開設30周年記念座談会
「人間主義経営論をめぐって」
(2007年度開催)

役職の表記は当時のものです。

司会(中村昌善34期):経営学部は、本年、開設30周年を迎えました。また経営学部の専門科目として「人間主義経営論」が開講されて3年が経過しました。そこで、本日は、「人間主義経営論」の開講に携わられた経営学部の先生方、卒業生の代表の方々、そして学生のみなさんにお集まりいただき、「人間主義経営論をめぐって」と題して座談会を開催させていただきます。ご多忙のところ大変にありがとうございます。どうぞ、この講座と経営学部のさらなる発展のために活発なご意見をいただきたいと思います。

受講者の感想

司会:それでは、実際に「人間主義経営論」を受講したみなさんからの感想を聞かせてください。

久保埜エミ(34期):感動的でしたね。経営基礎演習の先生だとか、近くで触れる先生方から一番興味のある講義を聴くことができて、また社会に出ていろいろ苦難を乗り越えて経営の第一線で活躍されている先輩の講義を聴けるというのは。学生にとって貴重な時間であるし、貴重な経験であるし、ありがたい授業だと思いました。また、2年生、3年生と運営スタッフをやらせていただいて、1年生の時には難しくて理解できなかった部分も多かったのですが、続けて聴いてみて消化しきれないくらい内容の濃い授業でもあると感じています。これからも「人間主義経営論」に工夫を加えながら、後輩にも語り、教員とも一体となってさらに深めていきたいと思いました。

畝和子(35期):前田先生の授業の中で創立者の『法華経の智慧』を引用されていたのですが、経営と人間のつながりが自分の中でよく理解できませんでした。でも、「人間主義経営」って何だろうと考えるきっかけとなりました。そして自分が勉強に取り組む姿勢が変りました。また、卒業生の講師の話は生きた経営の話でしたので、すごく刺激になりました。

荒木大輔(35期):僕も、この授業を受けて、創立者の思想と企業経営をつなげた講義を聴けてよかったと思います。経営学の講義だけだったらどこの大学でも聴けますし、池田先生の思想もどこの大学でも学ぼうと思えば学べます。でも、思想と経営学をつなげた授業は創価大学の経営学部でなければ学べないはずです。講義資料も残してあります。何度も自分で読み返してみましたが、わからないところもたくさんあって、奥が深い授業だと思いました。

阿部純子(35期):難しくて、自分の中で理解しきれなかった部分がいっぱいありました。でも、これから経営学を勉強していく中で、「人間主義経営」を常に考えていきたいと思うし、後輩のためにこの講義をもっと大切にしていければと思います。

小島靖子(35期):「人間主義経営論」で一人ひとりの講師の方が、会社で従業員の立場で働いていたり、いろいろ大変なことを乗り越えて会社を起こしたり、さまざまな経験を踏まえた話をしてくださったことがすごく面白かったと思います。また、映像を使ったり、商品を持ってきたりして、各講師が授業に工夫をして、私たちにわかりやすく説明してくださっていました。

江藤幸子(35期):私も、入学する前からこの授業に興味をもっていたので、積極的に前の席で聴かせていただきました。先生方も、この授業のために大変な準備をされてきたことがはっきりわかるくらい資料もすごかったです。特に、「人間主義経営」を社会の中で実践している外部講師の方が、いろいろなやり方で「人間主義」を具現化しようと奮闘されてきた話を聴けて、本当に勉強になりました。また、ただ授業を受けるだけではなく、自分の中でも「人間主義経営」というのはこういうものなのかなと考え、もっともっと深めていこうというきっかけにもなりました。

石橋正隆(32期):僕は運営スタッフの立場で聴きましたが、やはり1年生には難しいと感じたこともありました。しかし、入学してすぐに「人間主義経営論」があるわけですから、1年生がうらやましいと思いました。創立者の著作も、フィリピン大学での記念講演「平和とビジネス」や、「経営の神様」と言われた松下幸之助との対談集『人生問答』など、経営学部の学生に対して書いていただいていると感じられるものが多々ありました。これらのスピーチを学ぶきっかけとなったと思います。

堂前豊(学部長補佐):さまざまなご意見、ありがとうございます。みなさんがしっかり意識をもって聴いていただいていたことに改めて感動しています。一般に大学において、専門性では教員の方が遥かに前を進んでいます。また、建学の精神という点でも創価大学においては教員も真剣に求めているわけです。しかし、時として、学生の方が青年らしくまっすぐに求めていると実感することもあります。私たちも学生の気迫に押されながら、また真剣にやらなければいけないなという触発を受けながら、ともに創立者を求め、学問の探求をしていくという象徴的な授業として、さらなる発展を期していきたいと思います。

人間主義とは何か

司会:この講義のタイトルにも示された創立者の「人間主義」とは何かについて、前田先生に語っていただきたいと思います。

前田清隆(学部長):この「人間主義」については、『創価教育研究』という論集においていろいろな方が書かれております。たとえば、経済学部の勘坂教授は、マルクス主義と比較して創立者の「人間主義」の特徴を次の5点に要約されています。詳細は私の講義録を見ていただきたいのですが、漸進主義、民衆中心、内在的規範、智慧の重視、言語の虚構性の自覚という5点です。

大事なことは一人の人間を大切にする、それによって、人間の持っている無限の可能性、力、智慧を開いていくことがそもそも人間主義の出発点と言ってもいいのではないかと考えられます。創価学園の校歌には「何のため」という有名なフレーズがあります。創価大学の学生歌には「誰がため」というフレーズがあるように、目的感が大事なのです。たとえば企業を始めるにあたって何が目的なのか。富を築きたい、名声を博したい、そういう目的なのか、あるいは民衆のため、人々のため、社会のために貢献したいというのが目的なのかです。また、「人間主義経営」という場合の大事な視点が牧口先生の美利善という価値観です。私たちが捉えるのは善の価値を重視する考え方でなければならない。つまり一人の満足、損得そういうものを超えて、社会のため、人々のために、善の価値を生み出すための経営を志向していると思われます。

