そもそもレポートを作成するのは何のためなのでしょう。
この点について戸田山和久氏(名古屋大学教授)は、『最新版 論文の教室』(2022,NHKブックス)で次のように述べています。
(大学でレポートの指導をするのは、)それは民主社会の担い手になるため、ということ。解決すべき問題をきちんと述べ、それに対する自分の答えを主張し、それをデータや論拠でサポートする、というのは、「みんなに関係することがらはみんなで議論して決めましょう」という社会、つまり民主主義社会の担い手に求められる最も重要なスキルだ(下線箇所は筆者による)。
この見解については改めて触れることにして、下線を引いた箇所について解説するのが本稿の主目的です。それでは早速始めましょう。
レポートは、読み手を意識して書かれていることが基本的に重要なポイントです。自分だけがわかっていればそれでよいというわけではなく、読み手に理解してもらえるように論述することが求められます。そのためには、順を追って、論拠をふまえて、納得してもらえるように、つまり論理的なものでなくてはならないのです。
論理的なレポートとは、読者が議論や主張の展開を理解しやすくするために情報やアイデアを整えて論理的な構造を持っているレポートです。この「論理的」ということには、いくつかの意味が含まれています。以下、論理的なレポートとはどのようなものであり、またそれらがどのように効果的であるかについて説明します。
(1)順序をふまえてこそ論理的
論理的なレポートであるためには、筋道の通った順序で提示する必要があります。序論、本論、結論を基本として適切に整理し、読者が論旨の展開を追いやすくなっていてこそ論理的なレポートなのです。
(2)論拠があってこそ論理的
論理的なレポートであるためには、主張や議論を支持するために適切な論拠が必要です。信頼性のある情報源からの引用文やデータなどの論拠に基づき、論理展開を強化して読者に説得力を持った論述を提供してこそ、論理的なレポートなのです。もちろん、引用され論拠となる各種資料の正確性や信頼性が重要であることはいうまでもありません。
(3)結論まで筋が通っていてこそ論理的
論理的なレポートの結論とは、設題を適切にふまえて根拠を示すことで、首尾一貫した論旨を展開した上で、報告や論証などをまとめることです。結論は、読者に向けて設題に関する最終的な見解をまとめ、提供するものなのです。
以上のように、論理的なレポートにはいくつかの意味があり、それらによってさまざまな効果をもたらしてくれます。まず、論理的なレポートであることによって「説得力」が出てきます。論理的な構造と適切な証拠により、読者は見解について納得しやすくなります。また、「理解しやすさ」も論理的なレポートの効果です。論理的な構造により、読者は情報の流れを追いやすく、複雑な見解でも理解しやすくなります。さらに、論理的なレポートであることによって「信頼性」が出てきます。すなわち、適確な論拠は、レポートの信頼性を高め、読者に情報の信頼性を示すのです。
加えて、論理的なレポートを作成に取り組むことを通して、「論理的な思考の訓練」になることも大切なポイントです。論理的なレポートの作成は、論理的思考力の向上に寄与します。学生は情報を整理し、効果的に伝える方法を学ぶことができます。論理的なレポートの書き方は、大学生として学ぶべき重要なスキルであり、民主主義の担い手に求められる資質なのです。この点、改めて冒頭の戸田山氏の見解が明確になるところです。
論理構成のポイントの一つは、「レポート課題に対応した結論」です。すなわち、与えられた課題や問題に対して、適切な結論を導き出していることがポイントになります。
次のポイントは、「パラグラフの作成方法」がどの程度適切か、そして「論旨の一貫性」がどの程度できているか、ということです。これは、文章構造と論理の一貫性に関連しています。パラグラフの適切な構造と一貫性は、読者にとって理解しやすい文章を作る上で非常に重要です。そのために、パラグラフを題目(トピック)文と補足(サポート)文の両者が呼応するように作成し、さらに、パラグラフ間が論理的につながっているかどうかがポイントになります(パラグラフ・ライティングについては後述します)。
ポイントをより具体的に分節化すると次のようになりましょう。
- 1パラグラフに1主題の原則を踏まえて、適切な長さで書かれているか
- パラグラフで最も述べたいことが題目(トピック)文の中に書かれているか
