Vol.87

ケニアでスナノミ症治療プロジェクトを展開 貧困問題の解決が新たな目標に

杉原怜奈(すぎはられな)
法学部 法律学科 2024年9月卒業

 

アフリカ地域などで多くの人が苦しむ皮膚の感染症「スナノミ症」。在学中、インターン先の国際NGOでスナノミ症を知った杉原怜奈さんは、自ら資金を調達し、ケニアに滞在して治療プロジェクトを展開しました。3カ月間、治療を通して現地の人々と交流を深め、病気の背景にある深刻な貧困問題にも直面した杉原さん。アフリカに興味を持ったきっかけ、ケニアでの活動で得られたもの、さらに将来の目標などについて、お話を聞きました。

 

「スナノミ症」とはどのような病気ですか?

砂の中にいるスナノミという小さなノミが、足の裏や手のひらの皮膚に寄生することで起こる感染症です。感染すると気付かないうちに病気が進行し、歩行困難や手足の壊死を起こします。さらに、患部からの二次感染、全身の壊死、脳機能の低下などを招くこともある危険な病気です。

スナノミ症は、アフリカ地域などの乾燥した砂の上を裸足で歩くことで感染します。足を石けんで洗い、靴を履いていれば予防が可能で、病院に行けば治療もできるのですが、それさえままならない特に貧しい地域の人々の間で感染が拡大しています。しかし、政府機関による具体的な感染予防策や治療が行われず、世界的にもほとんど病気の存在が知られていないことから、WHOの「顧みられない熱帯病」の一つに挙げられています。

スナノミ症患者を治療する様子
スナノミ症患者を治療する様子

なぜスナノミ症の治療プロジェクトを始めたのですか?

私がスナノミ症を知ったのは、国際NGO日本リザルツが行っているスナノミ症対策プロジェクトがきっかけです。大学3年次から日本リザルツでインターンとして働いていたのですが、感染した子どもたちの足が腫れ上がり、歩けなくなっている写真を見て、本当に心が痛みました。よく途上国の問題は「自分事として考えることが大切」と言われます。しかし、日本人にとって当たり前の「靴を履く」ということができないだけで、子どもが病気になり、一生を奪われてしまう状況は、私にとって「自分事として考えたくても考えられない」ものでした。そのことがとてもショックで、この問題を少しでも解決するために、自分に何ができるのかを考えるようになりました。

元々、アフリカに行って現地の方と直接関わる活動をしたいという希望があり、思いついたのが、スナノミ症が蔓延している地域で治療や予防のキャンペーンを行うことです。スナノミ症をより多くの方に知ってもらうため、薬品や消毒液を購入する資金をクラウドファンディングで募り、当初の予定を大きく上回る160万円以上のご支援をいただいて実現にこぎ着けました。

現地の子どもたちと
現地の子どもたちと

現地で自ら活動することにこだわったのはなぜですか?

私は大学でパン・アフリカン友好会に所属していました。パン・アフリカン友好会は、スワヒリ語のスピーチコンテストや日頃の勉強会を通して、アフリカの歴史や政治、文化への理解を深めています。アフリカは貧困や紛争などネガティブな側面が注目されてしまうのですが、会の活動をする中で、そこに違和感を覚えるようになりました。実際には人々はもっと生き生きとエネルギッシュに生きているんじゃないか、現地にも行かずにアフリカのことを語ってはいけないんじゃないか、という思いが強くなり、「行ってみないと分からない。絶対に大学在学中にアフリカに行こう」と決心したんです。そこから、会う人会う人に「何が何でもアフリカに行きたいんです」と話していたところ、ゼミの先輩が日本リザルツを紹介してくださって、アフリカ行きに繋がりました。

パン・アフリカン友好会
パン・アフリカン友好会

現地では具体的にどんな活動を行ったのでしょうか?

ケニア西部のエスンバ村周辺で、2023年4~7月の3カ月間にわたり、学校や教会に患者さんを集めて治療するキャンペーンを展開しました。治療自体は難しくはなく、手足をきれいに洗い、現地のナースがメスで患部を取り除き、スナノミに効果的な薬を手足に塗るというステップで行います。1回あたり30~50名の患者さんが集まり、3カ月で合計約300人の患者さんを治療することができました。治療の数日後には、患者さんの家を一軒一軒訪問し、経過観察や、予防のため壁や床の消毒も行いました。

