうち2ヶ月ほどを海外で過ごしますが、帰国するたびに日本独特の社会常識に驚かされます。例えば山手線の到着が3分遅れると「電車が遅延しておりご迷惑をお掛けしております」とアナウンスが流れると思います。でも、日本以外の先進国では3分の遅延なんてまず問題になりません。こういった日本独自の考え方が、環境技術の面にも存在しています。その代表例がトイレの排水です。日本のトイレでは飲めるくらいキレイな水を排水に使用していますが、このような国は少数派です。なぜなら飲むための水ではないので、そこまでキレイにする必要がないからです。……改めて言葉にすると、当たり前のことしか言っていないですね(笑)

他にも下水の処理なども独特です。他の国ではもっと効率的な方法を採用していたり、処理の過程で別のエネルギーを生成していたりします。山手線のアナウンスと同様に、日本独自のルールに囲まれているとそれが少数派だと気づかないわけです。なので授業では外国で採用されている技術を積極的に紹介しています。「本当はこんなに使える技術があるんだよ」と、学生の固定概念に無いアイデアを与えることも、授業を行う意義の一つだと考えています。

「研究を実験室で完結させたくない」研究のやりがい、面白さとは

研究している技術が、社会でどのように使われるのか。それを考えている時は非常にワクワクします。実験室の中で試行錯誤し、それを一般の社会に応用して良い結果が得られた時にはやりがいを感じます。実験室の中だけで完結する類の研究も存在しますが、少なくとも私にはあまり興味がありません。心を動かされるのはいつも、社会の問題解決のために技術を活用しているときです。

もちろん失敗だってたくさんあります。私は技術と技術を組み合わせる方法を考えている時が特に好きなのですが、実際に試してみると非常に難しい。そのまま成功することは滅多にないので「技術を組み合わせる技術」にいつも頭を悩ませています。ですが、上手くいかないからこそ面白いと思います。何の問題もなく成功してしまえば、それは研究ではなく業務です。人間は結果が先に見えるとやる気がなくなると言われていますが、本当にその通りだと思いますね。

「やわらかい理工学」を学んで、社会に求められる人材へ成長してほしい

普通は工学や理工学というと、電気工学や建築学をイメージすると思います。ですが創価大学の理工学部は「情報・生命・環境」に強いという点が特長です。私はハード(物理)ではなくソフト(無形)の理工学であることから「やわらかい理工学」と呼んでいるのですが、これらの分野は今まさに、そしてこれからの社会に求められる分野です。情報はAIやビッグデータ、生命だったら生命操作工学やタンパク質工学、そして環境は環境技術の知識。デジタル人材不足、医療や健康の問題、気候変動など、現代社会の課題に応える知識を身に付けられる学部・学科と言えるのではないでしょうか。

以前は「生態学や環境系の分野は就職に不利」と言われることもありました。しかし、現在は地球環境に配慮した経営が求められており、環境技術を学んだ学生に注目が集まっています。ぜひ、本学部・学科で今の時代に求められる技術や考え方を学び、社会で活躍していただきたいと考えています。

研究を漢字一文字で表すと?

「遊」

せっかく人生をかけて研究に取り組むなら楽しい方が良いですよね。何事も遊ぶように楽しく行いたいですし、本当に好きなことなら時間を忘れて熱中してしまうものです。自分の仕事が楽しいと思えれば、人生も豊かになるはず。学生のみなさんも、自分が心から楽しいと思える何かを創価大学で探してみてください。

経歴

【学歴】
昭和59年  北海道大学水産学部水産増殖学科卒業(水産学士)
昭和61年  北海道大学大学院水産学研究科修士課程修了(水産学修士)
平成2年    東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)

【主な職歴】
平成2年    東京大学海洋研究所 日本学術振興会特別研究員
平成3年    創価大学工学部生物工学科 講師
平成15年  同大 工学部環境共生工学科 教授
平成17年  工学部環境共生工学科長
平成25年  同大 工学研究科環境共生工学専攻長
平成27年  同大 工学研究科長
令和3年    同大 理工学部長

その他、横浜国立大学教育人間科学部、東京農工大学農学部・工学部、滋賀県立大学大学院などで非常勤講師、マレーシア国民大学客員教授など歴任

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新津 隆士 准教授

化学の力で、天然物から人の役に立つものをつくる!

二酸化炭素を糖にできれば……。 複雑な機構の解明に取り組む

私の研究室では、「自然環境中の有用物質の探索と利用」をテーマに、いろいろな研究をしています。
私自身が長年取り組んでいるのは、空気中の二酸化炭素を食べられる糖に変える研究です。いわば植物が光合成で行っていることを、人工的にしようとする研究です。
なかでも、ホルモース反応といって、ホルムアルデヒドから糖を形成する反応のメカニズムの解析を行っています。ホルモース反応は機構が複雑で制御するのが難しいため、炭素の同位体を用い、反応の過程を追うことで、新たな知見を得ることができました。二酸化炭素をホルムアルデヒドやメタノールとして固定している研究者もいらっしゃるので、つなげることができれば、二酸化炭素から糖を得ることも夢ではありません。さらに研究を進め、二酸化炭素を有効利用することで地球温暖化問題の改善に貢献したいと、息長く取り組んでいます。

利用されない桑の枝や柑橘の皮を使って悩みを解決!

そのほか、現在、主に3つの研究に取り組んでいます。
一つは、桑の木の皮に含まれる成分の分析と育毛・発毛効果の検証です。創価大学で育成した「創輝」という品種の桑があります。別の研究室で、この葉の有効成分に着目してお茶として飲む研究をしているのですが、その研究室では桑の木の枝は不要です。一方、桑白皮といって、桑の根の皮は、昔から育毛効果があるとして利用されてきました。しかし、桑白皮を採ると桑の木は枯れてしまいます。そこで、私たちは「創輝」の枝の樹皮の成分を抽出して用いた育毛剤・養毛剤を開発しようとしています。ネズミを用いた実験では、育毛効果は期待できそうなので、発毛効果の方も検証しているところです。
育毛・発毛は主に男性の方に多い悩みですが、女性に多い悩みのダイエットに関する研究もしています。
ベトナムでは、出産後の女性がもとの体型に戻す際に、ブオイという柑橘の皮を煮出して飲まれているという話を聞き、さまざまな柑橘の果皮の成分を分析しました。体重抑制に効果があるとされる成分には、代謝を高めるもの、食欲を減退させるものなどいろいろな種類がありますし、水溶性か脂溶性かといった特徴や味に与える影響も異なります。そこで、有効な成分を効率よく抽出し、成分が分解しない形で利用する方法を探っています。

