江口 満 先生

トルストイの哲学をはじめロシアのおもしろさをまるごと知ってほしい!

人間くさいロシアのおもしろいところだけを学ぶ

ゼミの内容について教えてください。
ロシアは隣国でありながら、日本でほとんど知られていないと思います。実際、学生に「ロシアって、どういうイメージがある?」と質問すると、「大きい」「冷たい」「寒い」といった答えが大半。そこで、私の研究室では「ロシアをまるごと知ろう」をテーマにしています。

ロシア人って、とても人間くさいところがあるんです。だからこそ、ロシア文学は人間くささが根底にあり、そういうおもしろさが魅力だと思います。私の専門分野であるトルストイの思想をはじめ、政治や文化など、ロシアのおもしろいところだけを学んで、ロシアを知ってほしいと考えています。

ロシア語って暗号みたい!みんなと違う語学がよかった

中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
私は中学時代から英語と国語が得意でしたが、高校になると文法が難しくなり、得意とは言えなくなってしまったんですね(笑)。でも、外国語にすごく興味があったので、関西創価高校から創価大学 文学部に進学。英語はみんなが学ぶので、ロシア語を学ぼうと考えました。当時はロシア語の専門学科がなかったので、英文学科に籍を置きながら、第二外国語のロシア語に力を入れていたんです。ウクライナ人の方に家庭教師をお願いして、独学でもけっこう勉強しましたね。

ロシア語との最初の出会いは、小学生のとき。チャイコフスキーの映画のエンドロールのロシア語を見て、「すごい、暗号みたい!」「この文字が読めるようになったらいいな」と何気なく思っていました。ロシア民謡の悲しげなメロディーが好きだったり(笑)、中学生になって初めて買った文庫本がドストエフスキーの『貧しき人びと』だったり、高校の担任の先生からチェーホフの戯曲をいただいたり、いくつかの出会いがあったのと、「みんながやらない言葉がいいな」というあまのじゃくな性格もあって(笑)。

国際会議などの同時通訳者からロシアの大学院へ進学

研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
大学4年次には交換留学生として旧ソ連へ留学。将来はロシア語の通訳者になりたいと考えていましたが、1年弱の留学だけでは通訳者レベルの語学力は磨けないと気づき、モスクワ放送の外国人アナウンサーとして就職しました。旧ソ連の情報を各国の言葉で発信していく仕事をして、約3年後に帰国。日本の社会についても知りたいと考え、日本の企業で3年間、ロシア語の技術通訳・翻訳として経験を積んだ後、フリーの通訳者となり、政府間会議や国際機関会議などの同時通訳の仕事を任されるようになりました。

その後、ロシアの歴史や文化、思想など、もっと深く勉強するため、ロシア科学アカデミー哲学研究所大学院で学び、さらに創価大学大学院へ進学したことがきっかけで、ロシア語の教員の道に進みました。

人生に思想を重ねて生きた哲学者としてのトルストイの魅力

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
トルストイは文豪として有名ですが、私の研究室では思想家、哲学者としての観点から研究しています。ロシアでは哲学者としては失敗だとか(笑)、あまり評価されていないんですけれど、その生きざまが魅力的。50歳で精神的な危機を経験し、その後から全く違う考え方をして生きるようになり、権力と真っ向からぶつかって、教会に破門され、最後は家出をしてしまった。日露戦争のときは戦争反対を唱えて、仏教者と連帯しようとしたのに断られたり。自分の人生そのものに思想を重ねて生きようとしている生きざまがとてもおもしろいんですよ。

哲学者としてのトルストイを学べるのは、私のゼミならでは。その他にも、語学というよりロシアおよび旧ソ連邦全体をとりあげているので、卒論で中央アジアのことを書いた学生もいるし、ウクライナについて学び、現在の国際情勢についてディスカッションするなど、テーマは様々です。

言いたいことを言っていて読んでスカッとする文学作品

トルストイは忖度をしないで言いたいことを言っているので、読んでいるとスカッとします。トルストイの文学作品にも、それが色濃く表れているので、おもしろいですよ。高校生におすすめするなら、まずは三大作品の中で一番短い『復活』。その次は『アンナ・カレーニナ』で、長編に自信がついてきたら『戦争と平和』を読んでみてください。『イワン・イリーチの死』も人間の心理を鋭く描いていますね。

文学部での学びは「いかに生きるか」がテーマ

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。  読者へのメッセージをお願いします。
文学部での学びは、人生に直接関わってくるものがほとんど。自分の人生と直結しているところが一番おもしろく、学びが自分の生き方に直接影響を与え、生きていくための糧を身につけることができると思います。まだやりたいことが決まっていない学生に対して、たくさんの選択肢を与えることができるのも文学部の特長。選択肢が多すぎて迷ってしまうかもしれませんけれど(笑)。

トルストイは「学問とはいかに生きていくかを教えてくれるもの」と唱えています。「いかに生きるか」をテーマに、大学で学びを深めていってほしいと思いますね。
<経歴>
関西創価高等学校卒業
1983年 創価大学 文学部 英文学科卒業
2001年 ロシア科学アカデミー哲学研究所大学院 倫理学科修了Ph.D
2005年 創価大学大学院 文学研究科 社会学専攻 博士後期課程単位取得満期退学
〈職歴〉
ソビエト国営モスクワ放送アナウンサー兼翻訳者。放送通訳。
ロシア語同時通訳者として政府間会議、国際機関会議、宇宙開発、医学等の技術専門会議他多数の国際会議に従事。
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修