研究室紹介
伊藤 貴雄 先生
卒業論文はカントにサブカルチャー、 古代ギリシャから現代まで!?研究したいことから“自分”が見えてくる!
伊藤 貴雄 先生
卒業論文はカントにサブカルチャー、 古代ギリシャから現代まで!?研究したいことから“自分”が見えてくる!
幅広い選択肢の中から自分の関心を発見して研究するゼミ
ゼミの内容について教えてください。
この研究室には、古今東西の哲学・歴史・文学・芸術と様々な分野の本を揃えています。中には国会図書館にない本もあります。
この本棚のように、学生にも、カントからサブカルチャー、古代ギリシャから現代までといった幅広い選択肢の中から自分が一番関心のあることを探究してほしいと考えています。
実際に、ゼミの学生は様々なテーマで卒業論文を書いていて、カントやルソーなどの近代哲学、ニーチェやアーレントなどの現代哲学、さらにはゲーテやユゴーなどのヨーロッパ文学、夏目漱石や中島敦などの日本文学を選ぶ学生、映画やアニメ、ゲームなどの哲学的考察に挑戦する学生もいます。
ゼミの時間には、プラトン、デカルト、カント、ショーペンハウアー、ニーチェなど西洋の哲学者のほか、彼らの思想を受容した明治以降の日本人を取り上げることもあります。哲学者のテクストを全員で議論しながら読むことで、自分自身の関心を発見し研究する手がかりを提供するよう心がけています。議論の中からこれまで気づかなかった新たな視点が生まれてくるのがすごく楽しいですね。
専門を決めきれなかったから何にでも繋がる哲学の道に
先生ご自身は、どのように大学や専門を決められましたか?
大学進学にあたり、歴史か哲学か、それとも文学か、自分の専門を決められずにいました。
もともと歴史、特に西洋史が好きでしたし、高校時代からゲーテ、シラー、ヘッセなどのドイツ文学も好きでした。特にゲーテの人間精神の奥深いところを神話的・宗教的シンボルを用いて描く、ちょっと複雑なところが好きだったんです。難解でしたが、若い時こそ、そういうものに惹かれてしまうことがありますよね。
また、美術や音楽などの芸術にも関心があり、ゲーテやシラーはベートーヴェンやモーツァルトとも関わりがあるため、ドイツ文学に関する学部や専攻に進めば芸術的な興味も満たされるかとも思いました。
そのような思いの中で、歴史と哲学を並行して学ぶことができ、なおかつ、‘人間の歴史は思想の歴史でもある’という理念に心惹かれて、創価大学文学部人文学科(当時)への進学を希望しました。
そこからさらに専門をしぼる時には、関心の全てに関係するものがいいと欲張ったために時間がかかりましたが(笑)、哲学を専攻することになりました。哲学はどんなテーマも包括し、論じることができる学問なんですね。「すべての道は哲学に通ず」と言っても過言ではないと思います。
研究人生の大きな財産になった
研究の道に進まれた経緯を教えてください。
大学入学後、学生寮で部屋に何千冊も本を積み上げている先輩と出会い、いろいろな読書案内をしてもらいました。そうした出会いから、自分の読書経験や知的関心はまだ狭かったと思い知ると共に、研究テーマや進路が徐々に形成されていった気がします。このような出会いや経験があるのが大学生活の魅力ですよね。
また、卒業論文を書くときにゼミの指導教授に勧められたカントの『純粋理性批判』も、いま振り返ると、大学ならではの出会いであり、後の人生においてかけがえのないものでした。
自分には非常に難解な書物でしたが、カントの業績は哲学だけでなく、文学、芸術、ひいては政治や経済、法律まで、多分野にわたって影響を与えていることを学びました。ベートーヴェンもカントの愛読者であの「第九」の作曲にもカント哲学の影響があったこと、カントの考えが発端の一つとなって「国際連合」が出来たことなど、現代を生きる私たちも直接的・間接的にカント哲学の恩恵に与かっていることを知りました。
時が経って卒業論文を読み直すと、いまの研究の萌芽のようなものが刻印されていて、拙いながら若き日の自画像になっていることに驚きます。卒業論文で得たものがいかに大きかったかを日に日に実感しています。
大学ではディスカッション授業や八王子を舞台にした学びを展開
現在、大学においてどのような活動や研究をされているのですか。
担当授業では“グレート・ブックス”といわれる人類的名著をディスカッションしながら学ぶ「対話的リベラルアーツ」という試みを行っています。
毎時間、対象とするテクストを基に、そこに綴られた考えは本当に妥当かと挑んだり、哲学者たちのロジックで現在の時事問題を考察したりする問いを通して、教員も学生も正解を持たない思考の旅を楽しんでいます。
また、課外活動としては、これまで八王子の街の人々と交流する企画を学生と共に行ってきました。
生誕200周年を迎えたシュリーマンの八王子来訪の史実から街おこしを試み、市内の書店で「学生選書コーナー」を設置しました。市民と学生が世代を超えて語り合う「はちおうじ哲学カフェ『学び愛』」では、市内の美術館や管弦楽団とコラボした企画も行ってきました。
試行錯誤、回り道、寄り道が自分自身をつくっていく文学部の学び
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。
様々な哲学・思想に触れ、社会経験も含めていろいろと試行錯誤し、ときに回り道や寄り道をしながら、自分が本当に知りたいことを探究していくのが文学部の魅力だと思います。
実をいうと、私自身もまだ自分が本当にやりたいこと、やるべきことが何なのか、分かり切っていない気がします。しかし試行錯誤も回り道も、全部養分となり材料となって、より納得の行く自分自身が作られるのではないでしょうか。私は、自分の来し方を振り返ってそう思います。
きっかけは書物か友人か、はたまたそれ以外か……どんな偶然の出会いから自分の知的関心に火が付き人生が動き出すのかは、誰にも分かりません。学生の皆さんには、自分の関心や視点、可能性を最初から狭く限定しないでほしいですね。
若いときに、色々な立場の多様な意見が飛び交う空間に身を置くのは、人生の可能性を豊かに広げ、深めゆく上で非常に大事なことだと思っています。
身近な環境を活かして自分の世界を広げてほしい
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ここまで、私の経験を通しての‘大学での学び’や‘文学部での学び’の魅力を語ってみましたが、最後に、ここまで語ってきた‘学び’は、決して大学の建物の中や本の中だけでの学びではないことを伝えたいです。
例えば、創価大学のすぐ隣には東京富士美術館があったり、八王子駅に出ると駅近には8店も本屋さんがあったりと、大学内や机の前で出来ること以外にも様々な体験や経験が得られる‘環境’があります。また、東京都という場所は日本の中でも特に多くの文化的施設を擁する場所でもあります。
大学構内での人や本、学問との出会いと共に、自然的環境も文化的環境も地理的な利点もすべて“自分の世界を広げる刺激と経験である”と積極的に活用していっていただきたいですね。私の研究室の本も、ぜひ読みに来てください!
経歴
関西創価高等学校卒業
1996年 創価大学 文学部 人文学科卒業
2006年 創価大学大学院 文学研究科 人文学専攻修了。博士(人文学)
マインツ大学ショーペンハウアー研究所 客員研究員 などを経て現職
井上 大介 先生
「民」の中で育まれた文化を探求!文化人類学の観点から人間の営みについて学びを深めよう
井上 大介 先生
「民」の中で育まれた文化を探求!文化人類学の観点から人間の営みについて学びを深めよう
差別や抑圧の中で生まれたメキシコ〜ラテンアメリカの民衆文化を研究
研究内容の基本情報について教えてください。
私の専門分野は文化人類学です。その中でもメキシコをはじめとするラテンアメリカの宗教文化を中心に研究しています。民衆が差別の中でいかに主体性を維持し、独自の文化を形成していくのかを研究しています。
語学研修で訪れたメキシコで文化人類学に開眼
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
私の高校3年間を端的に表せば、サッカーと読書の毎日でした。特にドストエフスキーやヴィクトル・ユゴーなどの世界文学に傾倒しており、トルストイの「戦争と平和」を初めて読んだ際の衝撃は今でも忘れられません。
当時は社会科の先生になりたいと思っていたので、大学では社会学系の学部に進学しました。しかし、大学1年生の時に短期語学研修で訪れたメキシコでの経験が人生の転機になりました。メキシコをはじめとするラテンアメリカ諸国の暮らしや文化、そしてスペイン語の勉強に夢中になり、その後も大学4年生の時にアルゼンチンとグアテマラに留学しました。
最初にメキシコを訪れた目的は語学留学でしたが、次第に私の興味はラテンアメリカの宗教文化に移っていきました。それを出発点に文化人類学を研究するようになり、現在に至ります。
「制服ディズニー」も文化人類学? 外国の歴史から身近な生活までもが研究対象に
現在の研究内容について教えてください。
もう少し具体的に私の研究内容を紹介していきましょう。社会においては、支配する立場が「正統」だと定めたものが規範になります。そのため、支配される側、少数派の文化は正統性を与えられません。一方で被支配者はその影響を一旦は受け入れながらも、それを自分たちの生活に応じて流用することがあります。
例えばメキシコはスペインによって支配され、カトリックが布教されました。しかし、一見カトリックを受け入れつつ、根底ではマヤやアステカの宗教を連綿と継承しているケースがあります。このような支配者の宗教や文化、言語との共生を図る民衆文化の可能性を探ることが私の研究テーマです。
もう少し身近なレベルで言うと、日本の学校教育における学生服の文化にもこの理論を当てはめることができます。学生服とは本来、学校=支配者側が自分達の規範を押し付け、学生を統制する目的で導入されたものです。しかし、学生はそれをただ受け入れるのではなく、独自の「制服ファッション文化」として発展させていきました。実際、近年では学生服でディズニーランドなどのアミューズメント施設に行く行為が娯楽として消費されています。
このような状況によって今では、支配者側の想定とは異なり、教育と学生服という記号論的結びつきが弱まっています。この事例はまさに、支配される人たちの文化的な抵抗と捉えられるのではないでしょうか。このように、文化人類学とは遠い外国の文化を勉強するだけではなく、自分達の生活に関連させて考えることができる、非常に刺激的な学問と言えます。
「当たり前」を疑うことが発見の第一歩。ゼミで文化人類学の魅力を体験してほしい
ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは文化人類学を勉強したい学生を中心に、幅広いテーマをサポートできる体制で臨んでおります。私のゼミで行う恒例のカリキュラムが「東京研修」です。これは「東京はいかに記号的に表現され、それを消費させているのか?」というテーマで、観光地や博物館、神社などを巡る研修です。お馴染みの観光スポットを文化人類学的に観察することで、新鮮な発見を共有してもらうわけです。
夏には沖縄合宿を開催します。ここでは戦争の歴史がいかに観光資源化され消費されているのかをテーマに、フィールド調査を行います。他にも年度によっては沖縄の米軍基地問題など多様なテーマを扱います。
このようなフィルードワークに注力している理由は、文化人類学では質的調査が重視されるからです。質的調査とは一人ひとりと向き合ってインタビューしたり、観察したりする調査を指します。そのため私のゼミでも質的調査を重視し、卒業論文でも何らかの調査を前提としています。今はインターネットで簡単に情報が手に入る時代ですが、自分の足で「現場」を歩いて調査をする。それが私のゼミの伝統です。
一方で、ゼミ運営においては和気あいあいとした雰囲気を心がけています。近年はコロナ禍の関係で実施できていませんでしたが、年末に私の家で手料理を振る舞うことも恒例行事になっています(笑)。4年生と3年生の交流も多く、男女共に仲の良い雰囲気がゼミの特長だと思います。
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
私たちが当たり前だと思っている普段の暮らしも、長年の歴史や文化の積み重ねによって成り立っています。自分たちの生活について少し立ち止まって考えてみる経験は、あなたの生活をもっと豊かにしてくれるはずです。文化人類学は、そのような「当たり前を疑う」ことの第一歩になります。あなたも創価大学で、文化人類学の奥深い世界に触れてみませんか。
経歴
関西創価高校
1995年 創価大学 文学部 社会学科 卒業
2003年 メキシコ国立自治大学・大学院人類学研究科博士課程 修了(人類学博士)
岩川 幸治 先生
地域の人々とふれあい、豊かな地域社会をつくる方法を考えてみよう
岩川 幸治 先生
地域の人々とふれあい、豊かな地域社会をつくる方法を考えてみよう
地域福祉の研究で目指す「豊かに暮らせる地域社会」
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は「地域福祉」です。地域福祉とは、私たちが暮らしている地域の暮らしやすさ、あるいは暮らしにくさを分析することで、人々が豊かに暮らしていける環境とは何なのかを研究する学問です。「豊かな暮らし」とは、地域の人々がもっている力を活かしお互いに支え合いながら、自分らしく生活をすることであり、地域福祉の対象、推進する主体・方法、具体的な活動など、多角的な観点から研究しています。
少年犯罪の社会問題化が研究の原点に
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学生や高校生のころを振り返ると、「夢中になって取り組んだ」と胸を張って言えるようなことが、あまりありませんでした。今振り返れば、何か興味のあることを見つけていれば良かったなと思います。高校生の方には、自分が興味を持てる対象を何かひとつでも見つけてほしいですね。「自分は何に興味があるのだろうか?」と考えることから始めてみれば、進路選びのヒントにもなると思います。
私が衝撃を受けた事件に、「神戸連続児童殺傷事件」があります。犯人が中学生だったため、とても驚いたことを覚えています。それと同時に、なぜこのようなことが起こるのかを考えるようになりました。犯人の心理面だけではなく、犯人を取り巻く環境や社会の構造にも原因があるのではないか。一連の事件に関する報道を通じて社会学に興味を惹かれるようになり、社会学部への進学を決めました。その後、社会で起こっている問題を少しでも解決したいという思いから、社会福祉士の資格を取得し、福祉の現場で働きました。その経験から社会福祉を研究したいと考え、創価大学に赴任し現在に至ります。
地域社会での活動に触れることで生きる上でのヒントをもらえる
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
研究を通じて、地域で暮らしている方や活動されている方に出会えることが研究の魅力です。私の研究では安心して地域で暮らすことができるようにするために活動されている方に直接お話を伺ったり、活動の場を見学あるいは活動に参加させていただいたりします。そうすると「こうすれば生活が豊かになるんだ」と、たくさんのヒントを得ることができます。自分が生きる上での活力になるような経験や出会いに触れることができるので、私にとって研究活動はとてもかけがえのないものです。
大学生になって一人暮らしや寮生活を始めたり、アルバイトを経験したりする方も多いでしょう。大学生活では、地域社会と関わりをもてるチャンスがあります。学生の方は同年代の友人だけでなく、幅広い世代の方と関わってみることをおすすめします。様々な年齢や立場の方と接することで、多様な価値観に触れることができます。地域福祉を学ぶ第一歩として、学生の方は積極的に地域に飛びこんでほしいですね。
地域や様々な機関・団体と連携し、実践的な学びに挑戦
ゼミの内容について教えてください。
私のゼミでは地域福祉をテーマにしています。学生の研究テーマは、地域福祉に関係することであれば特に内容を限定せず、学生自身が興味・関心をもったことを学びます。与えられたテーマについて学ぶことも大切なのですが、学生が「やらされている」と感じてしまっては、つまらないですよね(笑)。学生が自分で考えて行動できるようになってほしいので、私の役割はあくまで学びの手助けをすることだと考えています。
具体的なゼミの活動を紹介すると、2021年度は地域の高齢者の方と学生とがオンライン上で交流できるイベントを実施しました。これはコロナ禍で人と人との交流が減ってしまったことを危惧した学生が企画したものです。ゼミだけで実施することは難しいので、地域包括支援センター様や社会福祉協議会様など、高齢者支援に関する活動をされている機関や団体にご相談し、協力していただきました。実施に際して、企画だけでなく打ち合わせや宣伝も学生が主導して行いました。他にも高齢者の方を対象にしたスマートフォン講座の開催やボランティアなど、地域の方のご要望や学生の研究テーマに合わせて柔軟に対応しています。
学びを深掘りすることも広げることも可能。柔軟な学びを実現できる環境で学んでほしい
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
創価大学は2つのメジャー(主専攻)を同時に修める「ダブルメジャー制」も導入しており、柔軟な学びをサポートする体制が整っています。1年生から一つの分野を極めることも、自分の方向性を見極めるために幅広い知識を学ぶことも可能です。私自身も大学で社会学を学んだ後に、社会福祉の道に進みました。将来のキャリアを長い目で考えた時に、多様な知見に触れる経験はとても重要です。創価大学文学部で、あなたの人生を豊かにする学問を見つけてください。
経歴
明治学院大学社会学部社会学科 卒業
慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻 修士課程修了
修士 慶應義塾大学
江口 満 先生
トルストイの哲学をはじめロシアのおもしろさをまるごと知ってほしい!