研究室ではさまざまな柑橘類の果実の皮から成分を抽出しています。写真はマーコットオレンジの果皮

特定外来生物の被害からソメイヨシノを守りたい

もう一つは、クビアカツヤカミキリという外来昆虫に関する研究です。2018年、環境省の「特定外来生物」にも指定されたカミキリムシで、サクラやアンズ、ウメ、モモなどを食害し、被害が各地で出ています。繁殖力が強く、ソメイヨシノの被害が大きいので、日本のサクラに壊滅的な被害を与えるのではないかとの危惧もあります。
東京都でも確認されていますが、大学の近くではまだ見かけないので、かわりにいろいろな種類のカミキリムシを捕まえ、どんな植物から抽出した成分を嫌うのか、忌避実験しています。夜行性のカミキリムシもいますので、春の終わりから夏にかけて、夜な夜な懐中電灯と捕虫網を持って電灯に集まってくるカミキリムシを片っ端から捕まえたりしています。
今のところ、青葉のイチョウの葉から抽出した成分が一番、効果が高いです。イチョウはギンナン拾いで手がかぶれることもあることから試してみました。
どの研究も世の中に役に立つ形にしたいと考えていますし、有望なテーマが見つかれば積極的に取り組んでいます。

木の皮を食べてしまう害虫として知られるゴマダラカミキリ
カミキリの実験に使うT字路型の装置。右側の出口に、植物から抽出した成分を置いて、手前からカミキリを歩かせます。カミキリが成分の匂いを嫌う場合は、左側の出口から出てきます

子ども時代の不思議が解明されるのが楽しくて 化学が好きに

振り返ってみると、子どものころから、溶液や結晶の色が変わったり、花火の色が変わったりするのが不思議で、興味をもっていました。大人になって勉強するにつれてそのメカニズムがわかってくるのがとても楽しくて、大学は理学部の化学科に進みたいと思うようになりました。兄が理学部化学科に進学していたので、その影響もあったかもしれません。
ただ、大学受験はうまくいかず、2浪してしまいました。本当に心が折れそうになったこともあったのですが、家族やいろいろな人に支えてもらい、化学科に進学することができました。入学するのに苦労した分、好きな勉強ができる喜びが大きくて、積極的に授業をとって勉強をしました。それは今でも非常に役立っています。

高校の教員志望から研究の道へ

大学3年生までは、高校の教員になろうと考えていました。兄が高校教員になり、兄の上にいる姉は小学校教員をしていて、教員という職業が身近だったのです。それに、姉が授業で使う教材をつくっているときに挿絵を書いたり、教材作りのアイディアをだしたりして手伝うのが面白く、教育に魅力を感じて自然と教員を目指していました。
一方、大学2年生のころから、化学の先生にわからないことを質問に行くうちに、ほかの同級生が研究室に入るより早くその先生の研究室に出入りし、先輩が研究で使う化合物の原料合成などをさせてもらうようになりました。4年生で本格的に研究を始めると、研究も面白くて、大学院進学を視野に入れて勉強をし、博士課程まで進みました。今は教育と研究の両方ができる大学教員になることができ、本当に幸いだと思っています。

問題解決の役に立つような研究がしたい

大学や大学院のときには、非常にホットな研究室にいて面白い研究をしていたのですが、世の中にどのように役に立つのか、すぐにはイメージできないような理学的な研究でした。そうした研究も非常に重要で意味があるのですが、私はだんだん、「世の中のこういう問題の解決に役に立つ」とはっきり言えるような研究がしたいと思うようになりました。そこで、創価大学に職を得てからはそのような観点で研究テーマを探しています。自分の研究が人の役に立ってくれたら非常にありがたいし、それを目指して頑張ることが、研究の大きなモチベーションになっています。
また、大学では、「身の回りの化学」をテーマに、理工学部だけでなく全学生がとれる授業も担当しています。授業では、お茶や味、香り、健康食品、毒、お酒などを化学的な視点から扱っています。授業で得た知識を使って、学生が卒業後も安全で健康に生きていってほしいと願っています。 

研究室での様子。身近な事象から興味を広げることで、学生もより化学に親しみやすくなります

理科をバランスよく勉強しておけば、大学の勉強の助けになる

創価大学の理工学部の面白いところは、「ケーススタディ」という授業があるところです。グループでテーマを決め、協力して調べて学期の終わりに発表するという内容で、答えのない問題を探っていきますので、卒業研究をする上でも大きな糧になると思います。
今、進路を考えていて、理系に進みたいと思っている人は、物理、化学、生物は密接に関係しているので、どれも勉強しておいた方がいいですよ。受験に必要ないのであれば、受験が終わった後に自分のとらなかった科目を、友達に本を借りるなどして勉強しておくと、大学に入ってからの勉強の理解の助けになると思います。
また、論文や科学に関する記事を英語で読む可能性もありますから、英語に対する苦手意識や嫌悪感は持たない方がいいですね。といっても、受験英語のような複雑な文法や構文は必要ありません。科学に関する単語さえ調べれば読めるような文体で書かれているので、とりあえず英語を嫌いにならず、できれば音楽や映画を通してでもいいので、英語に親しむ体験をしておけばいいと思います。

自分の疑問を追究できるような進路を選択してほしい

進路を決めるときには、自分が不思議だとか、なぜだろうと思ったことを追究できるような方面に進んでほしいと思います。せっかく興味を持ち、不思議に思ったのなら、それを大事に持ち続けて、明らかにしてほしいですね。
また、自分が受験で苦労した経験から言うのですが、簡単にあきらめず、可能性を信じてほしい。あきらめれば、その時点で可能性はゼロになるのですから。粘り強くあきらめずにいれば、アドバイスをくれたり後押ししたりしてくれる人も出てきますから、やりたいことには決意を強く持って臨んでもらいたいと思います。

先生は実は針金工作が得意。これまでに作ったさまざまな作品などが研究室に所狭しと飾られています

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

自然環境にあるものから有用なものを探すのが研究室のテーマですから、「探」を選びました。探索、探検の「探」でもあります。これからも人の役に立つことは何かを探しながら、研究を深めたいと考えています。

プロフィール

共生創造理工学科 新津 隆士 准教授
1960年08月22日生まれ
1985 年 埼玉大学 (理学部) 卒業
1990 年 理学博士 東京大学

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西原 祥子 教授

「糖鎖」の新たな可能性を探る研究の最前線!

