ノヴォグラッツさんの問題提起 —「成功」を再定義する
経済学部長 高木 功
「私たち人間は地位を求める存在です。認められ、尊重され、愛されたいと心から願っています。私たちの現在の経済・政治・社会システムは金、権力、名声に基づいた『勝ち』(成功)の定義を増強しています。何を与えるかによって報われるより、何を手に入れたかよって確認されることがあまりに多い」—J. ノヴォグラッツ『倫理革命宣言』(2021)、邦訳タイトル『世界はあなたを待っている』(2023)。
私たちは財と権力と名声を奪い合う競争とその獲得したものの大きさによって人の優位性を確認する「競争・優位社会」に生きています。世界をより良く変えるために社会起業家を支援する非営利組織「アキュメン」を設立したジャクリーン・ノヴォグラッツさんはこの「成功」の意味の転換を主張しています。私たちのこの「成功」の観念、定義こそが「不平等と搾取と不公正な世界」をシステムとして支えていると考えるからです。
彼女にとって「成功」とは何か—「成功は私たち自身の内にあり、私たちが自身の内を探求して生きることを待っています。私たちが創る美と私たちが提供する善意の中にあり、私たちが広げる理想と私たちが掲げる大義の中にあり、私たちがその転換を助ける人々の生命の中にあります。子どもたちや地域社会の健康と豊かな生活の中に、そして世界を愛し、お互いを愛する中に立ち現れるもの」です。
「豊かな生活」を表す言葉として、彼女は「well-being」(よく生きていること) と共に「開花」を意味する「flourishing」という語句を頻繁に用いています。もともとは「花を咲かせる」という意味で、「繁栄」と「成功」の意を含みます。転じて「人間性の開花」あるいは「人間の潜在力の実現」を意味する言葉になります。したがって「成功」は、私たちの内なる豊かさの探求と自他の人間性を開花することの中にあるというのです。多くの人々から潜在力を開花する機会を奪う「不平等と搾取と不公正な世界」の転換にこそ成功はあると解することができます。
人が世界から奪い、得たものを成功の証とするのではなく、「世界から得たものより、多くのものを世界に与えよ」との黄金律を私たちの生き方の原則に加えるべきだと彼女は提案します。多くの人がこの言明に忠実に生きれば、世界はゆっくりでも「包摂と公正と尊厳の世界」へと変化するに違いないと信じるからです。ただし、そこには小さな自己を超える「勇気」と自身のあり方を支えてくれている愛すべき人々への深く素直な「感謝」の思いがなくてはならないでしょう。そのような生き方において「成功者」でありたいと願うものです。
Search-internal-code:faculty-profiles-2017-