江口 満 先生
トルストイの哲学をはじめロシアのおもしろさをまるごと知ってほしい!
人間くさいロシアのおもしろいところだけを学ぶ
ゼミの内容について教えてください。
ロシアは隣国でありながら、日本でほとんど知られていないと思います。実際、学生に「ロシアって、どういうイメージがある?」と質問すると、「大きい」「冷たい」「寒い」といった答えが大半。そこで、私の研究室では「ロシアをまるごと知ろう」をテーマにしています。
ロシア人って、とても人間くさいところがあるんです。だからこそ、ロシア文学は人間くささが根底にあり、そういうおもしろさが魅力だと思います。私の専門分野であるトルストイの思想をはじめ、政治や文化など、ロシアのおもしろいところだけを学んで、ロシアを知ってほしいと考えています。
ロシア語って暗号みたい!みんなと違う語学がよかった
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
私は中学時代から英語と国語が得意でしたが、高校になると文法が難しくなり、得意とは言えなくなってしまったんですね(笑)。でも、外国語にすごく興味があったので、関西創価高校から創価大学 文学部に進学。
英語はみんなが学ぶので、ロシア語を学ぼうと考えました。当時はロシア語の専門学科がなかったので、英文学科に籍を置きながら、第二外国語のロシア語に力を入れていたんです。ウクライナ人の方に家庭教師をお願いして、独学でもけっこう勉強しましたね。
ロシア語との最初の出会いは、小学生のとき。チャイコフスキーの映画のエンドロールのロシア語を見て、「すごい、暗号みたい!」「この文字が読めるようになったらいいな」と何気なく思っていました。
ロシア民謡の悲しげなメロディーが好きだったり(笑)、中学生になって初めて買った文庫本がドストエフスキーの『貧しき人びと』だったり、高校の担任の先生からチェーホフの戯曲をいただいたり、いくつかの出会いがあったのと、「みんながやらない言葉がいいな」というあまのじゃくな性格もあって(笑)。
国際会議などの同時通訳者からロシアの大学院へ進学
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
大学4年次には交換留学生として旧ソ連へ留学。将来はロシア語の通訳者になりたいと考えていましたが、1年弱の留学だけでは通訳者レベルの語学力は磨けないと気づき、モスクワ放送の外国人アナウンサーとして就職しました。旧ソ連の情報を各国の言葉で発信していく仕事をして、約3年後に帰国。日本の社会についても知りたいと考え、日本の企業で3年間、ロシア語の技術通訳・翻訳として経験を積んだ後、フリーの通訳者となり、政府間会議や国際機関会議などの同時通訳の仕事を任されるようになりました。
その後、ロシアの歴史や文化、思想など、もっと深く勉強するため、ロシア科学アカデミー哲学研究所大学院で学び、さらに創価大学大学院へ進学したことがきっかけで、ロシア語の教員の道に進みました。
人生に思想を重ねて生きた哲学者としてのトルストイの魅力
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
トルストイは文豪として有名ですが、私の研究室では思想家、哲学者としての観点から研究しています。ロシアでは哲学者としては失敗だとか(笑)、あまり評価されていないんですけれど、その生きざまが魅力的。50歳で精神的な危機を経験し、その後から全く違う考え方をして生きるようになり、権力と真っ向からぶつかって、教会に破門され、最後は家出をしてしまった。日露戦争のときは戦争反対を唱えて、仏教者と連帯しようとしたのに断られたり。自分の人生そのものに思想を重ねて生きようとしている生きざまがとてもおもしろいんですよ。
哲学者としてのトルストイを学べるのは、私のゼミならでは。その他にも、語学というよりロシアおよび旧ソ連邦全体をとりあげているので、卒論で中央アジアのことを書いた学生もいるし、ウクライナについて学び、現在の国際情勢についてディスカッションするなど、テーマは様々です。
言いたいことを言っていて読んでスカッとする文学作品
トルストイは忖度をしないで言いたいことを言っているので、読んでいるとスカッとします。トルストイの文学作品にも、それが色濃く表れているので、おもしろいですよ。高校生におすすめするなら、まずは三大作品の中で一番短い『復活』。その次は『アンナ・カレーニナ』で、長編に自信がついてきたら『戦争と平和』を読んでみてください。『イワン・イリーチの死』も人間の心理を鋭く描いていますね。
文学部での学びは「いかに生きるか」がテーマ
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。 読者へのメッセージをお願いします。
文学部での学びは、人生に直接関わってくるものがほとんど。自分の人生と直結しているところが一番おもしろく、学びが自分の生き方に直接影響を与え、生きていくための糧を身につけることができると思います。まだやりたいことが決まっていない学生に対して、たくさんの選択肢を与えることができるのも文学部の特長。選択肢が多すぎて迷ってしまうかもしれませんけれど(笑)。
トルストイは「学問とはいかに生きていくかを教えてくれるもの」と唱えています。「いかに生きるか」をテーマに、大学で学びを深めていってほしいと思いますね。
経歴
関西創価高等学校卒業
1983年 創価大学 文学部 英文学科卒業
2001年 ロシア科学アカデミー哲学研究所大学院 倫理学科修了Ph.D
2005年 創価大学大学院 文学研究科 社会学専攻 博士後期課程単位取得満期退学
職歴
ソビエト国営モスクワ放送アナウンサー兼翻訳者。放送通訳。
ロシア語同時通訳者として政府間会議、国際機関会議、宇宙開発、医学等の技術専門会議他多数の国際会議に従事。
大崎 さつき 先生
英語が苦手だった学生時代。だからこそ英語を楽しく、効果的に教える方法を追究したい
大崎 さつき 先生
英語が苦手だった学生時代。だからこそ英語を楽しく、効果的に教える方法を追究したい
英語を教える人をどう育てるか?学生の学びを深める指導技術を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私は自律して成長し続ける英語教師の養成について研究しています。リメディアル教育(大学の授業を受けるために必要な基礎学力を補うための教育)の研究から始まり、その後、教職課程科目を担当し始めたことから「人を育てる」という経験にとてもやりがいを感じ、現在の研究テーマを選びました。
目標を見つけられなかった青春時代。一念発起し、イギリスで留学生活へ
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
学生時代はクラシックバレエやバトントワリングなど、音楽に合わせて体を動かすのが大好きな子どもでした。勉強面については、とにかく英語が苦手でした。高校生の時に獣医になりたいと思って猛勉強したのですが、どうしても理系科目が苦手で、最終的には文学部に進むことになりました。
獣医の道を諦めてから将来の目標が見つけられなくなり、正直なところ、大学生活は辛いことばかりでした。転機になったのは就職して3年ほど働いた時のことです。「このままではいけない。人生を切り開くためには何か行動しなければ」と一念発起し、6ヶ月の観光ビザで、スーツケース1個を持ってイギリスに留学しました。しかし、その時点でもまだ英語学習に苦しんでいました。今では英語を専門にしているので非常に驚かれるのですが(笑)。ですので、語学学校に入学し、英語を初歩から勉強し直したのです。
英語を勉強する中で新たに見つけた目標が「英語教授法」について学ぶことでした。これは英語の教え方を学ぶ学問分野です。私自身ずっと英語が苦手で、勉強のやり方もわかりませんでした。自分と同じような経験をしている人に、もっと楽しく英語を教えられるような技術を身につけたい、そんな想いで大学院入学のために英語を猛勉強し、その後、英国ブライトン大学の大学院で英語教授法について研究しました。
研究内容が教育者の養成に直結。責任と同時に、やりがいも大きい
授業の特色について教えてださい。
現在の日本の教員養成では実習期間が3週間と短く、教職課程でも模擬授業をする機会が少ないのが実情です。つまり、学校で学んだ知識と現場での実践を融合させる機会がとても短いんですね。そこをなんとかしたいと思い、私が受け持つ「英語科教育法」の授業では、とにかく実践を重視しています。模擬授業を振り返るときには、自ら考え、仲間と学び合う機会を多く取っています。そのような指針で指導しているので、あまり私から指示を出さず、学びを深めるサポートをするように心がけています。私がすべてを指示してしまっては学びになりません。卒業後に、学校現場に私がついていって指示を与えることはできませんから(笑)。
やりがいを感じる瞬間は、学生が成長する瞬間を見ることができた時ですね。みなさん本当に、初回の授業とは別人のように教え方が上手くなるんですよね。最終授業で自信を持って模擬授業をしている姿を見て、いつも感動してしまいます。私の研究の内容がそのまま学生の成長に直結するので、研究者として責任重大であると同時に、とてもやりがいのある仕事だと考えています。
理論と実践の両面で教え方を学ぶ
ゼミの内容を教えてください。
ゼミでは主に第二言語習得論の観点で学びを深めます。第二言語習得論とは「人はどうやって第二言語を学ぶのか?」という観点を理論的に研究するものです。模擬授業などの実践も大切ですが、それと同時に理論を体系的に学ぶことで、効率的な学習になるよう心がけています。
また、ゼミでは毎年、河口湖や山中湖の合宿所で合宿演習を行います。主な内容は文献学習⇒グループ・ディスカッション⇒グループ発表です。ゼミ合宿ではゼミ生同士の交流を深めることで、協調性やコミュニケーション能力を養うという狙いもあります。せっかく同じゼミに所属しているなら仲良く研究してほしいですから(笑)。大学生活では、勉強にも遊びにも全力で取り組んでもらえれば嬉しいですね。
今は目標が見つからなくても大丈夫。自分の興味・関心の対象を探してみよう
読者に向けてメッセージを
私自身が大学生のころは、目標も夢もありませんでした。今振り返れば、自分が興味を持てる分野を探すための努力をもう少しがんばっておけばよかったなと感じます。
そう考えると創価大学文学部は様々な分野の先生が所属しているので、研究室に訪問して先生方のお話を聞いて「これは私に合うかも」と思える分野を見つけることができるでしょう。何を学べば良いか迷っている方にとっては、興味のある分野を見つけやすい環境なのではないでしょうか。自分の好きな「何か」を見つけるには、とても適した環境だと思います。
経歴
家政学園高等学校(現 京都文教高等学校)
1993年 立命館大学 文学部文学科英米文学専攻
2001年 英国ブライトン大学大学院教育学部メディア英語教育学 修士
創価大学 准教授(2012.4~)
大塚 望 先生
日本語を研究すると、人間や社会、文化が見えてくる
大塚 望 先生
日本語を研究すると、人間や社会、文化が見えてくる
外国人が日本語を学ぶ土台となる文法を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は日本語学で、外国人が日本語を学ぶための土台となる文法、特に日本語多機能動詞について研究しています。
例えば、行為を表す動詞に「する」と「やる」というよく似た言葉があります。「ゲームをする」は「ゲームをやる」と言い換えることができて、意味も変わりません。「意味が同じなのに、なぜ動詞が2つあるのですか?」と留学生に聞かれることがありますが、なかなか答えが難しい。
「する」と「やる」はよく似ていても、意味が重なる使い方と、独自の意味をもつ使い方があります。「頭痛がする」と言いますが「頭痛がやる」とは言いませんよね。「する」は動作を表す表現だけでなく、知覚、心理表現、生理現象を表すときにも使います。一方で「やる」には、「やるしかない」というような意味、俗っぽさやマイナスイメージをもつ表現があります。
日本人は説明されなくても、たくさんの日本語をインプットしていくうちに自然に使い分け方を身につけます。しかし、外国人はインプットに限界があり、論理的に説明してもらわないと分かりません。それを解説できるよう、言葉の違い、形容動詞と呼ばれる動詞の研究をするのが一番のテーマです。
国語と英語の両方が活かせる日本語教師になるのが夢
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
小さな頃から読書が好きで、一番印象に残っているのは芥川龍之介。ほかにも夏目漱石や太宰治など、明治時代から昭和初期の文豪の作品もたくさん読んでいました。
国語と英語が得意で、どちらも好きなので、両方の科目を活かせる仕事はないかと考えて、高校3年生の終わりくらいから、将来は日本語教師になるのが夢でした。
留学先で日本語を教えて日本語教師の魅力を実感
大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
最初は英語で日本語を教えることを考えていたけれど、日本語だけで日本語を教える「直接法」があることを知り、この教授法ならどんな母国語の人にも日本を教えることができると思い、魅力を感じました。
創価大学にはインターンシップで日本語教師ができる派遣留学制度があり、4年次に1年間、マカオ大学で学生に日本語を教える経験をしました。日本語を話せなかった外国人が、私が日本語の授業をして頑張れば頑張るほど、どんどん成長していく姿を見て、なんて素晴らしい職業なのだろう、絶対に日本語教師になろうと決意。実際に教えることで日本語教師という仕事のやりがいが実感できて、私の人生の大きな財産になる1年間でしたね。同時に力不足も痛感して、もっと勉強しないといい先生にはなれないと思い、大学院へ進学しました。
言葉を知ることで人間を探究することができる
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
日頃、私たちが当たり前に使っている言葉が一体どうなっているのかを知るということは、私自身を知ることであり、私の目の前にいるあなたを知ることであり、私たちが集まる社会や集団を知ることにつながって非常におもしろいと思います。
人間は、自分の気持ちや考え方を伝える方法のひとつとして言葉を使っています。もちろん、表情や身ぶり手ぶりもあるけれど、言葉を研究すると、どうしてこの表現を使ったのか、言葉の裏でその人の考えや微妙な心の動きまでキャッチできる気がするのです。言葉を知ると、いろいろなものが見えてきて、それを深めていくことによって人間を探究できるおもしろさがあります。
言葉を研究することで社会や文化が見えてくる
ゼミの内容について教えてください。
ゼミの授業では、5~6人程度のグループワークで、現代日本語をテーマに、自分たちが興味のある研究をしています。
例えば、「推し」をテーマにして、アンケート調査を基に、「推し」という言葉の意味、用法、社会的背景などを研究すると、国語辞典に載っている「誰かに何かを勧める」という意味で「推し」という言葉を使っている大学生は100人中1人しかおらず、現代での使い方と大きく異なることがわかりました。
創価大学は地方出身者が多いため、上京後の方言の変化を調査したグループもいます。日本語の研究で、言葉を通して人間とか社会とか文化とか、さまざまなものが見えてくるのがおもしろいですよ。
多面的な人間をさまざまな角度から探究
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします
文学部は人間とは何かを探究する学問です。人間の近いところからアプローチしていき、社会学、言語、サブカルチャーなど、多面的な人間をいろいろな角度から探究できるおもしろさがあります。幅広い分野があり、好きなものを好きなだけ学べることも魅力です。
自分の日本語が完璧だと思い込んでいませんか?普通に話すことができるから使いこなせていると考えがちな自分の日本語を見つめ直して、本当に日本語の使い手として高いレベルに達しているのかを研究することで、自分の日本語力を磨いてみませんか?
