井上 大介 先生

「民」の中で育まれた文化を探求!
文化人類学の観点から人間の営みについて学びを深めよう

差別や抑圧の中で生まれたメキシコ〜ラテンアメリカの民衆文化を研究

研究内容の基本情報について教えてください。
私の専門分野は文化人類学です。その中でもメキシコをはじめとするラテンアメリカの宗教文化を中心に研究しています。民衆が差別の中でいかに主体性を維持し、独自の文化を形成していくのかを研究しています。

語学研修で訪れたメキシコで文化人類学に開眼

中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
私の高校3年間を端的に表せば、サッカーと読書の毎日でした。特にドストエフスキーやヴィクトル・ユゴーなどの世界文学に傾倒しており、トルストイの「戦争と平和」を初めて読んだ際の衝撃は今でも忘れられません。

当時は社会科の先生になりたいと思っていたので、大学では社会学系の学部に進学しました。しかし、大学1年生の時に短期語学研修で訪れたメキシコでの経験が人生の転機になりました。メキシコをはじめとするラテンアメリカ諸国の暮らしや文化、そしてスペイン語の勉強に夢中になり、その後も大学4年生の時にアルゼンチンとグアテマラに留学しました。

最初にメキシコを訪れた目的は語学留学でしたが、次第に私の興味はラテンアメリカの宗教文化に移っていきました。それを出発点に文化人類学を研究するようになり、現在に至ります。

「制服ディズニー」も文化人類学? 外国の歴史から身近な生活までもが研究対象に

現在の研究内容について教えてください。
もう少し具体的に私の研究内容を紹介していきましょう。社会においては、支配する立場が「正統」だと定めたものが規範になります。そのため、支配される側、少数派の文化は正統性を与えられません。一方で被支配者はその影響を一旦は受け入れながらも、それを自分たちの生活に応じて流用することがあります。

例えばメキシコはスペインによって支配され、カトリックが布教されました。しかし、一見カトリックを受け入れつつ、根底ではマヤやアステカの宗教を連綿と継承しているケースがあります。このような支配者の宗教や文化、言語との共生を図る民衆文化の可能性を探ることが私の研究テーマです。
もう少し身近なレベルで言うと、日本の学校教育における学生服の文化にもこの理論を当てはめることができます。学生服とは本来、学校=支配者側が自分達の規範を押し付け、学生を統制する目的で導入されたものです。しかし、学生はそれをただ受け入れるのではなく、独自の「制服ファッション文化」として発展させていきました。実際、近年では学生服でディズニーランドなどのアミューズメント施設に行く行為が娯楽として消費されています。

このような状況によって今では、支配者側の想定とは異なり、教育と学生服という記号論的結びつきが弱まっています。この事例はまさに、支配される人たちの文化的な抵抗と捉えられるのではないでしょうか。このように、文化人類学とは遠い外国の文化を勉強するだけではなく、自分達の生活に関連させて考えることができる、非常に刺激的な学問と言えます。

「当たり前」を疑うことが発見の第一歩。ゼミで文化人類学の魅力を体験してほしい

ゼミの内容について教えてください。
ゼミでは文化人類学を勉強したい学生を中心に、幅広いテーマをサポートできる体制で臨んでおります。私のゼミで行う恒例のカリキュラムが「東京研修」です。これは「東京はいかに記号的に表現され、それを消費させているのか?」というテーマで、観光地や博物館、神社などを巡る研修です。お馴染みの観光スポットを文化人類学的に観察することで、新鮮な発見を共有してもらうわけです。

夏には沖縄合宿を開催します。ここでは戦争の歴史がいかに観光資源化され消費されているのかをテーマに、フィールド調査を行います。他にも年度によっては沖縄の米軍基地問題など多様なテーマを扱います。

このようなフィルードワークに注力している理由は、文化人類学では質的調査が重視されるからです。質的調査とは一人ひとりと向き合ってインタビューしたり、観察したりする調査を指します。そのため私のゼミでも質的調査を重視し、卒業論文でも何らかの調査を前提としています。今はインターネットで簡単に情報が手に入る時代ですが、自分の足で「現場」を歩いて調査をする。それが私のゼミの伝統です。

一方で、ゼミ運営においては和気あいあいとした雰囲気を心がけています。近年はコロナ禍の関係で実施できていませんでしたが、年末に私の家で手料理を振る舞うことも恒例行事になっています(笑)。4年生と3年生の交流も多く、男女共に仲の良い雰囲気がゼミの特長だと思います。
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
私たちが当たり前だと思っている普段の暮らしも、長年の歴史や文化の積み重ねによって成り立っています。自分たちの生活について少し立ち止まって考えてみる経験は、あなたの生活をもっと豊かにしてくれるはずです。文化人類学は、そのような「当たり前を疑う」ことの第一歩になります。あなたも創価大学で、文化人類学の奥深い世界に触れてみませんか。
<経歴>
関西創価高校
1995年 創価大学 文学部 社会学科 卒業
2003年 メキシコ国立自治大学・大学院人類学研究科博士課程 修了(人類学博士)
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修