この「人間主義」は大きな難しいタイトルだと思いますけども、本年4月に創価教育センターが創価教育研究所に発展しました。この研究所を中心にさらに先生の思想である「人間主義」を深め、展開していく段階に入りました。その成果を学びながら、私たちもこの「人間主義経営論」をさらに発展させていきたいと考えております。

司会:この講座は学部の理念が具現化されたものですね。この機会に学部の理念の中にある「人間の心の根底にあるダイナミックな普遍的精神」という真意を、開講時に学部長をされていた山中先生にお聞きできればと思います。

山中馨(キャリアセンター長):「人間主義経営とは、人間の心の根底のあるダイナミックな普遍的精神から一個の人間の行動とビジネス活動、社会活動を見る理念である」というのはどういう意味かと、ある教員から質問を受けたことがあります。

仏法で説かれていて難しいかも知れませんが、人間の感覚にはまず五感があるでしょう。五感の下に意識があって、これを六識と呼びます。意識の下に無意識があって、無意識を西洋ではひとくくりに考える場合も少なくないのですが、仏法ではもっと細かく分けて、七識というのがあって、八識があるわけです。この八識が一番奥にあるとしています。でも日蓮仏法ではその奥に九識というものを説いていますが。そこで八識、つまり人間の無意識の奥の奥を仏法ではどう解釈しているかというと、要するに因果です。八識とは、ドンドンドンドン急激に流れている暴流、発音はボルというのですが、人間の心の奥底は、要するに急激な流れだと解釈しているのです。これは因果の流れなのです。要するに、一瞬一瞬、人間の心の奥底には因果、因果で連続しているダイナミックな流れがある。そこで、一人の人間の心がこうあるとするでしょう。そうするとダイナミックな八識の流れは、もう一人の人間の八識の流れとも交差すると仏法では説かれています。

だから人間の心の奥底を究めていけばいくほど、それは一個人を越えて広がり、あらゆる存在と関係性を有していることに気づくはずです。「私とあなたは赤の他人だけれども、あるもので結びつけられている」とアインシュタインは言いましたが、彼は、自分と宇宙を突き詰めて仏法の真理を垣間見たと言えます。だから、赤の他人だけれども、二人には関連するものがある。これを広げていくと、今度は人間とたとえば組織、ある人間集団全体、人間一人と国全体、それから人間一人と今度は国だけではなくて、動物であるとか、それをもっと広げていくと、たとえば石とか無機物にも広がるし、それを広げていくと宇宙にも広がっていく。こういう考えですよね。そういう考えから発して、池田先生の小説『人間革命』第1巻の前文に「一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする」という主題が出てくるのです。

一人の人間の心の奥底にあるものが、実は、普遍的精神となりうるというのはそういう意味です。一個人の行動が、究極的には組織活動ともつながっている、ビジネス活動ともつながっている、社会活動ともつながっている、国ともつながっている、地球全体ともつながっている、宇宙ともつながっているという見方が、人間主義経営理念の本来の見方なのではないかと思うのです。

司会:それは、創立者の『平和とビジネス』の中の「普遍的精神は、ビジネスの世界にあっても、一企業、一国家のみの部分益に執着せず、地球人類という全体益に立脚しつつ、時には、自らの利害を超えた尊い自己犠牲さえいとわぬ公正な判断を可能ならしむるにちがいありません」と言われている趣旨にも通じますね。

山中:そうです。同じだと思います。

堂前:ちなみに、それについては『法華経の智慧』の第1巻で、創立者は「宇宙的ヒューマニズム」とも言われていますね。

石橋:「人間教育の最高学府たれ」という建学の精神を経営学部の教育理念として具現化し、ひろく学生に啓蒙し、浸透させるうえでも、この普遍的精神を深められるように、今後もこの講座を重視する必要があるのではないでしょうか。

経営学部の未来

司会:最後の質問ですが、経営学部の今後の改革のポイントとその取り組みについて前田先生に語っていただければと思います。

人間主義経営の世紀を
前田:まず、「人間主義経営論」の成果を踏まえ、創立者のお考えに応えられる経営学部の教育をさらに推進したいと考えています。もう一度原点に返り、教員自身が改革・革命しなければならない。創立者が「最高の教育環境は教師である」と言われているように、教員がさらに犠牲的精神で取り組まなければいい教育はできません。

近くは2009年度にカリキュラムの改正を予定しています。どのような改正になるかは、今後検討していきますが、私の個人的な意見としては、現在の高校生が受けている「ゆとり教育」と学部での導入教育、教養教育と専門教育、さらに大学院教育の関連はいかにあるべきかをまず考えなければならない。

また、経営学部の卒業生全員がもれなく身につけてほしい能力と、経営学部でなければできない特色のあるプログラムを明確にして、コース制、科目数、必修科目、専門演習(ゼミ)のあり方などの検討に入る予定です。

もちろん、「人間主義経営論」に続く科目を考えた方がいいのかなど、学生のみなさんからも要望をいただきたいと思います。

司会:本日は、「人間主義経営論」について熱心に語っていただき、大変にありがとうございました。創立者の掲げられる人間主義に基づく経営を学ぶうえで貴重な示唆を受けることができたと思います。これから何10年、何100年と続く経営学部の後輩にとって、この「人間主義経営論」が学問のうえでも実社会でもいかされるように期待して、この座談会を終わりたいと思います。大変にありがとうございました。
(『人間主義経営の世紀を』より一部抜粋)