経歴
1996年3月 創価大学 文学部日本語日本文学科 卒業
2000年11月 筑波大学大学院 博士課程文芸・言語研究科言語学専攻単位取得退学
博士(言語学)
2000年12月~2005年3月 新潟大学 人文学部助手
2005年4月~ 創価大学 文学部講師
2009年4月~ 同 准教授
2015年4月~ 同 教授
尾崎 秀夫 先生
人間主義の英語教育を実践するための学習モデルを研究する
尾崎 秀夫 先生
人間主義の英語教育を実践するための学習モデルを研究する
人間主義、人間教育をテーマに英語教育を研究して実践
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は「外国語教育」で、英語を母語としない学習者に対する英語教育について研究しています。ゼミでは「ヒューマニスティックアプローチ」、日本語で言うと「人間主義」の英語教育を実践するための学習モデルの構築がテーマです。創価大学の建学の精神の一つである「人間教育」を英語教育においてどう展開するか、そこを追究していることに魅力を感じています。
地域で外国人と英語で会話をしてコミュニケーションの楽しさを実感
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学時代は野球部に所属。数学や理科が好きで、どちらかというと理系科目が得意でしたが、一番好きな科目は英語だったので、親に買ってもらったアメリカの子ども向け百科事典のような英語教材でよく勉強していましたね。田舎だったけれど、地域で外国人を見かけた時に英語を使う機会があり、習った英語で全然言葉の違う人たちと意思を通わせられることに楽しみを感じました。
高校は地方の進学校だったため、地元の国立大学に進学して公務員や学校の先生になるのが一般的な進路でした。自分は語学が好きだから英語の先生になるのか、と考えていたものの、地元の国立大学を出て、そのまま地元の先生になるという決まりきった道は自分にはどうしても合わないと感じていました。当時、地方の一高校生にとって、東京の私立大学へ進学するのはすごく決心のいることでしたが、創価大学であれば自分の気持ちに応えてくれると感じ、上京しました。
大学での先生との出会いが研究の道を志すきっかけに
大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
創価大学 文学部 英文学科に入学して、アメリカ文学の先生と出会えたことが本当によかったと思います。その先生に感化され、一生に関わるような影響を受けなければ、大学院へ進学して研究の道に進むことはなかったかもしれません。先生の言葉で強く印象に残っているのが「このひとすじの道」。何か一つのことに打ち込んでモノにしていく、そんな心がけや信念を教えていただきました。先生のご指導がなければ、あちこち彷徨ってしまっていたと思います。
大学院生のとき、交換留学でアメリカへ9カ月間、留学したことは大きな転機になりました。アメリカの大学では、外国人に対する英語教育が一分野として非常に発展していることを目の当たりにして、これを深めていくことがすごく大事になるんじゃないかと気づいたことで、その後の自分の方向性がある程度見えましたね。
ヒューマニスティックアプローチの基本的な理論と実践を学ぶ
ゼミの内容について教えてください。
本学は「人間教育」を標榜していますが、その人間教育は、ホリスティック教育やその周辺領域と重なる部分が多いと思っています。それらを基にしながら人間教育を英語教育でどう展開するかについて研究しています。これを「ヒューマニスティックアプローチ」と呼んでいますが、今後ますます教育界で必要とされる取り組みになるだろうと考えています。
ゼミの授業では、まず3年次にヒューマニスティックアプローチの基本的な理論を学びます。月1回程度、イギリスと日本をオンラインでつなぎ、ケンブリッジ大学出身の共同研究者であるロイ・レイトン氏とライブでディスカッション。学生にとっては、第一線の研究者から直接話を聞くことができる、とても貴重な体験です。4年次になると、ヒューマニスティックアプローチの学習モデルについて、現実の教室を想定して、どんな実践方法があるのか、考えていきます。
ゼミ活動の一環として、八王子市内の外国人と飲食店をつなぐSDGsプロジェクトに取り組みました。座学だけでなく、地域に出ていろいろな人との関わりを通して学びを深めることも大事にしています。今後は、海外の大学の学生と一緒にSDGsに貢献できるプロジェクトをやっていきたいですね。
今まで自分でも気づかなかった新しい可能性を発見してほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。 読者へのメッセージをお願いします。
今の世の中を観察して、何が求められていて、何が問題で、その解決策としてこういうことがあるのではないか、と考えてみる。何らかの提案やプランを、学生が相互に関わり合いながら、無から有を生みだしていく。なおかつ、その生みだしたものを実社会に適応させ、応用する。
文学部で、この一連のプロセスをたどってほしいですね。一人ひとりの持ち味をお互いに引き出し、弱みを補い合いながら、想いを共有するなかで、一種の知恵のようなものが生まれてくる。それを体感していくのが、文学部の学びです。このプロセスの中では、どうしても自分を変容させなくてはいけないこともあるでしょう。他人の意見を受け入れ、自分を変えていくことで、何が生まれてくるかを実感してほしいと思います。
文学部は、歴史や哲学について考えたり、文学などを鑑賞したりする機会も多く、さらに語学も学べます。今まで自分でも気づかなかったような新しい自分の可能性を発見できると思うので、そういうことに興味がある人にきてほしいですね。そして、人間主義・英語教育について一緒に考えましょう。
経歴
1986年 創価大学 文学部 英文学科卒業
1993年 創価大学大学院 文学研究科 英文学専攻博士後期課程単位取得退学
2000年 オハイオ州立大学外国語教育専攻博士課程修了
熊田 岐子 先生
ファンタジー小説で英語力と文学読解力を深めてほしい
熊田 岐子 先生
ファンタジー小説で英語力と文学読解力を深めてほしい
英米文学を応用した英語の指導方法を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は英米文学と外国語教育で、主に、英米文学を英語授業に応用する指導方法について研究しています。認知言語学を基礎において、英語の授業で英語力と文学読解力を深めていく、ということをめざしています。英米文学を授業の教材として用いて、人間を学び、文化を学び、歴史を学んでいく。英語授業の質を上げるために言語学や文学を応用するなど、いろいろな方法論を研究しています。
私の専門分野は英米文学と外国語教育で、主に、英米文学を英語授業に応用する指導方法について研究しています。認知言語学を基礎において、英語の授業で英語力と文学読解力を深めていく、ということをめざしています。英米文学を授業の教材として用いて、人間を学び、文化を学び、歴史を学んでいく。英語授業の質を上げるために言語学や文学を応用するなど、いろいろな方法論を研究しています。
バトン部の部活動に夢中になった高校生活
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
得意な科目は英語でしたが、とにかく部活動に没頭する高校時代。バトン部に所属していて、野球部の応援に行ったり、創作したダンスを発表したり、和気あいあいとした部活動で、すごく楽しかった思い出ばかりです。
学校が大好きで、実をいうと高校生まではあまり本を読んでいませんでしたね。
自分の勉強不足を痛感して大学院へ進学
教員の道へ進まれたきっかけは、何でしたか。
親戚に英語教員が多かったため、私も将来は英語教員になろうと考えていました。しかし、高校卒業後、短期大学に入学して英語と英米文学を学び、一般企業に就職。2年弱、社会人として働きながら、独学で英語の勉強を続けていたけれど、仕事で英語を使う機会がなく、英語をもっと深めたい、英語の勉強が足りないと思っていました。何よりも、やっぱり英語教員になりたいという気持ちが強く、創価大学の3年次に編入しました。
創価大学では、文学部の先生方の授業が本当にすばらしく、いつも一番前の席に座って、先生の話を熱心に聴き、ノートをとる、すごく真面目な学生生活でした。文学部で学ぶことで、言葉というのは背景にある文化やそこにいる人間の姿を学べるということなのだと気づき、目が覚めた感じがしましたね。
もっと英米文学を深めて社会貢献できるようになりたいと考えると、2年間では学び足りず、創価大学大学院へ進学。博士課程満期退学後、岡山にある大学に講師として勤務しましたが、学生と接することで自分の勉強不足に気づくことができ、博士号を取得するため、広島大学大学院へ進みました。
『ハリー・ポッター』で英語力や文学批評力を身につける
ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは英米児童文学を研究しています。『ハリー・ポッター』を題材として、原文を読みながら英語力の向上や文学の批評力を身につけることをめざしています。『ハリー・ポッター』を掘り下げていくと、影響された文学作品を知ることもできて、とても幅広い内容になっていますよ。グループワークで、私が提示した研究テーマについて調べたり、プレゼンテーションをしたり、ディスカッションをしながら、研究方法を学んでいきます。
英語教育や文学教育に貢献することができる
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
自分が生きている現代とは違う時代の文学作品を研究すると、「この時代の人はこういうふうに考えていたのだな」「こういうところは同じだな」と感じたり、「その登場人物のような人生を歩めたらいいな」と思ったり、たくさんの刺激を受けることができます。
その研究の成果で、英語教育や文学教育に貢献することができるのが魅力です。学会で発表して自分の研究が認められると達成感があり、少しでも社会貢献ができたと感じられます。
ゼミでは鋭い質問を投げかけてくる学生もいて、一生懸命に授業に取り組んでくれる姿を見ると、教員になってよかったと思うし、私ももっと勉強しなくては、と研究意欲が湧いてきます。
文学部で教養を深めて、国際社会へと旅立ってほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部では、社会学や哲学をはじめ、さまざまな研究テーマを学ぶことができます。自分の興味ある分野だけでなく、同時に他の分野も学ぶことができるのがおもしろいですね。他の分野もしっかりみたうえで、自分が本当に好きなことを突きつめていくことができますよ。
文学部で教養を深めて、ぜひ国際社会へと旅立っていってほしいと思います。希望を常にもって、自分の将来を切り拓いていってください。
『ナルニア国物語』や『ハリー・ポッター』などは、ファンタジーの世界だけれど、言語としては身近なものになっています。小さい頃に読んだ作品を原文で読んで、英語のおもしろさを知ってほしいですね。
経歴
創価大学 文学部 英文学科 卒業
創価大学大学院 文学研究科 博士後期課程単位取得後満期退学
広島大学大学院 教育学研究科 博士後期課程 修了 博士(教育学)
倉橋 耕平 先生
メディアとともにある社会と人々のあり方をメディア文化論の観点から読み解いてみよう
倉橋 耕平 先生
メディアとともにある社会と人々のあり方をメディア文化論の観点から読み解いてみよう
メディア文化論を中心に、政治、ジェンダーなど幅広い分野を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私はメディア文化論を専門にしています。メディア文化論とは、メディアを取り巻く文化的な現象を考察し、メディア自体について理解を深める学問です。ナショナリズムやジェンダーなど幅広い分野を研究していますが、特に注力している分野が「日本の右派とメディア文化の関係性」です。いわゆる保守派と呼ばれる方たちが、メディア文化を使っていかに自分たちの主張を大衆に広げていったのか。そのメカニズムを研究しています。
大きな衝撃を受けたインターネットとの出会い
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学、高校と部活動をドロップアウトしてしまうくらい、学校に馴染めない生徒でしたね。勉強自体も苦手なタイプだったので、あまり学校生活に良い思い出がないかもしれません(笑)。ただ、当時から政治の仕組みには興味がありました。文系科目が好きだったので、大学受験も政治や哲学、社会学を学べる文学部系を志望しました。
高校時代で印象に残っている出来事が、インターネットとの出会いです。当時は個人用のパソコンが普及し始めたタイミングで、メディア環境が劇的に変化していた時代でした。10代〜20代前半の多感な時期にそのような変化を経験したことが、私のキャリアにも影響を与えたと思います。
メディアが持つ「ノリ」を見極める?メディア文化論を学ぶ魅力とは
メディア文化論について、もう少し高校生の方に身近な内容と関連させて説明していきましょう。例えば、みなさんは「メディアリテラシー」という言葉を聞いたことがありますか。「メディアに書かれていることを見比べて、違いを理解しよう」といった説明がされると思うのですが、メディアリテラシーを考える上ではその内容だけではなく、メディアごとの特性や文化を考慮する必要があります。砕けた言い方をすれば、メディアが持つ「ノリ」のようなものです。
例えば、同じSNSでも画像が主体のInstagramと、テキストが主体のTwitterでは、使い方や投稿される内容が大きく異なりますよね。このように、メディアが持つ文化を読解することも「メディアリテラシー」のひとつです。メディア文化論は高校生のみなさんが日常的に親しんでいるメディアの一つひとつが分析対象になり、それを取り巻く現象について深く学ぶことができる学問です。
なぜ「タイパ」が重要視されるのか。メディアとともに人々の知のあり方がどう変わるのかを追究したい
研究の目標はありますか。
私が現在取り組んでいる研究は政治とメディアの関係性が中心ですが、将来的にはもう少し広い範囲で捉えていきたいと考えています。その一つが「いかにメディアの作り出す人々の知のあり方が変化し、社会規範が形成されるのか?」という論点です。
例えば、最近はメディア文化を巡るトピックとしてタイムパフォーマンス、いわゆる「タイパ」が話題です。動画を早送りで視聴する「倍速視聴」などがその筆頭とされていますね。私が学生と話していても、もはや倍速視聴は当たり前の行為として認識されています。世間では倍速視聴に否定的な論調が目立ちますが、まずはそのような行為が定着していることを認めて、なぜその現象が発生しているのかを考えることがメディア文化研究の視点では重要です。
テクノロジーによって人々の考え方や行動、そして価値観は驚くほど変化します。そういったことを継続して研究することで、自分たちなりのメディア文化論をまとめていきたいと考えています。
学生自ら企画し、考えるゼミ。興味のある分野からメディア論を考えてみよう
ゼミの内容を教えてください。
ゼミではメディア研究を軸に、学生が興味のある分野を取り上げます。具体例を挙げると、ある学生は筋トレに熱中していて、筋トレブームとメディアの関係性を研究しました。また、私がジェンダー論の講義を担当していることもあり、ジェンダー関連の研究を行う学生も多いですね。現代のメディア文化を研究する上で、ジェンダー論は欠かすことができない視点です。
ゼミの特長はありますか。
私のゼミでは学生の自主性を尊重しています。例えば、2月に卒業論文のキックオフのためのゼミ合宿を行いましたが、合宿所の選定や合宿のスケジューリングなどを学生自身が行いました。もちろん全て学生まかせではなく、最終的には私のチェックが入りますよ。時には自由時間だらけのスケジュールを提案されることもあるので(笑)、その代わり学生から研究のアドバイスを求められた際は徹底的にサポートしています。
学ぶ分野も、学び方も十人十色。学びの多様性こそが文学部の魅力
文学部での学びはどのようなところがおもしろいと思われますか。
創価大学文学部は文学や語学だけでなく、歴史学や社会学、人類学など様々な分野の先生方が所属しています。幅広い分野の専門家が所属しているメリットが、一つのテーマに対して異なるアプローチから研究できる点です。例えば、ジェンダー論に興味のある学生の場合、私のゼミではメディアとジェンダーの関係性を学ぶことができ、歴史学のゼミでは歴史とジェンダー論を関連させた研究が可能です。興味のある分野を見つけるだけでなく、それを探究するアプローチも含めた様々な選択肢が用意されている。そんな「学びの多様性」に優れた環境こそが、創価大学文学部の魅力なのではないでしょうか。
経歴
2000年 愛知県立 豊丘高等学校 卒業
2004年 近畿大学文芸学部文化学科 卒業
2006年 近畿大学大学院文芸学研究科 国際文化専攻修士課程 修了
2011年 関西大学大学院社会学研究科 マス・コミュニケーション学専攻博士後期課程 修了
小林 和夫 先生
現代社会にもつながっている歴史上のできごとを社会学という観点から解明
小林 和夫 先生
現代社会にもつながっている歴史上のできごとを社会学という観点から解明
