藤倉 ひとみ 先生

英米文学作品からジェンダーやセクシュアリティについて考えてみよう

文学作品に描かれるセクシュアルマイノリティを読み解く

研究内容の基本情報を教えてください。
私の研究テーマは、英米文学を中心とした「クィア、ジェンダー、セクシュアリティにまつわる文学」の研究です。クィアとはセクシュアルマイノリティ全般のこと。社会学からではなく文学的観点からクィアにアプローチし、文学作品のなかに見られるセクシュアルマイノリティについて研究しています。

文学からクィア性を読み解くことで、時代・文化・宗教などの背景を考えながら、当時の作家がどこまで表現できたかや、タブー視されていることをそれでも書きたい・伝えたいという気持ちをくみ取るおもしろさがあると感じています。表現に制限があるため、同性愛は成就させられないとか、悲劇で終わらせないといけない、クィアを肯定できない、といったストーリーにせざるを得なかった作者の苦悩まで読み取ることができると、奥深さを感じますよ。

英語と映画が大好きで翻訳家の仕事に憧れていた

中学、高校ではどのような学生生活を過ごされましたか。
中学生の頃から英語が好きでした。とにかく英語の授業が楽しくて、高校では英語に特化したコースがある総合学科へ進学。ハリウッド映画を観るのも好きだったので、英語を使って映画に携わることができる翻訳家に憧れていました。

アメリカの映画を字幕なしで観られるようになりたいと、英語の勉強をがんばっていましたね。でも、マンガも大好きで、『花とゆめ』の由貴香織里先生がお気に入り。少年マンガも読んでいて、『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生が好きでした。

大学のゼミの先生の紹介でクィア文学に出会った

研究の道に進まれたきっかけは、何でしたか。
大学では英米文学を専攻して、3年次にアメリカ文学のゼミを受講。ゼミの先生の専門分野がアメリカのゴシック小説だったのですが、先生が薦めてくださる作品がおもしろく、特にゲイの作家によるクィア文学に非常に興味をもつようになりました。

今でこそ、LGBTQは広く認知されていますが、私が大学生だった当時は、まだそのような内容を学問として扱う先生は少なかったように感じます。クィア的要素は過去には時代背景やお国柄、宗教がからんでタブー視されたり、罪人扱いされてしまったりすることもあったので、うまく潜ませるとか、異性愛にみせかけるなど、文学作品のなかに秘かに描かれるということが多くありました。私はもともと幼い頃よりクィアについて関心を持っていましたが、学問として掘り下げる余地がある分野だということを大学時代のゼミの先生から教わり、そこからクィア文学にハマってしまったのです。

作家の表現力で描かれ方が変わるのがおもしろい

この研究分野の、どのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか。
文学作品を通じてセクシュアルマイノリティについて研究すると、作家の手腕や表現のしかたで描き方が変わるのを読み解くのが楽しいですよ。クィア性を隠さずオープンに書く作家もいれば、どうしてもクィアであることを知られたくない作家もいます。オープンな作家のなかには、作品の主題をクィアにおかない人もいます。例えば、自分は同性愛者だけど、それは大きな問題ではなく、むしろ作品の根幹となる部分は母親との関係性にあって、親子関係の満たされなさがメインテーマになっている、という作品など。LGBTQ当事者として知られていなかった作家だけど、作品を見るとシスジェンダーやヘテロセクシュアルでないがために悩んでいたり、罪意識を抱えていたりすることが明らかに、もしくは秘かに描かれていて、当事者の生きづらさが作品に現れることもあります。

また、同じ時代のアメリカ人作家と日本人作家の作品を比較してみると、その当時ではアメリカのほうがタブー視されていて、日本は寛容だったとわかることもありました。さらに現代ではどう捉えられているか、といったクィアの変遷をみていくのもおもしろいですよ。

英米文学で描かれるクィアを読み解き、当事者の話も聞く

ゼミの内容について教えてください。
ゼミの授業では、少し古い時代の英米文学からクィア作品をとりあげて、学生と一緒に読みながら、私が解説を入れつつ、グループディスカッションをします。また、映像資料を用いて、映画や演劇とその原作との比較も行ったりしています。そして、セクシュアルマイノリティの当事者の方を招いて、当事者がクィア作品を読んだらどう感じるか、当事者目線の感想を聞いて、学生が質問したり、意見交換をしたりする授業もあります。

自分が学びたいことを幅広い選択肢から見つけてほしい

文学部での学びは、どのようなところがおもしろいと思われますか。読者へのメッセージをお願いします。
文学部では、語学や哲学をはじめ、いろいろな分野を学ぶことができます。自分は何に興味があるか、さまざまな授業を受けることで、時間をかけて探していくことができるので、やりたいことがまだ見つかっていない人にもおすすめです。

クィアには独特なイメージがあって、抵抗感をもつ人もいるかもしれませんが、自分は当事者ではないけれど、ジェンダーやセクシュアリティに関心がある、理解したいという人は、ぜひ私の授業を受けてみてください。これからの時代、LGBTQは珍しいことではないので、正しく理解してほしいと思います。
<経歴>
2007年 宮城学院女子大学 学芸学部 英文学科 卒業
2014年 東北大学大学院 国際文化研究科 国際文化言語論専攻 博士後期課程 修了博士(国際文化)
東北文化学園大学(非常勤講師)、東北工業大学(非常勤講師)、順天堂大学(助教)を経て、現職
  • キャンパスガイド2023文学部
  • 英語DD
  • 中国語DD
  • 【留学日記】イギリス・バッキンガム大学 夏期語学研修
  • 【留学日記】インド・セントスティーブンカレッジ 春季語学研修