山岡 政紀 先生

同じ言葉でも意味が違うのはなぜ?
言語学の観点から言葉と社会のつながりを探究

「教科書を読んでもわからない」奥深い言語学の世界に出会った学生時代

中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
中高生の時はクラシック音楽と古典文学に熱中していました。当時は寮生活だったのですが、クラシック音楽を聴いたり、平家物語や今昔物語などの説話集を原文で読んだりすることに没頭していて、寮では少々変わり者扱いをされていましたね。
研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学でも古典文学について勉強したいと考えていましたが、何故か文学系ではなく言語学系の学科に入ってしまったんです。しかし、私が幸運だった点は、言語学の著名な教授陣の刺激的な講義を受講できたことです。彼らの講義に感銘を受け、古典文学よりも現代語の文法理論を探究する方が面白くなりました。

言語学の世界に触れて驚いたことが、大学の教授ですら分からない事象がたくさんあることです。それまでは教科書の中に答えが書いてあって、それを覚えれば良かったのですが、大学での勉強では、答えがわからないことを勉強しなくてはいけません。教科書の中に書いてある正解は、既に先人たちが作ってくれたものですが、研究では自分が初めて未知の領域に踏み込みます。そのような創造性こそが研究の醍醐味ですね。とても難しいけれども、やりがいがあります。私にとって言語学の研究とは、常に知的な充実感を与えてくれるものなのです。

「言語の中に閉じていない言語学」語用論の面白さとは

先生の専門分野について教えてください。
私の専門分野は言語学の中でも「語用論」と言って、対人コミュニケーションにおける言語の働きを研究する学問です。語用論は話者や会話の文脈など、言葉の背景にあるもの全てを考慮する点が特徴です。

例えば結婚式の招待客がウェディングドレス姿の花嫁に向けて「とてもお綺麗ですね」と発言したら、普通はほめ言葉と受け取られるでしょう。しかし、同じ言葉でも別のシチュエーションではハラスメントだと言われたり、皮肉やマウンティング(上から目線)と取られたりして嫌がられる場合もあります。このように、同じ言葉でも文脈や状況によって伝わる意味が大きく異なってしまうのです。

語用論ではこのような言葉の働きについて、日常生活の中で人間関係がどのように構築され、その中で言語コミュニケーションがどんな役割を果たしているのかを総合的に研究しています。つまり語用論は「言語の中に閉じていない言語学」と表現できるでしょう。社会学や心理学、人類学、日本語以外の言語など、他分野の理論を参照する必要があります。大変ではありますが、これもまた語用論の面白さであると思います。

「エモい」はどんな感情を表すのか?言葉の全てが研究の対象に

ゼミの内容を教えてください。
私のゼミでは日本語の日常的な表現のなかから、「この言葉は何故こんな表現をするのだろうか?」と疑問に思う言葉を見つけてもらい、それを言語学的アプローチで研究します。

研究の方法ですが、まずは調査のテクニックを徹底的に勉強します。コーパスという言語の巨大データベースで調べる方法に始まり、アンケート調査やインタビュー調査などを用いる場合もあります。
ゼミの内容がイメージしやすいよう、実際に学生の研究テーマを参考にしながら紹介していきましょう。例えば、ある学生は若者言葉の「エモい」の意味を調査しました。昨今、この「エモい」をよく耳にしますが、まだ辞書には載っていません。そこでアンケート調査をして、映画や音楽などの感動的な作品をほめる文脈で用いられることが多い、ある種のほめ言葉だということを報告してくれました。

このように、言語学ではみなさんが何気なく扱っている言葉の一つひとつが研究テーマになります。言語学は心理学やジェンダーなど多彩な分野にまたがる研究分野なので、言葉という身近な存在を新しい視点から考え直すことができるはずですよ。

どんな学びも「人」に行き着く幅広い知見に触れることが、仕事や人生に役立つ

最後に、読者へのメッセージをお願いします。
創価大学文学部で学ぶ学問は、全て人間を探究する学問であるという点が共通しています。例えば私の専門分野である言語学で言えば、言語とは人間の人間たるゆえんであり、言語を知ることは人間を知ることにつながるわけです。

将来的にどんな分野に進んだとしても、必ず人間と接することになります。例えば企業に入って商品開発をするなら、どんな商品が人々に求められるかを考える必要があります。そういった時に、創価大学で「人間とは何か」を探究した経験が活かされるのではないでしょうか。創価大学文学部では様々な分野の学びを通して、自分の興味・関心を深めることができます。手前味噌かもしれませんが「自分が学生だったら、こんな学部で学びたかった」と思えるような学部だと強く思います。
<経歴>
創価高等学校
1985年 筑波大学 第一学群人文学類 卒業
1989年 筑波大学大学院 博士課程 文芸・言語研究科言語学専攻単位取得退学

筑波大学 文芸・言語学系助手、創価大学文学部講師、助教授を経て、2004年4月より現職
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修