歴史社会学をメインに幅広い社会学について研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は「インドネシア地域研究」で、日本占領期のジャワをテーマに研究しています。オランダやインドネシアの古文書館や資料館で、とても珍しい資料を見つけたときは興奮しますし、これまで誰も言っていないことや知られていなかったことを掘り起こすことができた瞬間は、とてもやりがいを感じます。
ただ、ぼくの研究領域はニッチなので、現在は「歴史社会学」をメインに、ゼミでは社会学に関わる幅広い学びを行っています。
「人間と社会の関係を解き明かす」社会学部のコピーに魅せられた
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学時代は本ばかり読んで、友だちとあまり交わらない、目立たない生徒でした。三島由紀夫や太宰治、芥川龍之介を読破していたので、友だちと話が合うわけがないですよね(笑)。高校では、さらにジャズも好きになり、マイルス・デイヴィスの自伝を読んで生き方に感化され、ずっとレコードを聴いていました。
高校1年生のとき、大学受験雑誌の社会学部の紹介記事で「人間と社会の関係を解き明かす」といったキャッチーなコピーに一瞬で魅せられ、大学で社会学を勉強したいと志すようになりました。
インドネシア留学の経験から社会人を経て大学院へ
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか
大学時代は、ジェンダー論、当時はフェミニズムと言っていましたが、それに関する論文をよく読みました。男性だからこう、女性だからこう、とあるべき姿を信じ込まされていたことが実は虚構だったという理論に大きな衝撃を受け、卒業論文もフェミニズムをテーマに選んだんです。
大学4年次にインドネシア大学へ留学をしました。大学卒業後、制御・計測機器メーカーに就職し、5年間、会社員として勤務をしました。インドネシアのセクションに配属されたため、留学時に勉強したインドネシア語が役立ちましたね。
ただ、仕事をしているなかで、いろいろ考えたことがあり、もう一度、研究の道を志そうと、東京都立大学大学院へ進学しました。
社会学の概念を用いて歴史上で起こったことを解明
授業の内容について教えてください。
「歴史社会学」の授業では、単に歴史の事実だけを追うのではなく、社会学の概念を用いて歴史を解明しています。歴史上で起きたできごとがどういうことだったのか、社会学という観点から解釈するのが「歴史社会学」の領域です。そのときそうだったよね、で終わるのではなく、現代にも連続していて、今、ぼくたちが考えている枠組みが過去の歴史においても当てはまる、ということがよくあります。それを解明していくのが「歴史社会学」のおもしろさです。
大学の授業は、一般的にはつまらないですよね(笑)。だから、ちょっとでも聴いてみようかと思ってもらえるよう、オンライン授業の「社会学概論」や「歴史の社会学」では、授業前の15分間、J-POPやROCKなど学生からのリクエスト曲を流しています。授業の冒頭でその曲にまつわる学生のエピソードを紹介してから講義がスタートします。エピソードは、キラキラした話や成功体験ではなく、あえてつらかった(つらい)体験を送ってもらっています。こういう学生がいるのだと知ると、恵まれた環境の学生は身を律しますし、同じような体験や気持ちをもっている学生は共感し心が少し軽くなったとの声もあり、おかげでとても好評です。チャットを常時開放していて、創価大学で一番チャットが自由に飛び交う授業だと思います。
身近なことを題材にして自由に意見が飛び交うゼミ
ゼミの内容について教えてください。
私の授業のシラバスには、The Blue Heartsの歌詞を載せていますが、ぼくはThe Blue Heartsを社会学だと考えています。現在のゼミでは、就職活動やキャリア教育をテーマに、悩みや心配ごとを計量的に分析して論文にまとめる学生が多いです。社会学は身近なことが題材になるため、ゼミでも自由に発言してもらっていて、とても活発に意見が飛び交っていますよ。
今後は、自分の専門分野である「アジア・太平洋戦争の社会学的研究」のゼミも開講予定です。今の日本人や日本社会のモノの考え方や価値観は、アジア・太平洋戦争のときの東南アジアの戦場にも現れていて、過去を知り、今のことをさらにふり返る、という学びができると思います。戦争は重いイメージがあるので、音楽や芸術など様々な領域から研究していきたいですね。
何でもあり、の文学部で自分の領域を見つけてほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部は、こんな生き方があるんだ、こんな考え方があるんだ、ということを知ることができる学部です。ある意味、何でもありです。文学部では入学時に専攻を決定せず、1年半じっくり時間をかけて、自分に合う領域、学問を見つけるシステムなので、やりたいことが決まっていなくても問題ありません。自分が何を学べばよいかわからない学生や、自分の大学生活をイメージできない学生にこそ、文学部に来てほしいと考えています。
自分はもっとこういうふうにやってみたいとか、悩むことはあるかもしれませんが、「生きているだけで幸せ」です。朝起きて、ご飯を食べて、学校へ行き、夜は家に帰って眠れる、っていうだけでいいじゃないか、と思っています。まずは焦らず、今日の日を迎えられたことが何よりも素晴らしいと考えて、一日一日を大事にしてください。
経歴
東京都立明正高等学校卒業
1991年 創価大学 文学部 社会学科卒業
2004年 東京都立大学大学院 都市科学研究科博士課程単位取得退学
斉藤 信浩 先生
言語データを解析して日本語や韓国語の習得のメカニズムを知る
斉藤 信浩 先生
言語データを解析して日本語や韓国語の習得のメカニズムを知る
日本語や韓国語の習得をデータ分析することで解明
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は、日本語と韓国語の第二言語習得と、日本語教育です。第二言語としての日本語や韓国語の習得について、統計や実験などのデータを分析することで解明しています。
赤ちゃんが言葉を覚えていくのが第一言語習得。外国語としての言葉をどういうふうに習得していくのか、というのが第二言語習得になります。例えば、外国人に日本語を教えたとき、教えた通りに覚えてもらえないことがあります。間違って覚えたり、教えたことが変なふうに解釈されていたり、そういうことがなぜ起こるのか、いろいろな原因を突きつめていく、それが第二言語習得の研究の基本です。
この言語が母国語の人はなぜこんな発音になってしまうのか、この言語の人はなぜ常にこの部分で間違った日本語を使うのか、そこにはさまざまな要因があります。母国語に起因していたり、心理的な要因があったり、日本語自体の難しさが問題だったり、教えた通りにならない学習者の内側のメカニズムを調べるのが第二言語習得の研究です。言語のデータを集めて、データ分析をして、統計的に解析していく手法で研究を進めています。
偶然見つけた本がきっかけで韓国語を独学で勉強
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
高校では文系科目が得意でした。あるとき、ふと英語以外の外国語を勉強したいと思って本屋へ行ったら、偶然、韓国語の本を見つけて、それを手に取ったのが韓国語との出合いになりましたね。当時は、近所に韓国語を学べるような語学学校がなかったので、テキストを使って、独学で勉強しました。
留学先で日本語を学びたい外国人が多いことを知った
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
高校時代、2年間くらい韓国語の勉強をしていたので、大学でも語学を学ぶことを考えました。しかし、当時はあまり韓国語のコースがさかんではなかったので、文学部へ進学。大学入学後も、独学で韓国語の勉強を続けたところ、大学1年次の韓国語のスピーチ大会で優勝!その勢いで、2年次のあとの約1年間、韓国に留学しました。そのときは交換留学制度がなかったので、アルバイトして貯めたお金を使った私費留学でした。
留学先で日本語を勉強したい外国人がたくさんいることを知り、日本語教師になろうと決心。創価大学卒業後、名古屋大学大学院へ進学して、日本語教育を研究しました。
日本語教師と韓国語教師の両方を目指せる
ゼミの内容について教えてください。
日本語や韓国語で、第二言語習得について研究するゼミで、日本語教師と韓国語教師の両方を目指すことができます。
3年次の前期は日本語教育を中心に学び、日本語の模擬授業を実演してもらいます。後期は、パソコンで音声分析や文章分析のソフトを動かしながら、実験ツールの活用方法を学んでいきます。もちろん第二言語習得の論文を読んでディスカッションする授業もありますが、言語のデータを分析して、第二言語習得のメカニズムを統計的に解析していく研究は、文学部のゼミのなかで最も理系に近い内容かもしれません。
データを分析すると新しい発見があって楽しい
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
第二言語習得の研究では、学習者にいろいろなテストをしてデータを集めて分析します。ある程度の目算を立ててからデータを集めるのですが、期待通りの結果がでると嬉しくなります。自分の予測と違った結果がでたとしても、それはそれで何か別のことがいえるので、いろいろなことがわかって、新しい発見があり、おもしろいですね。
日本語教師は、教室に座っているだけで、普通に生活をしていたら出会えないような馴染みのない国の人たちが日本語を習いに来て、いろいろな話を聞くことができます。○○人は真面目、○○人は遅刻する、ではなく、それぞれ個人の問題だと気づくようになり、「○○人だから~」という偏見がなくなりますよ。
研究力のある日本語教師になってほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部の学びは実学ではないため、直接どういうふうに社会に役立つのか、簡単に言えないところがあります。しかし、技術的な知識は数年でアップデートされて変わってしまうことがありますが、文学部で身につける教養やものの考え方は一生涯の知識になると思います。
日本語教師を目指す人は、しっかりと言語を分析したり、考えたりできるような基礎的な研究力を獲得して、問題が発生したときに根本的な原因を突きつめられる対応力のある教師になってほしいと思います。
経歴
創価大学 文学部 卒業
名古屋大学大学院 国際言語文化研究科 博士課程満期退学(文学博士)
韓国昌原大学講師(3年)、名古屋学院大学留学生別科特別講師(4年)、九州大学留学生センター准教授(12年)を経て、現職。
寒河江 光徳 先生
文学の表現技法を研究。古今東西の作品に触れ、芸術性を感じ取る
寒河江 光徳 先生
文学の表現技法を研究。古今東西の作品に触れ、芸術性を感じ取る
ナボコフを中心に文学の表現技法を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
ロシア文学を中心にした文学研究に取り組んでいます。文学研究といっても作品のストーリーやテーマではなく、どのような文学的、言語的技法が用いられているのかを研究しています。端的に言えば「思想よりも技法」と表現できるでしょう。特に力を入れて取り組んでいるのが、ウラジーミル・ナボコフの作品研究です。
高校時代、柔道と英語漬けの毎日
高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
あまりにもネクラな高校時代。あまり思い出したくない過去です(笑)。
意外だとよく言われますが、柔道部に所属しておりました。辛いしごきに耐えながら、毎日生き延びるのがしんどくて、朝が来ないようにと眠れぬ夜を過ごしました。あまりにも辛すぎて、いい思い出はありません。
部活のあと、体はクタクタでしたが、読書や英語の学習は欠かしませんでした。英語はイングリッシュ・アドベンチャーやFEN、そして、文化放送の『百万人の英語』をほぼ毎日欠かさず聴いておりました。夜中の1時半から2時までほぼ毎日です。原書で小説を読むことも高校時代に経験しました。ジャック・ロンドンやヘミングウェイの小説を読んでおりました。
もう一つの思い出は、ロシア人との交友です。創価大学に留学していたモスクワ大学の学生が親戚の家にホームステイすることになり、4人のロシア人と交流しました。当時はソ連時代でしたので、ロシア人と関われるのは稀なことでした。今思えばロシア語を学ぶきっかけも高校時代にあったと思います。
モスクワ大学への留学が人生の転機に
研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学では法学部に進学しました。当時の私は「もっと英語以外の分野を勉強した方が良いのでは」と考えていたからです。ただ、本当に好きな分野は語学や文学でした。自分の気持ちをあえて無視して進路を選んでしまったんですね。
どこかモヤモヤした気持ちを抱えながら大学生活を過ごす中、モスクワ大学に1年間留学することが決まりました。そこで出会ったのが、多言語を勉強する学生の姿でした。特にヨーロッパの学生は多言語を学ぶ意欲が強く、ロマンス諸語やスラヴ諸語、そして、ラテン・ギリシャ語や古代教会スラブ語など。現在では使われていない言語を学ぶのが当然という学習環境の違いに驚きました。「言語や文学について学びたい」という気持ちが強かった当時の私にとって、衝撃的でもありました。かねてから興味を持っていた言語や文学、特にロシア語について学ぶ決心がつき、帰国後に別の大学で新たなスタートを切ることになります。
「領域を横断した作家」ウラジーミル・ナボコフの魅力
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
ウラジーミル・ナボコフはロシア出身の作家でありながら1919年にヨーロッパに渡り、主にアメリカを舞台に活動しました。それでいながら作品の執筆には英語、ロシア語、フランス語などを使い分けていました。つまり、彼を研究する上ではロシア文学やアメリカ文学といった、国民文学の枠組みが揺らいでしまうんです。さらに言えばナボコフは自然科学者でもあるため、人文科学と自然科学を横断した研究も可能です。このように、ナボコフという一人の文学者を通して、様々な領域を横断できる点が最大の魅力だと思います。
プロ作家からお笑い芸人まで。幅広い分野でゼミ生が活躍
ゼミの内容を教えてください。
ゼミでは文芸批評理論を扱っています。文芸批評理論とは、文学や映画などを対象に、作品の内容や読み方について研究する分野です。
研究対象は文学、ポップミュージック、アニメなど多岐にわたりますが、条件として何らかの比較研究を行ってもらいます。例えば日本文学を対象にする場合は外国文学などと比較することで、新しい視点から作品を読み解いていきます。これは私が取り組んでいるナボコフ研究のアプローチを学生にも体験してもらうことで、比較研究の面白さを感じてほしいという趣旨で実施しているものです。
ゼミの卒業生の進路は臨床心理士、言語聴覚士、弁護士、テレビ業界、お笑い芸人など多岐にわたります。また私の専門である文学方面では、大手の出版社で文学賞を受賞したプロ作家を2名輩出しています。文芸評論に興味のある方は、ぜひゼミに参加してください。
ゼミでは文芸批評理論を扱っています。文芸批評理論とは、文学や映画などを対象に、作品の内容や読み方について研究する分野です。
研究対象は文学、ポップミュージック、アニメなど多岐にわたりますが、条件として何らかの比較研究を行ってもらいます。例えば日本文学を対象にする場合は外国文学などと比較することで、新しい視点から作品を読み解いていきます。これは私が取り組んでいるナボコフ研究のアプローチを学生にも体験してもらうことで、比較研究の面白さを感じてほしいという趣旨で実施しているものです。
ゼミの卒業生の進路は臨床心理士、言語聴覚士、弁護士、テレビ業界、お笑い芸人など多岐にわたります。また私の専門である文学方面では、大手の出版社で文学賞を受賞したプロ作家を2名輩出しています。文芸評論に興味のある方は、ぜひゼミに参加してください。
言葉を、文化を読み解く力が豊かな人生のヒントになる
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
文芸作品を読むことで身につく力のひとつが、物事を多面的に読み解く力です。言葉通りに物事を捉えずに、裏側に込められた意味を読み取る力ですね。物事を読み解く力があれば、おのずと物事を発信する力、すなわちコミュニケーション能力も磨かれます。文学研究を通して多様な言語、多様な文化的背景、そして多様な人生に触れる。そうやって世界を読み解く力を身につけ、人生を豊かなものにしていただければ嬉しいです。
経歴
1996年 東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学科 卒業
2005年 東京大学人文社会系大学院欧米系文化研究専攻スラヴ語スラヴ文学専門分野 修了
東京理科大学(非常勤)、創価大学(非常勤)を経て現職
髙橋 正 先生
英米と日本の文化や発想などの違いを知ると英語がおもしろくなる!
髙橋 正 先生
英米と日本の文化や発想などの違いを知ると英語がおもしろくなる!
