山中 正樹 先生

近現代日本文学で描かれる非現実の世界などを分析し、考察していく

川端康成の描く美を中心に村上春樹や川上弘美も研究

研究内容の基本情報を教えてください。
大阪府茨木市「川端康成文学館」に設置された、鎌倉長谷の川端康成邸の書斎のレプリカにて
大阪府茨木市「川端康成文学館」に設置された、鎌倉長谷の川端康成邸の書斎のレプリカにて
専門分野は、近現代日本文学・国語教育学・文芸批評理論・現代思想(認識論)。川端康成を中心とした大正・昭和期の日本語小説、現代文学では村上春樹や川上弘美などについても研究しています。最近は、言語では表現できない世界や、感覚では捉えられない世界を描く作家の作品や文学について、脳科学や認知神経論・精神分析学、量子力学や唯識論の知見に基づいた分析も行っています。

高校の授業がおもしろくて芥川龍之介にはまった

中学~高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
小学生のときは勉強が嫌いで、中学の成績はほとんど3でした(笑)。小学校の同級生は、私が大学の教員をやっていることに驚いていますよ(笑)。ただ子どもの頃からよく本を読み、シャーロック・ホームズを筆頭に、推理小説がめちゃくちゃ好きでした。高校では現代国語の授業がとてもおもしろく、そのおかげで文学に興味をもち、芥川龍之介にはまって、ほぼ全部の作品を読破。そのとき大学の国文科で芥川龍之介の研究をしたいと思ったのが、この世界に入るきっかけですね。

第二志望の哲学科入学が研究にも教員にもつながった

大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
大学受験では、南山大学の文学部 国文科(当時)が第一志望でしたが、入試当日に38.8℃の熱をだしてしまい、世界史のヤマが外れたこともあって、第二志望の哲学科(当時)に入学。私は現在、哲学的な観点から文学を捉えるなど、一般的な文学者とは違う研究スタイルをとっていますが、哲学科で学んだことが役に立っていると思います。

実をいうと最初は教員になる気は全くなかったんです(笑)。国文科の授業に出たいと思ったけれど、当時は学科を超えた科目選択ができず、哲学科の学生が国文科の授業を受けるには、国語の教職を取るしかありませんでした。哲学科だと社会の教職も取らなければいけなかったから、104単位で卒業できるところ、164単位も取ったんですよ。そこまで苦労したんだから教員免許だけはもらおうと教育実習に行き、そこで教員の仕事の素晴らしさを知って、教員になろうと決めました。人生は無駄がなく、不思議だなあと思いますね。

大学卒業後、高校の教員になりましたが、やっぱり国文学の研究をしたくなって。全日制高校の教諭として3年間勤めた後、定時制高校の教諭をしながら名古屋大学の研究生として文学の勉強をさせてもらい、その後、大学院に進学しました。

この世にはない幻想的な美の世界に魅力を感じ、解き明かしたくなった

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
吉林省長春市・吉林外国語大学で講演したときの様子
吉林省長春市・吉林外国語大学で講演したときの様子
大学2年次に受けた国文学の授業が非常におもしろく、そこから川端康成に興味をもち、大学院では本格的な研究対象にしました。川端康成は日本的な美を描いたといわれていますが、作品に描かれる美がとても不思議です。大きな氷の柱の真ん中で青白い炎がチラチラ燃えているようなイメージが湧いたんです。現実にはありえませんよね。相反するものが絶妙なバランスをとりながら両方に存在している。そんな川端康成の文学に惹かれ、その美を解き明かしたいと思って研究を始めました。

私が一番惹かれたのは、『雪国』の中で「この世ならぬ美」と書かれているような、この世にはない幻想的な、非現実の美の世界。現実と非現実が背中合わせというか、同時に存在しているような世界を描いているところが、川端文学の魅力だと思います。

現代の作家でも、例えば村上春樹は『1Q84』で、1984年の世界と全く同じだけれど異次元のパラレルワールドを、「1Q84」年のこととして描いています。非現実の世界、人間の深層心理、目に見えない世界を作家がどうとらえて、どう描いているか、それがとてもおもしろいですね。

自分の好きな近現代文学を分析して論文に仕上げる

ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは、まず3年次にいろいろな方法論を勉強します。作品論や作家論、伝記研究、文学理論などの論文を読み、近代文学を分析するための手法を学びます。4年次には自分の好きな作品を選んで分析し、卒業論文につなげていく。教員を目指す学生は、国語教育を意識し、この教材で子どもに何を伝えるのかを考えます。

国語の教科書に載っている『羅生門』や『走れメロス』の講義もしますが、中学や高校の授業とは全く違う読み方を示しているので、ビックリしたり、感心したり、そこから文学研究に興味をもつ学生も多いですね。

自分の好きなことを見つけて疑問をもって探究してほしい

最後に、読者へのメッセージをお願いします。
学生には「好きなことを見つけなさい」とよく言います。私のような勉強が得意じゃなかった人間が教員になれたのは、好きなことを見つけて、それに打ち込むことができたからだと思います。

現代は、まわりにたくさんの情報があふれているけれど、それを鵜呑みにするのではなく、自分の目で見る、あるいは多面的・多角的に物事をとらえて、自分の頭で考えることができるようになってほしいです。

文学部にはいろいろな学びがあるので、大学に入ってからやりたいことを見つけることもできますが、自分が興味や関心のあることを高校生のうちに見つけておくと、さらに大学の勉強が楽しく深くなると思います。常に問題意識をもって世の中や自分の身のまわりを眺めて、どうしてこうなるのか疑問をもって探究する姿勢をもってほしいですね。
<経歴>
1985年 南山大学 文学部 哲学科卒業
1996年 名古屋大学大学院 文学研究科 国文学専攻単位取得満期退学
<職歴>
愛知県立高等学校 国語科教諭の後、豊田短期大学 日本文化学科講師・桜花学園大学 人文学部准教授・創価大学准教授を経て、2012年4月より現職。
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