西山 道子 准教授

光ファイバーを使ったセンサーで 「こんなことを測りたい」を幅広く実現

“光ファイバーセンサー”って何?

私は「ヘテロコア光ファイバーセンサー」の研究をしています。まずは用語の解説をしておきましょう。ご存知のように、光ファイバーはインターネット回線に使われています。

光によるデジタル信号を細い繊維の内部(コア)に閉じ込め、遠くまで高速で送っています。光ファイバーの素材は硬いイメージのあるガラスですが、髪の毛くらいの細さにすると、とても柔軟になります。

同時に、光ファイバーのコアを通る光は、温度や曲げ伸ばしなど外部の物理的な影響を受けて、位相や波長、光の強さなどが変化します。その光の変化を観察できるようにすれば、センサーとして使えるのです。

「ヘテロコア光ファイバー」とは、従来の光ファイバーをさらにセンサー向けに工夫したものです。自然環境の中で使えてコストも抑えられるので、応用範囲がとても広い技術です。

工夫次第で、ガスから人体の機能まで測れる!

私がヘテロコア光ファイバーセンサーに出会ったのは、大学院に進学した時でした。

そこで先生に出されたお題が「知的構造体」です。光ファイバーを柔らかい構造物に埋め込んで、ちょうど人間の皮膚(構造物)と神経(光ファイバーセンサー)の役割をするスマートマテリアルを作ろうというのです。

そこで私は、皮膚が引っ張られたり押されたり、あるいは皮膚がついている手足が動けば、神経はその情報を即座に脳に送ります。それと似たような仕組みを作り、自動車の表面に貼り付けて車体変形をとらえるセンサーや、衣服に埋め込んで身体の動きを可視化するモーションキャプチャに活用する研究などをしました。

大学院の博士課程修了後も、光ファイバーセンサーの研究を発展させていきました。たとえば飛行機の翼やヘリコプターのブレードの表面に光ファイバーを貼り付ければ、そこにかかる力の変化やひずみかたをリアルタイムで測ることができます。

また、ガスや液体を検知するセンサーもできます。将来水素燃料が普及することを見越して、航空機の燃料漏れを検知する水素センサーを実際に開発中です。光ファイバーセンサーは電気を使わずスパークを起こしませんから、安全で新しいセンサーとして活用が期待されています。

現在の研究の軸のひとつは、ヘテロコア光ファイバーセンサーを環境中に埋め込んで、生活空間の情報を得ることです。

たとえば看護の現場ではどのようなセンサーが必要なのか、学内の看護学部の先生と意見交換し生体情報センサーの共同研究をしています。今手がけているのは光ファイバーで嚥下機能の低下を測ろうという研究です。

もう一つは高温度領域でも機能するセンサーや水素のセンサーなど、センサー部分そのものの開発です。光ファイバーのまわりにフィルターとなる膜をつくってセンサー自体の感度を高める「多層膜」の研究もしています。

研究室には直径が125μm(マイクロメートル)の光ファイバーに、数十ナノメートルの金属の膜を均一に巻くことのできる装置があります。均一な膜ができるときれいなデータが取れる高感度のセンサーができます。その装置をうまく使って多様なセンサーを作ろうとしています。

高感度のセンサーを作るために、光ファイバーに極薄の金属膜を均一に巻く装置の扉を開けたところ
上の装置によって金属膜でコーティングされた光ファイバー。金色の部分が金属膜

「センサーはこうでなければならない」と型にはめる必要はありません。学生から「こういうセンサーはどうですか?」と予想していなかった意見が出て、柔軟な発想で取り組むと面白い結果が生まれます。学生にとっても身近な体験をもとに開発のヒントを得られたり、必要性を実感しやすい研究分野だと思います。

じつは私にはもともと「この分野、この研究でなければ」というこだわりは特にありませんでした。このテーマにたどり着くまで、自分の適性を探りながら長い模索を重ねてきたのです。

数学は好きで得意だけれど 「将来やりたいこと」は見えてこなかった

幼いころから算数が好きで、小学校の算数から中高の数学も得意でした。父親が教育熱心で、小さい頃から勉強を教えてくれたおかげもあります。
しかし、中学生の時に自営業をしていた父が倒れて、経済的にも苦しくなりました。高校進学後はひたすらアルバイトをして、家にお金を入れ、学費を貯めました。

姉と2人姉妹ですが、父が「女性であっても学問を身につけるべき」という教育方針だったので大学には進学するつもりでした。でも、将来の夢を描くよりも「自分が親を支えていかなければ」という気持ちのほうが大きかったです。

そのため、高3で理系クラスから文系クラスに転じました。「安定した公務員になるには経済学部かな。数学も活かせるし」と思ったのです。でも文系クラスに入ってみると自分には合わないと感じ、「理系の学部を受験します」と数学の先生に言ったら「やっぱりね」と言われました。

独力で理系受験用に数学の勉強をし、自分のアルバイト料で予備校にも通いましたが、現役では不合格に。浪人期間は自分のペースを崩さないよう、一年間予備校と図書館とアルバイトの3点を往復して勉強しました。自分で時間を管理するのは楽しかったです。

大学は物理学科に進み 「鳥人間コンテスト」にも挑戦

1年間の努力が実り、大学の物理学科に入学することができました。物理学科に進学したのは、予備校の授業のおかげです。世の中のさまざまな物理現象を数学と組み合わせて解く楽しさを教わって、高校物理と数学が私の中で初めて結びつきました。「物理ってこんなに面白いんだ!」ともっと深く勉強したくなったのです。

「物理を学ぶぞ!」と意気揚々と進学しますが、1、2年生の時は人力飛行機を作る「鳥人間コンテスト」のサークル活動にのめり込んでしまいました(笑)。みんなで力を合わせて飛行機を飛ばせることができた時の感動は大きく、ここで「ものづくりの面白さ」に目覚めました。

私はプロペラの作製担当だったのですが、最後の工程で表面を固める接着剤の分量をうっかり間違えてしまいました。プロペラは重くなるし、表面はボコボコになるしで、ものすごく落ち込みました。しかし、一からやり直す時間の余裕はなく、毎日朝早く登校してはプロペラにやすりをかけて修正しました。

ある日先輩から「すごくきれいなプロペラになったね」とねぎらわれ、改めて全体を見直したら、とてもよくなっていました。それまでは目の前の凹凸だけ見て、ひたすらやすりをかけていたのでわからなかったのです。あの時の達成感は忘れられませんし、失敗した時のリカバリーの仕方も学べました。