英文法の研究から、英語と日本語、英米と日本の文化を比較する
研究内容の基本情報を教えてください。
中心的なテーマは英語学です。歴史的・認知的観点から英文法を研究しています。さらに、英語と日本語の比較、そこから英米文化と日本文化の比較へと研究を広げており、これがゼミのテーマでもあります。日本語の小説を英語に翻訳されたものと比べたり、日本語のコミュニケーションの仕方が英語とどう違うのかを調べたり。また、文化の面では、「幸福観」についての日本人と英米人との捉え方の違いや、世界的な観点から見て日本文化はどのように位置づけられるのかなど、いろいろなことに取り組んでいます。
英語が苦手だった中学2年生の夏、先生の話から理解できるように
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
実をいうと中学校1~2年のときは英語が苦手だったんですよ。ところが、中学2年生の夏休み、しつこく先生に質問して、いろいろと話を聞いているうちに、ふと「そういうことか」と理解できるようになり、中学3年生になる頃には英語が得意に。高校では英語しかできなかったといいますか(笑)。高校1年生のときに大学で英語を学びたいと考えるようになりました。
大学受験では、参考書をまず1冊勉強して、一通り終わったら、次の参考書に取り組む。くり返しやるのは嫌いだったので(笑)、次から次へと新しい参考書を買っていました。英語の勉強はとにかく量をこなし、やればやるほど成績が伸びたので、そこがおもしろかったのかもしれません。
世界中に広がった英語の表現の由来に興味をもった
大学ではどのようなことを学ばれましたか。
大学では、所属していた英語研究会の活動で横田基地のアメリカ人と交流できるのがおもしろかったですね。当時はネイティブスピーカーと会話できる機会が少なく、貴重な経験でした。
英語学のゼミを専攻し、卒業論文のテーマは、「英語に入ってきた外国語のイディオム」。世界中で使われている英語は、その広がった先の国の文化や言葉を英語に取り入れています。例えば「メンツを保つ」を意味する英語に“save face”があります。「メンツ」は中国語の「面子」からきています。「面子」は「顔」という意味なので、それを英語にして“save face”。この英語表現は中国語から英語に取り入れられました。このような事例が英語の中にたくさんあり、興味深く研究しました。
丸暗記ではない英語学習のおもしろさを伝えたい
教員の道へ進まれたきっかけは、何でしたか。
私自身が英語学の勉強でいろいろなおもしろいことを発見できたので、英語が苦手な学生たちにも、英語はこんなにおもしろいんだ、ということをわかりやすく伝えたいと思っています。
英語の勉強は、単語や文法を丸暗記してしまいがち。でも、なぜこんな言い方になるのか、理由がわかればスムーズに覚えられます。例えば「英語で話す」は“speak in English”と前置詞の“in”を使います。英語では言葉を容器に例えて「(自分の考えを)英語の中に入れて話す」と言っているんです。ところが日本人は言葉を道具や手段としてみていますから、“by”や“with”を間違って使ってしまう。なぜその言い方になるのか、英語でのモノの見方、認知のしかた、発想などの違いを伝えることで、丸暗記ではない英語学習のおもしろさを教えたいですね。
英語を話す人の発想や例えが表現の違いにつながっている
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
言葉には人間の一般的な認知能力が反映されているはずだという仮説の下で発展してきたのが「認知言語学」です。認知言語学の観点から研究すると英語の様々な用法が見えてきます。言葉を何かに例えるのもその一つ。さきほどの“in”は容器の例えですが、英語では奥さんや恋人を“honey”と言いますよね。奥さんがハチミツなわけはないけど(笑)。その他、愛する人を甘い食べ物に例えて“sugar”とか“sweetie pie”と呼びかけることも。
逆に日本語では人間の成長を鳥の成長に例えています。「医者の卵」から始まり、「まだまだひよっこ」。そして卒業するときは「巣立つ」と言いますよね。でも英語で“egg”は使いませんし、「ひよっこ」だからと“chicken”と英訳すると「弱虫」という意味になって怒られちゃいますよ(笑)。
英語学を研究し、日本語と比べることで、英語を話す人の発想や例えの違いがわかってくる。そうすると英語の学習がもっとおもしろくなってくると思うんですよね。
校外学習で日本の文化や日本にある外国文化も調べる
ゼミの内容について教えてください。
小グループ単位で、日英語や文化の違いについてアクティブ・ラーニングを行っています。また、鎌倉・横浜・川越などへ日本文化や日本にある外国文化を見に行く校外学習を行っています。海外留学したとき、日本のことを聞かれて何も答えられないと困るので、教室では学べないことを自分の目で確かめることも大切。大学祭では、ゼミでの研究内容を展示しています。コロナ禍前では、ゼミの学生の半分くらいは、アメリカ・イギリス・カナダ・フィリピン・マレーシアなどで10カ月間程度の留学を体験していました。
世界で起きていることを知り、自分ができることを考えてほしい
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
私の授業では、英語力のほか日本文化の学習にも力を入れているので、英語圏と日本の文化や習慣との違いに関心のある人には、おもしろい学びになると思います。世界中の人々を相手に仕事をしたいという野心や希望をもっている人は、私のゼミに来てほしいですね。今、世界で何が起きているか、ということに目を向け、世界の状況を知ったうえで、「自分ができることは何か」を問い続けてほしいと思います。
経歴
大阪府立桜塚高等学校卒業
1978年 創価大学 文学部 英文学科卒業
1984年 創価大学大学院 文学研究科 英文学専攻博士課程満期退学
玉井 秀樹 先生
実現したい平和とは?SDGsにも通じる平和について話し合おう
玉井 秀樹 先生
実現したい平和とは?SDGsにも通じる平和について話し合おう
平和を実現するには何が必要か?自分が求めている平和を考える
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は平和学と国際関係論ですが、研究室では「平和とは何か?」「平和を実現するためには何が必要なのか?」をテーマにしています。平和学は、数学のように一つの答えが明確にあるわけではないし、みんなが求めている平和は一種類ではないので、実は未解決問題の厄介な学問なんです(笑)。
そこで私の授業やゼミでは、「みなさんが実現したい平和とはどういうものか考えてみよう」を一貫したテーマに、文献や研究論文などを読み解いてディスカッションをしています。
大学の国際関係論の授業で学びたいことが見つかった
大学はどのような道に進まれましたか。また、それはなぜですか。
中学生の頃から社会科が好きでしたが、高校の日本史の先生が非常におもしろく、勉強すればするほど興味が広がっていきました。将来は国際情勢関係で活躍できる人になりたい、世界で仕事をしたいと考えるようになり、そのために大学で国際社会を学ぼうと決心。創価大学の大学祭で、国際経済や国際社会についての研究発表の展示を見て、自分も勉強したいと考え、創価大学 文学部 社会学科に入学しました。
大学1年次の「国際関係論」の授業で、国際社会がどう変わってきたのか、その歴史をひもときながら、大学で国際社会を学ぶ意味、身につけた知識をどうやって世界の平和に結びつけていくか、という講義に感化されたのがきっかけで、国際関係論のゼミを受講。「この先生のゼミで学びたい」と思える授業に出会えたのはラッキーだったと思います。
平和学とはどういう学問なのか、卒業論文が研究のきっかけに
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
当時は、米ソ対立の緊張感が高まり、国際社会情勢としては厳しい時代。予習をせずにゼミの授業に臨むと、自分の知識が足りない、もっと勉強しておけばよかった、と反省させられる日々。今思うと、かなり鍛えられたし、一生懸命に勉強をしていましたね。
卒業論文のテーマを決めるのに難航し途方に暮れているときに、「平和学」という学問が新しく立ち上がっているのを知りました。まだ大学に「平和学」という科目がなかったので、平和研究がどういうふうに成り立っているのか、「平和学」とはどういう学問なのか、卒業論文で書こうと決めたことが、今の私の専門分野につながったのです。
指導教授からは、大学で研究を続けるとともに教員になるというのはどういうことなのかを学びました。自分は大学で様々なことを学んだので、その恩返しのつもりで、学んでいく楽しさ、素晴らしさを伝える教員にならなくてはと思いました。
「喫茶 平和」がテーマのゼミで、前向きに平和について話し合う
現在の研究内容について教えてください。
私が勉強してきて行き着いた平和とは「人間の安全保障」です。現在高校の授業で、持続可能な開発目標(SDGs)について勉強しているでしょう。このSDGsで目指している社会と、私が考える平和学の目的である平和は、ほぼ同じだと考えています。
例えばSDGsでは「すべての人間が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保する」とありますが、平和学が目指している平和も、こういうことだと思います。「すべての人が大切にされるような社会になるためにはどうしたらいいのだろうか」ということを考えるのが私たちの学問です。
私のゼミでは「楽しくなければ平和ではない」をキャッチフレーズに、お菓子をつまみながら気軽に意見を言い合える「喫茶 平和」という店にいる雰囲気の授業を行っています。世の中には平和を実現するためにどのような障害があるのか、重くなりがちなテーマなので、お茶やお菓子を楽しみながら、やわらかい頭で考えてほしいのです。
もちろん、海外では戦争が勃発していて深刻な状況なのは紛れもない事実ですが、それを嘆いていても仕方ないので、どうすれば前向きになれるのか、自分たちが平和のために何ができるのかを考えていきます。将来、国際社会に貢献できるかもしれないという大きなやりがいがあり、ゼミでは活発な意見が飛び交っています。毎年、夏休みには沖縄で4泊5日の研究合宿を行い、戦争と平和について考えています。
SDGsに興味がある学生はぜひ一緒に勉強しましょう!
どのような学生に進学してほしいですか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部は、いろいろな学びができます。文章を読み解く力、絵を見てその絵に示された意味を読み取る鑑賞力、マンガ、アニメ、映画、演劇など、人間が表現する様々なものに対して、その意味に関心がもてる人は、文学部で「読み解く力」を身につけてください。どうすれば自分らしく、世のため、人のために役に立つ、欠かせない人間になれるかどうか、そういうことを考えている人こそ、創価大学の文学部が向いていると思います。
私のゼミでは、知りたい、学びたい、という意欲がある学生は大歓迎。いったいなぜだろう、と考えることが苦にならない人は、平和学が向いていると思います。ゼミの教材でSDGsについての文献を扱っていますので、SDGsってどうやって実現するんだろう、SDGsに興味がある、という人は、ぜひ我がゼミで一緒に勉強しましょう。
経歴
1985年 創価大学 文学部 社会学科卒業
1989年 創価大学大学院 文学研究科 社会学専攻(国際社会論)修了
1986~1987年 スウェーデン国立ルンド大学大学院 派遣留学生
1989年 創価大学大学院 博士前期課程修了(文学修士)
1990年 創価大学平和問題研究所・助手
1998年 同・助教授
2002~2003年 米国・アメリカン大学 客員研究員
2008年 創価大学 文学部 准教授、創価大学平和問題研究所・所長
蝶名林 亮 先生
世界は自分にしか生み出せない価値創造を求めている!
哲学で「何にでも興味を持って新しい価値を創造できる人」に
蝶名林 亮 先生
世界は自分にしか生み出せない価値創造を求めている!
哲学で「何にでも興味を持って新しい価値を創造できる人」に
倫理学の問いを科学的に論ずる研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は哲学で、その中でも、行為の善悪や正・不正とは何か、知恵、慈悲、勇気などの徳とは何か、このような価値や規範について問う倫理学という部門の研究をしています。私は倫理学の問題を考える上で、関係する科学の分野を参照しながら研究しています。「何をすべきか」を問うときに、例えば人間の心理ってどうなっているのか、人間の社会ってどうなっているのか、心理学や社会科学など違う分野の考え方も取り入れないと解けない問題ではないかと思っているからです。
これは最近の倫理学で盛んに議論されていることですが、例えば「この人は慈悲深い人だ」という倫理的な判断があったとします。でも、もし「人間は環境に大きく影響されてしまうので一人では慈悲深くなれない。慈悲深くなるためには、慈悲が尊重されているコミュニティーに身を置く必要がある」という人間の心理があるとすると、人間は一人では慈悲深くなれないことになるので、誰か特定の個人を「慈悲深い人だ」と考えることには問題があることになるかもしれません。慈悲という価値を持つのは個人ではなく、むしろ慈悲を作り出せるコミュニティーの方だということになるのかもしれない。このように、哲学的な問題(この場合は「慈悲という価値はどのようなものか」という問い)を考えるために、他の学問分野での知見との関係も考えながら、答えを導きだそうと研究しています。
とにかく原理が気になって先生を質問攻めにする生徒
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
高校では軟式野球部に所属していましたが、子どもの頃から本を読むのは好きでした。社会系の科目が得意で、特に好きだったのは歴史。数学は嫌いではなかったけれど、数学の公理がなぜ成り立つのかが気になってしまって、よく先生に質問をしていました。でも、そこを疑っていると数学の勉強は進まないので(笑)、そんなに成績は良くなかったですね。成績が良くなくても、先生が「いい質問だ」と言ってくださったので、勉強を嫌いにならずにすみました。どの科目でも、原理のほうが知りたくて、とにかく何でも先生によく質問する生徒でした。
誰も反論できない理性のある結論を導き出せる
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
もともとは新聞記者になりたいと思っていて、高校の先生に「それならば岩波文庫を全部読みなさい」と言われ、読書に思い切り取り組めそうな文学部への進学を考えました。最初は好きだった歴史の勉強をしたいと考えていましたが、歴史の根本的なところを問うには哲学の勉強も必要だと考えて、歴史学と哲学の両方を学ぶことができる、創価大学文学部に入学しました。
宣伝になってしまいますが、今でも創価大学は哲学を歴史的な観点から俯瞰しながら勉強できる、素晴らしい場所だと思っています。哲学、また関係する仏教学を担当する教員を見てみると、東洋・西洋の思想を歴史的な観点から本格的に勉強できる、日本の中でも有数の場所だと自負しています。ただ、肩ひじを張らずに、気軽に来て頂ければと思います。
大学の授業で哲学を学んでいくうちに、哲学は「理性に重きをおく」ということがわかってきました。世の中には意見の対立がたくさんあるけれど、理性を使えば、誰も反論できないような結論にいきつくことがあるかもしれないと感じ始めたのです。哲学者のいろいろな議論を研究すると、確かに説得力があり、どんな立場の人でも受け入れざるを得ない原理があるように思えました。どの分野でも「理性的に考えたらこうなる」ということが論理的にプレゼンテーションできたらすごい武器になる、哲学はそのような論理を提供してくれるのではないかと思ったのです。
哲学は、自分の意見を広げたり、深めたり、他者の意見にどう反論できるか考えたりして、論理的な考え方を展開していけるツールとして、これからの世の中に重要になるのではないか、有益でおもしろい学問だと思いました。
さまざまなことに興味がもてる人になってほしい
ゼミの内容について教えてください。
私のゼミを通して、どんなことにでも興味がもてる人になってほしいと考えています。哲学は、いろいろなことを考えざるを得ない幅広い学問。いろいろな哲学にふれて興味をもつことができた人は、社会に出て、どんな道へ進んでも、さまざまな道を切り拓いていけると思います。
実際に、本学で哲学を勉強した人の中には、世界的な企業で働いていたり、ゲーム会社にクリエイターとして就職していたり、福祉の世界で事業を立ち上げていたり、教育の分野に進出していたりと、本当にさまざまな方面で活躍してくれています。他学の話になりますが、「わたしの一番かわいいところ」で有名なヤマモトショウさんも大学時代は哲学を専攻されていたそうですね。不安定な社会状況の中で工夫して生き残ろうと努力している企業や分野になればなるほど、哲学的な思考を持った人材を求める傾向があると思います。
誰でもそれぞれの考えをもっているので、自分の意見を言うことはもちろん、ゼミ生同士の対話を通して、相手が自分でも気づいていないような良いところを引き出せるようになってほしいというのが目標です。
ゼミ生全員が参加する授業では、テーマを決めて、事前に調べてきてことをディスカッション。それと平行して、私と学生とのマンツーマン、あるいは私と2~3名の学生とのチュートリアルも数多く行っています。1対1や少人数だと、自分の意見を話してもらわざるを得ないので、とにかくたくさん話をしてもらっています。哲学というのは、とにかく自分が思っていることをどんどん話す、そして相手の言うことも聞いて、どんどん質問をすることが肝心。少人数のチュートリアルでそういう力をつけることで、ゼミ生全体のミーティングでも自分が思ったことを自由に言えるようになりますよ。
自分の哲学が古典や科学とつながるのがおもしろい
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
自分がおもしろいのではないかと思ったことを、相手にもおもしろいと思ってもらえた瞬間はとても嬉しくなります。
私の研究は、哲学の問題を他の科学的な知見にも訴えながら考えられないか、という手法なので、今まで知らなかったことをたくさん勉強します。哲学と異なった学問がつながっていることを発見すると、とてもおもしろいですね。
さらに、学生時代に読んだプラトンやアリストテレスの本をじっくり読み直してみると、実はこんなおもしろいことを言っていたのだ、今までよくわかっていなかったけれどつながっているのだと気づくことが数多くあります。
自分の学問や関心が、古典の哲学とつながったとき、新しい科学的な知見とつながるのではないかと感じたときは、すごくエキサイティングでおもしろいですよ。
幅広い学問と出会って自分の世界を広げてほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部の学びは、文学・哲学・宗教・言語学・社会学・文化人類学など、私たちの生活にとても身近なことで、誰もが考えざるを得ないことばかり。社会にでる前に、この世の中はどうなっているのか、この世界でどういうふうに自分を表現していくのか、自分が切り拓く道を落ち着いて考えられる、そういう学部だと思います。まだ将来の目標や夢がみえていない人は、文学部で幅広い学問と出会ってほしいですね。また、先行きが不透明な今後の世界で新しい価値を創造したいと考えている人はぜひ文学部の門を叩いてみて欲しいと思います。いろいろな人と切磋琢磨して、たくさんの意見を聞いて、自分の意見も言って、自分の世界をどんどん広げていってください。
経歴
2005年 創価大学 文学部 人文学科 卒業
2007年 ブリストル大学大学院 哲学研究科 修士取得(イギリス)
2012年 カーディフ大学大学院 哲学研究科 博士取得(イギリス)
中堀 正洋 先生
民族の世界観が息づく「フォークロア」とは? 近くて遠い国、ロシアについて学ぼう
中堀 正洋 先生
民族の世界観が息づく「フォークロア」とは? 近くて遠い国、ロシアについて学ぼう
ロシアフォークロアの豊かな文化を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
私の研究の専門はロシアフォークロアです。フォークロアは通常「民間伝承」や「口承文芸」などと訳され、特定の民族の中で語り継がれてきた、いわゆる昔話や英雄叙事詩、俚諺(りげん)、呪文、俗信など、伝承全般を意味します。しかし、ロシア語でフォークロアという場合は、生活文化や儀礼など、より広い対象を含みます。そのため大学院では、お葬式の時に女性たちが儀礼的に哀泣する「葬礼泣き歌」と葬送儀礼について研究しました。
私のフォークロア研究の対象は文字で残されていないケースもあるので、フィールドワークなど実践的なアプローチから民衆の生活様式や慣習を学び、そこから民族の文化や歴史についても知ることができます。この点が研究の大きな魅力です。
ソ連崩壊をきっかけにロシア語の世界に飛び込む
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学時代はサッカー漬けの毎日でした。語学に興味を持ったきっかけは、中学2年生の時に英語劇の大会に出場したことです。それまでは英語が得意ではなかったのですが、演劇を楽しみながら英語を学んだ結果、驚くほど成績が向上したんです。語学のみならず、新しい知識を学ぶことの楽しさに気付かされた経験でしたね。
外国語の中でもロシア語に興味を持ったきっかけは、当時の社会情勢による影響が大きいでしょう。私が学生時代を過ごした1990年代はソ連が崩壊し、周辺諸国が次々に独立、民主化の道を歩みはじめました。一連の出来事を10代で経験したことで、ロシアという国をもっと知りたいと思うようになりました。当時、ロシア語は欧米やアジアの言語に比べて専門家が少なかったこともあり、大学でロシア語を勉強しようと決めました。
ロシア人の世界観、死生観を知るにはどうするべきか? たどり着いたフォークロア研究という分野
研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学進学後はロシアに関する書籍を読み漁りましたが、どうもしっくりこなかったんです。私が知りたいことは、ロシア人がどんな風に生活をし、どんな考え方をして、どんな文化を持っているのか。つまり、経済や政治体制そのものではなく、それらを営んでいる「人」に行き着いたんです。そのような経緯でロシアの民衆文化に興味を持つようになりました。
