佐藤 伸二郎 教授

土壌学で自然と社会をつなぎ、
循環型社会の形成へ!

憧れのブラジルで見た衝撃の光景が、
研究者の道を志すきっかけに

よく驚かれるのですが、学生時代は全く理系志向ではありませんでした。英語の勉強が好きで、創価大学の文学部 英文学科に入学しました。理系にシフトするきっかけは、大学3年生の時に交換留学生として訪れたブラジルでの経験です。そこで目にしたのは、アマゾンの深刻な森林破壊の様子でした。その光景が忘れられず、学部を卒業した後に理系学部の大学院に進みました。しかし、なぜ留学先にブラジルを選んだかというと、中学3年生の時に見た1本のビデオ映像に遡ります。
中学3年生のころ、ブラジルの文化や民族を紹介するビデオ映像を見ました。知人の勧めで見たのですが、とにかくその映像を見て、脳天に雷が落ちるような衝撃を受けました。ブラジルという国が持つ文化や歴史、自然……全ての映像が未知の体験でした。なぜ自分がここまで興味を惹かれるのかもわからないまま、ブラジルの虜になってしまいました。それからは自分なりにブラジルについて勉強を始め、大学でもラテンアメリカ研究会に所属しました。それくらい、私にとって衝撃的な出来事だったんです。

次のきっかけも偶然なのですが、大学3年生の時に、創価大学の交換留学制度が始まることを知りました。何気なく詳細を見ると、なんと留学先のひとつがブラジルだったんです。「これは人生の一大チャンスだぞ」と飛び込んだ結果、冒頭でご紹介した、アマゾンの森林破壊の現場に遭遇しました。

土壌から考える、
環境保護と社会との関わり

もちろんニュースなどで森林破壊の映像を目にしたことはありましたが、実際にその現場に立つと圧倒的なリアリティの違いがありました。それ以来、環境問題が自分の中で大きな存在を占めるようになり、留学から帰国してからは完全に理系に転身しました。文学部をそのまま卒業して、修士課程から理系の大学院に入りました。今までは文系一筋だったので、化学記号を覚え直すところからの再スタートです。その後一度ブラジルに渡ったのですが、よりアカデミックな面から自然環境に貢献したいと思い、アメリカの大学に入学しました。そこでアマゾンの森林をどう守れば良いのかを勉強するうちに、たどり着いた分野が土壌学でした。
なぜなら森林や木の成長を深く研究すればするほど、その土台となる土の重要性に行き当たったからです。土壌をうまく管理しないと木が育たず、かといって化学肥料を使いすぎると土壌が疲弊してしまいます。有機物を上手に使って土壌を改善することが、森林の保全につながるのではないか。本学に赴任してからはその観点を発展させ、社会の中から出てくる廃棄物を上手く土壌に還元し、社会活動と環境保護を両立させるための取り組みを研究しています。

例えば私の研究室はエチオピアで「SATREPS-EARTHプロジェクト」という国際共同プロジェクトを実施しています。これは過剰に繁殖して湖などの環境を汚染している水草(ホテイアオイ)から、バイオガスなどの有価物を生産するプロジェクトです。環境問題を解決しながら経済的なメリットを生み出すことで、循環型社会の構築を目指しています。まさに共生創造理工学科が目指す「環境と人間社会との共生」を体現するプロジェクトと言えるのではないでしょうか。

「失敗した時ほど面白い」
土壌学が教えてくれる、研究の面白さ

私の専門分野のひとつがバイオ炭です。これは廃棄物に含まれる有機物を炭化して作ったもので、土壌改良材や燃料として使われます。バイオ炭を土壌に撒いた時の環境変化の様子や、そこで育てた作物の収穫量が変わるのか、などの検証をしています。

炭化は廃棄物に含まれる有機物を土壌に還元する方法のひとつなのですが、昨今は技術が進歩し、バイオ炭にできる有機物の幅が広がっています。例えば動物の糞尿など湿っているものもそのまま炭化できるようになり、乾かすための余分なエネルギーや時間を節減できるようになりました。面白いのは、乾燥した有機物と湿った有機物で、炭にした時の性質が大きく異なる点です。私の研究ではそれらの違いを踏まえて作物を育て、栄養素の違いなどを詳しく分析しています。
とはいえ、土壌学は自然が相手なので、実験が思い通りにいかない可能性がとても高いんです。ですが、私は「失敗した時の方がサイエンスとして面白い」と思います。なぜなら、なぜ間違ったのかを検証できるからです。仮説の立て方、実験の手順、数式や化学式の使い方……複雑な要素を一つひとつ検証し、なぜ間違ってしまったのかがわかれば、また一歩、サイエンスを前進させたことになります。この過程こそ研究者の本質と言えるのではないでしょうか。失敗を恐れる学生も多いのですが、私はもっと失敗するべきだと教えています。実験が失敗した時は、科学者としての大事な要素に立ち返られている時間なのですから。

国際色豊かな環境で、
「共生」という発想を学んでほしい

本学の理工学部の中で農学や土壌学に関連しているゼミや研究室は非常に少ないため、私のゼミ生や大学院生は農学や環境問題に興味のある方が多いですね。またもうひとつの特長が、国際性です。大学院生はほぼ半数が留学生です。先ほどご紹介した「SATREPS-EARTHプロジェクト」の関係で、エチオピアからの留学生もたくさん所属しています。自然と学生同士の国際交流が発生するので、学生にとって貴重な機会になっていると思います。

私の研究室を含め、共生創造理工学科では「環境と人間社会との共生」を軸に幅広い分野を学ぶことができます。例えばDNAや脳科学などの生命科学をはじめ、情報系から工学分野まで、たくさんの研究室があります。まずは基礎的な知識を幅広く学び、興味を持った分野の具体的な技術を各研究室で身に付ける、という流れで学びを深めることができます。教員との距離感も近く、非常に充実したカリキュラムを備えた学部・学科だと考えています。

私は学生に対し「自分が学んだサイエンスの知識を、どうやって社会に還元していくか考えてほしい」と伝えています。学生が将来的にどんな進路を選んだとしても、“共生”という考え方を軸に技術を磨いた経験は、学生の力になってくれるはずです。

研究を漢字一文字で表すと?

「土」

自然環境も人間社会も「土壌」の上に成り立っています。人間と自然が共生するためには、豊かな「土」づくりが大切です。

<経歴>
1993年 創価大学 文学部 英文学科 卒業
1995年 筑波大学 大学院 修士課程 環境科学研究科 環境科学専攻 修了
2003年 アメリカ フロリダ大学大学院 博士課程 土壌・水科学学部 修了
Ph.D. (土壌学)
2003年 アメリカ コーネル大学 作物・土壌科学学部 ポストドクター研究員
2005年 アメリカ フロリダ大学 南西フロリダ研究・教育所 ポストドクター研究員
2010年 創価大学 工学部 環境共生工学科 准教授
2015年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 准教授
2016年 創価大学 副国際部長(~2021年)
2020年 創価大学 理工学部 共生創造理工学科 教授
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