寒河江 光徳 先生

文学の表現技法を研究。古今東西の作品に触れ、芸術性を感じ取る

ナボコフを中心に文学の表現技法を研究

研究内容の基本情報を教えてください。
ロシア文学を中心にした文学研究に取り組んでいます。文学研究といっても作品のストーリーやテーマではなく、どのような文学的、言語的技法が用いられているのかを研究しています。端的に言えば「思想よりも技法」と表現できるでしょう。特に力を入れて取り組んでいるのが、ウラジーミル・ナボコフの作品研究です。

高校時代、柔道と英語漬けの毎日

高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
あまりにもネクラな高校時代。あまり思い出したくない過去です(笑)。

意外だとよく言われますが、柔道部に所属しておりました。辛いしごきに耐えながら、毎日生き延びるのがしんどくて、朝が来ないようにと眠れぬ夜を過ごしました。あまりにも辛すぎて、いい思い出はありません。

部活のあと、体はクタクタでしたが、読書や英語の学習は欠かしませんでした。英語はイングリッシュ・アドベンチャーやFEN、そして、文化放送の『百万人の英語』をほぼ毎日欠かさず聴いておりました。夜中の1時半から2時までほぼ毎日です。原書で小説を読むことも高校時代に経験しました。ジャック・ロンドンやヘミングウェイの小説を読んでおりました。

もう一つの思い出は、ロシア人との交友です。創価大学に留学していたモスクワ大学の学生が親戚の家にホームステイすることになり、4人のロシア人と交流しました。当時はソ連時代でしたので、ロシア人と関われるのは稀なことでした。今思えばロシア語を学ぶきっかけも高校時代にあったと思います。

モスクワ大学への留学が人生の転機に

研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学では法学部に進学しました。当時の私は「もっと英語以外の分野を勉強した方が良いのでは」と考えていたからです。ただ、本当に好きな分野は語学や文学でした。自分の気持ちをあえて無視して進路を選んでしまったんですね。
どこかモヤモヤした気持ちを抱えながら大学生活を過ごす中、モスクワ大学に1年間留学することが決まりました。そこで出会ったのが、多言語を勉強する学生の姿でした。特にヨーロッパの学生は多言語を学ぶ意欲が強く、ロマンス諸語やスラヴ諸語、そして、ラテン・ギリシャ語や古代教会スラブ語など。現在では使われていない言語を学ぶのが当然という学習環境の違いに驚きました。「言語や文学について学びたい」という気持ちが強かった当時の私にとって、衝撃的でもありました。かねてから興味を持っていた言語や文学、特にロシア語について学ぶ決心がつき、帰国後に別の大学で新たなスタートを切ることになります。

「領域を横断した作家」ウラジーミル・ナボコフの魅力

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
ウラジーミル・ナボコフはロシア出身の作家でありながら1919年にヨーロッパに渡り、主にアメリカを舞台に活動しました。それでいながら作品の執筆には英語、ロシア語、フランス語などを使い分けていました。つまり、彼を研究する上ではロシア文学やアメリカ文学といった、国民文学の枠組みが揺らいでしまうんです。さらに言えばナボコフは自然科学者でもあるため、人文科学と自然科学を横断した研究も可能です。このように、ナボコフという一人の文学者を通して、様々な領域を横断できる点が最大の魅力だと思います。

プロ作家からお笑い芸人まで。幅広い分野でゼミ生が活躍

ゼミの内容を教えてください。
ボストン大学での講義の様子
ボストン大学での講義の様子
ゼミでは文芸批評理論を扱っています。文芸批評理論とは、文学や映画などを対象に、作品の内容や読み方について研究する分野です。

研究対象は文学、ポップミュージック、アニメなど多岐にわたりますが、条件として何らかの比較研究を行ってもらいます。例えば日本文学を対象にする場合は外国文学などと比較することで、新しい視点から作品を読み解いていきます。これは私が取り組んでいるナボコフ研究のアプローチを学生にも体験してもらうことで、比較研究の面白さを感じてほしいという趣旨で実施しているものです。

ゼミの卒業生の進路は臨床心理士、言語聴覚士、弁護士、テレビ業界、お笑い芸人など多岐にわたります。また私の専門である文学方面では、大手の出版社で文学賞を受賞したプロ作家を2名輩出しています。文芸評論に興味のある方は、ぜひゼミに参加してください。
 
ゼミでは文芸批評理論を扱っています。文芸批評理論とは、文学や映画などを対象に、作品の内容や読み方について研究する分野です。

研究対象は文学、ポップミュージック、アニメなど多岐にわたりますが、条件として何らかの比較研究を行ってもらいます。例えば日本文学を対象にする場合は外国文学などと比較することで、新しい視点から作品を読み解いていきます。これは私が取り組んでいるナボコフ研究のアプローチを学生にも体験してもらうことで、比較研究の面白さを感じてほしいという趣旨で実施しているものです。

ゼミの卒業生の進路は臨床心理士、言語聴覚士、弁護士、テレビ業界、お笑い芸人など多岐にわたります。また私の専門である文学方面では、大手の出版社で文学賞を受賞したプロ作家を2名輩出しています。文芸評論に興味のある方は、ぜひゼミに参加してください。
 

言葉を、文化を読み解く力が豊かな人生のヒントになる

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
文芸作品を読むことで身につく力のひとつが、物事を多面的に読み解く力です。言葉通りに物事を捉えずに、裏側に込められた意味を読み取る力ですね。物事を読み解く力があれば、おのずと物事を発信する力、すなわちコミュニケーション能力も磨かれます。文学研究を通して多様な言語、多様な文化的背景、そして多様な人生に触れる。そうやって世界を読み解く力を身につけ、人生を豊かなものにしていただければ嬉しいです。
<経歴>
1996年 東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学科 卒業
2005年 東京大学人文社会系大学院欧米系文化研究専攻スラヴ語スラヴ文学専門分野 修了

東京理科大学(非常勤)、創価大学(非常勤)を経て現職
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修