『半七捕物帳』(一)~(六)
通信教育部 准教授 開沼 正
この作品は、半七という御用聞きを主人公にした捕り物話である。数ある時代小説・捕物帳シリーズの中でも先駆け的な存在であり、現代の推理小説の嚆矢でもある。もはや「古典」と呼ばれるようになってからも久しい。事件の謎解き(ミステリー)は、この作品の重要な要素であるのはもちろんだが、ところどころに怪奇現象(ホラー)的な味付けがされているのが特徴的である。
ここでは比較的手に入れやすい光文社の文庫本を挙げたが、大正時代から現代まで多くの出版社がこの作品を出版している。それほどの人気シリーズということである。戦前であれば新作社、春陽堂、平凡社など、戦後は河出書房、角川書店、早川書房、講談社、旺文社、筑摩書房など著名な出版社が手掛けてきている。
作品中では「わたし」と称する人物(作者の岡本綺堂がモデルといわれている)が、すでに御用聞きを引退した「半七老人」にねだって手柄話を語ってもらうというスタイルをとっている。6巻全部で72編の物語があるが、話をどのように分類するかによって数え方が異なる。その分類については、後掲の『半七捕物帳事典』(976ページ)には「以前は『白蝶怪』はわたくしの捕物話ではないとされていたので、六十八編でしたが、いまはそれも含めて六十九編ということでよいでしょう。『広重と川獺』など三編には二つの事件が入っていますので事件の数は七十二、そのうちほかの親分の手柄話や隠密話が『白蝶怪』を含めて五編ありますので、わたくしの捕物話は六十七ということになります」とある(この引用文は半七があたかも実在した人物であるかのように設定した「架空対談」の一部分である)。
もともとは雑誌『文芸倶楽部』(大正6年1月号)に「お文の魂」と題した作品を掲載したのが始まりである。以来、『文芸俱楽部』を中心に発表を続け、昭和12年2月号の『文芸俱楽部』に掲載された「二人女房」が最後の作品となる。20年にわたって執筆されたことになる。
私は時々、1編や2編でも読み返して江戸の情緒にひたっている。一話完結なので、何巻からでも読むことができる。上質な時間を過ごしたという満足感が得られる。
文中には歌舞伎の演目にちなんだ表現などを含めて、当時の人には当たり前の知識だったものが、現代人にはあまり馴染みのない言い回しとなってしまったものも少なくない。そんな時に『半七捕物帳事典』(今内孜編著、国書刊行会)を参照すると詳しい解説が出ている。併せて利用すると面白さが何倍にもなる。また作品中の地名については『江戸情報地図』(児玉幸多監修、朝日新聞社)で確認しながら読むと、半七と同様の土地鑑が得られるかもしれない。
+.――゜+.――゜+.――゜
「学修支援だより」に関する
ご感想をお寄せください。
Email:tk-gakkou@soka.ac.jp
+.――゜+.――゜+.――゜