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伊与田 健敏 准教授
超音波を利用した屋内測位システムで ロボットを正確にナビゲーション!
屋内ではGPSが使えない!? 急がれる屋内測位システムの開発
私の研究室では、コンピュータの組み込みシステムや、超小型人工衛星のシステム、電気自動車関連システム、FPGA(内部の論理回路の構造を開発現場で書き換えることのできる半導体IC〈集積回路〉)を用いた専用の高速演算システムなど、いろいろなテーマに取り組んでいます。メインのテーマは超音波による屋内測位システムの研究です。
測位システムとは、現在の地球上の位置を測定するシステムのことで、GPS(全地球測位システム)はその代表例です。GPSはアメリカの打ち上げたGPS人工衛星のうち4機からの電波を受信し、到達時刻などから測位計算することで、地球上の位置を知ることができます。
GPSは衛星からの電波を利用するため、電波の届かない屋内や地下、電波が遮られたり反射波が生じたりするビル街や山間などでは、正確な位置を知ることができません。そこで、屋内測位システムについてはいろいろな技術の開発が進められています。
研究室の様子。実際に研究室で実験をし、その結果を皆で議論しながら研究を進めています
超音波とGPSの原理で ロボットを助けるシステムを!
私が屋内測位システムの研究を始めたのは、1998年です。北海道大学で行われた日本ロボット学会の学術講演会があり、同僚の先生方や学生と参加しました。昼食でラーメンを食べているとき、屋内でのロボットナビゲーションの話になりました。
屋内で自律移動するロボットが活躍するためには自分の位置がわかる必要がありますが、なかなか難しく、実用に耐えるものはありませんでした。そこで、「ロボットだけを賢くしなくてもいいんじゃないか、周りの環境がロボットを助けるようにしてもいいのでは?」という話になりました。
屋内では電波だと速度が速すぎて、伝わる時間を計測するのが難しいので、超音波を用いることにし、あとはGPSと同じ原理の測位システムを作ってロボットのナビゲーションに利用しようと研究を始めました。ロボットといってもさまざまですが、車輪で動き、オフィスで人の案内をしたり、軽量物の運搬をしたりするようなロボットをイメージしています。
ないない尽くしで始まった研究 電子回路もすべて手作り!
GPSと同じ原理ですから、超音波信号を出力する装置を4カ所につくり、マイクで超音波信号を受信して測位計算しようとしたのです。超音波は速度が遅いし、周波数も低いので、GPSより楽にできるのではないかと考えていたのですが、実際に研究してみると、これが難しい。
まず、超音波を同じタイミングで送受信できるような回路がありませんでした。ですから、最初はパソコン用の可聴域の音波で実験を始めました。また、パソコンのPCIバスに接続して超音波の信号を出入力するボードも開発し、FPGAを用いて製作しました。超音波の出力を通知する回路も自分たちで製作しました。計算についても、演算自体は単純なのですが量が膨大で、処理をするために工夫を凝らしました。
実際に研究してわかった 「コウモリさん」のすごさ
先にも触れましたが、屋内測位システムでは様々な手法で開発が進められています。私たちがそこまでして超音波にこだわるのは、正確だからです。
人間であれば、自分で判断することもできるので、ある程度の正確さがあればいいでしょう。でも、ロボットに使用するのであれば、さらに精度が求められます。もちろんロボットにはセンサーもありますから、それでぶつかったりしないようにできますが、ナビゲーションの精度も出したいと思っています。
こうして超音波を利用するために苦労してみると、改めて「コウモリさんはすごい!」と思います。「さん」付けしちゃいます(笑)。だって、自分も飛んでいるし、餌にしている虫なども飛んでいるでしょう? それなのに、超音波を使って、位置が分かって、ちゃんと捕まえて食べられるなんて、信じられない。どうやったらできるんだろう。コウモリさん、尊敬しています。
システムとしてまとめ上げ 安くて精度の高い製品を提供したい
最近の主な課題は、ドップラー効果で伸び縮みした信号でもとらえられるようにすることで、だいぶめどは立ってきました。必要な技術や研究はだいたいそろってきたので、全体のシステムとして使えるようにまとめていきたいです。また、今は、4メートル×4メートルのフィールドで実験していますので、広い面積をどのようにカバーするか、送信機の配置や出力の仕方なども研究して、安くて精度の高い製品として組み上げたいと考えています。
