蝶名林 亮 先生

世界は自分にしか生み出せない価値創造を求めている!
哲学で「何にでも興味を持って新しい価値を創造できる人」に

倫理学の問いを科学的に論ずる研究

研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は哲学で、その中でも、行為の善悪や正・不正とは何か、知恵、慈悲、勇気などの徳とは何か、このような価値や規範について問う倫理学という部門の研究をしています。私は倫理学の問題を考える上で、関係する科学の分野を参照しながら研究しています。「何をすべきか」を問うときに、例えば人間の心理ってどうなっているのか、人間の社会ってどうなっているのか、心理学や社会科学など違う分野の考え方も取り入れないと解けない問題ではないかと思っているからです。

これは最近の倫理学で盛んに議論されていることですが、例えば「この人は慈悲深い人だ」という倫理的な判断があったとします。でも、もし「人間は環境に大きく影響されてしまうので一人では慈悲深くなれない。慈悲深くなるためには、慈悲が尊重されているコミュニティーに身を置く必要がある」という人間の心理があるとすると、人間は一人では慈悲深くなれないことになるので、誰か特定の個人を「慈悲深い人だ」と考えることには問題があることになるかもしれません。慈悲という価値を持つのは個人ではなく、むしろ慈悲を作り出せるコミュニティーの方だということになるのかもしれない。このように、哲学的な問題(この場合は「慈悲という価値はどのようなものか」という問い)を考えるために、他の学問分野での知見との関係も考えながら、答えを導きだそうと研究しています。

とにかく原理が気になって先生を質問攻めにする生徒

中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
高校では軟式野球部に所属していましたが、子どもの頃から本を読むのは好きでした。社会系の科目が得意で、特に好きだったのは歴史。数学は嫌いではなかったけれど、数学の公理がなぜ成り立つのかが気になってしまって、よく先生に質問をしていました。でも、そこを疑っていると数学の勉強は進まないので(笑)、そんなに成績は良くなかったですね。成績が良くなくても、先生が「いい質問だ」と言ってくださったので、勉強を嫌いにならずにすみました。どの科目でも、原理のほうが知りたくて、とにかく何でも先生によく質問する生徒でした。

誰も反論できない理性のある結論を導き出せる

研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
イギリスの大学院へ留学して、いろいろな価値観、生き方を肌で感じた
イギリスの大学院へ留学して、いろいろな価値観、生き方を肌で感じた
もともとは新聞記者になりたいと思っていて、高校の先生に「それならば岩波文庫を全部読みなさい」と言われ、読書に思い切り取り組めそうな文学部への進学を考えました。最初は好きだった歴史の勉強をしたいと考えていましたが、歴史の根本的なところを問うには哲学の勉強も必要だと考えて、歴史学と哲学の両方を学ぶことができる、創価大学文学部に入学しました。

宣伝になってしまいますが、今でも創価大学は哲学を歴史的な観点から俯瞰しながら勉強できる、素晴らしい場所だと思っています。哲学、また関係する仏教学を担当する教員を見てみると、東洋・西洋の思想を歴史的な観点から本格的に勉強できる、日本の中でも有数の場所だと自負しています。ただ、肩ひじを張らずに、気軽に来て頂ければと思います。

大学の授業で哲学を学んでいくうちに、哲学は「理性に重きをおく」ということがわかってきました。世の中には意見の対立がたくさんあるけれど、理性を使えば、誰も反論できないような結論にいきつくことがあるかもしれないと感じ始めたのです。哲学者のいろいろな議論を研究すると、確かに説得力があり、どんな立場の人でも受け入れざるを得ない原理があるように思えました。どの分野でも「理性的に考えたらこうなる」ということが論理的にプレゼンテーションできたらすごい武器になる、哲学はそのような論理を提供してくれるのではないかと思ったのです。