- パラグラフの中の文と文は概ねスムーズにつながっているか
- パラグラフ間がスムーズにつながっているか
もう一つのポイントは、説明・論証に必要な「データと論拠」がどの程度踏まえられているか、ということです。これは、論文やレポートが適切なデータや論拠を提供しているかどうかに関するものです。主張や議論を支持するために十分な証拠が提示されているか、信頼性のある情報源からのデータが利用されているか、論拠が明示的で妥当なものであるかがポイントになります。
これら3つのポイントは、レポートや論文を作成する際に一般的に使用されるものであり汎用性が高いものです。
論理的な文章の例を見ながら解説を進めましょう(「レポート作成の手引き 2023年度版」 レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会)。どのような箇所が論理的かを見つけることができるでしょうか? 以下、解説します。
子どもの貧困の現状
日本は先進国の中で、子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深い。厚生労働省(2016)によると、子どもの貧困率は2012年に16.3%と過去最高を更新している。その後減少傾向にあるものの、2015年時点でも依然13.9%となっている(厚生労働省2016)。この数値を国際的な観点から見ると、「OECD加盟国34か国中10番目に高く、OECD平均を上回っている」(内閣府 2014)と報告されている。日本は2020年GDP世界第3位であり、経済大国であるが、国民の生活については、世界の国々と比較して豊かであるとは言い切れない。また、阿部(2016)によると、日本の相対的所得ギャップ(所得階層の下から10%の子どもが属する世帯の世帯所得を、中位の世帯所得の子どもたちと比べた差の指標)によると、所得階層の下位10%目の世帯所得は、中位の子どもの40%に満たず、またこの差異は、先進諸国41か国中8番目に大きいという。このことは、日常生活に支障をきたす環境での生活を強いられている子どもたちがいる可能性を示唆している。これらのことから、日本は子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深いことが分かる。
上記の文章が論理的であるのは、パラグラフ・ライティングというスキルが用いられているからです。パラグラフ・ライティングとは、一つのパラグラフを3種類の文章で組み立てる方法です。
その一つが「題目(トピック)文」です。
これは、言いたいことを述べる文で、パラグラフの内容を一文で要約した文ともいえます。要約した文ですから、トピックの内容が端的に伝わるように書く必要があります。例文の冒頭「日本は先進国の中で、子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深い」が題目文です。題目文がパラグラフの内容を適切に要約できていれば、パラグラフ全体の主旨が分かるはずです。
もう一つは補足(サポーティング)文です。補足文は、題目文続けて書き、そこで述べた見解を論証する文です。論証とは、題目文で述べたことがなぜそう言えるのか、根拠を挙げて証明することで、先行研究・事例・データ等を指します。論拠が具体的で、信憑性があるほど全体の説得力が増します。
客観的な論拠をふまえた上で、その論拠がなぜ見解を支えることになると自分は考えたのか(理由付け)を説明することが必要です。題目文をサポートする上で必要な論拠は何であり、なぜ必要なのかを考えて、適切に理由付けましょう。この理由付けが思考の道筋を表し、レポートの良し悪しに繋がります。補足文のスキルを使うことで、1で述べた、論文やレポートが適切なデータや論拠を提供することができるのです。補足文によって、題目文と、次に述べる結論(コンクルーディング)文を適切につなげることができると、論旨の一貫性は確実なものとなります。
さらに、パラグラフ・ライティングでは、必要に応じて、結論(コンクルーディング)文を書くことがあります。結論文とは、トピックセンテンスの内容を言い換えるなどしてまとめる文です。まとめですので、パラグラフの最後に書きます。パラグラフで要するに何が言いたかったのかをまとめるので、トピックが強く印象づけられます。
