伊藤 貴雄 先生

卒業論文はカントにサブカルチャー、 古代ギリシャから現代まで!?
研究したいことから“自分”が見えてくる!

幅広い選択肢の中から自分の関心を発見して研究するゼミ

ゼミの内容について教えてください。
いろいろなジャンルの本が並んだ研究室の本棚
いろいろなジャンルの本が並んだ研究室の本棚
この研究室には、古今東西の哲学・歴史・文学・芸術と様々な分野の本を揃えています。中には国会図書館にない本もあります。
この本棚のように、学生にも、カントからサブカルチャー、古代ギリシャから現代までといった幅広い選択肢の中から自分が一番関心のあることを探究してほしいと考えています。

実際に、ゼミの学生は様々なテーマで卒業論文を書いていて、カントやルソーなどの近代哲学、ニーチェやアーレントなどの現代哲学、さらにはゲーテやユゴーなどのヨーロッパ文学、夏目漱石や中島敦などの日本文学を選ぶ学生、映画やアニメ、ゲームなどの哲学的考察に挑戦する学生もいます。

ゼミの時間には、プラトン、デカルト、カント、ショーペンハウアー、ニーチェなど西洋の哲学者のほか、彼らの思想を受容した明治以降の日本人を取り上げることもあります。哲学者のテクストを全員で議論しながら読むことで、自分自身の関心を発見し研究する手がかりを提供するよう心がけています。議論の中からこれまで気づかなかった新たな視点が生まれてくるのがすごく楽しいですね。

専門を決めきれなかったから何にでも繋がる哲学の道に

先生ご自身は、どのように大学や専門を決められましたか?
ドイツ、ヴァイマルのゲーテ・シラー像前で
ドイツ、ヴァイマルのゲーテ・シラー像前で
大学進学にあたり、歴史か哲学か、それとも文学か、自分の専門を決められずにいました。
もともと歴史、特に西洋史が好きでしたし、高校時代からゲーテ、シラー、ヘッセなどのドイツ文学も好きでした。特にゲーテの人間精神の奥深いところを神話的・宗教的シンボルを用いて描く、ちょっと複雑なところが好きだったんです。難解でしたが、若い時こそ、そういうものに惹かれてしまうことがありますよね。

また、美術や音楽などの芸術にも関心があり、ゲーテやシラーはベートーヴェンやモーツァルトとも関わりがあるため、ドイツ文学に関する学部や専攻に進めば芸術的な興味も満たされるかとも思いました。

そのような思いの中で、歴史と哲学を並行して学ぶことができ、なおかつ、‘人間の歴史は思想の歴史でもある’という理念に心惹かれて、創価大学文学部人文学科(当時)への進学を希望しました。

そこからさらに専門をしぼる時には、関心の全てに関係するものがいいと欲張ったために時間がかかりましたが(笑)、哲学を専攻することになりました。哲学はどんなテーマも包括し、論じることができる学問なんですね。「すべての道は哲学に通ず」と言っても過言ではないと思います。

研究人生の大きな財産になった

研究の道に進まれた経緯を教えてください。
大学入学後、学生寮で部屋に何千冊も本を積み上げている先輩と出会い、いろいろな読書案内をしてもらいました。そうした出会いから、自分の読書経験や知的関心はまだ狭かったと思い知ると共に、研究テーマや進路が徐々に形成されていった気がします。このような出会いや経験があるのが大学生活の魅力ですよね。

また、卒業論文を書くときにゼミの指導教授に勧められたカントの『純粋理性批判』も、いま振り返ると、大学ならではの出会いであり、後の人生においてかけがえのないものでした。

自分には非常に難解な書物でしたが、カントの業績は哲学だけでなく、文学、芸術、ひいては政治や経済、法律まで、多分野にわたって影響を与えていることを学びました。ベートーヴェンもカントの愛読者であの「第九」の作曲にもカント哲学の影響があったこと、カントの考えが発端の一つとなって「国際連合」が出来たことなど、現代を生きる私たちも直接的・間接的にカント哲学の恩恵に与かっていることを知りました。

時が経って卒業論文を読み直すと、いまの研究の萌芽のようなものが刻印されていて、拙いながら若き日の自画像になっていることに驚きます。卒業論文で得たものがいかに大きかったかを日に日に実感しています。

大学ではディスカッション授業や八王子を舞台にした学びを展開

現在、大学においてどのような活動や研究をされているのですか。
担当授業では“グレート・ブックス”といわれる人類的名著をディスカッションしながら学ぶ「対話的リベラルアーツ」という試みを行っています。

毎時間、対象とするテクストを基に、そこに綴られた考えは本当に妥当かと挑んだり、哲学者たちのロジックで現在の時事問題を考察したりする問いを通して、教員も学生も正解を持たない思考の旅を楽しんでいます。

また、課外活動としては、これまで八王子の街の人々と交流する企画を学生と共に行ってきました。

生誕200周年を迎えたシュリーマンの八王子来訪の史実から街おこしを試み、市内の書店で「学生選書コーナー」を設置しました。市民と学生が世代を超えて語り合う「はちおうじ哲学カフェ『学び愛』」では、市内の美術館や管弦楽団とコラボした企画も行ってきました。

試行錯誤、回り道、寄り道が自分自身をつくっていく文学部の学び

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。
様々な哲学・思想に触れ、社会経験も含めていろいろと試行錯誤し、ときに回り道や寄り道をしながら、自分が本当に知りたいことを探究していくのが文学部の魅力だと思います。

実をいうと、私自身もまだ自分が本当にやりたいこと、やるべきことが何なのか、分かり切っていない気がします。しかし試行錯誤も回り道も、全部養分となり材料となって、より納得の行く自分自身が作られるのではないでしょうか。私は、自分の来し方を振り返ってそう思います。

きっかけは書物か友人か、はたまたそれ以外か……どんな偶然の出会いから自分の知的関心に火が付き人生が動き出すのかは、誰にも分かりません。学生の皆さんには、自分の関心や視点、可能性を最初から狭く限定しないでほしいですね。

若いときに、色々な立場の多様な意見が飛び交う空間に身を置くのは、人生の可能性を豊かに広げ、深めゆく上で非常に大事なことだと思っています。

身近な環境を活かして自分の世界を広げてほしい

最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ここまで、私の経験を通しての‘大学での学び’や‘文学部での学び’の魅力を語ってみましたが、最後に、ここまで語ってきた‘学び’は、決して大学の建物の中や本の中だけでの学びではないことを伝えたいです。

例えば、創価大学のすぐ隣には東京富士美術館があったり、八王子駅に出ると駅近には8店も本屋さんがあったりと、大学内や机の前で出来ること以外にも様々な体験や経験が得られる‘環境’があります。また、東京都という場所は日本の中でも特に多くの文化的施設を擁する場所でもあります。

大学構内での人や本、学問との出会いと共に、自然的環境も文化的環境も地理的な利点もすべて“自分の世界を広げる刺激と経験である”と積極的に活用していっていただきたいですね。私の研究室の本も、ぜひ読みに来てください!
<経歴>
関西創価高等学校卒業
1996年 創価大学 文学部 人文学科卒業
2006年 創価大学大学院 文学研究科 人文学専攻修了。博士(人文学)
マインツ大学ショーペンハウアー研究所 客員研究員 などを経て現職
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修