そんな中、大学4年生の時にたまたまゼミの先生から『スラヴ吸血鬼伝説考』という本を紹介されました。ホラー映画などでお馴染みの吸血鬼に関して、スラヴ諸国のフォークロア資料を駆使し、バルカン半島にその起源があると論じたものです。私が興味を持っていた民衆文化の研究だったこともあり「ロシア語を使ってこんなアカデミックな研究ができるのか!」と、全身に衝撃が走りました。ロシアの民衆文化を研究したいという想いが強くなり、大学院への進学を決めました。
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
明治の文明開化以降、日本におけるロシア研究は立ち遅れてきた感があります。現在でも、ロシアについてはまだまだ知られていないことも多いでしょう。だからこそ、ロシアを含むスラヴ世界に目を向けることによって、新しい視点からヨーロッパを研究することもできるはずです。ヨーロッパに興味を持っている学生にとっては、非常に刺激的な分野だと思います。
私は着任年度の関係でゼミの開講実績がありませんが(注:取材当時)、ゼミでもロシアのフォークロアや民衆文化をテーマにする予定です。ただ、ロシアではなくヨーロッパの民衆文化を研究したい人も大歓迎です。ロシアとの比較など、何らかの形でロシアという視点を入れることで、ヨーロッパを多角的に研究できるゼミにしたいと考えています。
充実した環境でロシア語を学び、世界平和に貢献できる人材を目指してほしい
文学部での学びは、どのようなところが面白いと思われますか。
現在、日本ではロシア語やロシアの文化について学べる大学はそれほど多くありません。そんな中、創価大学はロシアとの強い関係性を築いている数少ない大学です。創価大学は開学してすぐに旧ソ連の大学と学術協定を結んで交換留学制度を作り、お互いの留学生を受け入れてきた歴史があります。私自身も学生時代に約10ヶ月、モスクワ大学に留学をしました。このような学術協定を結んでいる日本の大学は非常に少なく、本学の大きな特色と言えます。
平和な世界を構築するためには相互理解が不可欠です。ロシアのウクライナ侵攻は、世界に大きな衝撃を与えましたが、そのことによってロシアの文学や芸術、また名もなき人々が営んできた民衆文化までもが否定されてはいけないのではないでしょうか。「ロシア・ヨーロッパ文化メジャー」では、近くて遠い国・ロシアの言語や文化、社会を専門的に学べる貴重な環境が整っています。一緒に学べる機会を楽しみにお待ちしております。
経歴
創価大学文学部外国語学科ロシア語専攻
創価大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程修了(博士:英文学)
DILA国際語学アカデミー(ロシア語講師)、創価大学(助教)、慶應義塾大学、中央大学、東海大学、早稲田大学、立教大学、法政大学(非常勤講師)を経て現職
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林 亮 先生
今、現実に起こっている世界の戦争・紛争をアカデミックに解明する
林 亮 先生
今、現実に起こっている世界の戦争・紛争をアカデミックに解明する
ウクライナ戦争や中国の台湾侵攻を学問として扱えることに関心を高くする
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は「国際関係論」と「安全保障」。平和追求を目的とする国際社会の歴史・理論・地域研究をテーマにしています。ウクライナ戦争や中国の台湾侵攻などの問題を学問として扱えることが一番手ごたえがあります。なぜウクライナ戦争が起きたのか、ロシアが本当は何をしたいのか、それに対抗するため西側世界は何をしているのか。今、世界で起こっている戦争・紛争を、大学のアカデミックなレベルで明らかにしていく。誰もやっていないところを解明していくところが魅力です。
もともと平和研究に興味があり、恩師の誘いで大学院へ
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
高校時代から歴史や平和運動に興味をもっていました。世界史の先生が有名な方で、太平洋戦争の話をよく聞いていたこともあり、大学では平和研究をしてみたいと考えて、国際関係論を専攻。当時は、核戦争が起こりかねないとヨーロッパでいわれていた時代。平和研究のベースになった学問で、核戦略や冷戦などについて勉強していました。
大学卒業後、企業に就職して、飛び込みセールスの仕事をしていましたが、3年やったら、もう限界かなと思って(笑)。ちょうどその頃、大学の恩師に会ったら、「そろそろ戻ってこないか」と言われ、大学院に戻ったんです。
大学生のとき、中国の武漢大学へ1年間留学しましたが、さらに教員になってから在外研究でもう1年。日本では「お客さまは神様」っていいますよね。会社員時代はセールスをやっていたので、何よりもお客さまが大事。でも中国は労働者が主人公なので、お店で「これを見せてください」と店員に言っても、おしゃべりをして、こっちを向いてくれないんですよ。全く反対側の世界がここにある、とビックリしたと同時に、中国はおもしろいな、と思い、いろいろな意味で気づきの多い、とても有意義な留学でした。
戦争の研究をしながら世界平和を目指すことができる
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
平和の研究は、どうして戦争が起こるのか、どうやったら戦争をなくすことができるのか、平和研究とは逆の戦争研究をしながら平和を目指すことが具体的にできます。国際機関に論文を提出したり、国際会議で報告したりすることで、世界の平和に直接関わっているという手応えを感じることが、大きな魅力です。
私の研究室には飛行機や船のモデルがたくさん飾ってあります。ロシアの核弾頭を積んだ短距離弾道ミサイルや中国の最新型の核ミサイルなど、ほとんどおもちゃですけどね。でも学生に説明をするとき、写真や動画だけでなく、モデルを見せると伝わりやすいんです。ロシアではスーパーマーケットでミサイルのおもちゃを売っていて、ロシア人の子どもたちは、こういうもので遊んでいる。身近に武器がある環境で育った人と、私たちのように無縁で暮らす人では、根本的に考え方が違います。実地教育を通じながら、それを学生に紹介しています。「学者の先生はリアルな世界を知らない」と言われると腹が立つので(笑)、私は戦車を見にモスクワまで行くし、様々な国の軍事施設を見てきました。自衛隊のイベントには、学生を連れて行くこともありますよ。
ゼミでは自分が一番興味をもつ国際問題について研究する
ゼミの内容について教えてください。
ゼミ生には、自分が一番興味をもっている問題を研究するよう指導しています。だから、私の専門領域に限らず、様々な国の問題がテーマ。学生から教えてもらうこともあり、私自身もおもしろいです。
ゼミの授業は基本的に輪読。クラス全員で同じ1冊の本を読み、担当者が発表して、それについてディスカッションをすると、精読、つまりものすごく細かく読み込んだのと同じように理解力や知識が深まるんです。いろいろな考え方がわかり、時にはケンカになることもあるくらい白熱します。
私のゼミの卒業生の多くは、外務省や国際機関など世界各国で活躍しているので、そのOB・OGに、今、現場で起きていることを話してもらうこともあり、本には載っていないリアルな現実を学ぶことができます。
文学部での学びによって複雑な社会を分析できる
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
今の社会はとても複雑なので、法学でも、歴史学でも、経済学でも、単独では理解できません。でも、いろいろな学問をひとまとめにすることで国際社会の全体像が理解できるんじゃないか、というのが、基本的な社会学の考え方。そういった意味では、文学部は今の複雑な社会を分析するために向いている学問だと思います。
何にでも好奇心をもってください。とにかくテレビや新聞を見て、いろいろなものに興味をもつと、出会ったものの中から本当にやりたいことが見つかるはず。インターネットは、閲覧や検索履歴から自分用に情報が調整されているので、世間も自分の見ている世界と同じものにしか関心がないと思い込んでしまいます。だからテレビや新聞など、万人向けのメディアから情報収集をしましょう。大学で学ぶということは、情報の消費者ではなくて生産者にまわる可能性を高めることなのです。
経歴
東京都立新宿高等学校卒業
1979年 創価大学 文学部 社会学科卒業
1989年 創価大学大学院 文学研究科 社会学専攻博士課程修了
2005年9月 博士(社会学)取得
フィスカーネルセン・アネメッテ 先生
社会の「ふつう」を形作るものとは何か?社会人類学で世の中を読み解こう!
フィスカーネルセン・アネメッテ 先生
社会の「ふつう」を形作るものとは何か?社会人類学で世の中を読み解こう!
政治と宗教の関係性が日本社会に与える影響とは
研究内容の基本情報を教えてください。
私は日本の政治、宗教、社会、ジェンダーについて、「社会人類学」の観点から研究しています。特に関心を持っている分野が、日本の政治と宗教の関係性です。
政治と宗教はお互いに強い影響を与え合っており、現代の政治と宗教の概念的な関係性は、日本社会を読み解く上で重要なキーワードです。これらの構築された概念は、ある種の本質的なカテゴリーではなく、権威と権力の複雑な関係を明らかにします。
日本留学で見つけた生涯の研究テーマ
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
10代の頃から政治について考えるのが好きで、よく友人・両親・先生達と政治的なトピックについて議論していました。こう聞くと日本人の方は驚かれるかもしれませんが、私の出身であるデンマークでは、家庭や学校で政治について話し合うことが当たり前なんです。18歳の時にイギリスに渡った後も政治や社会学への興味は衰えず、香港の大学に進学して専門的に勉強するようになりました。
その後に香港の大学院を卒業したタイミングで、創価大学の留学生として日本を訪れました。当時はオウム真理教関連の事件が国際的な関心を集めており、私自身も日本の政治と宗教、そしてメディアの関係性について興味を持っていました。日本留学後もロンドンで日本の政治と宗教を研究し、それがそのまま現在に至る私の研究テーマになりました。
留学中は日本文化に戸惑うことも多かったですね。当時とても驚いたことの一つが、日本の「主婦」という概念です。それまでは結婚を機に仕事を辞めた女性に会ったことがなかったため、なぜ仕事を辞めるのか理解できませんでした。それから、日本は男性と女性が非常に異なる生活を送る場所であることを学び始めました。日本ではこのような生活様式が当たり前のものとして存在しています。私は、この「普通」の感覚が、特定の力関係を維持する上でどれほど強力であるかに興味を持ち始めました。
その「普通」は、本当に当たり前?
世の中の常識を、社会人類学の観点から読み解いてみよう
研究の魅力について教えてください。
どんな社会にも、その社会にとっての「普通」の振る舞いが存在します。例えば私はデンマーク生まれなので、デンマーク社会の価値観を当たり前のものとして受け入れています。人権やジェンダーの平等を目指す姿勢などがそれに当たるでしょう。
そう考えた際、日本社会の特色とは何でしょうか。私にとって興味深い点は、日本社会が持つ「本音と建前」という概念・感性です。もちろん、すべての社会は人が公の場でどのように行動するかについての感覚を持っていますが、日本の場合は行動がとても順応的である点が特徴です。例えば日本では自分の政治的な思想や信仰する宗教・考え方について、学校や会社で表明する機会が少ないですよね。自分の考えや信念を公の場で表明することが難しくなればなるほど、イデオロギーがいかに権威主義的であるかが示されます。
このように、社会人類学では「普通」だと考えられている社会秩序に対して、人生の行動・考え方・社会なりの疑問を研究します。研究を通して社会の仕組みを紐解く行為は、私に知的な興奮を与えてくれます。学生が社会人類学で比較文化を学ぶとき、意味、価値、規範、権力関係のより深い構造を見ることが含まれます。 このようにして、学生はまったく新しい考え方を学びます。
高校生のみなさんも「日本の社会は、なぜこうなってるんだろう?」と疑問に思った経験はありませんか?そんな方は、ぜひ社会人類学を学んでください。日本の、そしてグローバルな社会について、新しい視点から考えることができますよ。
国際色豊かなゼミで実践的な学びに取り組む
ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは日本現代社会を基本テーマに、社会人類学的な分析や、文化的比較研究を行います。卒論研究テーマは学生の興味のある分野から自由に選択できます。例えばある学生は、日本のアイドル文化が日本のジェンダー規範に与える影響について研究しました。ゼミは国際色豊かな環境で、中国、タイ、オーストラリア、イタリア、ブラジルなど様々な国から留学生が参加しています。日本人学生にとっては、留学生とのディスカッションを通じて新鮮な発見があると思います。
また、ゼミでは毎年合宿を行います。2023年(取材時)は沖縄に行って、基地問題など地方政治について研究しました。合宿を通して学生同士の仲を深めることも目的のひとつですので、今後も貴重な体験を楽しんでもらいたいと考えています。
英語で専門分野を学べる!ぜひ挑戦してほしい、創価大学ならではの取り組み
創価大学文学部では、幅広い分野の学びを経験できます。その一例として、2022年から始まった新メジャー制のプログラムのひとつ「世界市民育成プログラム」(AKADEMIA)を紹介します。このプログラムでは哲学・社会人類学・平和学などの分野を、英語を使って学ぶことができます。英語力を養いたい方、英語による専門性や実践力を身につけたい人におすすめです。
経歴
Social Sciences (BSSc) Hong Kong Open University 1993-1997
Social Psychology (MPhil), Hong Kong Polytechnic University 1999-2001
Social Anthropology (PhD), School of Oriental and African Studies, University of London 2002-2008
藤倉 ひとみ 先生
英米文学作品からジェンダーやセクシュアリティについて考えてみよう
藤倉 ひとみ 先生
英米文学作品からジェンダーやセクシュアリティについて考えてみよう
文学作品に描かれるセクシュアルマイノリティを読み解く
研究内容の基本情報を教えてください。
私の研究テーマは、英米文学を中心とした「クィア、ジェンダー、セクシュアリティにまつわる文学」の研究です。クィアとはセクシュアルマイノリティ全般のこと。社会学からではなく文学的観点からクィアにアプローチし、文学作品のなかに見られるセクシュアルマイノリティについて研究しています。
文学からクィア性を読み解くことで、時代・文化・宗教などの背景を考えながら、当時の作家がどこまで表現できたかや、タブー視されていることをそれでも書きたい・伝えたいという気持ちをくみ取るおもしろさがあると感じています。表現に制限があるため、同性愛は成就させられないとか、悲劇で終わらせないといけない、クィアを肯定できない、といったストーリーにせざるを得なかった作者の苦悩まで読み取ることができると、奥深さを感じますよ。
英語と映画が大好きで翻訳家の仕事に憧れていた
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
中学生の頃から英語が好きでした。とにかく英語の授業が楽しくて、高校では英語に特化したコースがある総合学科へ進学。ハリウッド映画を観るのも好きだったので、英語を使って映画に携わることができる翻訳家に憧れていました。
アメリカの映画を字幕なしで観られるようになりたいと、英語の勉強をがんばっていましたね。でも、マンガも大好きで、『花とゆめ』の由貴香織里先生がお気に入り。少年マンガも読んでいて、『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生が好きでした。
大学のゼミの先生の紹介でクィア文学に出会った
研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
大学では英米文学を専攻して、3年次にアメリカ文学のゼミを受講。ゼミの先生の専門分野がアメリカのゴシック小説だったのですが、先生が薦めてくださる作品がおもしろく、特にゲイの作家によるクィア文学に非常に興味をもつようになりました。
今でこそ、LGBTQは広く認知されていますが、私が大学生だった当時は、まだそのような内容を学問として扱う先生は少なかったように感じます。クィア的要素は過去には時代背景やお国柄、宗教がからんでタブー視されたり、罪人扱いされてしまったりすることもあったので、うまく潜ませるとか、異性愛にみせかけるなど、文学作品のなかに秘かに描かれるということが多くありました。私はもともと幼い頃よりクィアについて関心を持っていましたが、学問として掘り下げる余地がある分野だということを大学時代のゼミの先生から教わり、そこからクィア文学にハマってしまったのです。
作家の表現力で描かれ方が変わるのがおもしろい
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
文学作品を通じてセクシュアルマイノリティについて研究すると、作家の手腕や表現のしかたで描き方が変わるのを読み解くのが楽しいですよ。クィア性を隠さずオープンに書く作家もいれば、どうしてもクィアであることを知られたくない作家もいます。オープンな作家のなかには、作品の主題をクィアにおかない人もいます。例えば、自分は同性愛者だけど、それは大きな問題ではなく、むしろ作品の根幹となる部分は母親との関係性にあって、親子関係の満たされなさがメインテーマになっている、という作品など。LGBTQ当事者として知られていなかった作家だけど、作品を見るとシスジェンダーやヘテロセクシュアルでないがために悩んでいたり、罪意識を抱えていたりすることが明らかに、もしくは秘かに描かれていて、当事者の生きづらさが作品に現れることもあります。
また、同じ時代のアメリカ人作家と日本人作家の作品を比較してみると、その当時ではアメリカのほうがタブー視されていて、日本は寛容だったとわかることもありました。さらに現代ではどう捉えられているか、といったクィアの変遷をみていくのもおもしろいですよ。
英米文学で描かれるクィアを読み解き、当事者の話も聞く
ゼミの内容について教えてください。
ゼミの授業では、少し古い時代の英米文学からクィア作品をとりあげて、学生と一緒に読みながら、私が解説を入れつつ、グループディスカッションをします。また、映像資料を用いて、映画や演劇とその原作との比較も行ったりしています。そして、セクシュアルマイノリティの当事者の方を招いて、当事者がクィア作品を読んだらどう感じるか、当事者目線の感想を聞いて、学生が質問したり、意見交換をしたりする授業もあります。
自分が学びたいことを幅広い選択肢から見つけてほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部では、語学や哲学をはじめ、いろいろな分野を学ぶことができます。自分は何に興味があるか、さまざまな授業を受けることで、時間をかけて探していくことができるので、やりたいことがまだ見つかっていない人にもおすすめです。
クィアには独特なイメージがあって、抵抗感をもつ人もいるかもしれませんが、自分は当事者ではないけれど、ジェンダーやセクシュアリティに関心がある、理解したいという人は、ぜひ私の授業を受けてみてください。これからの時代、LGBTQは珍しいことではないので、正しく理解してほしいと思います。
経歴
2007年 宮城学院女子大学 学芸学部 英文学科 卒業
2014年 東北大学大学院 国際文化研究科 国際文化言語論専攻 博士後期課程 修了博士(国際文化)
東北文化学園大学(非常勤講師)、東北工業大学(非常勤講師)、順天堂大学(助教)を経て、現職
藤本 和子 先生
現代英語の言葉遣いのおもしろさを知る
藤本 和子 先生
現代英語の言葉遣いのおもしろさを知る
現代英語の言葉遣いや日本人英語学習者の英語使用を研究
研究内容の基本情報を教えてください。
専門分野は英語学です。英語学の分野では、大まかに言うと、英語はどのような言語かということを研究します。私の主な研究は、英語のデータベースを利用して、次のようなことを行っています。
(1)現代英語における言葉遣いの変化とその背景にある社会的な要因、場面や状況による英語表現の使い分けについての分析。
(2)日本人英語学習者の英語の使用の特徴とその要因を分析。
(3)上記の(1)と(2)をベースとして、英語の指導内容、辞書や英語教材の改善点を提案。
アメリカ人の友だちとの文通で異文化交流の楽しさを体験
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中学から大学まで、恩師に恵まれ、英語が大好きになりました。中学で英語を学び始め、日本語とは違う独特のリズムをもつ発音がおもしろいと感じました。中学の先生の勧めでアメリカのペンパルと文通を始め、同年代のアメリカ人の友だちができて、今でいう異文化交流をしていました。お互いにさまざまなことを書いて、自分が知らないことを学んだり、日本の文化を伝えたり、とにかく楽しかったです。
恩師から教わった学ぶことの楽しさを私も伝えたい
教員の道へ進まれたきっかけは、何でしたか。
子どもの頃は身体が弱く入院もしており、勉強が遅れがちで、その上、運動もできませんでした。転機は、小学校5~6年生のときでした。担任の先生が、勉強がわかったときの楽しさや跳び箱が跳べたときの嬉しさなど、多くのことを教えてくださったことから、私も勉強の楽しさや、何かができるようになったときの喜びを伝えられる教師になりたいと思うようになりました。
さらに高校生のとき、創価大学の創立者である池田大作先生と初めてお会いして、「これからの時代は国際社会だから、一か国語でもよいので外国語をマスターしてください」との激励に、英語の道に進むことを決心しました!