例文の最後をご覧ください。「これらのことから、日本は子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深いことが分かる」とあります。このように、補足文を間に挟んで題目文と結論文が呼応していることにより、1で述べた「論旨の一貫性」が成立することになります。
「一文一義」とは、一つの事柄を一文で書くことです。このように書くとなると、当然その文は短めのものになると思います。つまり、思いついたことを長々と書くのではなく、一つの文で述べることを考えながら書きましょう。「この文ではこれ、次の文ではこれ」というように整理しながら書くことで、書き手の頭の中も整理されていきます。思考が整理された文章は読み手にも分かりやすいものです。一文を区切る際、「どこからどこまでが一文になっていると読み手に伝わりやすいか」を基準にしましょう。例文を改めてご覧ください。一文が短く、一つの文で一つの事柄が述べられています。また、文同士の関係が読み手に伝わるよう、接続表現も積極的に使いましょう。
次の文章をご覧ください(「レポート作成の手引き 2023年度版」 レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会より)。最初はよくない例です。
新型コロナウイルスの流行によってテレワークが普及したが、新たな問題として浮上したのが社員の孤立であったが、このチャットツールを導入し社員同士の交流が進み孤立は解消された。
読んでみるとわかりますが、一文が長めで、「…が、」が続いていることもあり、文意がつかみにくくなっています。そこで、こうしてはどうでしょう。
新型コロナウイルスの流行によってテレワークが普及した。だが、新たな問題として浮上したのが社員の孤立であった。そこでこのチャットツールを導入した。その結果、社員同士の交流が進み孤立は解消された。
どうでしょうか。一文が短く、接続詞が適切に使われています。
先の例文のように接続詞にはさまざまあります。その一部を見てみましょう((「レポート作成の手引き 2023年度版」 レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会より))。
○順接Aの内容がBの原因・理由になっている
1992年にバブル経済がはじけた。そのために、経済状況が悪化した。
○逆接Aの内容に対して、Bが逆または予想外の内容になっている
諸外国では、法律で夫婦別姓が認められている。しかし、日本では、結婚に際して夫婦は同姓にしなければならないと民法で定められている。
○理由Bの内容がAの原因・理由になっている
日本においても、ベーシックインカムに関する議論を進めるべきである。なぜなら、雇用の不安定化は近年ますます進んでいるからである。
○並列・列挙 二つ以上の内容を並べたり、順序づけたりする
日本食品添加物協会によると、食品添加物の安全性を確認するために大きく分けて二つの動物実験が行われている。第一に一般毒性試験で、第二に特殊毒性試験である。
この原稿では、まず論理的なレポートとはどのようなレポートであり、どのような効果があるかについて解説しました。
次に、論理構成を焦点として、レポート作成のポイントを解説しました。すなわち、的確な結論、論文の一貫性、適切なデータと論拠の提供が重要であるということです。
さらに、例文を挙げて、論理的なレポートを作成するために、パラグラフ・ライティングとともに、一文一義と接続詞について解説しました。これらを理解し、実際のレポートに応用することで、自身のレポートの質を向上させることができます。これらのポイントを意識することで、より優れたレポートを作成できるようになるものと期待しています。
以上についてのより詳しい説明は、次の資料で読むことができます。
①『自立学習入門講座』の第3章「論理的なレポートの書き方」
※「学光ポータル」のデジタル副教材で見られます。
②『自立学習入門 新訂第2版』の第6章「文章をいかに書くか」(6-1 論理的なレポートを書くためのアカデミック・スキル、6-2 文章をいかに書くか)
※「学光ポータル」のデジタル副教材でも見られます。
③『レポート作成講座(Bタイプ)』の(3)レポート全体を明確な論理に基づいて執筆するためのスキル
※「学光ポータル」のWEBレポート作成講義で視聴できます。
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