哲学は、自分の意見を広げたり、深めたり、他者の意見にどう反論できるか考えたりして、論理的な考え方を展開していけるツールとして、これからの世の中に重要になるのではないか、有益でおもしろい学問だと思いました。

さまざまなことに興味がもてる人になってほしい

ゼミの内容について教えてください。
ゼミでのディスカッション
ゼミでのディスカッション
私のゼミを通して、どんなことにでも興味がもてる人になってほしいと考えています。哲学は、いろいろなことを考えざるを得ない幅広い学問。いろいろな哲学にふれて興味をもつことができた人は、社会に出て、どんな道へ進んでも、さまざまな道を切り拓いていけると思います。

実際に、本学で哲学を勉強した人の中には、世界的な企業で働いていたり、ゲーム会社にクリエイターとして就職していたり、福祉の世界で事業を立ち上げていたり、教育の分野に進出していたりと、本当にさまざまな方面で活躍してくれています。他学の話になりますが、「わたしの一番かわいいところ」で有名なヤマモトショウさんも大学時代は哲学を専攻されていたそうですね。不安定な社会状況の中で工夫して生き残ろうと努力している企業や分野になればなるほど、哲学的な思考を持った人材を求める傾向があると思います。

誰でもそれぞれの考えをもっているので、自分の意見を言うことはもちろん、ゼミ生同士の対話を通して、相手が自分でも気づいていないような良いところを引き出せるようになってほしいというのが目標です。

ゼミ生全員が参加する授業では、テーマを決めて、事前に調べてきてことをディスカッション。それと平行して、私と学生とのマンツーマン、あるいは私と2~3名の学生とのチュートリアルも数多く行っています。1対1や少人数だと、自分の意見を話してもらわざるを得ないので、とにかくたくさん話をしてもらっています。哲学というのは、とにかく自分が思っていることをどんどん話す、そして相手の言うことも聞いて、どんどん質問をすることが肝心。少人数のチュートリアルでそういう力をつけることで、ゼミ生全体のミーティングでも自分が思ったことを自由に言えるようになりますよ。

自分の哲学が古典や科学とつながるのがおもしろい

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
ゼミの夏合宿にて
ゼミの夏合宿にて
自分がおもしろいのではないかと思ったことを、相手にもおもしろいと思ってもらえた瞬間はとても嬉しくなります。

私の研究は、哲学の問題を他の科学的な知見にも訴えながら考えられないか、という手法なので、今まで知らなかったことをたくさん勉強します。哲学と異なった学問がつながっていることを発見すると、とてもおもしろいですね。

さらに、学生時代に読んだプラトンやアリストテレスの本をじっくり読み直してみると、実はこんなおもしろいことを言っていたのだ、今までよくわかっていなかったけれどつながっているのだと気づくことが数多くあります。

自分の学問や関心が、古典の哲学とつながったとき、新しい科学的な知見とつながるのではないかと感じたときは、すごくエキサイティングでおもしろいですよ。

幅広い学問と出会って自分の世界を広げてほしい

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部の学びは、文学・哲学・宗教・言語学・社会学・文化人類学など、私たちの生活にとても身近なことで、誰もが考えざるを得ないことばかり。社会にでる前に、この世の中はどうなっているのか、この世界でどういうふうに自分を表現していくのか、自分が切り拓く道を落ち着いて考えられる、そういう学部だと思います。まだ将来の目標や夢がみえていない人は、文学部で幅広い学問と出会ってほしいですね。また、先行きが不透明な今後の世界で新しい価値を創造したいと考えている人はぜひ文学部の門を叩いてみて欲しいと思います。いろいろな人と切磋琢磨して、たくさんの意見を聞いて、自分の意見も言って、自分の世界をどんどん広げていってください。
<経歴>
2005年 創価大学 文学部 人文学科 卒業
2007年 ブリストル大学大学院 哲学研究科 修士取得(イギリス)
2012年 カーディフ大学大学院 哲学研究科 博士取得(イギリス)
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修