電子工作にはまった子ども時代 お小遣いで電子部品を買い集める
研究では様々な電子回路を製作しているとお話ししましたが、実は子どものころから電子工作が大好きなのです。
電子工作に興味を持った一番最初のきっかけは、父親の同僚から「息子さんに」といただいた、『初歩のラジオ』という本でした。当時小学校3年生でしたから、わからないところは多かったのですが、面白そうだな、と思ってしばらくはまっていました。1970年代の初頭で、みんなこぞってラジオを作っていた時代でした。
実際に電子工作をするようになったのは、小学校5年生ではんだごてなどの工具を買ってもらってからです。簡単なキットから作って、小学校6年生くらいの時にはトランジスタを8個使った、8石ラジオというのを3時間くらいで作っていました。
キットだけじゃなくて、自分で万能基板に部品を差し込んではんだ付けするようなものも作っていました。「こういうアンプを作ってみよう」とか、いろいろチャレンジしましたよ。もちろん、うまく動かないものもたくさんありました。
当時よく読んでいた雑誌も、大事にとってあります
中学生になると天体観測に興味を持ちました。でも天体望遠鏡を動かすためのモーターの制御に電子回路が必要だったし、デジタル回路が出てきたので、また電子回路の方に興味が戻ってきました。『マイコンピューターをつくる』といった本が出版されるなど、部品を買ってきてマイコンを作ろう、という時代で、自分で本を見ながら作りました。マイコンというのは小さいコンピュータ、マイクロコンピュータのことです。
修学旅行の自由行動で憧れの秋葉原へ! 大学時代はなぜか応用物理を専攻するも…
当時は高知県に住んでいましたが、市内に1軒、電子部品を売っている店があったんですよ。お小遣いでその店で部品を買ったり、通信販売で買ったりしていました。
でも電子部品はやっぱり秋葉原で買いたいっていう気持ちもありました。その機会がおとずれたのは高校1年の時。中高一貫校で、高校1年で修学旅行がありました。最終日は都内でグループごとに自由行動だったので、われわれのグループは、もちろん秋葉原へ。あこがれの秋葉原で部品を買えたのです。その時に行った部品屋さんには、今も通っています。
大学は応用物理学科で電子系ではなかったのですが、相変わらず電子工作は好きで、いろいろ作っていました。4年生から修士にかけては、当時の8ビットのパソコンとだいたい同じくらいの性能のものを作りました。多分、今でも電源を入れれば動くと思います。雑誌で製作に関する連載記事も書かせてもらいましたよ。博士課程では物理の計算専用の大きな計算機を作る、と大風呂敷を広げましたが、壮大過ぎて断念しました(笑)。
子どものころからずっと電子回路を作ってきたし、今、研究で必要な回路を設計したり製作したりするのも楽しいです。
当たり前のことに興味を持って はじめからうまくできる必要なはい
私の研究室には、手を動かしていろいろやってみたい人が向いていると思います。最初からうまくできる人はいないし、できるわけもないし、できる必要もないんですよ。興味、関心を持って、面白いからいじってみよう、遊んでみよう、という気持ちで始め、一歩ずつ進んでいけばいいと思っています。
大事なのは興味を持つことです。たとえば今、ほとんどの学生が使っているスマートフォンは、初期のスーパーコンピュータに比べると、ずっと性能が高いものです。あまりにも当たり前のものになっていますが、なぜこういうことができるんだろう、とちょっと不思議に思ってもらいたいんですよね。
研究室できちんと興味を持って勉強すれば、将来にわたって役に立つような技術や知識も身につきます。
共生創造理工学科全体としては、いわゆる理科のいろいろな分野の先生がいて勉強ができるのが魅力ですね。物理、化学、生物、地学のほか、農学系とか薬理学系の先生もいて、面白いですよ。コースの選択は入学後にできます。
これから進路を選択する若い人たちには、自分のやりたいことや夢を持ってほしいと思うし、できるだけ早くそういうものを見つけて、それに向かって勉強もしてもらえればと思います。
研究とは?漢字一文字で表すと?
<漢字一字と、その理由をお願いします>
「興」
「興味」を持つことから研究は始まると思います。この字には「楽しみ、喜び」と共に「新たに始める」そして「盛んにする」という意味があります。新しいことに挑戦して、多くの人々の楽しみや喜びにつながるような成果を出せるように、積極的に研究に取り組んでいきたいと思います。
▼プロフィール
高知県生まれ。1992年、東北大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。