「光」を使ったプロジェクトが縁で 就職して光学設計の世界に触れる

4年生の時には所属する研究室を選ばないといけないのですが、素粒子物理の授業が面白かったので、その先生の研究室に入りました。そこは「重力波検出プロジェクト」に携わっている研究室の一つでした。

アインシュタインが一般相対性理論でその存在を予言した重力波は、超新星爆発などの大きな天体現象によって発生し、光速で時空を伝わって地球にも届きます。

重力波は光の干渉計(マイケルソン干渉計)でとらえるのが基本です。鏡で反射させて戻ってきた光を重ねて、その干渉を測ることで、わずかな空間のゆがみを感知するのです。私は研究室の先生に「国立天文台に光干渉計実験のお手伝いに行き、実験の一部を学んで卒業研究にしたらどうか」と言われました。

光の干渉を正確に測るためには鏡の振動を極力抑えなければなりません。そこで私は鏡のある特定の振動を遮断するダンピング技術を研究しました。素粒子学というより構造力学の研究になります。もちろんそれと一緒に光の干渉計の勉強もしました。

4年生になると、卒業研究を進める傍ら、進学か、就職かも決めなくてはいけません。実は2年の時に父が亡くなり、経済的に大学院への進学は難しかったのと、ものづくりが面白くなっていたので、大学推薦枠でニコンに入社しました。ニコンでは光学設計の部署に配属されました。4年生の時の光干渉計の経験を認めていただいたのかもしれません。

ニコンでは、「レンズ設計の神様」に弟子入りする研修も受けられるというとても恵まれた環境で、光学設計についていろいろ学ぶことができました。

3年間会社に勤め、 念願だった大学院に再挑戦

それでもやはり、大学院に進学して研究したいという気持ちが抑えられませんでした。大学院のホームページを見て比較検討した結果、オランダの工科大学での研究経験もありレーザーや光ファイバーセンサーの研究をしている創価大の渡辺一弘先生の研究室に志望を決めました。

今振り返ってみると、大学院に進みたいという気持ちの中には、ノーベル賞をとれるような優れた研究者になりたいという気持ちと、教員になって世界の平和と豊かさに貢献する人材を育てたいという夢があったのだと思います。

ですから、学生と一緒に研究し、学生とともに私自身も成長するのが楽しみです。研究を通じて学生たちが成長することは、研究そのものと同じくらい価値があると考えています。

研究も進路の選択も 大事なのは実際にやってみること

高校生のみなさんは、進学に関して悩まれることが多いと思います。私もそうでしたが、今とくにやりたいことがなくてかまいません。何に対しても「とにかくやってみよう!」という気持ちを持っている人なら、ぜひ私の研究室に来てほしいです。

研究には周辺研究の調査や、理論に基づいた数値計算などさまざまな段階がありますが、私がいちばん楽しいのは実験です。私の研究室では実験のやり方を一から教えます。実際に何かを始めてみると、その選択肢がだんだん具体性を帯びて自信を持てるようになります。

センサーを作って測定してみて、その結果から「こういうことが起こっているのでは?」と学生たちと議論するのはとても面白いです。
「何でこうなったんだろう…」と苦しい思いをすることも多いですが、予想よりもずっとすごい結果が出ることもあります。どちらになるかは実験してみてのお楽しみです。

信号を波長別に分けて測定するスペクトラム・アナライザーは、センサーの評価に欠かせない

もし不足している部分に気づいたら、あとから補っていけばいいのです。そもそも研究や実験とはそういうものなのですから。一緒にやってみて、手と想像力を働かせながら修正していきましょう。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「柔」
先入観を持って決めつけたりせず、多角的に物事を見ることを大事にしています。もちろん研究もですが、まわりの人たちに対しても先入観を持たず柔軟に、可能性を信じていきたいです。

プロフィール

西山 道子准教授

2000年3月 お茶の水女子大学 理学部物理学科 卒業
2000年4月〜2003年2月 株式会社ニコン 光学設計業務に従事 
2005年3月 創価大学大学院工学研究科情報システム学専攻博士後期課程修了
2008年3月 創価大学大学院工学研究科情報システム学専攻博士後期課程修了
2008年4月〜2011年3月 創価大学工学部 助教
2011年4月〜2014年3月 宇宙航空研究開発機構 宇宙航空プロジェクト研究員
2014年4月〜 創価大学工学部情報システム工学科 講師
2015年4月〜 創価大学理工学部共生想像理工学科 講師
2019年4月〜 創価大学理工学部共生想像理工学科 准教授

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藤原 和夫 准教授

タンパク質の不思議に魅せられて、相互作用の謎の解明に挑む!

10万種類の中から間違えずに相手を選ぶ

タンパク質は、20種類のアミノ酸が連なり、それぞれが独自の立体構造を持っています。また、例えばヘモグロビンは同じタンパク質が4つ、結合した状態なのですが、ヘモグロビンを構成する各タンパク質は、細胞内で合成されるとすぐに、4つが結合します。このように、タンパク質どうしが結合した状態のタンパク質もあります。
タンパク質どうしが相互作用するときは、鍵と鍵穴のように、お互いの形がぴたりと合う相手とだけ作用し、相手を間違えることはありません。タンパク質の形については研究が進んできていて、数万種類のタンパク質の構造のデータが、研究者の利用できる形で公開されています。標的のタンパク質の形を見て薬を設計したり、タンパク質をデザインしたりすることもできるようになってきています。しかし、相互作用のメカニズムはよくわかっていない部分が多いのです。10万種類もある中で、なぜ適切な相手を認識できるのか、本当に凄いことなのです。

結合部分に着目、誰でも利用できるデータベースを構築

研究室では現在、タンパク質が相互作用する際に、タンパク質どうしが接触する結合部分について主に研究をしています。公開されているタンパク質の立体構造のデータを解析していくと、タンパク質の立体構造は全然違うのに、結合部分の構造はよく似ているものがあります。このような結合部分の構造に着目して、大量のタンパク質のデータを、プログラムを作成してコンピュータで解析し、分類して、誰でも利用できるようなデータベースを構築しています(http://protein.t.soka.ac.jp/oligami/)。
データベースには「oligami(おりがみ)」という名前をつけました。タンパク質は折りたたまれて立体構造をとっているということと、重合体を意味する「oligomer(オリゴマー)」からつけた名前です。

