中堀 正洋 先生

民族の世界観が息づく「フォークロア」とは? 近くて遠い国、ロシアについて学ぼう

ロシアフォークロアの豊かな文化を研究

研究内容の基本情報を教えてください。
私の研究の専門はロシアフォークロアです。フォークロアは通常「民間伝承」や「口承文芸」などと訳され、特定の民族の中で語り継がれてきた、いわゆる昔話や英雄叙事詩、俚諺(りげん)、呪文、俗信など、伝承全般を意味します。しかし、ロシア語でフォークロアという場合は、生活文化や儀礼など、より広い対象を含みます。そのため大学院では、お葬式の時に女性たちが儀礼的に哀泣する「葬礼泣き歌」と葬送儀礼について研究しました。

私のフォークロア研究の対象は文字で残されていないケースもあるので、フィールドワークなど実践的なアプローチから民衆の生活様式や慣習を学び、そこから民族の文化や歴史についても知ることができます。この点が研究の大きな魅力です。

ソ連崩壊をきっかけにロシア語の世界に飛び込む

中学、高校ではどのような学校生活を過ごされましたか。
ロシア連邦トゥーラ市における国際学会にて。(2018年)
ロシア連邦トゥーラ市における国際学会にて。(2018年)
中学時代はサッカー漬けの毎日でした。語学に興味を持ったきっかけは、中学2年生の時に英語劇の大会に出場したことです。それまでは英語が得意ではなかったのですが、演劇を楽しみながら英語を学んだ結果、驚くほど成績が向上したんです。語学のみならず、新しい知識を学ぶことの楽しさに気付かされた経験でしたね。

外国語の中でもロシア語に興味を持ったきっかけは、当時の社会情勢による影響が大きいでしょう。私が学生時代を過ごした1990年代はソ連が崩壊し、周辺諸国が次々に独立、民主化の道を歩みはじめました。一連の出来事を10代で経験したことで、ロシアという国をもっと知りたいと思うようになりました。当時、ロシア語は欧米やアジアの言語に比べて専門家が少なかったこともあり、大学でロシア語を勉強しようと決めました。

ロシア人の世界観、死生観を知るにはどうするべきか? たどり着いたフォークロア研究という分野

研究の道に進まれたきっかけは何でしたか。
大学進学後はロシアに関する書籍を読み漁りましたが、どうもしっくりこなかったんです。私が知りたいことは、ロシア人がどんな風に生活をし、どんな考え方をして、どんな文化を持っているのか。つまり、経済や政治体制そのものではなく、それらを営んでいる「人」に行き着いたんです。そのような経緯でロシアの民衆文化に興味を持つようになりました。

そんな中、大学4年生の時にたまたまゼミの先生から『スラヴ吸血鬼伝説考』という本を紹介されました。ホラー映画などでお馴染みの吸血鬼に関して、スラヴ諸国のフォークロア資料を駆使し、バルカン半島にその起源があると論じたものです。私が興味を持っていた民衆文化の研究だったこともあり「ロシア語を使ってこんなアカデミックな研究ができるのか!」と、全身に衝撃が走りました。ロシアの民衆文化を研究したいという想いが強くなり、大学院への進学を決めました。
この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
明治の文明開化以降、日本におけるロシア研究は立ち遅れてきた感があります。現在でも、ロシアについてはまだまだ知られていないことも多いでしょう。だからこそ、ロシアを含むスラヴ世界に目を向けることによって、新しい視点からヨーロッパを研究することもできるはずです。ヨーロッパに興味を持っている学生にとっては、非常に刺激的な分野だと思います。

私は着任年度の関係でゼミの開講実績がありませんが(注:取材当時)、ゼミでもロシアのフォークロアや民衆文化をテーマにする予定です。ただ、ロシアではなくヨーロッパの民衆文化を研究したい人も大歓迎です。ロシアとの比較など、何らかの形でロシアという視点を入れることで、ヨーロッパを多角的に研究できるゼミにしたいと考えています。

充実した環境でロシア語を学び、世界平和に貢献できる人材を目指してほしい

文学部での学びは、どのようなところが面白いと思われますか。
現在、日本ではロシア語やロシアの文化について学べる大学はそれほど多くありません。そんな中、創価大学はロシアとの強い関係性を築いている数少ない大学です。創価大学は開学してすぐに旧ソ連の大学と学術協定を結んで交換留学制度を作り、お互いの留学生を受け入れてきた歴史があります。私自身も学生時代に約10ヶ月、モスクワ大学に留学をしました。このような学術協定を結んでいる日本の大学は非常に少なく、本学の大きな特色と言えます。

平和な世界を構築するためには相互理解が不可欠です。ロシアのウクライナ侵攻は、世界に大きな衝撃を与えましたが、そのことによってロシアの文学や芸術、また名もなき人々が営んできた民衆文化までもが否定されてはいけないのではないでしょうか。「ロシア・ヨーロッパ文化メジャー」では、近くて遠い国・ロシアの言語や文化、社会を専門的に学べる貴重な環境が整っています。一緒に学べる機会を楽しみにお待ちしております。
<経歴>
創価大学文学部外国語学科ロシア語専攻
創価大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程修了(博士:英文学)

DILA国際語学アカデミー(ロシア語講師)、創価大学(助教)、慶應義塾大学、中央大学、東海大学、早稲田大学、立教大学、法政大学(非常勤講師)を経て現職

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