創価大学は世界各国に交流校があり、国際交流できることに魅力を感じ、思う存分英語を学ぶことができる創価大学へ進学することに決めました。
英語表現のおもしろさを知った留学での経験が大きな財産に
大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
学部時代にライティングの授業で英語表現に大きな関心を持ちはじめました。伝えたいことを表現するのに、その表現形式は一つではありません。効果的な表現を探していくことのおもしろさ、そのことが、ゼミで英語学の分野を選択するきっかけとなったと思います。
大学院での研究分野は、現代英語の語法・文法でした。文献にあたり、調査、用例分析を行い、言語事実を見ていきます。辞書や参考書に書かれていることと言語事実が異なる場合もあり、研究の意義を感じました。同時に、言語事実を反映した辞書や教材の必要性を学びました。
学部と大学院時代、教員になってからもアメリカとイギリスへ留学。現在の研究分野に出会うことができたのは、世界的に著名な言語学者ジェフリー・リーチ先生のおかげでした。リーチ先生からコーパス言語学と文法研究の魅力を教えていただきました。リーチ先生の「現代英語の変化を意識しなければならないよ。そうでなければ、教員は古い英語を学生に教えてしまうからね」という言葉は、研究者、そして教員としての私の大切な指針になっています。
留学中に目のあたりにする実際の英語。シチュエーションによって使われる表現が異なったり、話し手の出身地やバックグラウンドによって使われる英語が異なります。あらゆるところに研究の材料が散らばっていて、学んだことや経験したことすべてが大きな財産になっています。
言語と社会や文化を結びつけ、グループワークで研究発表
ゼミの内容について教えてください。
私のゼミでは、英語の話し言葉と書き言葉の違い、英語の使用場面や状況による英語表現の違いや傾向を学びます。言葉は絶えず変化していますので、現代英語の言葉遣いの変化とその背景にある要因も考えます。これらのことは、学生が将来、多様な職種で活躍するときに役立つと信じています。
ゼミの授業はプレゼンテーションが中心です。グループ研究では、各グループでテーマを決め、文献収集や調査をして、成果を発表します。テーマは、英語自体についてのものや、言語と社会を結びつけたものなど様々です。例えば、後者のものですと、インターネット上でもどんどん新しい言葉遣いが生まれる時代ですので、その背景には、どのような言語理論や出来事、文化的背景があるかなど、言語現象と社会や文化について、アンケート調査なども行ってまとめています。ディスカッションをしながら、学生が互いに刺激を受け合い、和気あいあいと学ぶ姿を見て、私も嬉しくなります!
留学をするゼミ生も多いです。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポールなど、さまざまな国で、英語はもちろん、多様な文化、歴史、人間模様など、留学で吸収できるものは無限です。学生が留学先で見つけた興味深い英語表現について、お土産話をしてくれるのも楽しいものです。
文学部 人間学科で言葉と社会と文化をじっくり学ぶ
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。
言葉と人間社会は密接につながっています。言葉の変化や言葉の使用には、人間の生活や文化、習慣、ものの考え方などが如実に反映されます。
文学部は、言葉と社会と文化をじっくり勉強できる学部であることが魅力だと思います。つまり、英語学、そして英語学と他の学問分野を関連づけて学ぶことができる学部です。文学部での学びは、将来のキャリアにおいても、学生のみなさんが、多様な分野で活躍することを可能にしてくれることでしょう!
良い本、良い友だち、良い先生とたくさん出会ってください
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
みなさんには無限の可能性があります。チャレンジ精神で主体性をもって思いきり学び、可能性の扉を大きく開けてください。私は良い先生方に出会ったからこそ、今の自分があると思います。良い本、良い友だち、良い先生との出会いをたくさんしてください。私自身も、学生に良い影響を与えられるような存在でありたいと願っています。
経歴
1992年 創価大学 文学部 英文学科卒業
2004年 創価大学大学院 文学研究科 英文学専攻 博士後期課程修了 博士(英文学)取得
2011~2020年、2023年~ 英国ランカスター大学 客員研究員
帆北 智子 先生
歴史に「もう一つの視点」を! 歴史を多面的に読み解くことで新しい歴史をみつけてほしい。
帆北 智子 先生
歴史に「もう一つの視点」を! 歴史を多面的に読み解くことで新しい歴史をみつけてほしい。
失われた国「ロレーヌ公国」とは?
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門は近世のヨーロッパ地域史です。具体的には現在のフランス東部に存在したロレーヌ公国とその貴族について研究しています。
ロレーヌ公国は1760年代にフランスに統合されたため、現在は存在しない国です。みなさんが高校で習う歴史の授業で取り上げられることは、まずないでしょう。
当たり前のことですが、世界の歴史は大国だけで作られるものではありません。高校までの授業では歴史の流れを大枠で捉える必要があるため、アメリカや中国、イギリス、フランスといった大国の動向がどうしてもメインになってしまいます。
しかし、ロレーヌのような「境域」から「大国の歴史」を見直すことで、これまで見逃されてきた新しい文脈から歴史を読み解くことができるのではないでしょうか。私の授業では、歴史の多面的な読み解き方についてぜひ学んでいただきたいと考えています。
キャリアに悩む中で見つけた、研究者という道
中学、高校ではどのように過ごされましたか。
中学ではバスケット部、高校ではバドミントン部に所属し、運動に打ち込む毎日でした。いわゆる体育会系だったと思いますが、友達とのおしゃべりや買い物も大好きな、ごく普通の高校生だったと思います。あと、家ではよく本や辞書、辞典を読んでいました。もちろん、マンガや雑誌も!
当時は世界史の勉強が好きだったので、高校の歴史教員になろうと考えていました。しかし、いざ大学に入って教育実習に参加してみると……どうもしっくりこなかったんですよね。「高校の教師」として働く自分を想像できず今後のキャリアをどうすべきか悩んでいた際、大学の恩師らから折良く大学院への進学を勧められました。そのような経緯で大学院に進学し、研究職を目指すことにしました。
小国がフランス政府を動かした? 学生時代の素朴な疑問が研究のきっかけに
現在の研究内容について教えてください。
研究対象としているロレーヌ公国は1760年代にフランスに統合されますが、それより早い1750年代の一時期、ロレーヌ出身の貴族がフランス政府を主導していたことがあります。現代日本で例えれば、日本国籍を持たない外国人が総理大臣を担うようなものですかね。こういったことがなぜ、当時まだ「外国人」のロレーヌ貴族に可能だったのだろう?大学生の時に抱いたこの素朴な疑問が、私の研究の出発点です。
ロレーヌ公国は、ヨーロッパのいわゆる「小国」でした。それだけでなく、地理的には西にフランス王国、東には神聖ローマ帝国とヨーロッパの二大権力に挟まれてもいました。両者は、当時のヨーロッパ情勢を常に大きく左右した存在です。そのなかで、ロレーヌの貴族がただ慎ましく国内で生き残るためだけの戦略を考えていたとしたら、フランスのトップに立てるような貴族は出てこなかったでしょう。つまり、ロレーヌには独自の「強み」があったはずなのです。
この「強み」はもしかしたら、これまでのヨーロッパ史を一部書き換えるくらいのものかもしれません。それほど、ロレーヌというところは当時のヨーロッパにおいて重要な地域の一つであっただろうと考えています。今後の研究でも、ロレーヌ地域の歴史的な特質に新しい観点から光をあてることで、ヨーロッパ史におけるロレーヌ公国の位置づけを刷新していきたいですね。
どんなテーマでも歴史と関連させて研究できる
ゼミの内容を教えてください。
ゼミでは、ヨーロッパもしくはアメリカの歴史(西洋史)を学びます。ゼミ生の興味もさまざまです。例えば、ドイツのナショナリズム論や古代ローマ帝国衰亡論、貴族史研究、人物研究といったオーソドックスともいえるテーマから、ジェンダーやファッション、芸術、最近だと疫病、ウクライナやロシアの歴史まで、かなり幅広く自由なテーマに取り組んでいます。歴史は全て人間の営みのことなので、どんなテーマでも歴史学として研究できるんです(ただし、史資料は必要)。あなたの興味・関心がある事柄も、歴史と関連させて追究してみれば、きっと新しい発見があるはずですよ。
歴史のイメージとしてよく耳にするのが「歴史の教科書に書いてあることは正しい」という固定観念です。学生に説明すると驚かれるのですが、歴史学は、実はとても論争が激しい学問だと思います。これまで語られてきた歴史って、思っているほど絶対的なものではないんです。大学の授業やゼミでは、これまでに学んだことをベースにしながら、少し視点を変えて歴史を眺めてみることの面白さに触れていただきたいです。
さまざまな学びの中から自分の軸をみつけて多様で複雑な時代を自分らしく生きてほしい
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。
創価大学文学部は幅広い学問分野を学ぶことができるので、さまざまな視野でものごとを捉え、考えるための素養を磨くことができると思います。語学にも力を入れているので、英語はもちろん、ロシア語、中国語などを並行して学びたい学生にとっては素晴らしい環境ではないでしょうか。
私の講義に関連して言えば、今のわたしたちが生きている世界や時事的な問題に関心のある方にぜひ受講してほしいですね。学びの中で、歴史が今と切り離された過去の出来事ではなく時空で繋がっていることを実感できれば、歴史をより身近に感じられるだけでなく、現在の世界のあり様やさまざまな問題についてもより深く理解できるようになるのではないでしょうか。
経歴
東北大学大学院国際文化研究科 修了
主な経歴:東北大学(研究員)、西南学院大学(非常勤
森下 達 先生
映画・マンガ・アニメなどのポピュラー・カルチャーの魅力を解き明かし、見つめ直す
森下 達 先生
映画・マンガ・アニメなどのポピュラー・カルチャーの魅力を解き明かし、見つめ直す
大好きな映画やマンガを自分なりに研究して論じる
研究内容の基本情報を教えてください。
私の専門分野は「ポピュラー・カルチャー研究」ですが、映画・演劇・マンガ・小説・音楽などのポピュラー・カルチャー、つまり一般大衆に広く愛好される文化は非常に広大です。そこで、私のゼミでは、こちらからレールを敷くのではなく、学生が自分の興味関心、あるいは自分自身の経験を生かしてテーマを決め、研究してもらうことにこだわっています。
例えば最近の卒業論文では、2.5次元舞台や『週刊少年ジャンプ』を扱った学生も何人かいました。ポピュラー・カルチャーについて、どういうふうに受容されて社会が回っているのか、自分なりに解き明かし、見つめ直す研究をしています。
マンガやアニメや怪獣映画好きで、小説を1日1冊ペースで読破
中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
私が子どもの頃は「ゴジラ」シリーズなどの特撮映画がふたたび盛り上がっていた時期でしたし、マンガでも『週刊少年ジャンプ』が史上最大の発行部数を達成していました。また、自宅には親が読んでいた手塚治虫などのマンガもたくさんあり、自分が生まれる以前のポピュラー・カルチャーにも慣れ親しんでいました。
中高一貫校に通っていて、高校受験をしなかった分、中学時代は時間がたくさんあり、通学電車の中ではずっと本を読んでいました。ミステリー小説が大好きで、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズは当然として、大人向けの乱歩の初期作品にも手を伸ばしていました。近年の作家では京極夏彦や東野圭吾が好きでした。通学時間や学校の休み時間などを利用して、地域の図書館や学校の図書室で借りたハードカバーや文庫本を1日1冊ペースで読破していました。
ポピュラー・カルチャーが大学の研究対象になると知った
大学はどのような道に進まれましたか。また、それはなぜですか。
京都大学の文学部は、文学部らしい変な自由があり(笑)、ここなら幅広く、のびのび学べると思ったのが志望理由です。大学へ入学して、当時二十世紀文化の象徴といえる映画・マンガ・アニメなどを扱える専修があることを知り、おもしろそうだなと思ってそこに進むことにしました。マンガや映画にもちゃんとロジックがあって、読み解いていけば言語化して伝えることができることを学びました。ポピュラー・カルチャーが大学の研究対象になるとは思わなかったので、今まで娯楽として接し、論理的に読み解くことがなかった作品を、言葉に置き換えて論じることができるのはとても新鮮でした。
大学の卒業論文では、中学生の頃に読んだ手塚治虫の初期作品を論じ直してみることで、これまでとは違うマンガ史をひもとくことができたらおもしろいかなと思って題材に選んでいます。さらに大学院の博士論文は特撮映画を題材に、作品がどんなふうに受容されたのかを通じて、ポピュラー・カルチャーと社会との関係を見つめ直しました。
漠然と感じていた作品の魅力を論理化・言語化して議論できる
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
「ポピュラー・カルチャー研究」は、自分の知っている作品に、違う角度から光が当たることが一番おもしろいですね。自分が漠然と感じていた作品の魅力も、論理的に言葉にすることができる。すると、もう少し物事が見やすくなり、自分の論理的な言語化スキルも上がっていくことが、この研究のいいところなのかなと思います。
文学作品や哲学、歴史についてディスカッションする場合、まず学生全員が作品や文献を読み解き、議論できるだけの知識を身につけなくてはいけないですよね。でも、ポピュラー・カルチャーに関しては、この作品ならみんな論じられる、なんとなく知っているという作品を共有しやすく、これはこうも観られる、いや、こう観たほうがいいんじゃないか、といった大学生らしい活発な議論をスムーズに行うことができます。学生に議論の喜びを感じてもらうことができる可能性が高いのも、ポピュラー・カルチャー研究のいいところだと思います。
だから、私の授業では、できるだけ学生主体でディスカッションできるようにしています。例えば、声優雑誌の記事の変移から、声優という文化のあり方そのものが変わっているという発表をした学生がいましたが、私自身も声優の研究書は読んだことがなかったので、勉強する良い機会になりましたね。
自分の好きなものに浸ってスキルや感性を磨いていく
文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。 読者へのメッセージをお願いします。
文学部の学びは、語学以外は必修科目が少なく、学生が自分で選択科目を組める自由さが魅力。とりあえず自分の好きなものに浸って、そのうえで、どうやったら普遍的な形で言葉にできるか、自分を見つめ直しながらスキルや感性を磨いていくことができると思います。世間的な価値ではなくて、自分が論じたいことを選んで邁進できる人が文学部に向いている気がしますし、私も、そういう学生であれば、例外なく議論ができて楽しいと思います。
このマンガや映画が本当に大好きで、これについて語ったら誰にも負けない、という作品がある人、ポピュラー・カルチャーを心から好きな人は、ぜひ私の研究室にきてほしいですね。
経歴
2009年 京都大学 文学部 基礎現代文化学系二十世紀学専修卒業
2014年 京都大学大学院 文学研究科 現代文化学専攻二十世紀学専修 単位取得認定退学
2015年 京都大学大学院 文学研究科にて、博士(文学)の学位を取得
2016~2019年 東京成徳大学 人文学部 助教
村上 信明 先生
歴史は暗記科目じゃない!東アジアの歴史から学ぶ「人の営み」としての歴史
村上 信明 先生
歴史は暗記科目じゃない!東アジアの歴史から学ぶ「人の営み」としての歴史
シルクロードから民族問題へ。留学で見つけた研究テーマ
「歴史は暗記科目だから苦手」