データベース「oligami」のトップ画面と、タンパク質の立体構造の例

本に載っていないなら自分で調べるしかない

それは大変だ、そんなうまい話があるのかと(笑)、非常に驚きました。それも、でたらめにアミノ酸をつなげてはだめで、決まったアミノ酸配列になると立体構造をとるというのです。生命が長い時間をかけてつくりあげてきたそのメカニズムを知りたいと、2年生からタンパク質の研究室に出入りするようになりました。ただただ不思議で、何でだろう、と調べてもどの本にも載っていない。それなら自分で研究するしかない、と思いました。
タンパク質の解析をするにはプログラムも書けないといけないと知り、自分でプログラミングの勉強もしました。3年生のときには土曜日にタンパク質のゼミを開いてもらったりし、4年生になったときにはプログラムを書いてタンパク質の研究をさせてもらっていました。そのまま大学院へ進学し、修士課程2年間、博士課程3年間は、タンパク質の構造を薬品で壊し、元に戻っていく過程を調べることで立体構造ができるメカニズムを探る研究をしていました。

企業戦士から研究の現場へ

博士課程修了後は就職し、4年間、サラリーマンをしていました。研究職ではなかったのですが、就職氷河期でしたし、博士号が取れるとわかってからの就職活動で2カ月しか就活できなかったこともあり、もう雇ってくれるならどこでもありがたい、と(笑)。仕事では研究用のソフトの営業・企画をしていました。研究はやりきったという思いもあり、未練もなく、すっかり企業戦士になっていました。
しばらくして生物系のソフトを担当することになり、生命情報分野と出会い、再度勉強したり、研究者と話をする機会を持ったりしていたころ、創価大学に生命情報工学科ができるにあたり、応募して再び大学に戻ってきました。以来、タンパク質の不思議さにひかれて研究を続けています。

想像もできないものを想像できるものにしたい

タンパク質の構造をつくる上で働いている力というのは、実はプラスとマイナスが引き合う静電相互作用だけなのです。このシンプルな力が複雑に相互作用することで構造をつくり、複雑な中に対称性があったり、精密さがあったりする。本当にうまくできていて、美しいと思います。そして、どのようにしてこうなったのかが全くイメージできません。本当に凄い世界です。宇宙そのもの、宇宙の原理がここに凝縮しているのではないかとさえ思います。
タンパク質がなければ生物はできませんから、タンパク質は生物の出発点ともいえるのですが、タンパク質ができるには遺伝子が必要で、タンパク質をつくるために必要なリボソームはタンパク質とRNAの共同体のようなものです。それらがいったい、どのようにできたのか、どれが先にできたのか、といったこともわかりません。それでもこの20年ぐらいに研究が進歩して、立体構造はなんとなく想像できるものになりつつあります。研究を通してこの想像もできないものを、想像、そして創造できるものにしたいですね。

知的欲求に逆らわず、深く考えて

理科に興味があって、理工系に進もうと思うなら、考えたい時にはとことん、考えてほしいと思います。解けない問題があるときには、その問題にとことん取り組む。知りたいことは放置しないで、調べる。知りたいという知的欲求に逆らわないで、深く考えてほしいですね。
知的欲求って誰にでもあると思うのです。子どもってよく、「なんで、なんで」って言いますよね。その大人版です。大人ならより深く、「なんで」を追求できるはずなので、その力を養うためにも深く考える経験は大事だと思います。
高校までの勉強は、好きじゃないこともたくさん、やらないといけないですよね。でも大学になると、少なくとも2年生以降は、ほとんど好きなことを中心に勉強ができます。また、大学にはいろいろな専門の先生がいて、疑問を一緒に考えてくれます。そこが高校までの勉強と大学の勉強の大きく違うところです。
共生創造理工学科では、理科のどの分野でも勉強ができます。情報分野までありますから、理数に興味はあるけど好きな分野がよくわからない、という人でも好きなことが見つけられるのではないかと思います。私自身、環境問題の勉強をしようと思って進学しましたが、タンパク質という不思議に出会い、今も研究を続けています。1年半、考える時間がありますから、その間に一緒に考えていきましょう。そして、タンパク質の不思議に興味を持った人はぜひ、一緒にタンパク質の謎の解明に挑んでいきましょう!
また、研究とは関係ありませんが、中学・高校の理科の先生を目指す学生の支援も行っています。理科の先生を目指す人も大歓迎です!

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

未来の「未」、未解決の「未」です。未だ明らかにされていないことを、未来に向けて明らかにしていきたい。人間の体にだけで10万種類もあるタンパク質の中にあるルールを見いだすことで、どんなタンパク質のこともわかるようにしたいと考えています。

プロフィール

生命情報工学科 藤原 和夫 准教授
1974年 富山県生まれ
2001年 創価大学大学院博士課程修了 博士(工学)
2001年 株式会社ヒューリンクス
2005年 創価大学工学部生命情報工学科 講師
2013年 創価大学工学部生命情報工学科 准教授

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松山 達 教授

制御技術は高度化。でもメカニズムは不明?! 静電気の謎を、粉体とともに解き明かす。

身近な存在なのに知られていない 「粉」と「静電気」を科学する

ぼくは粉体と静電気の両方の専門家です。粉体とは要するに「粉」のことです。なぜこのような研究をするようになったのかというと、大学で化学工場の設計をする「化学工学」という分野に進んだのがきっかけです。
化学工場では原料を文字通り「煮たり」「焼いたり」して加工し、最終的な製品を作ります。原料は液体・気体・固体のどれかです。固体の場合には、原料はもちろん、製品になる前に工場の中でできる「工業中間体」と呼ばれるものも、ほとんどが粉状です。
たとえばプラスチックは工場の中では粉状です。それを溶かして成形したものが製品となって出荷されます。金属も山から掘り出された砂利(これも大きめの粉です)状の鉱石を製錬して作ります。薬の錠剤も粉状の薬剤を固めています。メイク用のパウダーや小麦粉などは、製品そのものが粉状をしていますね。
途中が粉状のもの、あるいは最終的に粉として流通しているものは世の中の工業製品の8割くらいを占めているといわれています。
ですから、工場内で粉をどのように扱えばスムーズに製品を作れるのか、あるいは消費者に喜ばれる製品になるのかを考えるためには、粉体の性質をよく知らなければなりません。

