栂谷内 晶 教授

生命を構成する第3の生命鎖
「糖鎖」の謎を解き明かし、
日本発の活用事例を作りたい!

糖鎖研究に進むきっかけになった、
大学時代の体験

私の主な研究内容は「糖鎖生物学」です。核酸(DNAとRNA)、タンパク質と並んで生命を構成する生体高分子(生命の鎖)である「糖鎖」という物質について研究しています。糖鎖がどのような生物機能を持っているかを追求する基礎研究と、それをいかに産業に応用するかを考える応用研究の2つに取り組んでいます。

小学生の時から理系科目、特に生物が好きな子どもでした。当時、両親から顕微鏡と昆虫標本キットをプレゼントしてもらったことをよく覚えています。顕微鏡にはフィルムカメラで拡大写真を撮影できる機能が付いていて、当時としては画期的な製品でした。いつもそれを使って虫や植物を観察していましたね。
高校生の時はコンピュータ関連にも興味があったので、大学の進路は情報系学部も考えていました。ギリギリまで悩みましたが、決め手になったのは「生物系の知識は特殊技能になるのでは」という点でした。当時はパーソナルコンピュータが一般層に普及しており、近いうちに誰もが日常的にコンピュータを使う時代が来ると考えていました。それなら生物系の専門的な勉強をした方が強みになるだろうと思い、創価大学の理工学部に入学しました。

研究者としてのキャリアを考えた最初のきっかけは、大学1年生の後期まで遡ります。授業を受けていた先生から「実験の人手が急遽足りなくなってしまったから、少し手を貸してくれないか」と突然声をかけられ、参加することになりました。もちろん1年生なので研究の詳しい内容は理解できません。ですが先生や大学院生と並んで研究をお手伝いする時間が非常に刺激的で、以降もその先生の研究室に出入りするようになりました。また大学2年生の時に自分自身が長期入院したことや、その後に親が体調を崩して長期入院したことも、生物学や医学分野を専門的に学ぼうと思ったきっかけのひとつです。そして、この出来事をきっかけに研究を始めた分野こそが、私の専門分野である「糖鎖」になります。

がん健診からヒアルロン酸まで?
世界が注目する日本の糖鎖研究

糖鎖と言われてもあまり馴染みがないかもしれませんが、実はあなたの身近にもたくさん存在しています。例えばヨーグルトなどに含まれるオリゴ糖や、化粧品に使われるヒアルロン酸などに糖鎖が使われています。そのほかABO式の血液型も、赤血球の表面を覆う糖鎖の構造の違いで判断されます。

続いては、糖鎖の役割についてご説明します。糖鎖は細胞の表面にある脂質に付着することで、細胞の表面を覆うような状態になっています。そのため「細胞の洋服」と考えればわかりやすいでしょう。人を細胞に置き換えた時、洋服に当たるのが糖鎖の構造です。人が目的や温度に応じて服を着替えるように、糖鎖も細胞の成長や環境の変化に合わせて姿や機能を変えているのです。

この「細胞の状態や細胞を取り巻く状況に合わせて変化する」という糖鎖の特徴を活用した様々な研究が行われています。代表例のひとつが、病気の診断に利用する研究です。病気になると細胞の状態が変化するため、同時に糖鎖の構造も変化します。健康な状態と病気の状態の糖鎖を比較することで、がんなどの病気の診断などへの応用が期待されています。そのほかにも創薬方面や、オリゴ糖などのかたちで食品に応用されるなど、様々な産業で糖鎖の活用法が模索されています。

実は今、糖鎖が世界的に注目されています。日本は納豆や日本酒などの発酵食品の影響で、かねてより発酵分野の研究が盛んに行われてきました。日本の糖鎖の研究も、発酵分野の流れなどを汲んでいるため、現在まで、ここ日本で世界に先駆けた多くの糖鎖研究プロジェクトが生まれてきました。生命科学研究の中で、糖鎖は日本が国際的な競争力を持っている分野と考えられます。

「誰も知らない事実がわかる嬉しさ」
研究のやりがいと、糖鎖の可能性とは

研究のやりがいは大きく2つあり「自分の知的探究心を満たす喜び」「それを社会に還元する喜び」だと思います。まずは、1人の研究者として未知の分野に挑む面白さです。研究室で仮説を立てて実験して、結果のデータを世界で最初に目にするのは、研究者自身です。世界で誰も知らない事実を最初に知る時は、いまだにワクワクする瞬間です(笑)。もう一方のやりがいに関しては、糖鎖は病気の予測や創薬など、医療面で貢献できる分野だと考えています。

特に日本は少子高齢化の中で、健康保険など医療制度の負担が大きくなってくると予測されます。病気になる人が増えると医療費も膨大になるため、疾患の予防・早期発見・治療が重要になります。そのような点で糖鎖が貢献できるのではないかと考えています。例えば難治性の病気に糖鎖が関与していれば、創薬や治療法の発展が期待できます。病気で大変な思いをしている人はたくさんいらっしゃいます。そのような方々の負担をいかに減らしていけるのかが、私なりの研究の目標だと思います。

多様性のある学びと、手厚いサポート体制が
共生創造理工学科の魅力

共生創造理工学科は様々な分野の専門領域が所属しており、学びの多様性が特長です。多様なバックグラウンドを持つ先生が集まっている学科の何がメリットかと言えば、異なる領域をまたがる融合的な研究を行いやすい点が挙げられるでしょう。例えば私の領域で言えば、生物系であると同時に、機械学習などの情報科学の技術を積極的に取り入れていきたいと考えています。「生物 × 情報」の組み合わせで、糖鎖を研究していくわけです。あなたが化学に興味があれば工業的な化学研究に進むこともできるし、いわゆる創薬などの医学系研究に進むこともできるかもしれません。

また、本学部はコース制度を採用しているので、入学してから興味のあるコースを選ぶことで、自分の「好き」を伸ばしていくことができます。「どんなコースを選べば良いかわからない」という人は、先輩や先生に相談してみてはいかがでしょうか。創価大学では進路や学生生活を先輩や教員に相談できる機会を定期的に設けているほか、ゼミの先生にも気軽に話すことができます。各種窓口がたくさん設けられているので、先生や学校職員との距離感の近さは、学生にとって安心できる点だと思います。ぜひ、創価大学でお会いできる日を楽しみにしています。
 

研究を漢字一文字で表すと?

「応」

研究は社会に貢献することも大事ですが、研究者が学問として追求することを否定してはいけません。自分の「知的好奇心に応える」研究を突き詰めた上で、さらにその研究が「社会の要求に応える」ものになって欲しいと思います。

<経歴>
2002年3月  東京大学大学院薬学系研究科機能薬学専攻博士後期課程修了・博士(薬学)
2002年4月  産業技術総合研究所 分子細胞工学研究部門 遺伝子機能解析グループ、第一号非常勤職員(ポストドクトラルフェロー)
2002年6月 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 、養成技術者(NEDOフェロー):産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター糖鎖遺伝子機能解析チームへ派遣
2003年10月 産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター 糖鎖遺伝子機能解析チーム、常勤職員(若手任期付研究員)
2008年4月  同・常勤職員(研究員)
2011年6月  筑波大学 人間総合科学研究科(医学) 疾患制御医学専攻、連携大学院(産業技術総合研究所)、准教授(2020年3月まで)
2011年10月 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター、主任研究員
2015年4月 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 糖鎖技術研究グループ、主任研究員
2020年4月 創価大学大学院理工学研究科生命理学専攻、教授
2021年1月 創価大学糖鎖生命システム融合研究所、教授
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