帆北 智子 先生

歴史に「もう一つの視点」を! 歴史を多面的に読み解くことで新しい歴史をみつけてほしい。

失われた国「ロレーヌ公国」とは?

研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門は近世のヨーロッパ地域史です。具体的には現在のフランス東部に存在したロレーヌ公国とその貴族について研究しています。

ロレーヌ公国は1760年代にフランスに統合されたため、現在は存在しない国です。みなさんが高校で習う歴史の授業で取り上げられることは、まずないでしょう。

当たり前のことですが、世界の歴史は大国だけで作られるものではありません。高校までの授業では歴史の流れを大枠で捉える必要があるため、アメリカや中国、イギリス、フランスといった大国の動向がどうしてもメインになってしまいます。
しかし、ロレーヌのような「境域」から「大国の歴史」を見直すことで、これまで見逃されてきた新しい文脈から歴史を読み解くことができるのではないでしょうか。私の授業では、歴史の多面的な読み解き方についてぜひ学んでいただきたいと考えています。

キャリアに悩む中で見つけた、研究者という道

中学、高校ではどのように過ごされましたか。
中学ではバスケット部、高校ではバドミントン部に所属し、運動に打ち込む毎日でした。いわゆる体育会系だったと思いますが、友達とのおしゃべりや買い物も大好きな、ごく普通の高校生だったと思います。あと、家ではよく本や辞書、辞典を読んでいました。もちろん、マンガや雑誌も!

当時は世界史の勉強が好きだったので、高校の歴史教員になろうと考えていました。しかし、いざ大学に入って教育実習に参加してみると……どうもしっくりこなかったんですよね。「高校の教師」として働く自分を想像できず今後のキャリアをどうすべきか悩んでいた際、大学の恩師らから折良く大学院への進学を勧められました。そのような経緯で大学院に進学し、研究職を目指すことにしました。

小国がフランス政府を動かした? 学生時代の素朴な疑問が研究のきっかけに

現在の研究内容について教えてください。
研究対象としているロレーヌ公国は1760年代にフランスに統合されますが、それより早い1750年代の一時期、ロレーヌ出身の貴族がフランス政府を主導していたことがあります。現代日本で例えれば、日本国籍を持たない外国人が総理大臣を担うようなものですかね。こういったことがなぜ、当時まだ「外国人」のロレーヌ貴族に可能だったのだろう?大学生の時に抱いたこの素朴な疑問が、私の研究の出発点です。

ロレーヌ公国は、ヨーロッパのいわゆる「小国」でした。それだけでなく、地理的には西にフランス王国、東には神聖ローマ帝国とヨーロッパの二大権力に挟まれてもいました。両者は、当時のヨーロッパ情勢を常に大きく左右した存在です。そのなかで、ロレーヌの貴族がただ慎ましく国内で生き残るためだけの戦略を考えていたとしたら、フランスのトップに立てるような貴族は出てこなかったでしょう。つまり、ロレーヌには独自の「強み」があったはずなのです。この「強み」はもしかしたら、これまでのヨーロッパ史を一部書き換えるくらいのものかもしれません。それほど、ロレーヌというところは当時のヨーロッパにおいて重要な地域の一つであっただろうと考えています。今後の研究でも、ロレーヌ地域の歴史的な特質に新しい観点から光をあてることで、ヨーロッパ史におけるロレーヌ公国の位置づけを刷新していきたいですね。

どんなテーマでも歴史と関連させて研究できる

ゼミの内容を教えてください。
ゼミでは、ヨーロッパもしくはアメリカの歴史(西洋史)を学びます。ゼミ生の興味もさまざまです。例えば、ドイツのナショナリズム論や古代ローマ帝国衰亡論、貴族史研究、人物研究といったオーソドックスともいえるテーマから、ジェンダーやファッション、芸術、最近だと疫病、ウクライナやロシアの歴史まで、かなり幅広く自由なテーマに取り組んでいます。歴史は全て人間の営みのことなので、どんなテーマでも歴史学として研究できるんです(ただし、史資料は必要)。あなたの興味・関心がある事柄も、歴史と関連させて追究してみれば、きっと新しい発見があるはずですよ。

歴史のイメージとしてよく耳にするのが「歴史の教科書に書いてあることは正しい」という固定観念です。学生に説明すると驚かれるのですが、歴史学は、実はとても論争が激しい学問だと思います。これまで語られてきた歴史って、思っているほど絶対的なものではないんです。大学の授業やゼミでは、これまでに学んだことをベースにしながら、少し視点を変えて歴史を眺めてみることの面白さに触れていただきたいです。

さまざまな学びの中から自分の軸をみつけて多様で複雑な時代を自分らしく生きてほしい

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。
創価大学文学部は幅広い学問分野を学ぶことができるので、さまざまな視野でものごとを捉え、考えるための素養を磨くことができると思います。語学にも力を入れているので、英語はもちろん、ロシア語、中国語などを並行して学びたい学生にとっては素晴らしい環境ではないでしょうか。

私の講義に関連して言えば、今のわたしたちが生きている世界や時事的な問題に関心のある方にぜひ受講してほしいですね。学びの中で、歴史が今と切り離された過去の出来事ではなく時空で繋がっていることを実感できれば、歴史をより身近に感じられるだけでなく、現在の世界のあり様やさまざまな問題についてもより深く理解できるようになるのではないでしょうか。
<経歴>
東北大学大学院国際文化研究科 修了
主な経歴:東北大学(研究員)、西南学院大学(非常勤)
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修