研究室にあるさまざまな種類や大きさの粉体が入ったボトル。特にプラスチックの粉は静電気が発生しやすいという特徴があります

もう一つの静電気ですが、実は静電気については未だにほとんど科学的な解明がされていません。
みなさんも小学生のときに、下敷きで髪の毛をこする実験をしたのではないでしょうか。髪の毛が下敷きにくっつくのは、静電気が起きたためです。ところが静電気が生じるときに、実際にこすった表面でどういう現象が起きているのかは、まだわかっていないのです。
粉を扱うときにも静電気が起きます。粉体自体についてもまだまだわかっていないことは多いのですが、静電気によって粉の「ふるまい」は変わってきます。そして、どのくらいの量の静電気が起きるのかは、粉の材質や粒の大きさ、部屋の温度や湿度などの条件によって違います。
ぼくの研究室では、このように謎の多い現象について、一つひとつ実験を積み上げて解き明かしていこうとしています。

研究室では、さまざまな種類や大きさの粉体を使って実験を行います。写真は工業用ガラスビーズ(直径500μm)。下はその顕微鏡写真。

親が手を焼く「ちびっこ分解魔」が 成長して研究者になった

子どものころから一貫して機械が好きでした。大学の研究室でもいろいろな機械や計器を扱っていますし、実験のために自作もしています。
機械好きにはありがちですが、家じゅうのものを手当たり次第に分解してしまい、しかも元どおりには直せない子どもでした。ですから未だに、実家の家電の調子が悪くなったときにぼくが修理しようと申し出ても、母は絶対手を出させてくれません(笑)。
高校時代は「数学が好き、英語が苦手」という、もろに理系タイプの生徒でした。好きな数学ばかり勉強していましたね。部活は電気全般を扱う「ラジオ部」に所属。パソコンが登場するちょっと前でコンピュータには金銭的に手が届きませんでしたから、アマチュア無線やオーディオを主にやっていました。でも物理は苦手で、なるべく避けていたのですが、3年生の時に「もうすぐ大学受験なのに、このままではいけない!」と思い、そこから真面目に勉強して克服しました。
進学するのは家から通える東京の大学がいいなと思いましたが、特に学びたい分野があったわけではありません。そのため、最初から専門に分かれるのではなく、2年間は教養学部で学ぶことができる、東京大学の理科I類(主に理学部や工学部に進学予定)に進みました。
大学3年で学科を決め、工学部の化学工学科で学ぶことになりました。ここでようやく「粉体」に出会います。液体・気体・固体のどれを専門にしようかと考えたときに、まだまだわかっていないことも多くて面白そうに見えたので、粉体工学というジャンルを選んだのです。
この分野でたまたま出会った先生が、粉体の静電気を研究していたのです。先生から「君もやらないか?」と誘われて、恩師となったその先生の研究室に入りました。
卒業研究は通常、指導教官に与えられたテーマを研究します。一つのテーマを追究していく過程はとても楽しいものでした。さらにそこから派生して自分の興味が周辺へと広がると、さらに研究が楽しくなりました。ぼくの場合はそのまま大学院に進学して、研究を続け、現在のように研究者の道を歩むこととなりました。 

こんなところにも使われている! 粉と静電気の制御技術

ぼくは粉体工学の中でも、静電気の研究と、粉の粒子の大きさを測る研究を主にしています。
粉と静電気の技術の中で、みなさんの身近にあっていちばんわかりやすいのはコピー機でしょう。コピー機はあの中に入っている黒い粉(トナー)を静電気で紙の必要なところにだけくっつくようにコントロールしているのです。トナーの静電気制御についてはたくさん論文も出ているし、技術も進んでいます。
また、産業界でよく使われているものに、静電気で粉体の塗料をくっつけて固める「静電塗装」いう技術があります。従来は、塗料を有機溶剤に溶かしたものを塗って、溶剤が蒸発して固まる性質を利用したものが多かったのです。一方の静電塗装は人体や環境に影響のある溶剤が蒸発しないので「環境にやさしい塗装法」と言われ、オフィス家具などに使われています。
また日本の火力発電所では、静電気で煤塵(微細な粉)を除去する「電気集塵」という技術が使われています。このおかげでPM2.5のような大気汚染物質が撒き散らされずに済んでいます。
このように工業利用が進んでいるにもかかわらず、静電気がどのように発生しているのか、科学的な基礎については世界的にも全くわかっていません。何しろ誰も答えを知らないわけですから、ぼくもどこからその謎解きに挑んでいけばいいのか、難しくて困っています。でも、そういうふうに困っていることを楽しんでもいます。

ときには装置も自作して さまざまな実験に取り組む

研究室の学生たちは、「粉の粒子をコロコロ転がして発生する静電気を測る」「容器の中で粉をシャカシャカ振って静電気の発生を調べる」など、いろいろな条件下で粉の静電気を測る実験に取り組んでいます。
しかし、粉の静電気は「このように測ればOK!」と言えるような測定方法がまだありません。そこで、新しい測定技術の開発も研究室の大きな研究テーマの一つとなっています。たとえば粒のごく小さい粉の静電気を測ろうとすると感度のよい計測装置が必要になるので、ときには既成の装置を改良したり、手作りしたりして、悪戦苦闘しながらも楽しく実験しています。
発生した静電気がバチっと放電する瞬間を捉える実験もしています。冬にドアノブに触るとバチっと放電して痛いですよね。あれは自分が帯電していて、触ったときにその電気が一気にノブ側に流れるからです。
一方、下敷きで髪の毛をこすってから引き離すと、片側にプラス、もう一方にマイナスの電荷がたまります。引き離さないとプラスとマイナスに分かれません。引き離している途中に放電が起きているとすれば、接触時に発生していた帯電量に比べて離したあとで測定した帯電量の方が減っているはずです。
接触したときには電荷がどのように移動して静電気になるのでしょうか。そして引き離したときにどれくらいの電荷が残って固定されるのでしょうか。この実験は、そんな静電気発生の仕組みの基礎を研究するためのものです。

プラスチックのフィルムをくっつけて離し、発生した静電気の電圧(表面電位)を測る装置
キャンディの空き缶を利用して、目の大きさが100μmのふるいをセットした装置。これで粒子の大きさを測ります