みなさんは学問としての「歴史」について、このようなイメージを持っていませんか?確かに高校までの歴史の授業は暗記が中心の、地味な科目として捉えられているでしょう。ですが、私はそうは思いません。歴史とは人間の営みそのもの。人間がどのように社会を作ってきたのかを考察できる、非常に刺激的な学問だと考えています。私は歴史の中でも東洋史を専門に、主に17~19世紀の中国(清朝)の国家体制や民族政策について研究しています。
歴史に関心を持ったきっかけはなんですか。
東アジアの歴史に関心を持つようになったきっかけは、子どもの頃に「NHK特集 シルクロード」や「人形劇 三国志」・「漢詩紀行」(ともにNHK)といった番組を見たり、西田敏行さん、佐藤浩市さん出演の映画「敦煌」(原作は井上靖『敦煌』)を見て、シルクロードや中国にあこがれを抱いたことでした。それでも高校1年生までは、工業大学出身の父の影響もあり理系に進学するつもりでしたが、シルクロードや中国の歴史を本格的に学びたいという思いには勝てず、歴史学を学ぶために文学部を選びました。
大学に入学した当初は社会科の先生になろうと考えていたのですが、大学3年次が終わったあとに中国の新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにある新疆大学に留学したことで、私の人生が大きく変わることになりました。
新疆大学に留学したのは、子どもの頃から憧れていたシルクロードの現地で生活をしてみたいと思ったからです。しかし、留学先で目にしたものは、現在のウイグル問題につながる民族問題の現実でした。あこがれの地で目にした現代中国の抱える暗部に直接触れたことで、中国の民族問題の歴史を本格的に研究したいと考えるようになりました。そこで筑波大学大学院に進学し、この地に「新疆」という名称がつけられた清朝時代の研究をするようになり、現在にいたっています。
偉人だって間違える。歴史に見る「人間らしさ」が面白い
研究の面白さを教えてください。
研究の魅力は、一人ひとりの人間が歴史を動かしていると感じられる点です。歴史を勉強すると国家や経済など、社会構造によって歴史が展開しているように感じることがあります。ですが注意深く研究していくと、そのような歴史の中に、一人ひとりの生きた人間の存在が見えてくるんです。彼ら・彼女らは英雄的な活躍をすることもあれば、大きく間違えてしまうこともあります。そのような「人間らしさ」によって我々の社会が動いていると実感できる瞬間が研究の魅力です。
歴史を振り返ると、時には一人の判断が歴史を変えてしまうこともあります。そう考えると、この記事を読んでいる高校生の方も、未来の歴史を動かす一人になるかもしれませんね。
マンガと史実を比較してみると?多様なアプローチで中国史の魅力に迫る
ゼミの内容について教えてください。
私のゼミは東アジアの歴史を勉強するゼミと考えていただいて問題ありません。特に学生の関心が高い分野は人物研究です。例えば始皇帝は、マンガや小説でも人気のキャラクターです。では、実際はどのような人物だったのでしょうか?ゼミ生のなかには、フィクションに登場するキャラクターと史実の人物像を、歴史的な資料を基に比較研究する学生もいます。
他にも儒教などの思想をテーマにすることもあり、年度によって柔軟にカリキュラムを変えています。東アジアの歴史に少しでも興味をお持ちの方は、ぜひ参加していただければと思います。
歴史はビジネスにも役に立つ?「曇りなき眼(まなこ)で見定める」ために、歴史から学べること
文学部で学ぶ魅力について教えてください。
創価大学文学部は、幅広い分野を学ぶことができます。授業を選ぶ際は文学部のテーマである「人間の営み」をぜひ意識してください。歴史はもちろん、哲学や文学など、全ての分野は一貫して人間の営みを扱っています。一つの分野だけでなく、様々な分野に触れることで、人間の営みについての理解、つまりは人間理解を深めることができます。そのような視点があるだけで、文学部での学びがより意味のあるものになるのではないでしょうか。
特に歴史を学ぶことは、どのように役立つのでしょうか。
企業の経営者の方には、歴史好きの方が多いです。それはきっと歴史の勉強が「時代の流れを読む」ことにつながるからだと思います。歴史上の偉人たちは、世界の運命を変えるような決断を行ってきました。人生の難関にいかに立ち向かい、決断し、それを乗り越えていくのか。歴史の勉強は、判断力や決断力などの実践的な「生きる知恵」を身につけられる学問だと私は思っています。
…こういう人生訓のような話って、若いときにはピンと来ないかもしれません。でも、今はわからなくても大丈夫です。いつの日かきっと歴史から学んだ知見が、あなたの背中を押してくれる日が来るはずです。自分の人生を自分で決断できる大人になりたい。そう考えている方は、ぜひ歴史を学んでみてはいかがでしょうか。
経歴
創価大学 文学部 人文学科 卒業
筑波大学大学院博士課程人文社会科学研究科 修了
山岡 政紀 先生
同じ言葉でも意味が違うのはなぜ?言語学の観点から言葉と社会のつながりを探究
山岡 政紀 先生
同じ言葉でも意味が違うのはなぜ?言語学の観点から言葉と社会のつながりを探究
「教科書を読んでもわからない」奥深い言語学の世界に出会った学生時代
中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中高生の時はクラシック音楽と古典文学に熱中していました。当時は寮生活だったのですが、クラシック音楽を聴いたり、平家物語や今昔物語などの説話集を原文で読んだりすることに没頭していて、寮では少々変わり者扱いをされていましたね。
研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学でも古典文学について勉強したいと考えていましたが、何故か文学系ではなく言語学系の学科に入ってしまったんです。しかし、私が幸運だった点は、言語学の著名な教授陣の刺激的な講義を受講できたことです。彼らの講義に感銘を受け、古典文学よりも現代語の文法理論を探究する方が面白くなりました。
言語学の世界に触れて驚いたことが、大学の教授ですら分からない事象がたくさんあることです。それまでは教科書の中に答えが書いてあって、それを覚えれば良かったのですが、大学での勉強では、答えがわからないことを勉強しなくてはいけません。教科書の中に書いてある正解は、既に先人たちが作ってくれたものですが、研究では自分が初めて未知の領域に踏み込みます。そのような創造性こそが研究の醍醐味ですね。とても難しいけれども、やりがいがあります。私にとって言語学の研究とは、常に知的な充実感を与えてくれるものなのです。
「言語の中に閉じていない言語学」語用論の面白さとは
先生の専門分野について教えてください。
私の専門分野は言語学の中でも「語用論」と言って、対人コミュニケーションにおける言語の働きを研究する学問です。語用論は話者や会話の文脈など、言葉の背景にあるもの全てを考慮する点が特徴です。
例えば結婚式の招待客がウェディングドレス姿の花嫁に向けて「とてもお綺麗ですね」と発言したら、普通はほめ言葉と受け取られるでしょう。しかし、同じ言葉でも別のシチュエーションではハラスメントだと言われたり、皮肉やマウンティング(上から目線)と取られたりして嫌がられる場合もあります。このように、同じ言葉でも文脈や状況によって伝わる意味が大きく異なってしまうのです。
語用論ではこのような言葉の働きについて、日常生活の中で人間関係がどのように構築され、その中で言語コミュニケーションがどんな役割を果たしているのかを総合的に研究しています。つまり語用論は「言語の中に閉じていない言語学」と表現できるでしょう。社会学や心理学、人類学、日本語以外の言語など、他分野の理論を参照する必要があります。大変ではありますが、これもまた語用論の面白さであると思います。
「エモい」はどんな感情を表すのか?言葉の全てが研究の対象に
ゼミの内容を教えてください。
私のゼミでは日本語の日常的な表現のなかから、「この言葉は何故こんな表現をするのだろうか?」と疑問に思う言葉を見つけてもらい、それを言語学的アプローチで研究します。
研究の方法ですが、まずは調査のテクニックを徹底的に勉強します。コーパスという言語の巨大データベースで調べる方法に始まり、アンケート調査やインタビュー調査などを用いる場合もあります。
ゼミの内容がイメージしやすいよう、実際に学生の研究テーマを参考にしながら紹介していきましょう。例えば、ある学生は若者言葉の「エモい」の意味を調査しました。昨今、この「エモい」をよく耳にしますが、まだ辞書には載っていません。そこでアンケート調査をして、映画や音楽などの感動的な作品をほめる文脈で用いられることが多い、ある種のほめ言葉だということを報告してくれました。
このように、言語学ではみなさんが何気なく扱っている言葉の一つひとつが研究テーマになります。言語学は心理学やジェンダーなど多彩な分野にまたがる研究分野なので、言葉という身近な存在を新しい視点から考え直すことができるはずですよ。
どんな学びも「人」に行き着く幅広い知見に触れることが、仕事や人生に役立つ
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
創価大学文学部で学ぶ学問は、全て人間を探究する学問であるという点が共通しています。例えば私の専門分野である言語学で言えば、言語とは人間の人間たるゆえんであり、言語を知ることは人間を知ることにつながるわけです。
将来的にどんな分野に進んだとしても、必ず人間と接することになります。例えば企業に入って商品開発をするなら、どんな商品が人々に求められるかを考える必要があります。そういった時に、創価大学で「人間とは何か」を探究した経験が活かされるのではないでしょうか。創価大学文学部では様々な分野の学びを通して、自分の興味・関心を深めることができます。手前味噌かもしれませんが「自分が学生だったら、こんな学部で学びたかった」と思えるような学部だと強く思います。
経歴
創価高等学校
1985年 筑波大学 第一学群人文学類 卒業
1989年 筑波大学大学院 博士課程 文芸・言語研究科言語学専攻単位取得退学
筑波大学 文芸・言語学系助手、創価大学文学部講師、助教授を経て、2004年4月より現職
山中 正樹 先生
近現代日本文学で描かれる非現実の世界などを分析し、考察していく
山中 正樹 先生
近現代日本文学で描かれる非現実の世界などを分析し、考察していく
川端康成の描く美を中心に村上春樹や川上弘美も研究
研究内容の基本情報を教えてください。
専門分野は、近現代日本文学・国語教育学・文芸批評理論・現代思想(認識論)。川端康成を中心とした大正・昭和期の日本語小説、現代文学では村上春樹や川上弘美などについても研究しています。最近は、言語では表現できない世界や、感覚では捉えられない世界を描く作家の作品や文学について、脳科学や認知神経論・精神分析学、量子力学や唯識論の知見に基づいた分析も行っています。
高校の授業がおもしろくて芥川龍之介にはまった
中学~高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
小学生のときは勉強が嫌いで、中学の成績はほとんど3でした(笑)。小学校の同級生は、私が大学の教員をやっていることに驚いていますよ(笑)。ただ子どもの頃からよく本を読み、シャーロック・ホームズを筆頭に、推理小説がめちゃくちゃ好きでした。高校では現代国語の授業がとてもおもしろく、そのおかげで文学に興味をもち、芥川龍之介にはまって、ほぼ全部の作品を読破。そのとき大学の国文科で芥川龍之介の研究をしたいと思ったのが、この世界に入るきっかけですね。
第二志望の哲学科入学が研究にも教員にもつながった
大学や大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
大学受験では、南山大学の文学部 国文科(当時)が第一志望でしたが、入試当日に38.8℃の熱をだしてしまい、世界史のヤマが外れたこともあって、第二志望の哲学科(当時)に入学。私は現在、哲学的な観点から文学を捉えるなど、一般的な文学者とは違う研究スタイルをとっていますが、哲学科で学んだことが役に立っていると思います。
実をいうと最初は教員になる気は全くなかったんです(笑)。国文科の授業に出たいと思ったけれど、当時は学科を超えた科目選択ができず、哲学科の学生が国文科の授業を受けるには、国語の教職を取るしかありませんでした。哲学科だと社会の教職も取らなければいけなかったから、104単位で卒業できるところ、164単位も取ったんですよ。そこまで苦労したんだから教員免許だけはもらおうと教育実習に行き、そこで教員の仕事の素晴らしさを知って、教員になろうと決めました。人生は無駄がなく、不思議だなあと思いますね。
大学卒業後、高校の教員になりましたが、やっぱり国文学の研究をしたくなって。全日制高校の教諭として3年間勤めた後、定時制高校の教諭をしながら名古屋大学の研究生として文学の勉強をさせてもらい、その後、大学院に進学しました。
この世にはない幻想的な美の世界に魅力を感じ、解き明かしたくなった
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
大学2年次に受けた国文学の授業が非常におもしろく、そこから川端康成に興味をもち、大学院では本格的な研究対象にしました。川端康成は日本的な美を描いたといわれていますが、作品に描かれる美がとても不思議です。大きな氷の柱の真ん中で青白い炎がチラチラ燃えているようなイメージが湧いたんです。現実にはありえませんよね。相反するものが絶妙なバランスをとりながら両方に存在している。そんな川端康成の文学に惹かれ、その美を解き明かしたいと思って研究を始めました。
私が一番惹かれたのは、『雪国』の中で「この世ならぬ美」と書かれているような、この世にはない幻想的な、非現実の美の世界。現実と非現実が背中合わせというか、同時に存在しているような世界を描いているところが、川端文学の魅力だと思います。
現代の作家でも、例えば村上春樹は『1Q84』で、1984年の世界と全く同じだけれど異次元のパラレルワールドを、「1Q84」年のこととして描いています。非現実の世界、人間の深層心理、目に見えない世界を作家がどうとらえて、どう描いているか、それがとてもおもしろいですね。
自分の好きな近現代文学を分析して論文に仕上げる
ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは、まず3年次にいろいろな方法論を勉強します。作品論や作家論、伝記研究、文学理論などの論文を読み、近代文学を分析するための手法を学びます。4年次には自分の好きな作品を選んで分析し、卒業論文につなげていく。教員を目指す学生は、国語教育を意識し、この教材で子どもに何を伝えるのかを考えます。
国語の教科書に載っている『羅生門』や『走れメロス』の講義もしますが、中学や高校の授業とは全く違う読み方を示しているので、ビックリしたり、感心したり、そこから文学研究に興味をもつ学生も多いですね。
自分の好きなことを見つけて疑問をもって探究してほしい
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
学生には「好きなことを見つけなさい」とよく言います。私のような勉強が得意じゃなかった人間が教員になれたのは、好きなことを見つけて、それに打ち込むことができたからだと思います。
現代は、まわりにたくさんの情報があふれているけれど、それを鵜呑みにするのではなく、自分の目で見る、あるいは多面的・多角的に物事をとらえて、自分の頭で考えることができるようになってほしいです。
文学部にはいろいろな学びがあるので、大学に入ってからやりたいことを見つけることもできますが、自分が興味や関心のあることを高校生のうちに見つけておくと、さらに大学の勉強が楽しく深くなると思います。常に問題意識をもって世の中や自分の身のまわりを眺めて、どうしてこうなるのか疑問をもって探究する姿勢をもってほしいですね。
経歴
1985年 南山大学 文学部 哲学科卒業
1996年 名古屋大学大学院 文学研究科 国文学専攻単位取得満期退学
職歴
愛知県立高等学校 国語科教諭の後、豊田短期大学 日本文化学科講師・桜花学園大学 人文学部准教授・創価大学准教授を経て、2012年4月より現職。
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