私には医療行為を行う資格がありませんが、逆に、資格がなくでもできることは何でもやりました。水を汲んできて足を洗ったり、薬を塗ったり――。治療中は痛みで子どもたちが泣いてしまい、大丈夫かなと心配したのですが、後日家を訪ねてみると足がきれいになっていて、治療の効果を自分の目で見て感じることができたのはうれしかったです。足の痛みがなくなって歩けるようになった、という声をもらえた時は、ここに来て本当によかったと思いました。

ただ、実際には「治ってよかった」という反応よりも、「足を治してもらっても、明日生き延びられるか分からない。もっとご飯やお金がほしい」という反応の方が多かったというのが、正直なところです。

スナノミ症患者が足を洗う様子
スナノミ症患者が足を洗う様子

病気の治療だけでは解決できない、貧困の問題ですね。

そうなんです。スナノミ症で足がボロボロになると働くことができませんし、差別や偏見もあります。治療した患者さんの中には、何日も食事を摂れていない人、明日食べるものがないという人もいました。重症化して意識障害を起こし、会話もできなくなっている方もいました。治療のほかに、彼らが必要とするものはたくさんあります。私自身「どうしたらいいんだろう」と悩みながら、今自分ができることに力を尽くすほかないと思って活動していました。また、本来そうした人を救うのは政治の役割なのですが、弱者に対する施策が全くなされていないという現実も痛感しました。

ケニアに行く前は目を向けていなかった、そうした厳しい現実を直視し、どのような社会をつくっていかなければならないかを考えるようになったことは、私にとって大きな変化だったと思います。

スナノミ症患者とコミュニケーションをとる様子
スナノミ症患者とコミュニケーションをとる様子

治療以外にも、現地で思い出に残っていることはありますか?

ケニア人と日本人は味の好みが似ているというのは、予想外でしたね。醤油を使って肉じゃがと鶏のから揚げを作って振る舞ったら、みなさん「おいしい」と喜んで食べてくれました。そういう点も「行ってみないと分からないこと」だったなと思います。

もう一つ思い出深いのは、ホームステイ先での自給自足の生活です。畑から自分で採ってきた野菜と、ついさっきまでその辺りを走り回っていたニワトリが夕食に並ぶような日常を過ごし、命をいただいている感覚、自然の恵みで生かされている感覚がとても強くなりました。法学部の地球平和共生コースで自然環境と人間の共存を学び、アフリカでは人が自然とともに生きる精神が色濃く残っているのではないかと考えていたので、それを現地で体感し、あらためて自然とともに生きる精神を大切にしたいと思うようになりました。

ケニアで振舞った唐揚げ
ケニアで振舞った唐揚げ

今後の進路や目標について教えてください。

来年4月から、化学品の専門商社で働く予定です。アフリカに行って感じたことの一つに「生活必需品が公正な価格で行き渡ることの大切さ」があります。生活を支える化学品を扱う商社を選んだのは、生活に必要な物が、公正な取引価格で、必要な人に行き渡る社会づくりに貢献したいと思ったからです。海外での業務を通して国際感覚を磨き、いつかアフリカに戻って仕事をすることを目標にしています。日本とアフリカの架け橋となり、自然災害、紛争、不安定な政治情勢など、混迷する社会に少しでも希望をもたらす存在になりたいと考えています。

ホームステイ先で
ホームステイ先で

創価大学への進学に興味を持つ後輩にメッセージをお願いします。

創大には、学内での活動で成果を挙げていたり、素晴らしい海外経験を持っていたり、本当にさまざまな学生が学んでいます。ぜひここでいろいろな人と話して、触れ合って、人との繋がりを広げてほしいと思います。そして、自分が興味を持ったこと、心を動かされた瞬間を大切にし、恐れずチャレンジして大きく成長してほしいです。

今年のオープンキャンパスで、スナノミ症の治療プロジェクトのお話をする機会をいただいたのですが、聞いてくれた高校生が「私もアフリカで人を助けたいから創価大学に入りたいです。そのために勉強を頑張ります!」と伝えに来てくれて、すごく嬉しかったですね。今の時代、自分さえよければいい、という風潮もあるように思いますが、困難の多い時代だからこそ、広い視野で平和への希望を持ち続けなければならないと思っています。ぜひみなさんも創大で学び、社会にとって、また平和にとって必要とされる人材になってください!

オープンキャンパスで登壇したイベント
オープンキャンパスで登壇したイベント

すぎはら れな Sugihara Rena
[好きな言葉]
負けじ魂
[性格]
マイペース、独創的、ミーハー
[趣味]
料理、編み物
[最近読んだ本]
チ。ー地球の運動についてー/魚豊
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