理工系に進みたいなら 高校数学と理科の基礎は固めておこう

理工系に進みたいのであれば、高校までの理科と数学は基礎から真面目に勉強しておいてください。特に数学と物理は一回勉強を止めてしまうと、必要になったときに学びなおしても間に合いません。もし将来、粉体と静電気をやりたいのなら、数学と物理と化学の勉強をしておきましょう。
ちなみに、ぼくは本当に英語が嫌いで、今も嫌いです。ですが、英語は必要に迫られてからやっても間に合いますし、その方が効率もよいと思います。コンピュータのプログラミングも言語の一種で英語と同じですから、必要になってから勉強すればOKです。
もちろんコンピュータも英語も好きな人はどんどんやりましょう。とにかく高校から大学は、興味のあることにためらわずに取り組んでみてください。好きなことのためならエネルギーが湧いてくるし、その経験は決して無駄にはなりません。
どんなことでも一つのことを突き詰めていけば裾野は勝手に広がります。そうするとさらに自分に向いていること、好きなこと、楽しいことに出会うチャンスが増えます。ですから興味があることを見つけ、伸ばしていってください。

大学では、 自分の好きな学問を精一杯楽しんでほしい

最近の学生は決められた枠内のステップをそつなくこなしますが、そこから外れると不安になるようです。でも、せっかくの大学生活。そつなくこなすだけではもったいないです。勉強に限らず、枠にはまらずに楽しみましょう。
大学にはいろいろな専門家が集まっているので、「これは面白そう」「これを知りたい」と思うことを見つけたら、その先生のところに行って相当にたくさんのことを学べるし、刺激を受けることができます。何かそういうことに出会って、思いっきり興味を満たす楽しさを味わってほしいです。
粉体も静電気も身近なものでありながら謎に満ちていて、まさに“サイエンスが現在進行中!”の分野です。わかっていないことがあるとワクワクする人、自分でじわじわ謎に迫っていくのが好きな人にとっては、きっと楽しい分野です。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「茫」

この漢字は「果てしないこと」を意味します。研究の世界は行けども行けども果てがない(だから面白いとも言えます)ので、この文字を選びました。

プロフィール

共生創造理工学科 松山 達 (マツヤマ タツシ)教授
1987 年 東京大学 工学部卒業
1989 年 東京大学 修士 (工学系研究科) 修了
1992 年 東京大学 博士 (工学系研究科) 単位取得満期退学
1995 年 博士(工学) 東京大学

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丸田 晋策 教授

体の中の小さな機械を利用して医療用ナノマシンを作る

生体分子機械ってどんなもの?

私は身体の中で働いているさまざまな「生体分子機械(生体ナノマシン)」の研究をしています。聞きなれない言葉だと思いますので、まずそれについて説明しましょう。

たとえば、私たちが筋肉を収縮させる時には、筋肉にあるミオシンというタンパク質で作られた機械が働きます。またキネシンというタンパク質の機械は、細胞内の物質運搬に関わり、脳で情報伝達物質を運んだりしています。いずれも食物を分解してできるATP(アデノシン三リン酸)という物質の化学エネルギーを機械的な仕組みで運動エネルギーに変換して動いています。

このような機械的な働きをする生体分子を、分子で組み立てられた極小の機械・ナノマシンとみなすのです。これらの運動する分子機械は「分子モーター」と呼ぶこともあります。

これまでの研究から、私たちの体の中には、このようにATPで動く生体分子機械がたくさんあり、そのおかげで生命活動が維持されていることがわかっています。そのため体の中では沢山のATPが生産されては、直ぐに分子機械で利用されています。私たちが朝起きて寝るまでの間には、ほぼ体重と同じ重さの量のATPが消費されます。

私の研究のねらいは、生体分子機械の仕組みを分子レベルで解明し、その仕組みに人工的な制御ナノデバイスを組み込んで自在にコントロールできるナノマシンを開発することです。そして病気の治療やドラッグデリバリーに応用できればいいなと考えています。

国語配点の低さを狙って 大学受験を突破

私は理科が大好きな“サイエンス小僧”で、高校時代は地学部に所属し、天体写真を撮っていました。また海外に行くことにも興味があったので英会話を勉強していました。

実家は鹿児島で醤油の醸造をしており、分析室にあるビーカーなど、化学実験の器具を小さい時から見ていたので、化学には特に興味がありました。それで大学では、化学を専攻しようと思っていました。

大学受験に際しては、理系の科目は得意だったのですが、国語がとても苦手だったので、担任の先生が国語の先生に頼んで特別プログラムを組んでもらっていました。幾つかの大学の候補を比較して、最終的に入試の国語の配点がわりと少ない長崎大学工学部を受験し、無事合格することができました。

研究テーマに導かれ 領域横断的に博士課程まで進む

大学は工業化学科に進学し、4年次には有機合成化学の研究室に入りました。

卒業研究のテーマは「薬物運搬体の開発」でした。今でいう「ドラッグデリバリー」の研究です。卵黄から抽出したリン脂質から作った人工細胞膜のカプセルに薬剤を入れ、その表面に多糖類をコーティングすると、多糖の種類によって薬剤がどの臓器に届くかが変わります。研究室では、この研究を製薬会社と共同で行っていたのです。化学と生物の融合を感じました。

ちょうど私が卒業研究生になったころ、遺伝子工学の技術が世界的に広まり、研究室の先輩が共同研究のために同じ大学の薬学部の研究室に毎日楽しそうに通っていました。

私も始まったばかりの遺伝子工学や生化学などの生命科学の分野に魅力を感じ、修士課程は薬学部の大学院に進みました。これからの研究は、複合領域になっており、有機化学、生化学、遺伝子工学がうまく噛み合ってこそ進むはずだと思ったのです。

修士課程では、タンパク質を分解する酵素「酸性プロテアーゼ」の機能(働き)と構造を決定する研究をしました。その構造を決定するために、タンパク質の一次構造解析を専門としている医学部の生化学教室に出向いて共同研究として実験を行いました。その研究室では筋肉を構成するタンパク質の一つであるミオシンの研究をしていて、ここで現在研究を行っている生体分子機械に出合いました。

そして筋肉の収縮の仕組みを解明する研究を行うために、医学部の博士課程に進みました。当時は、ATPがミオシンのどこに結合してADPとリン酸に分解され、どうやってアクチンというタンパク質のレールの上を滑って筋肉を収縮させるのか、分子レベルでのメカニズムは全くわかっていませんでした。そこで指導教員とともに、まずはATPがミオシンのどこに結合するのかを研究することにしました。

常識に反する実験結果が 別の研究で裏付けられた

ちなみに、タンパク質はアミノ酸がつながってできた一本のひも(一次構造)が、さらに複雑に折りたたまれて立体構造を作っています。当時はミオシンのタンパク質の立体構造がわかっていませんでした。そこで私たちは、特殊な反応するATPを合成してミオシンのATPが結合する部分に結合させることを行いました。そしてミオシンのタンパク質を一本のひも状に伸ばして酵素で切断し、ATPが決行している断片を決定して、一次構造上どこにATPが結合するかを明らかにしようとしていたのです。

