成功と失敗の「差」を考える 人間に近い学問・経営学

2022年10月19日 10時44分

再掲載企画!教員インタビュー!第5弾・吉元 先生に聞いてみました!

    企業の業績を肌で感じた
    経験から経営学を志す


     企業経営や組織運営について考える「経営学」といっても、学生のみなさんにはどこか遠い話のように思えるかもしれません。

     でも、経営学はとても身近なものです。たとえば私の出身地である大阪府守口市は、日本を代表する大手家電メーカーの城下町です。その影響は非常に大きく、周辺には社員寮や関連会社・取引先企業などがたくさんあり、企業の業績が好調であれば街全体が活気づいていますが、不況だとどことなく街全体がどんよりするのです。“企業経営・業績と地域経済、つまり私たちの暮らしは、切っても切り離せないのだ…”そう気がついたことが経営学に関心を持ったきっかけでした。



    韓国の多国籍企業で働いてから
    韓国の国立大学で先生に


     大学院を卒業後、私は韓国の大手電子機器メーカーの日本法人に就職し、財務や運用業務に従事しました。朝9時から深夜まで必死で勤務するとともに、同期や取り引き先の担当者など、多くの人と交流を持つことができました。韓国は経済を輸出に頼っているため、私がいた企業も世界中に商品を輸出している多国籍企業でした。多くの国に支社があり、多国籍の人たちが経営を支えています。韓国の大手財閥企業は人材も多様化しており、また常にはげしく入れ替わります。グローバル展開する企業の経営のあり方を目の当たりにし、大学時代に学んだ国際経営という学問を、実践的な体験をする等、非常に貴重な経験を積むことができました。

     その後、韓国国立慶尚大学に席を移して、教鞭をとりました。韓国は日本以上の激しい学歴社会で、大学と就職先で人生が大きく変わってしまいます。そのため、学生は非常に危機感が強く、大変熱心に勉強します。私も多いに刺激となりました。
     また、韓国の大学では「持続可能な経営戦略とは何か」「企業は社会にとってどのような存在であるべきか」といった課題についての関心が高く、学生たちと熱く議論を交わしたこともよい思い出です。
    成功する事業と失敗する事業
    その差を考察する


     経営学は企業やNPO・NGOなどの組織がどのように意思決定され、運営されるのかを考える学問です。組織がどのような認識に基づいて、どのような成果を出すのか、業績が悪化した場合には、どのように企業戦略を修正していくのかなどを学んでいきます。

     日本には100年、200年と続く長寿企業がありますが、そうした企業は単に一社の利益だけでなく、従業員や地域社会、取引先などとの関係も重視してきました。今でいう「持続可能な経営」に近いものがあるでしょう。

     経営学ではこうした企業や組織の成功例と失敗例をもとに、「その差は何か」「なぜ成功したのか」「なぜ失敗したのか」と仮説をたて、考察していきます。なぜそうなったのか、自分なりに仮説を立ててから検証する考え方が習慣化できるようになると、戦略的思考を養うことができます。この思考の仕方は、就職先ではもちろん、これからのみなさんの人生でも大いに役立つことと思います。



    社会的課題へどう取り組むか
    企業の価値が問われる時代


     これまで、企業にとっては、消費者や取引先に価値を提供して利益をあげ、国家に納税することが一番の価値だと考えられてきました。貧困や環境問題など、社会の諸課題には、税金を使って国やNGOが解決するものだと考えられてきたのです。

     しかし近年、企業が知見・技術・人脈などをいかし、世界の課題にどのように向き合い、貢献するのかが問われるようになりました。企業が営利をあげて成長していくのではなく、地域社会や従業員や取引先企業まで、関わる人たちに利益をもたらすにはどうしたらよいのか、地球環境を守るためにはどんなことがよいのか、そこまで考え、行動するのが企業の責務であるという考え方が登場したのです。

     企業が国境を越えて巨大化し、大企業の売上が国家のGDP(国内総生産:国内で一定期間の間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計金額)を超える時代です。貧困、飢餓、ジェンダーなどの問題に対して、企業がどうやって向き合っていくのか、問われているのです。



    アフターコロナの時代
    経営の流れも大きく変わる


     2020年、世界各国に多くの混乱を引き起こした新型コロナウイルスですが、これからの企業・組織の経営・意思決定に大きく影響すると思われます。今まで日本の多くの企業では、「PEST(ペスト)分析」という分析方法を使って経営戦略や海外戦略を立て、将来を予測しながら進めてきました。大企業になるほど、とにかく綿密に計画を立案し、遂行するという「計画主義」が多かったのです。
     
     しかし、今回の新型コロナウイルスの世界的流行のように、予測外のできごとが起こってしまうと、この計画主義では対処できません。また、現代は、多様な価値観や複雑な社会構造が絡み合い、予測が立てにくい時代です。そこで、注目されているのが金融工学の価格決定理論の考え方を応用した「リアル・オプション」です。これは小さくはじめて、テストマーケティングを繰り返し、結果次第で本格的に展開するか、止めるかを決める、柔軟な考え方です。

     経営上のリスクをゼロにすることはできませんが、今後は「リアルオプション」のように、「小さくはじめてリスクを低減させる」「リスクをとりながらも成果を出す」という考え方を選ぶ企業が出てくるのではないでしょうか。

     このように経営学は時代とともに変貌していく、ダイナミックでリアルな学問です。経営学部で学問はもちろんのこと、人間性も育み、将来、さまざまな企業や組織で必要とされる人材になれるよう、ともに学び、成長していきましょう。
    <ご経歴>
    吉元 浩二 教授 プロフィール
    1995年 創価大学経営学部卒業
    1997年 同大学院経済学研究科博士前期課程修了
    2009年 韓国国立ソウル大学大学院博士課程修了(経営学博士)
    2012年〜2020年2月 韓国国立慶尚大学副教授
    2020年〜 創価大学経営学部准教授
    ページ公開日:2022年10月19日 10時44分
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