大塚 望 先生

日本語を研究すると、人間や社会、文化が見えてくる

外国人が日本語を学ぶ土台となる文法を研究

研究内容の基本情報を教えてください。
ゼミの授業風景
ゼミの授業風景
私の専門分野は日本語学で、外国人が日本語を学ぶための土台となる文法、特に日本語多機能動詞について研究しています。

例えば、行為を表す動詞に「する」と「やる」というよく似た言葉があります。「ゲームをする」は「ゲームをやる」と言い換えることができて、意味も変わりません。「意味が同じなのに、なぜ動詞が2つあるのですか?」と留学生に聞かれることがありますが、なかなか答えが難しい。

「する」と「やる」はよく似ていても、意味が重なる使い方と、独自の意味をもつ使い方があります。「頭痛がする」と言いますが「頭痛がやる」とは言いませんよね。「する」は動作を表す表現だけでなく、知覚、心理表現、生理現象を表すときにも使います。一方で「やる」には、「やるしかない」というような意味、俗っぽさやマイナスイメージをもつ表現があります。

日本人は説明されなくても、たくさんの日本語をインプットしていくうちに自然に使い分け方を身につけます。しかし、外国人はインプットに限界があり、論理的に説明してもらわないと分かりません。それを解説できるよう、言葉の違い、形容動詞と呼ばれる動詞の研究をするのが一番のテーマです。

国語と英語の両方が活かせる日本語教師になるのが夢

中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
小さな頃から読書が好きで、一番印象に残っているのは芥川龍之介。ほかにも夏目漱石や太宰治など、明治時代から昭和初期の文豪の作品もたくさん読んでいました。

国語と英語が得意で、どちらも好きなので、両方の科目を活かせる仕事はないかと考えて、高校3年生の終わりくらいから、将来は日本語教師になるのが夢でした。

留学先で日本語を教えて日本語教師の魅力を実感

大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
大学生時代にマカオ大学で日本語を教える経験をしたことが大きな財産になった
大学生時代にマカオ大学で日本語を教える経験をしたことが大きな財産になった
最初は英語で日本語を教えることを考えていたけれど、日本語だけで日本語を教える「直接法」があることを知り、この教授法ならどんな母国語の人にも日本を教えることができると思い、魅力を感じました。

創価大学にはインターンシップで日本語教師ができる派遣留学制度があり、4年次に1年間、マカオ大学で学生に日本語を教える経験をしました。日本語を話せなかった外国人が、私が日本語の授業をして頑張れば頑張るほど、どんどん成長していく姿を見て、なんて素晴らしい職業なのだろう、絶対に日本語教師になろうと決意。実際に教えることで日本語教師という仕事のやりがいが実感できて、私の人生の大きな財産になる1年間でしたね。同時に力不足も痛感して、もっと勉強しないといい先生にはなれないと思い、大学院へ進学しました。

言葉を知ることで人間を探究することができる

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
日頃、私たちが当たり前に使っている言葉が一体どうなっているのかを知るということは、私自身を知ることであり、私の目の前にいるあなたを知ることであり、私たちが集まる社会や集団を知ることにつながって非常におもしろいと思います。

人間は、自分の気持ちや考え方を伝える方法のひとつとして言葉を使っています。もちろん、表情や身ぶり手ぶりもあるけれど、言葉を研究すると、どうしてこの表現を使ったのか、言葉の裏でその人の考えや微妙な心の動きまでキャッチできる気がするのです。言葉を知ると、いろいろなものが見えてきて、それを深めていくことによって人間を探究できるおもしろさがあります。

言葉を研究することで社会や文化が見えてくる

ゼミの内容について教えてください。
ゼミで制作している『創価大学キャンパスことば辞典』は、創価大学のキャンパス内だけで通じる大学用語がまとめられ、学生の生活ぶり、言葉の変化がわかる
ゼミで制作している『創価大学キャンパスことば辞典』は、創価大学のキャンパス内だけで通じる大学用語がまとめられ、学生の生活ぶり、言葉の変化がわかる
ゼミの授業では、5~6人程度のグループワークで、現代日本語をテーマに、自分たちが興味のある研究をしています。

例えば、「推し」をテーマにして、アンケート調査を基に、「推し」という言葉の意味、用法、社会的背景などを研究すると、国語辞典に載っている「誰かに何かを勧める」という意味で「推し」という言葉を使っている大学生は100人中1人しかおらず、現代での使い方と大きく異なることがわかりました。

創価大学は地方出身者が多いため、上京後の方言の変化を調査したグループもいます。日本語の研究で、言葉を通して人間とか社会とか文化とか、さまざまなものが見えてくるのがおもしろいですよ。

多面的な人間をさまざまな角度から探究

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
ゼミの学生たちと
ゼミの学生たちと
文学部は人間とは何かを探究する学問です。人間の近いところからアプローチしていき、社会学、言語、サブカルチャーなど、多面的な人間をいろいろな角度から探究できるおもしろさがあります。幅広い分野があり、好きなものを好きなだけ学べることも魅力です。

自分の日本語が完璧だと思い込んでいませんか?普通に話すことができるから使いこなせていると考えがちな自分の日本語を見つめ直して、本当に日本語の使い手として高いレベルに達しているのかを研究することで、自分の日本語力を磨いてみませんか?
<経歴>
1996年3月 創価大学 文学部日本語日本文学科 卒業
2000年11月 筑波大学大学院 博士課程文芸・言語研究科言語学専攻単位取得退学
博士(言語学)
2000年12月~2005年3月 新潟大学 人文学部助手
2005年4月~ 創価大学 文学部講師
2009年4月~ 同 准教授
2015年4月~ 同 教授
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修