私は過去に経験した有機合成の手法を用いて、ATPの基本的な構造や性質は変えないまま、ミオシンに結合している状態で光をあてると離れなくなる「ATP類似物(ATP誘導体)」を合成しました。さらにそのATP類似物がどこにくっついているかがわかりやすいように蛍光色素でマークをつけました。

一方、ミオシンのタンパク質を伸ばして一本のひもにした時、アミノ酸がどういう順序で並んでいるのかを解析すること(タンパク質一次構造の決定)は、もともとその研究室が得意とするところでした。そうやって、合成したATP類似物が、ミオシンの一次構造に並んでいるどの部分のアミノ酸に結合しているのかを探っていったのです。

驚くべきことに私たちの実験では、それまでの他の研究者の報告から「ここにはATPは結合しないだろう」と考えていた部分に結合しました。ですから最初にその結果を論文にした時には、誰も信じてくれませんでした。

そのあと、アメリカの研究者がミオシンの立体構造を決定して論文を発表しました。その論文に示された立体構造が、私たちの研究結果をみごとに裏付けていたのです。誰も信じてくれなかった実験結果が、他の研究からも間違いないと証明された瞬間でした。自分の実験データを信じて良かったです。

アメリカでポスドクを経験し 研究者としての土台を築く

博士課程の後にアメリカに渡り、オハイオ州クリーブランドにあるケースウエスタンリザーブ大学でポスドクをしました。その3年間に新しい手法や考え方、技術を身につけることができました。研究者としての基礎ができた良いチャンスをいただいたと思います。そして、カナダやアメリカの研究者と多くの共同研究を行うことができました。

いちばん学んだのは、「研究者として生き残るには、いかに自分のオリジナルのアイディアで勝負できるかが重要だ」ということです。

そのあと、創価大学に招聘されて帰国。その後もカナダやアメリカの研究者と引き続き共同研究を続けることができました。

ゼミでは生化学を生かし、 地域活性化に役立つ研究も進める

私の研究室は、目指しているゴールが遠大すぎて、学部生が卒業研究のモチベーションを保ちにくいのが問題でした。

そこで、まずは研究の面白さを味わってもらおうと、3年生のゼミでは卒業研究と関係なく学生が自由にテーマを考えて調査・研究することにしています。

たとえば創価大学がある八王子市が、学生のアイデアを市政に生かそうと実施している「大学コンソーシアム八王子学生企画事業」に参加しています。ここで、平成28年から地域活性化のために八王子の米である高月清流米を使った加工食品の開発に取り組みました。

まず地元の製パン企業の協力を得て、30%米粉を使ったパンを開発し展示販売したところ、小麦アレルギーのお子さんを持つ親御さんからグルテンフリーのパンの要望が多く寄せられました。そこでグルテンの代わりにさまざまな添加食品を用いて研究室のホームベーカリーで試作し、食感と膨らみの良いパンを開発しました。

また、 高月清流米から吟醸酒も作られています。吟醸酒を作るときには酒米を50%削ります。削った米粉を生化学的に加工して利用できないかと思い、企業の方々と一緒にチョコブラウニーなどのスイーツを開発しました。女性をターゲットに、同じ高月清流米から作った日本酒に合うスイーツ開発を目指しています。

人に言われてやるのではなく 自分だからこそできる発想を

私自身が異端児的な生き方をしてきたこともあって、研究室にはユニークな学生に入ってきてほしいと思っています。オリジナルのアイデアを考えられる人が研究の道には向いています。就職するにしても、企業側が求めているのは自分のアイデアが提案できる人でしょう。

研究の世界では、失敗したと思ったことがまったく新しい現象のヒントになることがよくあります。ノーベル賞を受賞した研究者の中にもそういう例が見られます。いつもと違った変なことが起こっていたら、すかさず調べてみる姿勢も大切です。

光で人為的に制御できる 医療用ナノマシンを作りたい

研究室のメインテーマは、生体内の機能分子を分子機械として捉え、その巧妙な仕組みに人工的なナノデバイスを組み込んで自在にコントロールできるナノマシンを開発することです。最近、一部の生体分子機械ではATPを加水分解して動いている、という分子メカニズムが詳しく分かってきました。我々が想像する以上に巧妙な機械的仕組を持っています。そこで、具体的なアイデアとしてATPのかわりに光で動く分子を組み込んで、光エネルギーで働く外科手術用のナノマシンができないだろうかと考えています。最終的には光ファイバーなども使い、患部でナノレベルの手術ができるようにしたいです。

また細胞分裂の際にDNAをコピーしたり、遺伝情報からタンパク質を作る遺伝子を発現させたりするためには、普段は染色体という形に折りたたまれているDNAを、1本にほどいて塩基配列を読めるようにする必要があります。このとき働く酵素も、同じくATPでDNA上を動いている生体分子機械です。

ですから光に応答するナノデバイスを組み込めば、遺伝子発現を光でコントロールすることも可能になるはずです。この研究テーマに興味を持つ大学院生が研究室で熱心に実験を行っています。また海外からもこの研究に興味のある留学生が来てくれています。最近では日本人よりも外国人の大学院生が多くなりました。研究室では、海外の先端研究を行っている大学と連携して教育、研究を行っています。また大学院生は国際的な学術学会などにも積極的に参加していて、とてもインターナショナルな環境です。

このような環境で学生が活発に研究することで、研究は進展すると期待しています。我々が試みている生体分子機械を人工的に制御する研究は、これからの医療を大きく変えていくと信じています。

先生にとって研究とは? 漢字一文字で表すと?

「光」

今まさに光を使って「光応答ナノデバイス」の研究をやっているということがこの漢字を選んだ理由の一つです。さらに、研究全般を進めることで、社会がいっそう豊かで明るい方向に進むことを願って、光という文字を選びました

プロフィール

丸田 晋策 教授

1959年 鹿児島県生まれ
1982年 長崎大学工学部工業化学科卒業
1984年 長崎大学大学院修士課程修了
     (薬学修士)
1988年 長崎大学大学院博士課程修了
     (医学博士)
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1988年 米国ケースウェスタンリザーブ大学 医学校
     生理学・生物物理学教室 博士研究員
1991年 創価大学工学部助手
1995年 創価大学工学部講師
1999年 創価大学工学部助教授
2005年 創価大学工学部教授
2015年 創価大学理工学部教授

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